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4-1

 あれからトラマツと日皇の付添人、トキワと合流し、宿屋でナオトラ向けに【キョウノミヤコ】で起きたことと、【スカンヴィナ】の偵察許可を進言したメモをフクロウの足に括り付け送った。


 ナオトラからの返事が来るまで、日皇の護衛も兼【キョウノミヤコ】に待機となったが、トキワが死亡したことによる衰弱状態から回復するまでと決めている。

 まぁ、返事が来るまでは暇なので適当に過ごすことになった。


「よっ」

 冴えない顔、生気のない目、猫背のひょろりとした体格で基本めんどくさがりなアカザだが、何もすることがない暇な時間の中で独楽を回していた。

 その辺の小道具屋で買った独楽だが、回すのは何年ぶりか。本来なら考えられない行動をしている。


 何しろナオトラからメモが来るまで、アカザたちは暇である。

 携帯ゲームなどなく、ラノベもない。


 幼年期の懐かしさで買ってみたものの、結局のところ回して遊ぶだけである。携帯ゲーム機だのラノベに慣れてしまったアカザにとっては物足りない。なので昔は出来なかった適当に難易度の高い技に挑戦してみる。


 結局、暇すぎて暇つぶしに買っただけだが、なぜか他の人が集まり出す。


 地面を回っている独楽を指で掬うようにして、跳ね上げ空中に浮いた独楽を手の平に乗せる。久しぶりにやってみたものの、独楽は回転し続け成功を収めた。他にも独楽を回した紐に乗せて綱渡りをさせたり、空中に放り投げ指の上で回転させたりする。


 と、そんなことをしていると「おー」と声がして後ろを振り向く。

 いつの間にか、背後からトゥルー、キキョウ、名無しの獣人、日皇はアカザが回す独楽を見ていた。


 その一興にトゥルーたちは声を出して感心する。

 そのことに多少照れくさくなったアカザは、独楽の回転を指で挟んで止め暇つぶしを終える。


「アカザさん、それ凄いね!」

「他にはないのかの?」


 トゥルーと日皇は興味津々といった感じで目をキラキラと輝かせ、他に何か芸がないかと促してくる。

 アカザは恥ずかしいく何かを披露する気にはなれない。それ程凄いことができるという訳でもない。


「ない」

 と、断ると輝いていた目が途端に物言いたげな感情を浮かばせる。ついでに唇を尖らせ「えー」と不満を口にする。我儘と言うか生意気と言うか、そんな子供の反応をする彼らにアカザは不本意ながら独楽を回す。


 何を見せればいいかと回る独楽を見つめながら考えるが、あまりいいアイディアは生まれない。


「前に見たことあるけど、曲独楽だと扇子の上に載せたりとかするわよ」

 無論、アカザは扇子など洒落た物は持っていない。代わりに腰の【暗鬼鞘】に納めていた【膝丸《薄緑》】を抜刀する。先程のように指で挟むようにして独楽を持ち上げ、刃の部分に置く。


 刃渡りという芸らしいが、アカザの器用(DEX)さが高いためか、一発で成功する。が、【膝丸《薄緑》】の切れ味が良すぎるためか、回っている最中に針の部分が削れ出す。

 もう独楽は二度と使えない状態になってしまう。


【芸者の技でも身に付けるつもりか?】

「そんな気はない」

【我でそんなことをやるのは勘弁だぞ】


 どうやら【鬼道丸】は戦闘にしか興味がなく、こういった物笑いの対象と見られるのは好まないらしい。しかし、鞘が喋るなど物珍しい訳であり、すぐに日皇の興味を引いた。


「何なのじゃその鞘は!? 喋っておるぞ!」

「モンスターの意思が乗り移った代物」

 アカザが簡潔に答えると、キキョウは顔をしかめて【暗鬼鞘】を凝視する。


「大丈夫なんでしょうね。それ」

 モンスターが物に乗り移ったことよりも、乗り移ったモンスター【鬼道丸】が何か仕出かす気がしてならないらしい。アカザも体が乗っ取られて、凶刃を振るうのではないかと疑ったこともあるが、未だそういったことは起きていない。


