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3-9

 激情に任せ、一気に切り込みはしない。

 二刀流の構え方はある。


 しかし、有名所の宮本武蔵が考案した【二天一流】はスキルとしてはあるものの、アビリティスキルであって構え方ではない。さらに言えば、両手の刀は同じサイズではなく、利き手は本差(主兵装で刃長60~70cm程度)、もう片方の手に脇差(予備の刀で40~60cm程度)を持つ。


 アカザの持っている武器、【膝丸《薄緑》】と【小鴉丸《八咫烏》】は殆ど同じ長さであり、武器の形や能力には差異があってしまう。

 現実での二刀流の基本的な戦い方は敵の攻撃を脇差で受け流し、本差で敵を斬る。が、ゲームや漫画などでは手数を増やし、より攻撃的な戦闘形態となっている。


 アカザの場合、膂力はSTR(筋力)でどうにかなるが、利き手と同じように動かすと言う風には出来ない。試しに全力で振り回していると両手の武器がぶつかってしまう。

 しかし、資料は豊富であり二刀流で戦うアニメや映画のシーンを参考にして構えを取る。


 前回の【鬼道丸】との戦闘で、ぎこちなさを補うために考えた結果である。アニメや映画でド派手に動き回る戦闘シーンを、頭の中に思い浮かべ、ゲーム時代の動きと重ね合わせるアカザ。


 そして、突進。

 一気に距離を詰めたアカザは、【膝丸《薄緑》】と【小鴉丸《八咫烏》】でヴィクターに斬り掛かる。


 何のスキルも使っていない通常攻撃を、嘲笑うようにヴィクターがスキルを発動する。

「【インスレイト】」


 アカザとヴィクター間に強固な防壁が生まれる。

 スキル群【守護戦士】の【インスレイト】は如何なる攻撃をも無効化する障壁を10秒間、使用者の前面に張り続ける。


 攻撃は弾かれ、ヴィクターが何を使ったのか一瞬で理解したアカザは【インスレイト】の障壁に回り込むようにして移動する。

 当然、障壁の側面から攻撃を仕掛けて来るだろうと考えたヴィクター。


 ヴィクターが体の向きを変えると、追従するように【インスレイト】の障壁も移動し始める。

 流石にAGI(俊敏)がアカザより上であるため、追従できず攻撃を食らうことはない。そして、10秒後の障壁が消えるのと同時にヴィクターはスキルを発動する。


「【アグルシクッレイ】」

 手の平か放たれる、数多の氷の槍がアカザを奇襲する。

 確実に当たると踏んでいるヴィクターの顔は、確信したようにふっと笑みを見せる。


 が、ステップを踏むようにして移動先を急変更。一瞬にして距離を置くアカザ。そして、当たると思っていた攻撃が、何のスキルを使った訳でもないのに躱されたことに驚いてしまうヴィクター。


 そして、今度は距離を置いたアカザに向かって「【ライトニング・ストレート】!」と叫ぶ。

 手を翳した魔法陣から直線に伸びる雷撃。

 だが、アカザはその雷撃に捕まらない。


 斜め前に移動し、【ライトニング・ストレート】の攻撃範囲から悠々と逃れる。そこから牽制とばかりに【斬波】を使う。【膝丸《薄緑》】と【小鴉丸《八咫烏》】をX状に振り、そのままの形となった飛ぶ斬撃がヴィクターに迫る。


 慌ててスキル群【魔法】の防御スキル【ロングレンジ・リフレクター】を発動。

 青白い鏡が形成され、そのに吸い込まれた【斬波】をアカザに打ち返す。【斬波】を跳ね返すと同時に【ロングレンジ・リフレクター】は役目を終え、自壊する。そして、跳ね返された【斬波】を利用し、アビリティスキル【斬り払い】で【膝丸《薄緑》】を振るい、無効化する。


