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4-2

『拝啓、時下ますますご隆盛のこと御慶び申上候。

 日頃は別格の御協力いただき謝礼申上候。

 つきましては日皇陛下を【エチゴ】に連れて来て貰いたく来候。

 いずれも信用ならぬ重鎮共、恥かしこと。誠に御詫申。

 故に邪魔が入らぬ【エチゴ】で会話したく申す』


 ナオトラのメモには要約すると『日皇を連れて帰って来ること、それから会って話を決める』と、達筆で書かれていた。

 しかし、トキワは未だ衰弱状態から回復しておらず、今日は夜に移り掛かっている。


 移動するにしても明日、検討と言う形となりアカザたちは夕食を摂ろうとする。

 部屋に運ばれてきた料理は豪華ではなく、焼き魚と煮物、米、味噌汁などの質素な料理であった。


「……刺身ぐらいでないのか?」

「ここは旅館じゃないわよ。あとこの宿屋に飯盛女なんて居ないからね」

 愚痴るアカザだが、現実ならビジネスホテルでは夕食なんて都合よく付いてくる所は余りない。あったとしても1階がレストランで降りなければならなかったり、食付きのホテルはどうしても割り高になってしまったり、ラストオーダーは21時だったりと融通が気かない。


 そして、出て来るのは冷凍食品をレンジで加熱したぐらいの手間で3000円ぐらいの差が出たりする。


 そうなると、この宿屋の料金は一律で飯付きというのは現実の宿と比べてどうなのだろう、と思ったアカザ。この世界にはレンジで数分加熱すれば出来上がる、冷凍食品やレトルト食品はない。【調理】スキルで数秒で作れる食べ物は、みんなコンニャクに調味料を足した物みたいで美味しいとは感じにくい。


 今食べている米はちゃんと噛めば味がする。

 殆どが手作りのご飯というのは、現代人にとって珍しい物ではないのか。


(……贅沢物なのかね、この飯は)

 ただ、質素な料理だったので味が薄く物足りなさを感じる。焼き物や揚げ物などの総菜には油や胡椒(こしょう)などの調味料がふんだんに使われ、スーパでは化学染料や食品添加物などがない食品を見つけるのは困難。


 どちらが良いのか悪いのかではなく、かなりの差があるなとアカザは思った。

「ま、レトルトとかジャンクフードの方が俺は良いんだけどな」


 カップラーメンが主食の現代人にとって、無添加の飯を食った感想はそんな言い草だった。




「すいません、お布団敷きに来ました」

「あら、もうそんな時間かしら」

 食器と一緒に布団も敷きに来た宿屋の従業員たちが複数部屋に入ってくる。

布団を敷いて貰おうとしたアカザが立ち上がった瞬間、1人の従業員が懐から短刀を取り出し襲い掛かって来た。


「っ!?」

 不意を突かれ驚くアカザに、逆手で持った短刀を力の限り振り下ろす。

 そのまま喉が貫かれるかと思った短刀の刃先は、アカザの肌が触れた時に鉄でもかち合ったったように弾かれる。


 そのことに逆に驚く従業員。

 驚いたときに体が固まった隙を逃さず、アカザは【クイックフィスト】を発動。

 即座に叩き込まれる拳が、襲って来た従業員の胴体を貫通した後、白い灰へと変換する。


 どう考えても布団を敷きに来た宿屋の従業員ではなく、残った従業員モドキたちも懐から短刀を取り出し、アカザを警戒する。


 暗殺者。

 ふと、その単語がアカザの頭をよぎる。


 彼らの持っている短刀はいづれも【匕首《小口》】と名称の短刀。鍔がなく、懐に隠せるくらいに小さく携帯性がある。


 そして、先程の【クイックフィスト】の威力を見るや、散らばってトゥルーやキキョウ、日皇、シャムの方へ駆け出す。ともかく一刻も早く従業員に変装した暗殺者の数を減らすことを考え、近くに居た2人を【膝丸《薄緑》】【小鴉丸《八咫烏》】を抜刀すると同時に、胴体を切り裂き上半身下半身を離れさせる。


 倒れこむと同時に白い灰へと変わり、ドサッと音がする。

 だが、仲間の惨状には目もくれず日皇を人質とする為に、スキルを発動させ高速移動する従業員モドキの2人。


 畳が潰れるほど深く足を踏み込み、跳躍。

 地面擦れ擦れの低空跳躍を行い、短い距離を一気に加速し跳ぶ。


 スキル群【軽業師】の【グラスホッパー】。

 無敵時間はなく移動距離も短いものの、低空跳躍の助走による勢いを次に繰り出す物理攻撃系のスキルに加え強化するスキル。


(速っ!)