「でも、アカザさんを強くしてくれるものなんでしょ?」

「最近は影の薄いがな」

 アカザでも時折、声を掛けられないと【鬼道丸】の存在を忘れてしまう。


【……我はまだ本気を出していないだけだ】

「てめぇは俺か」

 そう言う奴は大抵本気を出さないことを知っているアカザは、【暗鬼鞘】を見て呆れた。


「……珍妙」

 記憶がなく名前すら忘れてしまった獣人は、【暗鬼鞘】を緑翠の瞳でまじまじと見る。触りたそうにソワソワと手を動かす。

 もう片腰の【小鴉丸《八咫烏》】を納刀している方を彼女に渡しておく。


【おい、我は見世物ではない獣人】

「……不明解」

 と、指で【暗鬼鞘】を撫で始める。


【あ、お、獣人。っあ、ま、待つ……のだっ。くっ、やめ……】

 なんかアカザの持っている方の【暗鬼鞘】の切羽から、【鬼道丸】の喘ぎ声が聞こえて来る。感覚がリンクしているのか、そもそも人の肌のように神経が通っているはずかないのだが、ともかくこれが女性型のモンスター、ラミアや人魚なら(アカザ)にとっては嬉しい。が、【鬼道丸】はどう見ても男性型モンスターなので逆に気持ち悪くなってしまう。


 これ以上近くで聞きたくないので、もう片方の【暗鬼鞘】に【膝丸《薄緑》】をかっちりと納刀する。

 【鬼道丸】が喋る為の口が鞘の切羽なため、【膝丸《薄緑》】を押し込んだため刀の鍔で塞がれた為喋れなくなった。


 すると今度は獣人が手に持っていた【小鴉丸《八咫烏》】を抜いてしまった。どうやら【暗鬼鞘】の仕組みについて調べたいらしい。


【おい、主! っはぁ! こ、この獣人んぅ~! から我を、とっ取り上げ……ろ】

 もう一歩で「くっ、殺せ!」のようなセリフが聞こえてきそうだが、生憎アカザの理想は金髪の甲冑で身を包んだ麗しの美女だ。断じて理解不能の鞘ではない。


「あー。えっと、取りあえず返してくれ……」

 名前を知らないので一瞬、言葉に詰まったものの、獣人に【暗鬼鞘】の返還を求める。


「……不許可、続行許可、求む」

 何が楽しいのか。獣人は【暗鬼鞘】を弄るのをやめたくないらしい。


「そういえば、あなたの名前どうすればいいんだろ? アカザさん今名前呼ぼうとして迷っちゃったし、トゥルーもこのままじゃ困る」

「黒髪に、猫の耳だから、ノワールとか、ネロとか、クロでいいんじゃね?」

「ペットじゃないわよ」


【き、貴様ら! ああっ! そこはやめっ! 我は無視か!?】

「お前がどうなろうが興味ない」

【主! うらぎっ―――アアァ!】

 もはや言葉に出来ず、達してしまったらしい。どのような境地かは誰も知りたくない。というか耳にしたくなかった。ので【鬼道丸】の声については無視して話を続ける。


「じゃあ、お前らは何がいいって言うんだ?」


「はい! えーと、シャム! ペルシャ! メインクーン!」

 元気よくトゥルーが手を上げる名前だが、それは猫の種類の名前である。俺の黒猫だからと言う理由とあまり変わらない。


「余が名づけて進ぜよう! そちの名は漆黒の絶影!」

「それはもう名前じゃない」

 日皇は多少中二病に掛かっているのではないかと思う。


「私は炎皇斗(カオス)陽夏照(ヒゲキ)大熊猫(パンダ)

「なんでキラキラネームなんだよ! 名前を付けられる人物の気持ちと将来を考えろ! ってかパンダって種族がちげぇぞ!?」

 アカザはトゥルーよりもやばいネーミングセンスのキキョウは、真っ先に候補から外した。


「よし、ノワール(仮名)でいいだろう」

「待ってせめて自分で選ばせてあげようよ」

 アカザとしてはノワールが無難で、記憶が戻ったら捨てる可能性が在るのだから偽名程度に分かる方がいいと思った。トゥルーとしては本人の意思を尊重したい。


「やっぱり大熊猫(パンダ)が私の一押しよ」

「お前は黙れ」

 怖いぐらいどすの聞いた声と真剣な表情でキキョウを黙らせるアカザ。

 当の本人は会い変わらず、【暗鬼鞘】を眺め、触り、弄る。今は口として機能する切羽を動かせないように指で押さえていた。その切羽隙間から男のくぐもった声が聞こえてくるが無視。


「と言うか【ランク証】持ってれば良かったんだがな」

 アカザが愚痴る。


 アカザが手に取り出した【ランク証】には名前やステータス、称号など様々な情報が載っている。だが、この世界には冒険者という職業は大半が家督を継げなかった者や、技術(スキル)がなく仕事に就けない無職や荒くれ物などが多いらしい。


 最初にある程度の金を支払わなければならず、わざわざ使わない【ランク証】など作るのは必要のない物にとっては無用の長物。また、戦闘に必要なステータスが町の花屋やパン屋では必要な物でもないため、冒険者以外作る事は滅多にないらしい。


 とういうことで、一般人の可能性が高い記憶喪失の獣人は【ランク証】を持っていない。

 【ランク証】に触れさせ、パーティメンバーに加えても【パーティウィンド】に表示されるのは【生命力】や【マナ】、【スタミナ】のゲージだけであり、名前が表示されるところは空白となっていた。


