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3-10

 無口な獣人は別にヴィクターを助けに来た訳ではない。

 そもそも、アカザたちが戦闘を始める前には玉座に来て居たのだ。


 昨日の夜に捨てられ、自暴自棄になっていたがもし機会があるのならば、ヴィクターとの取り決めを果たしてもらいたいと思い此処に来た。


 ヴィクターに協力することで、『あの方』に取り計らってもらい私が何者であるか手掛かりを、もしくは私の記憶を取り戻すために協力して貰おうとした。


 『あの方』はそれこそ不可能なことなどない。

 一瞬にして【スカンヴィナ】の大軍を灰に返し、逆に国の王へと上り詰めた。

 それ以外にも様々な技術をもたらし、国を豊かに、支配し、人を懐柔した。贅沢の限りを尽くし、民から金を巻き上げるだけの前の王とはかなりの差があり、誰もが『あの方』のカリスマに魅せられ従う。


 それ故に『あの方』に関わった人物は崇拝者となる。

 獣人は会ったことがないが、何でも出来ると噂されている。

 だから、面識のあるヴィクターに紹介してもらい、記憶を復活させてほしかった。


 利用されていることは分かっていたが、自身の記憶が戻らないならそれでも良かった。何かに打ち込めるような熱意が欲しい。それが『あの方』の崇拝者になろうとも、それはそれで幸せだ。


 私が何者で、何をしているか、これからどうするかを決めていけるのだから。

 やっていることが犯罪だとは分かっているが、何もない私が何が世界の為になるという事に嬉しく思った。


 が、所詮は使い捨ての駒。

 利用価値がなくなれば、呆気なく捨てられる。

 それはいい。私で決め、実行して、力なく捕まったのだから。


 だが、どうしても黙っていられないことがある。

「……私の……力も奪った?」

「違う! 力を一つに集めただけだ! 無論、この件が終わればスキルもステータスも戻すことを決めていた!」

 獣人は耳がいい。


 思い出がなくとも、記憶がなくとも、感覚が残っている。

 これは嘘を吐いている声だと。


「さっき「私はこの【キョウノミヤコ】も他の都市も併合して。世界統一すら出来るというのに」とか言ってなかったか? いつまで返さない気だよお前」


 横から言われたアカザの言葉に口を噤んでしまうヴィクター。

 玉座に居る誰もがヴィクターを、取るに足らない人間と感じる。

 誰もが冷め、沈黙し、腰を抜かしたヴィクターを見下ろす形になった。


「……返せ、私の力を返せ!」


 そのことが気に入らないのか、自分勝手に声を荒上げるヴィクター。

「ふざけるな。ふざけるな! 私は、私が! 『あの方』に相応しいのだ! こんな所でこのような下郎に負ける訳がない! 貴様もだ! ただの獣のくせに記憶を取り戻したいだのと抜かしおって! 使えない貴様らのような存在を役立てられている『あの方』の崇高ささえ分からぬ野蛮人どもめ! 貴様らのような存在は価値すらない! いや『あの方』が存在する世界と同じ空気に触れることすら悍ましいわ! 貴様ら汚物は存在さえ許されない!」


 先程の本と、首に掛けた鎌の形をしたL字のペンダントを取り出す。そして、ペンダントの鎌が本に突き刺さるようにして、自身の胸元に押し付ける。

 鎌のペンダントが変化する。液体状になった後、血管のように広がりヴィクターの体にへばり付く。


 その時、ヴィクターの顔から疲労感が消えていく。

「……まさか」

 すぐに【ステータス・スキャン】して確認する。


 ヴィクターのステータスの上昇はマイクロ秒で急速に上昇していく。ステータスの制限値である9999はもう既に越え、もう12000に達した。

「は?」

 理解できないという困惑したアカザの表情を、見せたためか見せびらかせたくてしょうがないように気分を良くするヴィクター。


「ふははは! 慄いたか! 雑魚め! 馬鹿め! 貴様ら以外にも各地に散った同志たちも力と集結させ、その力がこの本を通し私に送られているのだ! 『あの方』も緊急事態以外は使うなと言われたが、愚鈍な私にも理解できる! これでは象がうっかり蟻を踏み潰すようなものだな!」