 一瞬、彼らの体の残像が生まれるほどのスピードで移動したため、焦ってしまったアカザ。日皇は子供で間違いなく貧弱であり、トゥルーやキキョウもいきなりの奇襲に戸惑って動きが鈍い。シャムは身構えてはいるものの、その手には何も持っていない。


 今後ろに抜けられれば、確実に攻撃を喰らってしまう。

 アカザは2人に向かって【斬波】と【ウィンドボルト】を、【融技(フュージョンスキル)】で合わせ2連続の斬撃を走り飛ばす。


 【斬波】だけなら2人が発動した【グラスホッパー】の速度に追いつけないものの、【ウィンドボルト】によって追加された風が【斬波】の追い風となって後押しし、加速する。


 背中から不透明の疾風となった【斬波】に切り裂かれ、白い灰へとなり果てた。

 人質を取られたら多少面倒になっていたので、そうならなかったことにほっと息を吐く。


【気を抜きおって(たわ)けが!】

「アカザさん、後ろ!」

 【鬼道丸】とトゥルーが同時に叫ぶ。まだ残っていた敵が、アカザの後ろから襲って来る。アカザが振り向いた時には、大柄な男が短刀を構えた敵が正面から突進してきた。すぐ大男を【膝丸《薄緑》】で一撃で両断する。


 だが、その大男の背に隠れるようにして接近して来た小柄な男。突き出した短刀を【小鴉丸《八咫烏》】で弾くものの、もう片手に持った短刀をスキルの力を発動させてアカザに振り下ろす。


 禍々しい黒紫の炎に染まった短刀は、防御力がその辺の兵士と比較にならないアカザでも、戦慄して背中に冷や汗を流す。その禍々しい黒紫の炎というゲームエフェクトは、【暗殺者】の代表的なスキルの一つ。


 スキル群【暗殺者】の【アサシネイト】。

 |assassinate《暗殺する》という英単語そのままのスキル。全スキルの中でもトップクラスので瞬間火力を誇るスキルであり、その攻撃力の数値は一撃でレイドボスの膨大な【生命力】を目に見て分かるほど減らせる威力を持つ。


 アカザがゲーム時代に見たのは、自身が通常攻撃やスキルを何度も何度も当てて、(やすり)で徐々に削るかの作業をレイドボスにしている中、攻撃力特化のプレイヤーが放つ【アサシネイト】はレイドボスの【生命力】を半分近く軽く削るといった光景だった。


 高威力に加え、確実なクリティカル発生と防御力無視、支援(バフ)効果無視を持つスキル。この中の防御力無視が難癖で幾ら装備の防御力やステータスが高くとも、何もないかのように貫通してしまう。つまり、アカザであっても相手が放つ【アサシネイト】とパッシブスキル【クリティカル】のダメージ量をそのまま喰らう。


 だが、その圧倒的攻撃力を持つスキルも所詮スキル。

 対抗策は幾らでもある。


 アカザは【俊動】と【見切り】を【融技(フュージョンスキル)】で発動させ、閃光のような速度で【膝丸《薄緑》】が禍々しい黒紫の炎を纏った短刀を弾いて、凶刃を無効化する。


「なっ!?」

 確実に当たったと思ていたのか小柄な男が、アカザが【アサシネイト】を防いだことに驚愕する。逆にその驚きで体が固まってしまった隙を逃さず、トゥルーが急いで握った弓【ドラグーンボウ《ヴァーミリオン》】。それにスキルの力を乗せた矢を放つ。


 強力な弦で放たれた矢は、【ドラグーンボウ《ヴァーミリオン》】の効果によって矢じり先端に火が付く。火矢は小柄な男の肩に突き刺さり、ジュッと突き刺さったところの血肉が焼ける。


