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4-4

 アカザとトゥルーはあのまま抱き合って寝てしまい、次の日。


「昨日はお楽しみでしたね」

「……何にもなかったからな」

 本当に何もない。文字通り抱き合って寝ただけである。何も不純なことはしていない。


 アカザは童貞のままだし、トゥルーは処女のままだ。そういった雰囲気ではなかったのだ。

 それなのに茶化すように遊女たちは朝、寝床から出て来たアカザたちに話す。


「据え膳食わぬは男の恥って言葉を知らない奴だよな」

(……やっぱりトゥルーはナオトラに預けた方がいいか?)

 別に職業差別など持っていなかったが、トゥルーの教育的に悪いと思い始めたアカザ。


「すいません。私が勘違いして」

 頭を下げるヤマブキだが、むすっとした表情を崩さないアカザは意地悪に言う。


「……俺がそんなに無責任な大人に見えるのか」

「それは……」

 本心では「そうです」とでも言いたそうな、しかし建前をして言いたくないように口が詰まってしまうヤマブキ。だからか、話を逸らし勘違いした経緯を話し始める。


「トゥルーちゃんが、捨てられるって言っていたのがみんなと重なって。私もそうだったんです。愛している、結婚しよう。そんな言葉を耳元で囁かれて、結局他の女と……」

 美しい彼女の顔に影が差し込んでしまった。何と言えばいいかアカザが迷っていると、何か可笑しかったのかヤマブキがクスっと笑いながら言う。


「その表情からアカザ様が、他人を思いやれる性格だという事は分かりました。本当にすいません」

 上品な微笑みで言われるので、思わずドキッと心を掴まれそうになってしまう。そのことを誤魔化そうとして慣れない会話を続けた。


「……からかってる?」

「とんでもありません。むしろ、アカザ様のように大事にしてくれる方が居てくれるトゥルーちゃんが羨ましいくらいです」

 自意識過剰ではないが、褒められているような気がして急に恥ずかしくなってしまったアカザ。


「だから、アカザ様は無責任ではありません。ですけど早くトゥルーちゃんの所に帰ってきてくださいね? そうじゃないと、愛想尽かされちゃいますよ? 最低限、毎日会話してください」

「? 毎日会話って……携帯なんてないぞ」

 携帯電話みたいな物はこの世界にはない。機械類がない訳ではないが、現代社会と比べるとワンランク下になる。遠距離通信には伝書鳩代わりの、フクロウのメモ配達が一般的なものだと思っていたアカザ。


「え? アカザ様もトゥルーちゃんも冒険者ですよね。【ランク証】があるじゃないですか? 冒険者の必須アイテムだと思うのですが」

 ヤマブキの言葉に、【フレンドリスト】の単語が頭の中で過ぎる。


 だが、トゥルーはまだ正式に冒険者登録をしていないはず。【ランク証】はまだもっていない。それに【ランク証】の使い方などアカザは知らず、ヤマブキに聞くことにした。

「【ランク証】って携帯電話みたいなことできるのか?」

「けいたい……? なんだかよく分かりませんが、冒険者の方が【ランク証】を耳に当てているのを見たことがあります」


 まんま携帯電話ではないかとアカザが思ったが、【フレンドリスト】に登録したあるプレイヤー全員が【ログアウト】の表示になっているので意味がなかった。そのことに惨めな気持ちが差し込んでくる。


「……ヤマブキは【ランク証】持ってないのか」

「私は冒険者ではありませんし、【ランク証】の製作はキャッシュも掛かりますから持っていません」

「そんなにキャッシュ掛かったけ?」

「【渡り人】は特別価格なんです。良く戦ってくれますし、力も私たちより早く強くなりますから」


 どうやらこの世界では【渡り人】、プレイヤー優遇らしい。ゲームなのである程度はプレイヤーとNPCとの差別化がある。例えば利用できる施設や成長速度など。

「ちなみに【渡り人】でない人が、【ランク証】を取るには何キャッシュ掛かる?」

「えっと、……20万くらいでしょうか?」


 アカザが【ランク証】を得るのに掛かった費用は1500キャッシュ。倍以上の値段であり、かなり法外ではないだろうかと思う。


「……まぁ、払えない額じゃないけど」

 銀行にはカンスト額に近いのキャッシュがある。手元の財布には1000万キャッシュが入る【ファフニールの財布】。入っている額は600万ちょっと。それから考えれば20万キャッシュなど大したことではない。


