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4-6

 朝、時計が6:00を差したとき、【スカンヴィナ】へと飛ぼうとするアカザとシャム。


 日が低く登って、嫌々ながら気怠そうに朝が訪れる。まだ肌寒く感じてしまうが、トゥルーやサツキ、ヤマブキは見送りに起きて来てくれた。


 見送りの際、トゥルーたちが驚いていたのはアカザが早起きしていたことだった。そんなに意外だったのか、全員の目が驚いているのが分かる。


 アカザも自身が朝が弱いのは理解しているものの、睡眠時間を調節すれば、朝の早い時間に目が覚め、起きられる。

 とはいえ、朝が苦手なことに変わりなく目はいつもにも増して気力がない。


「明日は槍でも振るのかねぇ」

「え!? ここじゃ槍が降る日があるの!?」

「ない……とは言えないんだよなぁ」


 サツキが空を見上げ、トゥルーも空に目を向ける。実際に【フォークロア】では槍が降る日がある。しかし、明日ではない。


「じゃトゥルー、連絡はこっちからするから。忘れてて一日以上連絡がなかったら、そっちから連絡してくれ」

「うん。分かった」


 アカザはトゥルーに連絡するのはこちらからするという事を伝えておく。戦闘や隠伏しているときに【ランク証】が掛かって来てしまえば、集中が切れたり、ばれてしまう可能性が出てしまう。


「じゃぁ、その……頑張ってきてね!」

「あいあいさ」

「あんたも、気を付けなよ」

「二人とも体にお気を付けてくださいね」

「……了解」


 トゥルーは手を振りながらアカザを送り出す。サツキやヤマブキもそれぞれ言葉を告げる。別れを済ませ、アカザは【大陸移動】で、シャムは【巡航の羽根】で【スカンヴィナ】へと飛んだ。




「さむっ!」

「……同意」

 日本の気候からいきなり北欧諸国の寒い空気に変わってしまう。時差の関係か【エチゴ】では朝だったのに、【スカンヴィナ】は夜の10時になっている。空には月と星が輝いているが、光源が乏しく薄暗い。


 【スカンヴィナ】は現実で言うところのバルト海にある都市。だが、現実とは違うのは1年じゅう薄く雪が地面に積もっていること。

 都市の特徴としては武器の生産が盛んなこと、人口はドワーフの比率が多いことが挙がる。


 前にこの都市を治めていたのはレギンと呼ばれる欲深い人物であり、都市の財政は余り良くなかった。逆にレギンが居る城は内装や装飾品に黄金や宝石をふんだんに使用していた。


 だが、アカザたちが【スカンヴィナ】の入口の門壁からでも見える城壁、城塔は改築でもされたのか金箔が剥がれている。

「……侵入、開始」

「ああ、行くか」


 レンガで作られた堅牢な門壁には衛兵が2人居た。と言ってもアカザたちが姿を見せても、警戒している様子はない。モンスターにしか警戒していないらしく、アカザたちに声すら掛けなかった。


 町の中は夜であっても活気があり、鍛冶仕事を終えたドワーフたちがジョッキでビールを飲んでいた。

 ドワーフと言う種族は、がっしりとした体格ではあるのだが、背か低い。また、DEX(器用)が他の種族と比べて群を抜いて高く、生産スキルに補正が掛かり良品が出来易い。

 また、NPCの殆どは髭を蓄えており、厳つい顔をしている者が多い。


 レンガの家が多く、店ならマークを描いた看板が上に吊るされている。

 その中でも武器屋が多く、ドワーフたちが作ったと思われる剣や斧、鎧が店のショーウィンドウに飾られている。


 住宅は5階建てのオレンジ色の屋根に白い建物。それらが並び統一された美しい光景を、眺めながら都市を歩くアカザたち。今は夜だが朝や昼には違った風景を醸し出すと思われた。