 ご機嫌になったヴィクターはペラペラと自分の情報を、アカザたちに自慢する。だが、その様子を見ていたアカザは、驚きはしたもののすぐに攻略法を見つけ出す。


「どう考えても弱点はそこだろ」

 【融技(フュージョンスキル)】で【ファイアボルト】と【ホリー・フラッシュ】を合わせ、ヴィクターの胸元に放つ。


 スキル群【魔法】の【ファイアボルト】は初級魔法の火属性の攻撃でありながら、アカザのステータスならば高威力と化している。それに【ホーリー・フラッシュ】のビーム状の攻撃が加わり、燃える閃光と化した。


 燃える閃光は真っ直ぐに本へと向かう。

 一瞬にしてへばり付いた本ごと、灰になるかと思われた本。だが本に触れる瞬間、水色の障壁が邪魔をする。


「ふはは! 流石の貴様も無限に【マナ】が回復する状況で、【マナ・コーティング】は破れまい!」

 思わず舌打ちをするアカザ。

 

 【マナ・コーティング】はスキル群【付与術】のアビリティスキル。

 その効果は、使用者に【マナ】が尽きるまでダメージを、【マナ】で肩代わりするという防御スキル。ただし発動中は持続的にマナが消費され、防御力は0となり、攻撃を喰らえばダメージの2倍分【マナ】を消費してしまう。


 このことで【魔法】を積極的に使うプレイヤーには攻撃手段が減るのと同じであり、防御力が高い前衛などは普通にダメージを喰らった方がダメージが少ないという状況もある。

 アカザも昔【マナ・エリクサー】や【マナ・ハイエリクサー】を飲んで、【マナ・コーティング】を併用し、【マナ】が持続的に回復している中で相手をごり押しで倒すようなこともあった。


 ただし最大値の【マナ】の半分のダメージを喰らえばまず【マナ・コーティング】は解除され、連続で大ダメージを喰らっても解除される。

 またバッドステータスの【毒】や【猛毒】、支援(バフ)効果無視の攻撃で相手の【生命力】を削る事も可能なため一概に無敵とは言えない。

 

 それでもアカザにとって不利な状況である。

 刻一刻と大幅に増長するヴィクターのステータス。【マナ】どころか、【生命力】さえ無限に増加して真面にやり合っても、勝てる見込みはない。


 やはり胸元にへばり付いた本を破壊するがヴィクターを倒す方法。

 狙うはそこ一点。

 そして、それが分かっていれば普通の戦闘と何ら変わらず、不安や恐れなど微塵も感じなくなったアカザ。


「では死ぬがいい。汚物ども!」

 アカザに向かって突進してくるヴィクター。


 カンストの制限がなくなったヴィクターはスキルを使った訳でもないのに、アカザの目の前に転移したような高速移動を発揮する。

 先程のお返しとばかりに拳を顔面に叩き付けようとする。


 限界突破したヴィクターの拳。

 一撃でアカザの顔を陥没させるほどの拳。


 だが、見えないほど速い訳でも、視覚から狙った訳でもなく、ただ力任せに振るわれた一撃。


 そんな物、幾らでもアカザ(廃人)なら対処が出来る。

 向かって来る拳に盾で殴るようにして弾く。


 スキル群【武器《盾》】、【シールド・パリィ】。

 盾を装備しているとき使用可能なスキルであり、相手の攻撃にタイミングよく発動させることで無効化する。また副次効果として相手に大きな隙を作りだし、その間に攻撃を繰り出すことでダメージを加算することが出来る。