「まずはトゥルーの【ランク証】を作りに行かなくちゃいかんのか」

 はぁ、とため息。【ランク証】を作るには集会場で手続きをしなければならない。


「どうかいたしましたか?」

「……あんまりあそこに行きたくない」

 気が進まないものの、連絡手段がメモ以外にも取れるのは便利なので取得するに越したことはないのは分かっている。だが、あんまりあそこの受付嬢と仲が良くないので、気乗りしないアカザ。別の都市で【ランク証】を作るのも考えたが、そこまで行くのも面倒だ。


「はぁ」

「……即時行動」

「分かってるよ」


 もう一度ため息を吐いたアカザの心境を見透かしたようにシャムが言うので、思わず苛立ってしまうアカザ。

 ともかく【エチゴ】で、トゥルーの【ランク証】を作りに行くことにしたアカザ。




 あまり来たくなかったが集会場に来たアカザ、トゥルー、シャム。

 参道の長い階段を上がり、鳥居を潜って神社のような建物の中に入っていく。


 前に来た時のような野戦病院の雰囲気はもうすっかりなくなり、今は落ち着きある和風の空気を醸し出している。

 【シュウキゴク】からのモンスターの敵襲から、【エチゴ】の冒険者は周辺のモンスターの駆除、【エチゴ】の復興に日夜励んでいるようで、昼前の今は人の気配が少ない。


「冒険者かぁ」

 何やら心の弾みを表すように、スッテプしながら階段を上がるトゥルー。


 確かに冒険者は物語ではダンジョンで強敵と戦い倒した後、金銀財宝やお宝などを取得したり、未開の地に踏み進んでいく者だったりする。だが、ゲームの最初の頃の冒険者と言うのは基本、街や市民の厄介事を解決しなければならない便利屋。


 最低でも冒険者LVが10以上にならなければ、モンスター討伐や遠征には参加できない。

 そして、プレイヤーはキャラクターの強化に勤しむ事が多いため、この世界の住人から見れば、冒険者と言うよりは貪欲に力を求める狂人なのかもしれない。


「トゥルー。まずはLV1で受けられる【薬草収集】を周回して5まで上げて、そこから【キノコ収集】でLV10まで行くのが手っ取り早いぞ」

「え?」


 その狂人たちの中でも、ハイレベルに属する廃人のアカザは、アドバイスのつもりで手っ取り早く冒険者LVが上がるクエストを教える。ただ、それがトゥルーのご機嫌を取れるかと言うとそうではない。


「それ以外受けちゃいけないの?」

「……いや、そう言う訳じゃないけど、効率がいいからさ」

「……効率厨?」

「俺は強要なんてしてねぇよ。あくまで催促しているだけ」


 ゲーム時代でも、アカザは断じて他人のプレイスタイルを踏み弄る行為はしていなかったと思う。少なくともそういった行動をアカザはトゥルーに強要する気はない。

 ただ、ソロの時は徹底的に効率化するが。


「でもトゥルーは、他のお仕事もやってみたい」

「例えば?」

「うーんと、動物のお世話とか!」


 残念ながら、そのようなクエストは集会場からは発注されない。

「アカザさんは、どんな動物のお世話とかしたことある?」

「……羊の毛刈りなら」


 一般的な採取クエストを紹介するだけに留めた。しかし、その毛刈りの対象となる羊は凶暴化してモンスターとなり、殺してドロップする毛を集めるといった内容。その内容をワクワクして抑えられず笑うトゥルーにそのまま言う訳にはいかず、気まずい顔をするアカザ。