 他にも時計塔、聖堂館があった。だがアカザたちはそう言った風景にはあまり興味がない。観光しに来たわけではないのだ。


 【大陸移動】の【クールタイム】30分を回復するために、時間を掛けながら歩く。

「まるで警戒されていないな」

「……私達、恋人、認識?」

「多分それはない」


 よそ者のアカザとシャムだが、衛兵にも身分を明かした訳でもないのに都市の中に入れてしまった。ザル警備で、アカザは少々気が抜けてしまう。


「まさか城の警備も緩いんじゃないんだろうな?」

「……楽観的」

「言ってみただけだ」


 流石に、城の警備もザルと言うことはないだろう。

 ゲームでも都市の出入りは簡単である。衛兵もただ立っているだけ。


 だが、城の重要拠点になると許可がなければ通れなかったり、忍び込もうとすると衛兵が追いかけて来ることもある。

 だが、アカザは『あの方』を暗殺しに来た訳ではない。そして、出来れば今回は戦闘で解決したくない。


「最初に『あの方』に関する情報収集か? いや、でも、なぁ」

「……何故、忌避?」


 ニート一歩手前で接客業関係は避け就職活動をしてきたアカザ。そんな人物は極力他人と話したくない。最近はトゥルーや【常春】の従業員、ナオトラやキキョウなどと、気兼ねなく会話していたものの、全く知らない赤の他人となると尻込みしてしまう。


「なぁ、シャムが聞いて来てくれないか?」

 ドワーフが酒を飲み交わす酒場を指さし、催促するアカザ。だが、シャムも喋るのが得意という訳ではない。


 だが、自身の目的の為ガハハと豪快に笑っているドワーフたちに近づく。

「……失礼、『あの方』、情報提供、求む」

「何言ってんだお嬢ちゃん?」


 シャムは独特な喋り方なので、アルコールが入っているドワーフたちは理解できなかった。それでも懸命に伝えようとするが、シャムの話にちんぷんかんぷんになってしまうドワーフたち。


 仕方なくアカザも会話に加わる。

「あの……、俺は冒険者なんだけどなんだか他の人が統治し始めただろ? 噂を聞いて、その人に興味が出たから、ここまで来たんだ。何か知っていたら、話してほしいんだ」

「ああ、クスフィー様のことだろ?」


 話が分かると気分を良くしたのか、アカザたちが何も言わずともドワーフたちは勝手に喋り出す。


「レギンを追い出してくれて、その後の統治も善政だしな」

「レギンのクソ野郎は代金を踏み倒すのは当たり前だったしな。その分、クスフィー様はちゃんと払って下さる」

「ああ、城の無駄に塗っていた金の塗料も、もう掛けることはねぇ。あのセンスはねぇからな。それどころか剥がして町に回してくれたんだからうれしい限りだ」


 概ね『あの方』、クスフィーと言う人物は好評らしい。と言うよりも全統治者、レギンが悪政をしていたのが影響していると思われる。誰だって、虐げられた経験があり、その後に改善が少しでも見られれば、虐げられた時よりもマシだ思う。