「っ!」

 かなりの激痛だったのか、小柄な男は唇から血が出るほど強く噛んで苦痛に耐える。

 トゥルーのステータスやスキルはそれ程高く訳ではないため、白い灰へと変わることはない。だが、肩に突き刺さった矢はそのまま貫通して、宿屋の壁に突き刺さる。


 スキル群【武器《弓》】の【壁拘射】。

 スキルの効果は、矢を打ち込んだ敵を一定距離吹き飛ばして、吹っ飛ばされた先の障害物(木や壁など)に敵を張り付け一定時間拘束するスキル。


壁に矢で縫い付けられた小柄な男は、ジタバタともがくがそう簡単に抜けず徒労に終わる。それが分かると持っていた短刀を自分の喉に突き刺そうとするが、アカザが小柄な男の手元を素早く掴み阻止する。


 小柄な男で最後だったのか、それ以上人がアカザたちの部屋に入ってくる様子はない。

「【キョウノミヤコ】の宿屋じゃ、こんな歓迎の仕方があるのか?」

「……えっと?」

「そんな訳ありえるはずないであろう!」


 無論冗談であったのだが、トゥルーはどうなのだろうかと指を咥えて考え、日皇は生真面目に返事をする。

「まぁ、ヴィクターの手下か、重鎮たちの手駒かだとは思うけど」

「……貴様ら我々に楯突いて、今後安心できると思―—―」

「知るか」


 それが名も知らない小柄な男の捨て台詞だった。

 だが、言い切る前にアカザが喉を【小鴉丸《八咫烏》】で一閃。凄まじい切れ味で、頭が体から転げ落ちると同時に白い灰へと変わる。


「あんた、何やっているのよ! せっかく生け捕りに出来たのに!」

「尋問している暇もないし、お前にも分かりやすく言うけどあれは【キョウノミヤコ】の重鎮たちの手下だ。理由は武器が短刀の【匕首《小口》】で統一されているし、ヴィクターなら日皇の予言力が奪えないことを知っているから意味がない。狙いは完全に日皇だったし、ヴィクターなら通常攻撃1撃で殺されるような奴を今更送り付けて来る筈がない。ステータスの強さはあいつも理解しているだろうからな」


 尋問や拷問することもなく、正体を突き止めたアカザであるが威張っては居られない。この場所に暗殺者を送り付けて来たという事は、日皇がこの宿屋に居ることがばれている。

 【キョウノミヤコ】の重鎮たちの狙いが、日皇ならば他の者は殺す気満々で来た。


 そこでふと、隣の壁がアカザの目に入る。

 日皇以外の人物が殺害対称ならば、あっちの部屋にも暗殺者が来ているとしたら……?


「まずっ」

 急いで隣の部屋に移動するアカザ。続くようにして全員が移動する。

 隣の部屋には衰弱状態で満足に動けないトキワと、荒事には向かなそうなトラマツが居る。絶望的な戦力差。


 障子を勢いよく開ける。

「おや、どうかいたしましたか?」

 と、まるで何事もなかったかのように呑気に声を掛けるトラマツ。


 だが、起きていたトキワは体を震わせている。

 争った形跡はないが、畳の床には薄くなりつつある白い灰。量からして3人から4人分あるだろうか。


 決定的に違うのはトラマツが握っていた抜き身の刀、【虎徹《虎入道》】を持っていること。トラマツから剣呑や殺気というような雰囲気などはない。ただいつも通りのように穏やかな細目。とても人を斬った後とは思えない。


 アカザでさえ突然の襲撃で心臓の鼓動は、いつもより速く動いている。

「……なぁ、前に自分は弱いとか言ってなかったか?」

 声が震えているのが分かる。


 一言で表すなら感動。

 月明かりが差し込んで、反射する刀は血に濡れつつも綺麗で、とても恐ろしい存在には見えない。

 大男でもなく強面でもない優男が、とてつもなく大きな存在に見え、携えた刀を持つ姿が美しく見えてしまうアカザ。どうせなら刀を振るう姿を見たかったと。


「ええ。ですが、自分の身を守るくらいは力を持っております。故に、襲って来た者たちは斬らせてもらいました」

 人は見かけによらないと再認識したアカザであった。




 夜逃げのように、さっさと宿から出るアカザたち。

 まだ万全ではないトキワをシャムが、まだ子供で歩幅が合わない日皇をキキョウが背負って運び、アカザが先頭に立ち、トラマツが最後尾で敵からの襲撃を警戒した。


 この【キョウノミヤコ】の夜道を走るのはアカザは2度目になるが、盗んだバイクには乗っていないが、全くと言っていいほど自由になった気はしない。

 むしろ敵を捜索したり、敵と戦ったり、追われたりで血腥い思い出ぐらいしか残らなかった。


「しかしどうする? 【大型騎龍】で【エチゴ】に飛ぶしてもトキワは耐えられそうか?」

 【大型騎龍】での飛行は、飛行機のソファーで寝て居られるほど座り心地はよくない。さらに言えば安全装置や策がない為、最悪【大型騎龍】から転げ落ちてしまう。衰弱状態の人間がそれにしがみついて居られるか、と問われると途中で力尽きてしまうような気が知れならない。