 素直に【農場】を持って、牛のお世話をした方がいいのではないかと思った。


「……冒険者、収入、幾ら?」

「最初なら1回のクエストで100キャッシュ程度だろうよ」

「……」

「待て、何その『うわ……。私の年収低すぎ?』みたいな表情辞めろよ。LVが上がれば高報酬のクエストが受けられるんだからな!?」

「……リスク、死亡、釣合う、報酬?」

「……知らない」

 シャムの疑問に、アカザにもよく分からず答えられなかった。


 だが、アカザのできることなどこれぐらいしかないのだ。

 アカザが冒険者をやっているのは、やるしかないからというだけ。

 夢も希望もない。

 だけど少しだけ、このメンバーで物語に出て来るような冒険が出来ればいいなぁと思った。




 神社の形をした集会場の中に入って、受付嬢の巫女の元へ向かう。

「あ」

「げっ」

「ちょっと何よその顔!」

 アカザに気付いたキキョウ。


 そして、基本会いたくなかった人物に合ったアカザは思わず声を漏らす。

 人に合っただけで嫌そうな顔をするアカザに文句を言うが、昨日あれだけ口喧嘩したのだ。顔を合わせるのが気まずいとはキキョウは思わないらしい。


 腰まで伸びた黒髪とぱっちりと吊り上がった目。標準的な日本人の体形とそれに合う清潔感が漂う巫女服。見た目は慎み深く凛とした大和撫子なのに、口を開けば何でこうも辛辣で男勝りなのか。


「お前に会いたくないだけですが、何か?」

「私だって仕事じゃないならあんたと関わりたくないわ。……はい。これ」

 そう言いながらもキキョウは一旦カウンターに戻って、袋を手に持ってアカザに差し出してくる。


「なんだこれ?」

「呆れた。前に受けた【レッドワイバーン】の討伐依頼達成の報酬よ」

「今更? 仕事できない奴だな」

「悪かったわねぇ!」

 口を開けば罵り合いする2人。


 そのことはもう周知の事実なのか、周りに居たほかの受付嬢もせっせと自分の仕事に取り組んでいる。トゥルー、シャムもアカザに食い掛っているキキョウではなく、他の受付嬢、後ろの黒髪を一括りにしている巫女、スミカの所に行く。


「あの、【ランク証】を作りたいの。どうやって作ればいいの?」

「初めの方は、まず手数料を払うことでギルドに登録されます。冒険者組合ではクエストの発注を(おこな)っており、クエスト達成をこちらで確認した後報酬を渡しております」


「ギルドって、冒険者組合だよね?」

「ギルドというのは様々な組合の総称であり、冒険者組合と鍛冶組合、裁縫組合などの生産系組合が大部を絞め、個人組合もあります」

 ギルドと言っても大きく2つに分類される。


 運営側が設定したギルドと、プレイヤーが作ったギルド。

 運営が設置したギルドは主に、クエストを斡旋する集会場、生産の材料の販売や作業場を貸し出す産業所がある。


 プレイヤーが作り出すギルドは、共通の目的を持った仲間が集まった集団のようなもである。

 ひたすらレイドボスを倒し、ドロップアイテムを狙う戦闘系ギルド。生産アイテムを作り売却し、素材アイテムを購買する商業系ギルド。


 単純にゲームを楽しもうというプレーギルド。ゲーム内のイベントではなく独自にイベントや活動をするレクリエーションギルド。種族統一の種族ギルドや会話が中心のチャットギルド、戦闘も生産も適当にやるまったり系ギルドなど様々。