「兄ちゃんたち冒険者だってな。安心しろよ。前のレギンのように踏み出しが当たり前っていうことは無くなったからよ」

「そ、うか。そりゃ良かった。ちなみに、その、クスフィー、様? って方を一目見たいんだが……何か方法はねぇのか」

「そんな方法があるなら、俺らだって毎日会いたいもんだぜ!」

「俺らが『あの方』の顔を見れたのは、城のバルコニーで宣言した時ぐらいだな。それからは仕事で城に住んでるよ。もう一度顔を見たいもんだ」

「おい、てめぇ。何、顔をときめかしているんだよ。高嶺の花、月とスッポン。おめぇじゃ、天地がひっくり返ったかって手を繋ぐことすら出来はしねぇよ」

「うるせぇ! おめぇだって『あの方』が何かする(たび)にこれでもかってくらい、褒めてるじゃねぇか! 普段は不愛想なくせによ!」

「当たり前だろ! そのぐらいすげぇんだからよ! あれだよあれ! そのぐらい立派な方なんだよ!」


 彼らの会話がヒートアップし、相手の襟元を掴みかかり始めるドワーフたち。喧嘩に巻き込まれるのを避けるため、アカザたちはその場から離れる。


「『あの方』は城の中に居るんだよな?」

「……基本」


 正面から城に入るのは『あの方』に気付かれる可能性が在る。となると忍び込んで近づくのがいいと思い、前に【エチゴ】の城に忍び込んだ方法を再度使用することにする。


「となると【イペリア】の出番だな」

 何はともあれ、城へ続く道を歩くアカザとシャム。

 城の近くまで着た時、一度その辺の裏路地に入り、装備を【クロノスの鎌】に変更し【イペリア】を呼び出す。


 【イペリア】の特技、【ステルス】を発動させ、透明化するアカザとシャム。その状態のまま正面から城の警備を潜り抜けようとした。




 アカザの目の前にある水城。

 水の上に四角い石が浮かぶようにして建っている西洋風の城。

 ゲーム時代は金箔が塗られ、目が眩むような城だった。


 切り立った城壁が城を取り囲んで、円錐と円柱を合わせた塔が幾つも立っている。

 今は『あの方』が改築してレンガは白一色に統一されており、周りは池があり城から出るために跳ね橋がある。水面は鏡のようになっている。


 薄く積もった雪が雰囲気を出し、物語に出て来る幻想的な城になっている。

 人工の水城である【スカンヴィナ】の城は【エチゴ】の日本和風な城と同じく、中にギルドホールや掲示板などの施設がある。


 これで、【ステレス】を使って城に入るのは2度目になった。

 跳ね橋の向こう側には警備の兵士が2人居る。跳ね橋は引き上げられておらず、堂々と透明化して渡ろうとする。 


 レンガで築かれた城門に入ろうとした途端、兵士が叫ぶ。

「待て! そこに居るのは誰だ!」


 アカザが居る所に、兵士は持っていた槍を突き付け威嚇する。兵士には思いっきり【イペリア】の【ステルス】による透明化がばれている。

 慌てて【ステップ】して、後方に飛んで距離を置くアカザ。


「あ」

 その時、アカザが目にしたのは薄く積もった雪に付けられた自分の足跡。なんて間抜けなのかと思わず自虐した。


「怪しい者め! 全員、警戒しろ! 姿を隠しているぞ!」

 いきなりばれてしまったので【イペリア】を肩に乗せ、半透明となっているシャムの首根っこを掴むアカザ。まるで猫のような扱いを受けるシャムだが、苦情を発する前に凄まじい加速Gが掛かり喋れなくなってしまう。


 アカザは全力で走る。それだけでステータスの9000以上のAGI(敏捷)が働き、兵士の間を一気に駆け抜ける。

 アカザは兵士たちが集まってしまう前に、強行突破し城内への進入を果たした。




「クスフィー様。城内に侵入者です」

 図書室で分厚い本を読んでいたクスフィー。

 艶やかな黒髪、張りのある瑞々しい唇、端麗な目。肌は透き通ったように白く美しく、何より背中から生える淡く水色が掛かった薄い翅が、より一層神秘的に見える。

 周りにある本棚も、彼女の近くにあるだけで偉人が書かれた価値の高い本に思えて来る。


「そうですか」

 唇から漏れる声も美しい音色で、彼女が口を開けば愚痴でさえ、歌っているようにすら聞こえる。少なくとも戦士にはそう聞こえた。


「お早く、非難してください」

 決してそのことを悟られまいと、冷静を装い声を出す戦士。


「必要ありません」

「……なんですと」

 困惑した戦士を無視するように、クスフィーは淡々としていた。


「それよりも伝令してもらいましょうか。それとおもてなしの準備をしなさい」

 どうやら客として会うらしく、戦士はクスフィーに言われた通り行動する。

 その時、滅多に笑わない彼女の口元が微笑んでいた。




「居たか!?」

「いや、姿が隠れてしまっているのだ。城内では雪のような分かりやすい物もないから、困難になっている!」

「くっ。クスフィー様には何が何でも近づけさせるなよ!」


 あれから城内は慌ただしく兵士たちが駆け回っている。


 アカザは【イペリア】と【ステレス】で消費した【マナ】を回復するために、一旦【ステルス】を解除する。そして、【マナポーション】を飲んで失った【マナ】を回復した後、再び【ステルス】を再使用。