 他の者が支えればいいのかもしれないが、アカザ以外誰も【竜騎乗】のスキルを持たず、アカザは【大型騎竜】を操る為に集中しなければならない。


 そんなことを考えているとアカザの前方から暗殺者が襲い掛かってくる。

 【ソードウェブ】を使用し、刀を振い刃先から三日月型の衝撃波が飛び出る。前方で距離があった者が衝撃波に触れた瞬間、一瞬にして切り裂かれ白い灰へと変わる。

 それと同時に左右から、中心に居た日皇を背負ったキキョウが挟撃される。


 それに対してトゥルーが弓矢を構え右から迫って来た暗殺者に向け【アサルトショット】を放つ。5本の矢が弦から解き放たれ胴体に連続して当たる。暗殺者の【生命力】が0になった訳ではないが、後方に吹っ飛ばされる。


 そして、左から襲って来た暗殺者はトラマツが【居合い切り】を発動させる。一瞬にして鞘から解き放たれた刀で暗殺者を切り伏せる。


 それでもまだまだ追ってきているらしく、【索敵】スキルで敵が表示されている【地図】で見るとアカザたちの動きを追って何人もが来ている。


「……足手纏いならば、……置いて行ってください」

 力なく呟くトキワだが、その声に日皇が反論する。

「そちは余の付き人だろう! 勝手に余から離れるでない。それに……そちの課題をまだ終わらせおらぬだろうが……」


 最後の方は言いたくないような励ましだったらしく、徐々に声が小さくなってしまった。

 この程度の暗殺者の集団だが塵も積もればなんとやら、スキルの使用による疲労が蓄積してしまう。さっさと【キョウノミヤコ】から逃げなければならない。


「ぶっつけ本番だけどやってみるか」

 【融技(フュージョンスキル)】のようなゲーム時代には出来なかったことで、疑問に思ったことがある。スキルの同時発動が可能なら、他のことも同時に出来るのではないのか、と。


「何か考えがあるの!?」

「朱雀大路に出ろ! そこから逃げる!」

「ちょっとどういう事よ!?」

「説明している暇はない!」


 キキョウの問いに置耐える暇はない。

 実際に暗殺者が日皇を攫おうと、アカザに接近して来る。

 突き出された短刀を弾き、返す刀で一閃。

 だが、斬った暗殺者はまるで実体を持たずぼやけるようにして消え去り、本体は後ろの方に下がっていた。


 スキル群【忍術】の【影分身の術】。

 自身と同じ虚像を前方に映し出し、誘導性のある攻撃やスキルをその虚像に向けさせ、その間に本体は移動して回避する。ゲーム時代なら俯瞰で見ていたために、相手がどこに移動したまる分かりだが、目線がゲームキャラと同じなら視界を塞ぐのにも役立つのかと思わず感心した。


 そして、虚像を攻撃したアカザの隙を突くように、短刀にスキル【アサシネイト】を加え、禍々しい黒紫の炎に包まれた強烈な一撃を繰り出す。


 だが、その必殺の一撃は軽々と回避される。

 強烈な威力を持つ【アサシネイト】。素早く繰り出せる上に、リーチの制限もない。だが、それ程に強力な攻撃には何かしら弱点がある。


 例えばスキル群【侍】の【霞飛花】ならば15分の【クールタイム】。極級魔法なら30秒以上の【スタンバイタイム】。


 【アサシネイト】の弱点は、その攻撃力の高さ故にモンスターから敵愾心(ヘイト)を集めやすいということ。だが、今はAIで設定されたモンスターたちとの戦闘ではなく、独立した思考を持つ対人戦(PVP)。無視しようと思えば無視できる。


 そして、もう一つの弱点はその圧倒的な攻撃力。

 スキル群【侍】の【燕返し】。

 自身の攻撃が無効化や避けられた場合、次の相手の攻撃に合わせて発動すると、相手の攻撃を無効化しつつ、相手に自身の攻撃を2回分のダメージと相手の攻撃力の3倍のダメージを与えるカウンター系スキル。