 そして、【斬波】【斬り払い】でダメージ加算される。

 【疾風一閃】を使い、一気に距離を詰めヴィクターを斬る。

 流石にDEF(装甲)が高く【生命力】もあるため、一撃で決着ではないが深々と脇腹を切り裂かれ、一瞬血が噴き出した後、すぐに瘡蓋ができる。


 切り裂かれたことに仰け反った(ノックバック)ヴィクターに、次々とスキルを叩き込む。

 スキル群【侍】、【三角乱刀】、相手をすり抜けるようにして、その場を頂点にして三角を書き、すれ違いざまに切り裂く3回攻撃のスキル。アカザは二刀流の為、計6回の斬撃がヴィクターを襲う。


 続けてスキル群【侍】、【対敵抜刀】を使用し、ヴィクターの腹に【膝丸《薄緑》】と【小鴉丸《八咫烏》】を突き刺し、そこから横に刀を動かして引き抜く。


 徐々に攻撃力が高くなった【対敵抜刀】でも貫通はしないが深々と刀が突き刺さり、引き抜くときも固くなったバターのように抵抗を感じながらも切り裂いた。


 大量の血がヴィクターの傷口から漏れ出す。【敵対抜刀】には【出血】のバッドステータスが付加されており、ドクドクと血が流れた。

 そこで、ダウン値が最高に達したのか勢いよくヴィクターが後方に飛ばされる。


「うががががああああ!」

 すぐさま、立ち上がって、痛みを叫び声で表す。

 先程までの穏やかな牧師といった顔は、もう既に目を見開き憤怒の顔を曝け出した。


「貴様のような力に驕った者、この世界から排除してくれる!」

 直後、強力なスキルを発動する為か、虚空に指を上下に振る。恐らく、スキルを発動する為に、【スキルウィンドウ】を操作しているのだろうが、なぜか火に油を注いだみたいでさらに激昂するヴィクター。


「何故だ! 何故予言のスキルがない!?」

「馬鹿かお前」

 冷ややかな目でヴィクターを見るアカザ。


「日皇の予言の力はキャラクター設定だ。予言なんてスキルは持っちゃいない。と言うか【フォークロア】にそんなチートスキル実装されるはずないだろ」

 その言葉に愕然としたヴィクター。


 そもそもゲームとしては実装が出来ない。

 未来を見る、といった行動をアクションゲームでどう表すのか。


 考えられるとすれば、プレイ画面を数秒後に巻き戻したり、プレイ画面の数秒先を映したりといった物なのだろうが、前者はバグやクレームが起こりそうな物で、後者は技術的に不可能である。


 そして、ヴィクターが持っている本は他人のステータスやスキルを奪えても、キャラクター設定は奪えない。

「だとしても! こうすれば貴様は動けない!」

 そう言ってヴィクターはトゥルー、キキョウ、日皇の方に目を向けスキルを発動。

 手を翳し【魔法】スキルを放とうとする。


 だがその前に、トゥルーが構えた【ドラグーンボウ《ヴァーミリオン》】で矢を放つ。武器の能力で通常の矢に火属性の追加ダメージが入り、矢の先に火が灯る。

 いきなり火矢が飛んできたことに慌てて回避するために動いてしまい、自身で詠唱を中断してしまう。


 そして、火矢を避けたヴィクターに【膝丸《薄緑》】で斬り掛かるアカザ。

 咄嗟にヴィクターはナイフで受け止める。

「で? こうすればなんだって?」

「っ!」

 鍔迫り合いでは、ほぼ同じくらいのSTR(筋力)で膠着状態になる。


 しかし、アカザはもう片方の手が空きているので、【小鴉丸《八咫烏》】で追加攻撃をする。疾風よりも速く振るわれる【小鴉丸《八咫烏》】で袈裟斬りされるヴィクター。

「この!」

 と、我武者羅にナイフを振るい、何連続もスキルを発動する。


 迅速に5回急所に突き刺す武器スキル【エヴィサレーション】。だが、強烈なナイフの連続攻撃を【バックステップ】で全て回避される。


 【インテンス・リッパー】を使い負の怨念を宿した刃を抱え突撃するが、【アイスボルト】の下級【魔法】スキルによって突進を中断させられてしまう。


 【マリスボラス・ナイフ】を発動し、削られた【生命力】分を攻撃力に加算するスキルも、ただ横に移動しただけで躱されてしまう。


「この! この、この! このこのこのこの!」

 それ以外にもスキルを何度も発動し、アカザを追い立てるが軽く躱される。それ程に拙く、ヴィクターには種族的制限がない圧倒的なスキルの数ぐらいしかアドバンテージがない。