 中には同じ趣向を持つ同士たちの紳士ギルドなんていうのもある。


 いや、在ったと言うべきだろう。

 もう既にプレイヤーが管理していたギルドの中で活動しているモノはない。

 3万近くあったギルドも、税金として払うべき金を払えなくなり自然消滅していった。


「ギルドの入会金は20万キャッシュとなりますが、いかがなさいますか?」

「20万!?」

 金額に驚くトゥルー。やはりプレイヤーでなければ、ギルドの手続きや【ランク証】の価格は高い。駆け出しのトゥルーが払えるはずもない。


「あ、俺が払うんで」

「え!?」

「……太っ腹」

 そんなにアカザが支払うのが意外だったのか、キキョウが驚く。平坦とした声だがシャムも茶化すように驚いたような動きをする。


 それらを無視して、アカザは先程渡された袋と足りない金額を【ファフニールの財布】から取り出す。手の平に乗った20枚の四角い白銀の硬貨をスミカに手渡し、それの代わりに出て来た申請書がトゥルーの手に渡る。


 カウンターに備え付けられていた小筆で、申請書の記入欄を埋めていくトゥルー。

「はい! 出来ました!」

「それでは【ランク証】を作成するのに、少々お待ちくださいね」

 申請書を渡すと、奥にいくスミカ。


 【ランク証】の作成にはそれほど時間は掛からないのか、ポケットに入るほどの大きさの木札がトゥルーに渡される。


 【ランク証】の初期状態であり、これからLVが100上がるごとに(カッパー)(スチール)(アイアン)(シルバー)(ゴールド)白銀(チタン)白金(プラチナ)水晶(クリスタル)魔金(ミスリル)となる。

 アカザは最高LVの1000なので当然のごとく魔金(ミスリル)


 だが、木制の【ランク証】であってもトゥルーは目をキラキラさせ喜ぶ。

「おぉ!」

「じゃ、フレンド登録さっさとしてしまうか」

「うん!」


 トゥルーにフレンド登録の申請を出して、彼女が【はい】を指で押すと【フレンドリスト】に新たな名前が加えられる。

「トゥルーの初めてのお友達(フレンド)!」

「……」

 舞い上がるトゥルー。


 反して、アカザは「友達」発言に何か悲しいような、嬉しいような、複雑な気持ちになってしまう。彼氏になりたいとか、友達ができて嬉しいとかの心情。どうしようもない男の(さが)とボッチの感情である。


 複数あるログアウト表示の【フレンドリスト】の中、1つ輝くログイン表示の【トゥルー】の名前。もしくはリアルで友達が出来たことに、少し涙目になっていたアカザ。


「いい年した大人が泣いても誰も構わないわよ」

「……構ってほしい訳じゃねぇ」

「……私、冒険者登録、達成、アカザ、フレンド登録、執行予定」

「……ありがとう」


 キキョウの発言には袖で涙を拭い誤魔化すものの、すぐにシャムが嬉しい言葉を言うので再び涙を目に溜めてしまったアカザ。

 その時、【ランク証】が震え頭の中でピピピと音が鳴る。


『あ、繋がった?』

 【ランク証】からトゥルーの声が聞こえる。本当にどんな技術で携帯電話と化しているのか。


「これも、超古代魔法技術なのか?」

「そうよ。他にも写真、動画撮影とか、楽譜の記録をしておくことも出来るわよ」

「完全に携帯だろうが!?」

「何よ携帯って」

「持ち運び可能な電気アイテムさ!?」


 中世ファンタジー世界では確実に存在しないアイテムに、狂乱し始めるアカザ。

 そりゃゲームなのだからある程度、実際の中世とは違うところもある。魔法やスキルはその主な要因だ。だが、食料店や銀行での木製版タブレットや【ランク証】と言う名の携帯端末。


 ハイテク機器がごろごろ転がっている。

 ここまで来るとMMORPG=ファンタジーを題材としたゲーム、ではなくMMORPG=ファンタジーの殻を被ったSFの世界とも思えて来る。

「……ともかくこれで、目的達成」


 混乱の後、ようやく冷静さを取り戻したアカザ。

「あ、うん。……これで毎日連絡してね!」

 一瞬、暗い顔を浮かべたトゥルーだが、すぐに笑顔を作る。

 こうしてシャムと【スカンヴィナ】に飛ぶ準備が整いつつあった。

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