 【ステルス】の発動中は、攻撃やアイテム消費などの行動が制限されてしまう為、人目に付かないところや物陰に隠れる。


 城内は煌びやかでありながら、鼻に付かない慎ましさを感じる装飾が多い。

 そう感じるのは、ゲームをプレイしていた時のグラフィックには、目が痛くなるほどの金の装飾が城内の至る所にあったのを、アカザが知っているからかもしれない。


 どうやらクスフィーは、前の装飾が嫌だったのか模様替えをしたらしい。何となくその装飾に見覚えのようなデジャヴを感じた。

 しかし、装飾に気を使っている暇はない。


「寝室か、それとも兵士に誘導されたか。【探索】のスキルでも隠蔽できる【ステルス】を破るとなると……」

 アカザは必死になって頭を使い、どうすればいいかを考える。


 【ステルス】は【見破る】で視認可能になることは、プレイヤーであるクスフィーならすぐに思い至るだろう。ならば、次に取る行動は兵士にそれを知らせ、探索させるか。


(いや、だったらもう既にやってるか?)

 侵入がばれてから、10分は経った。


 真面な判断を下せる者、ドワーフたちの評判通り善政を敷く賢い者なら、何か策を検討し実行している頃だろう。だとすれば出来ない理由、例えばヴィクターのような者は殆どが情報収集の為に都市外に出ているのかもしれない。


 その場合、もっともやり易いのは城内に小麦粉や水を撒くこと。そうすれば最初に雪の足跡でばれたように、足跡でアカザたちを追跡できる。


 だがクスフィーが取った行動は、アカザの考えた策とは違った。

「侵入者! 貴様はアカザと言う者だろう! 目的は『あの方』だろう! 『あの方』は中庭でお待ちになっている! 早く来るが良い!」

 大声で城に響き渡るように言う兵士。


 どうやらクスフィーはアカザを釣っているらしい。

「……どうすっかね?」

 正直、アカザはクスフィーの行動にどう対応すればいいか迷ってしまった。


「……罠、可能性大」

 普通に考えれば、シャムの指摘通りアカザをおびき出す罠。アカザの目的がクスフィー探すことだと、見抜かれているからの誘導。


 考えてみれば当たり前で、【巡航の羽根】を使ったヴィクターが、何かしらアカザのことを報告しているはずである。

 もしかしたらゲーム時代にアカザと面識があるのかもしれない。だとすれば戦闘スタイルや装備の情報も筒抜けになっている。なのにアカザはクスフィーの情報などゲーム時代でも知らない。


 このまま中庭に出るのは、愚の骨頂。

 まずは誘いに乗らずに、部屋の窓から中庭を見える部屋に移動しようとする。中庭が見えればどのような罠が張られているか、確認できないか試してみる。


 茶会でも開く気なのか、丸い形をしたテーブルにクッキーやケーキなどのお菓子、上品な装飾がされたポッドにティーカップが置かれている。


 そのテーブルの周りには数人のメイドと、1人の精悍な顔をした戦士が立っている。護衛のようにして立っているが、彫像に見えるほど雄々しく見える。

 罠、としてもいささか不可思議な光景であった。


 シャムはてっきり兵士が取り囲んで居るものと思っていたのか、その光景に眉を顰める。

 しかし、中庭に居る人物を見た瞬間、アカザとシャムは凍り付いてしまった。


「マジか……」

「……『あの方』」

 そこには『あの方』、クスフィーが優雅に座って居ることにシャムが驚く。


 だがアカザが驚いたのはそこではない。

 クスフィーと呼ばれる妖精族のプレイヤーの顔に驚いていたのだ。

 美人とか、一目惚れとかではない。


 最も会いたくない人物。才色兼備の姉がそこに居た。


 そして、あちらからは距離があるはずなのに、彼女の瞳は真っ直ぐアカザの瞳を見抜き微笑む。


「お久しぶり」

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