「【獣の鼓動】! 【インフェルノ・ボルテックス】!」

 獣人専用スキルの【獣の鼓動】を発動するも、あまり意味がない。システムの制限が無くて、カンスト値である9999以上のステータスとなっても、当たらなければ意味がない。そして、【獣の鼓動】に【魔法】スキルである【インフェルノ・ボルテックス】の威力を向上するような効果はない。


 ヴィクターの手の平から紅蓮の業火が嵐となって、アカザを飲み込もうとする。

 使用者を中心に炎が嵐のようにして広がる範囲攻撃だが、スキルの範囲を、攻撃到達時間を、特性を知っているアカザはただその場から動かない。


 【インフェルノ・ボルテックス】の中心部からは動かない。

 案の定、業火に飲み込まれる。そのことに安堵するヴィクターだが、安心したのもつかの間。業火が消えた後から無傷のアカザがそこに立っている。


「な、なぜだ!?」

「範囲攻撃だろうと範囲外の敵に当たるはずがないだろうが」

 【インフェルノ・ボルテックス】は、使用者の360°に居る相手に攻撃するスキル。しかし、周りを攻撃できても射程は精々5m前後。接近っしてきた相手へのカウンターとして使われ、決して遠くに居る相手に使うスキルではない。


 どちらかと言うとアカザは【インフェルノ・ボルティックス】を誘発させて、使用した直後の隙を狙うつもりだった。だが、ヴィクターの余りの拙いプレイヤースキルに思わず呆れてしまった。


 ただし、ヴィクターは持っているスキルの特性さえ知らないようで、息を呑んで立ち竦む。

 広範囲攻撃や必中魔法を使い少しでもダメージを稼ごうとするが、その度に適切な処理をされてしまいアカザに傷一つ付けることが出来ない。


「【フウァールウィンド・エッジ】!」

 ナイフから旋風が吹き荒れることで生まれた半透明の風の刃が、ヴィクターの周りから放出される。だが、【ジャンプ】して空中に逃れ、半透明の刃の攻撃範囲から逃れたアカザには何も影響が出ない。


「【タイダルウェブ】!」

 一瞬にして玉座に水の壁が出現し、落下中のアカザに向かって押し寄せる。

 が、その場からアカザはスキル群【魔法】、【ディメンション・トリック】を発動し転移する。【タイダルウェブ】の攻撃をすり抜け、それと同時にヴィクターの目の前まで来た。


「【ウィンド・スパイル】!」

 急いで素早く打て、必中魔法である【ウィンド・スパイル】を唱えた。

 足元から風の槍が飛び出て来る攻撃に、成す術がなく釘刺しになる想像を抱くヴィクター。


「F9」

 だが、想像は現実を打ち破る。


 突如としてアカザの左手に持っていた【小鴉丸《八咫烏》】が、大盾に変わる。

 ゲーム時代の時はスキルを設定しFキーを押すことによって、一々【スキルウィンドウ】を開かずともスキルを発動していたコマンド欄。他にもアイテムを設定すれば【インベントリウィンドウ】内のアイテムを使用し。装備ならば現在の装備欄と入れ替えることが出来る。


 「F9」といった事で発動し、【小鴉丸《八咫烏》】と入れ替わりに設定した「F9」の防具を装着する。

 溶けない銀の氷で作られ、アカザの体を覆い隠せるほどに大きい鋭利盾(ソード・シールド)。武器にも使えそうなほど上下の先端が尖っており、触れなくてもひんやりと冷気が伝わる【スヴェル《グレイシャー・ベルク》】。


 そして。スキル群【守護戦士】の【ハイガード】を発動。


 鋭利盾(ソード・シールド)が光り、ダメージを遮断する。【ハイガード】によって大幅に威力が削れた微々たる風が、アカザの【生命力】が鑢で削ったようにしか変動しなかった。


 そのまま、【シールドアタック】を使い盾で殴り、【シールドバッシュ】でダウン値を減らし続けて殴り、【シールドヒット】で頭を殴り気絶させ、【シールド・インターヴィーン】で連続して殴り、【シールドストライク】でさらに強烈に殴る!