 頭でどうやれば弾けるかなど考えていないが、スキルを発動した瞬間体が覚えているように勝手に動き出し、ヴィクターの拳を払い除ける。


 まさか防がれるとは思っていなかったのか、驚愕するヴィクター。


 弾かれ、仰け反った(ノックバック)硬直時間を使い、装備を変更。

「F8」

 そう呟いた瞬間アカザの手に【膝丸《薄緑》】と入れ替わりに片手斧、【スケッギョルド《タイム・オブ・ザ・アックス》】に変更される。


 左右非対称の角ばった大小の刃があり、神々しい輝きを放つ。【スケッギョルド《タイム・オブ・ザ・アックス》】は、元々の攻撃力が高く、クリティカル発生率も多い。また相手の防御力を15%無視する能力がある。


 そして、先程の【シールド・パリィ】で隙が出来たヴィクターに、スキル群【武器《斧》】の【トーメント・キリング】を叩き込む。

 禍々しいオーラに染まった【スケッギョルド《タイム・オブ・ザ・アックス》】。そして、【トーメント・キリング】によって支援(バフ)効果無視の能力と、スキルのダメージ加算が乗り、へばり付いている本へと向かう。


 渾身の力を込めて振り下ろす。

 本の表紙と中のページに食い込んだものの、ページの厚みで完全に破壊することが出来なかった。


 どうやら補助武器のような扱いらしく、耐久値が設定されており、それを0にしないと完全に破壊出来ない。


 そして、【パリィ】は一度攻撃したらダウン値が最大になってしまい、吹っ飛んでいくヴィクター。

 地面に叩き付けられたヴィクターは戦闘を仕切り直そうとして、立ち上がろうとする。


「ま、まだ! ここからっ――」

「悪いけどまだ俺の番だ。F3」

 【スケッギョルド《タイム・オブ・ザ・アックス》】と【スヴェル《グレイシャー・ベルク》】が【インベントリウィンドウ】に収納される代わりに、アカザの手に野太刀【天叢雲剣《剣之神器》】が握られる。


 スキル群【戦闘】の【追撃】とスキル群【侍】の【黑之断絶】、【斬鉄剣】を【融技(フュージョンスキル)】で同時発動する。


 【追撃】はダウン値が最大になり、地に倒れている者に対して、跳び掛かって攻撃を行うスキル。

 そして、【黑之断絶】の絶大な破壊力と支援(バフ)効果無視、【斬鉄剣】の耐久値減少効果が重なる。


 起き上がる前にヴィクターにへばり付いている本に向かって、黒い絶望の炎に包まれ破壊特化の一振りとなった【天叢雲剣《剣之神器》】を器用(DEX)に斬り付ける。


「うああああ!」

 向かって来るアカザに成す術ばないヴィクターは、一方的にやられることに恐怖を感じ、叫ぶ。そんなことをしてもどうしようもなく、もう【受け身】を使った回避すら出来ない。


 胸元の本の表紙を切り刻む。修正不可能な切り傷は、本としての機能を著しく損なっているものの、未だにステータスの上昇は止まっていない。


 完全に破壊、機能停止に追い込まないといけないらしい。

 そして、【追撃】を使った相手は地面をゴロゴロと転がって一定の距離を取られる。


 どのような攻撃も立ち上がるまで素通りし、攻撃しても意味がないのだが、システムが中幅機能不全を起こしているこの世界ではどうなっているのだろうか、とぼんやり考え始めたアカザ。