 カウンター系スキルは相手の攻撃を無力化、あるいは軽減し、自身の攻撃を強化する類のスキルである。そして、相手の攻撃力が高ければ高いほど、相手に返すダメージ量も高く変動する。


 全般的に攻撃力が高いスキルが多いスキル群【暗殺者】は、このカウンター系スキルの格好の餌食。対等な相手のPVPで【暗殺者】スキルの効果や威力を上げる専用装備を装備した相手なら、カウンターが決まれば一撃で屠られる可能性も出て来る。


 本来ならアカザの一撃で【生命力】がなくなってしまうが、【アサシネイト】を【見切り】や【叩き落とし】で無効化してから攻撃すると、回避されてしまうことがある。

 手早く暗殺者を処理せねばらなず、カウンター系での攻撃した直後に攻撃が来るため回避し辛い。


 アカザの攻撃を1撃でも喰らえば白い灰へと変わる暗殺者は、それ以上の火力によって瞬く間に消し飛ばされる。


 そして、暗殺者をなぎ倒し続け朱雀大路まで出て来たアカザたち。

 遮蔽物のない道に出たので、弓矢での遠距離攻撃が圧倒的に有利なのを理解しているのか、周りには取り囲んでアカザたちに弓を構える暗殺者の姿がある。


 だが、遮蔽物がなければ作り出せばいいだけの話。

 アカザはスキル群【忍術】、【煙玉】を使用。


 手の平に【マナ】と【スタミナ】を消費して作り出した白い球体を地面に叩き付ける。その瞬間アカザたちは煙幕に包み込まれ、姿が見えなくなる。

 煙幕が晴れるのを待って一斉攻撃を仕掛けるつもりの暗殺者たちは、弓の弦を引いたままその場で待機している。


 そして、その煙幕から出てくる影があった。

 一斉にその影に矢を放つが、出て来たのは【騎竜】と呼ばれる生き物。


 だが、その数は1匹2匹ではない。

 トカゲを大きくしたような地面を高速で走る【騎爬竜】。全長60メートルはある【大型騎竜】蝙蝠の翼を持つワイバーン型の【騎飛竜】。蛇のように足がなく蛇行する【騎蛇竜】。


 それ以外にも【雷光を放つ尾を持つ鳥(サンダーバード)】や紫色の空を飛ぶ絨毯、幻獣である【グリフォン】や【ペガサス】。大きな体格を持つ【ペリカン】や【大鷲】といった動物。

 大小、種類、様々な【騎竜】、【ペット】が一斉に煙幕から跳び出て来る。


 【地図】で表示される【索敵】スキルでは【騎竜】【ペット】の数があまりに多く、アカザたちを補足できない。


 それに紛れて逃げる算段と思った暗殺者たちは、ともかく出て来る【騎竜】【ペット】に矢を放ち続ける。だが、【騎竜】【ペット】が出終えた時に煙幕が晴れた時にはアカザたちの姿は確認できず、【騎竜】【ペット】も【呼び出し解除】されたのか、次々と居なくなっていった。


「ふー。何とか撒けたか?」

「……みたいですね」


 アカザたちがやったことと言えば煙幕を張った瞬間に、【騎竜】【ペット】を出来るだけ呼び出し煙幕から飛び出させた後、全員で【帰還の羽根】を使い【キョウノミヤコ】の入口の羅生門まで転移した。


 【帰還の羽根】は最後に立ち寄った都市の入口に移動するアイテム。都市内でも効果はあるものの、アイテム1個消費して移動するよりも【ペット】に乗って移動した方が一般的である。


「あいつらはあの動物たちに紛れて逃げ出す算段と思うでしょうね」

「後はこのまま陸路で逃げるだけだ」

 【騎竜】【ペット】の同時【呼び出し】は、これもゲームでは1体づつという制限があったが、今のこの世界では制限が解除されている。そして、あんな数の【騎竜】【ペット】がいきなり出て来るとすれば、脳内の与えられた情報はそれに乗って逃げると判断するだろう。


 転移で逃げるとしても、転移時に起こるエフェクトは煙幕が消してくれる。

 未だどこに移動したか分からず、暗殺者たちが近辺を捜索している今はこのまま音を立てず、目に付かずにコソコソと移動し、途中から飛行能力をもった【ペット】で移動し、【エチゴ】に帰還した。

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