 こうしてダウン値が最大値に到達してしまい吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられたヴィクター。


 猫が追い詰めたネズミを爪や牙を使わず、嬲るような光景。

 先程までのアカザとヴィクターの戦いを見ていたトゥルーたちだが、一方的にいたぶる苛めの現場に「やめてあげてよぉ!」と心の中で叫んだ。


「なんで私の攻撃が……」

 何度も鋭利な盾で殴られたのに【生命力】が0にならないヴィクター。

 そもそも盾の武器スキルはダメージ率が低く、最大の利点は防御力向上である。二の次はスタンのようなバッドステータスを、付加させることに使われる事が多い。


 なのでアカザも先程の攻撃で、ヴィクターを倒せるとは思っていなかった。

 しかし何度も殴られているためか、ふらふらと起き上がる。そして仕切り直すためにか、頭が回らないためか、自身の攻撃が効果的に発揮されないことに疑問を抱く。そして、疑問の答えが出ないのか、アカザに憤りをぶつけて来る。


「ステータスは私の方が上だ! 例え戦い方が、知識が、経験が貴様より劣っていたとしても、ここまで差が開くことはないはずだ!」

 まるで、子供のような考えにアカザはため息をつきながら思う。


 まずPVP《対人戦》の基本的な知識がない、経験が違う、戦い方に幅がない、何より―――。

「思考停止してPVP(対人戦)に勝てる訳ないだろ」

 強力なスキルを使うだけでモンスターに、プレイヤーに、ゲームに勝てる訳がない。


 装備やアイテムを準備し、戦略を立て挑戦し、攻略法を確立し、技術を磨き、仲間を信頼してしか勝利はあり得ない。そして、それでも勝てないからゲームは挑戦し続けられる。

 確かに嫌なタイミングで反撃を喰らうことや、上手くいかず不満が溜まってしまう事もある。ラグの不満や回線トラブルによって、訳の分からないうちに倒されたり、強制的に落とされたことも何千とある。


 だからと言って安易にチートの力で蹂躙して何が楽しい?


 まぁ、気持ちは分からなくない。

 効率的で、簡単で、何より速い。

 そして、圧倒的な力で敵を薙ぎ払う感覚は痛快だ。


 滅多に出ないアイテムが1発で出て、制限を無視した行動が取る事が可能になり、幾ら金を使おうと減ることはない。

 そして、チートに頼る。

「で、さっきから待ってるんだけど?」

「何を……」

「だからさ、こんだけ話す時間やって、回復だの強化だのする機会があって何もしないんだけど、もう戦意喪失か? ほら、『あの方』から貰った(チート)を見せてみろよ」


 目の前の男が何を考えているのか分からなかったヴィクター。

 敵に塩を送るような行為でその傲慢さが腹に来るが、次のアカザの言葉に絶望を感じた。


「まだまだ俺は本気じゃねぇし、今回の騒動で準備した戦術はまだまだあるんだ。それに言っただろ?」


 あの戦闘が本気じゃない? ヴィクターは困惑する。

 間違いなく先程まで戦闘は人智を超えた戦いだったはずである。

 高位のスキルの嵐。

 英雄の領域に達した力。

 だが、それらを嘲笑う男が目の前に居る。


「廃人の怖さを思い知らさてやるよ」

 