 それに対し、目の前のアカザに対し指先はしきりに震え、不安で潰れそうなヴィクターは奥の手を使う。


「【カンセキュティヴ・スペル】!」

 スキル群【付与術】、【カンセキュティヴ・スペル】。

 15秒間、【魔法】、【付与術】、【回復術】などの【マナ】を消費するスキルを【スタンバイタイム】なしで、【マナ】が尽きるまで放ち続けることが可能なスキル。


 そして、ヴィクターから早口で放たれる言葉は、力を具現化し暴流と化した。

「【アグニ・ブラフマー・イグナイト】! 【ゼウス・ケラノウス・フォールズ】! 【ルドラ・ヴァジュラ・シャフト】! 【ティーターン・アース・ボウルダ】! 【スカジ・シェイデゥ・インジェリ】! 【ネイト・タニト・タイド】! 【バルドル・サガ・グリッター】! 【アポピス・スワロウ・スネーク】! 【キュクロプス・アダマス・グルダン】! 【タネ・マフタ】!」


 業火が、稲妻が、疾風が、岩石が、氷塊が、水流が、閃光が、暗黒が、鉄塊が、樹木が、花火大会のようにして、10秒間尽きることなくアカザに降り注ぐ。


 全てが、極級魔法。

 スキル群【魔法】の中で最上位のスキル。


 1つ1つが【マナ】を1500以上の消費と30秒以上の【スタンバイタイム】が必要で、一度決まればレイド戦でも戦局を優位にすることが出来るスキル。


 ヴィクターの限界を超えたステータスと力任せがそれを可能にする。

 それらが一気に雪崩れ込んでくる光景は、神話の始まりを思い浮かべる。

 だが、それもただの連続攻撃で、防ぎ方など幾らでもあった。


 【インスレイト】。

 10秒間、使用者の前方に現れ、如何なる攻撃も無効化する障壁。

「なっ!?」

 極級魔法の連発。それだけで都市が壊滅状態に追い込まれても不思議ではない。


 そんなコンボをたった1つのスキルで完封する。

「そ、そんな、馬鹿な……」

 信じられない、在り得ないと思考が濁流のように、ヴィクターを支配した。


 恐怖はもうない。

 あるのはただ、現実を信じたくない思いだけ。


 結局、ステータスを大幅に超えてもアカザに成す統べがない。

 そして、隙だらけのヴィクターに反撃をするアカザ。


 【明鏡止水】でスキル群【侍】の【クールタイム】をなくし、【追撃】の代わりに【疾風一閃】に変更。先程のようにスキル群【侍】の【黑之断絶】、【斬鉄剣】を【融技(フュージョンスキル)】で合わせ発動する。


 一瞬にして駆け抜け、胸元の本を両断し破壊する。


「き、貴様ぁ!」

 大切な本を破壊された。


 そのことに激しい怒りがヴィクターの体を再起動させる。

 だが、ヴィクターの体から光る粉が、煙のように噴き出す。


 恐らくヴィクターが奪ったスキルやステータスの【創波】が、本を破壊されたことで解放された。その証拠に【ステータス・スキャン】を使うと、ヴィクターのステータスはその辺の平民のような低いステータスになっている。


 そのことはヴィクター自身分かっているようで、【巡航の羽根】を取り出す。【帰還の羽根】と同じ都市に転移するアイテムだが、【巡航の羽根】は行ったことのある都市ならどこにでも移動が可能である。


「私に! 『あの方』に! 逆らったことを後悔しろ!」

 そんな捨て台詞を吐くと、さっさと【巡航の羽根】を使って逃げ出すヴィクター。別に逃がさないという気にはなれず、倒したいという訳でもない。

 ヴィクターにも、『あの方』にも興味はなく、嫌悪感しかないので帰ってくれるのならばさっさと帰ってほしかった。


「……あー、でも、チート野郎を警告したり、BAN(アカウント停止)したりするGM(ゲームマスター)も居ないのか」

 報復して来るという可能性を考えなかった訳ではないが、ヴィクターを殺したところで何にもならない。他人のスキルやステータスを奪う本を破壊しても、また作られてしまえばイタチごっこになってしまう。


「……どうすりゃいいのかねぇ?」

 アカザは今までこの世界を管理していた運営が居なくなったことの不便さに、少々途方に暮れてしまった。

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