「で、何て呼べばいいんだ?」

「……私、名称、……シャム、……賛成」

 取りあえず、名無しの獣人はシャムと呼ぶことなった。


「……大熊猫(パンダ)が嫌なら、唯一神(ユイカ)にしない?」

「お前、今この場でその漢字を書いてみろ」

 諦めの悪いキキョウが考えた新たに考えた名前は、やはりというか絶対に付けてはいけない名前である。名残惜しいと感じているキキョウの中では、これが常識なのだろうかと疑念を射だしてしまうアカザ。


 確かにMMORPGの名前なんて『マグロ寿司たろう』や『♱漆黒愛天使♱』といった名前も見かける。だが、それは自分で決めた名前である。他人に強要するのは間違いだ。


 そこで1つの可能性を抱く。まさかとは思うがトラマツやナオトラが付けた名前のキキョウ。片仮名でゲーム時代から表記されてした彼女だが、実は漢字は桔梗ではなく他の漢字ではないのかとアカザは思った。




「ところでシャム。ヴィクターのような奴は『あの方』に何人控えていると思う?」

「……不透明。……『あの方』、命令、自国、他国、偵察、情報収集」

「……あっちもこの世界に突然来て情報収集に精を出しているってことか」


 単語を連ねた会話をする為、シャムの話を思索するとアカザと同じ【渡り人】、プレイヤーであるという事は間違いない。そして、やり方は違うがアカザと同じくこの世界について調べている。


「『あの方』はどうやってチートを、……あんな誰かのスキルを奪うって力を手に入れたんだ?」

「……理解不能」


 アカザの疑問はチートをどうやって生産したかよりも、どうやってパソコンがない状態で【フォークロア】のシステムに干渉したかである。


 現実なら凄腕のハッカーやプログラマーが、ゲームである【フォークロア】を弄り回そうと思えば出来るだろう。過去に【フォークロア】はチート行為が発覚したこともある。


 だが、この世界にパソコンと言った触媒はない。サーバーやシステム、ネットワークに繋がる手段などないはずである。


 そして、単純なチート行為とは違う気がしてならないアカザ。

 理由は他人のスキルを奪うことができるヴィクターの存在である。ただ単純なチートならヴィクターは9999ではなく、それ以上の100000000といった数値になっていてもおかしくない。


 キーボード操作して数値を弄るといった内容ではない。

 例えば無から有を生み出す行為と言うよりは、複数ある容器の水を一か所に集めるような行為。


 可能性としてはアカザや【鬼道丸】が発現したような、【独自技芸術(オリジナルアーツ)】や新たなシステムを破壊する者(ルールブレイカー)の類か。

「……『あの方』って話し合いに応じる人格なのか?」


 正直、今回は力押しでは解決しない。

 アカザでさえ、『あの方』のチートじみた力の対象となり、ステータスやスキルを奪われる可能性がある。そうでなくとも戦闘で『あの方』を殺害したとしても、都合よくチート行為が支障になるような記憶が喪失するとは思えない。


 日皇のトキワと言う付添人が殺害された。

 それでトキワ自身の記憶と、他者のトキワに関する記憶がなくなったのだが、アカザは日皇に昨日の付添人と説明されると、そう言えばと面影を僅かにだが思いだした。


 そして同じくその場に居たトゥルーは。彼女が日皇の付添人だという事はなんとなく覚えていたらしいが、彼女の発言や行動は全く記憶にないらしい。

 存在が消えるといっても個人差があり、全て忘却する訳ではないという事が分かっただけでも収穫ではある。


 だが、消える記憶はランダム。

 何度殺害すればいいのやら。

「……『あの方』、賢明」


 つまり子供ではないが、大人という事である。

 理性や常識、道徳観がある大人がチート(卑怯)に手を染める。

 大人って汚い。そういうフレーズが頭の中に浮かんだアカザ。




(暇だ)

(暇だね)

(暇じゃ)

(暇ね)

(……暇)

 この一部屋に居る全員の思考が統一する。


 何せ1日中やる事もなく、変化があるとすれば宿の従業員が運んできた食事。時折隣の部屋で休息しているトキワの見舞いに行くか程度しか移動していない。


 大内裏は日皇を裏切った重鎮たちは信用できず、【エチゴ】に移動するとしても衰弱状態のトキワは、【魔法の絨毯】に乗せて大丈夫とは思えず置いていかなければならない。これに日皇が反対し、移動するのならばトキワの体調が戻ってからと言う事になった。

 アカザたちがその辺で時間を潰して、だらだらと時間が過ぎ夜になった頃、ナオトラからメモを足に括り付けたフクロウが飛んで来た。

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