 巨大な雷の龍を、ただ歩くだけで避ける。

 【レイジ・ドラゴンライトニング】を、攻撃範囲外に移動。


 地面から生えた焔の巨大な花の中を、無傷で突き進む。

 【バーニング・アマリリス】を、【縮地】で強行突破。


 一瞬にして築かれた氷の城を、盾で殴って粉々に破壊する。

 【フリーズ・ホワイトキャッスル】を、【シールドストライク】で破壊。


 無数に跳び出る鉄の剣の弾幕を、全て刀で弾く。

 【ソード・イン・プレンティ】を、【斬り払い】で弾く。


 濃い霧が一瞬にして立ち込め不意打ちのナイフ攻撃が当たる瞬間に盾で防がれる。

 【デンズフォッグ・スタッブ】を【ロイヤルガード】で防ぐ。


 絶対に避けられない呪いを無力化した。

 【スキル・ファゲェトゥファル】、コマンドを操作し、【物忘れ】無効化の装備をコマンド装着。


 一見自殺行為と思われる行動でも、なぜか無傷、もしくは軽傷。

 それらの一方的にアカザがヴィクターを嬲っている戦闘を、傍から見ていたトゥルーたちの感想を簡潔に言えば、アカザの取った行動は無茶苦茶であった。


 さらに前にアカザと【鬼道丸】との戦闘を見ていたキキョウは、もう1つ気付いたことがある。

 アカザは全く本気を出していない上に、ヴィクターを脅威とすら認識していないということ。


 まぁ、アカザにしてみればヴィクターは馬鹿の一つ覚えでスキルを乱発しているだけ。後はそのタイミングに合わせて、回避スキルやカウンター、無効化装備を使えばいいだけの話である。


 【魔法】スキルが主で、手を翳して放つ。軌道は読みやすく、【鬼道丸】のように修練して変化がある訳でもない。ナイフの【武器】スキルも武器の性能、リーチの短さや振るか突くかの単調な攻撃。


 第一に【魔法】を使うのならば武器は(ロッド)にするのが基本。ナイフは近接されたときの緊急措置として使う方がいい。

 戦いのスタイルも、選択するスキルも何も考えていない。


 そして、自身の攻撃が効果を感じないことに焦るヴィクターの心境。

 また、強力なスキルを連続して使用したことで、【マナ】や【スタミナ】の消費はアカザよりも多く、息が上げるヴィクター。


「おい、さっさと来いよ。ポーションでも飲んで、てめぇが手に入れた力がいかに無力か思い知れ」

「このっ!」

 言葉に逆上してナイフを投げつけて来るが、遠距離攻撃と判断されたのか【斬り払い】で呆気なく地面に落とされる。


 手元の武器がなくなったことに今更ながらに気付くヴィクター。虚空に指を上下に動かすが、その顔は青くなるばかり。どうやら【インベントリウィンドウ】内に武器はもうないらしい。

 自ら戦闘能力を損失するというあまりにも愚かな行動に、アカザはため息すら出ない。


「で、次は?」

「…………」

「次の一手は?」

 責める口調でアカザは言う。


 もう【マナ】も【スタミナ】も殆どない為か、脂汗を額に浮かべふらふらとする。そこからのヴィクターの取った行動は、アカザへの糾弾。


「なぜだ」

「あ?」

「何故貴様のような存在が居る! 貴様さえ居なければ、私はこの【キョウノミヤコ】も他の都市も併合して、世界統一すら出来るというのに! それを手柄に『あの方』に喜んで下さるのに! 貴様は『あの方』に謁見をする権利すらない!」

「興味ない」

 ざっぱりとヴィクターの言葉を切り捨てる。


 アカザの意見に口をパクパクと鯉のように動かすヴィクター。

「大体、『あの方』『あの方』うるさい。他のプレイヤーがチートコード見つけて好き勝手にやっているってところか? 俺は会いたくもないね」


 信じられないと顔を驚かせるヴィクターだが、アカザにしてみれば会話やニュースで見たこともない人物をどう尊敬しろと言うのか。第一、やっていることは完全な不正行為である。

 ゲーム廃人からすれば、自身を全否定するような人物に嫌悪感を抱いて当然だ。


「俺はそんな奴ちっとも凄いと思わないね」

「うわあぁぁぁああああ!」

 突如絶叫上げるヴィクター。

 アカザの言葉を聞くに堪えず上げた物ないのか、尊敬する人物をこれ以上否定されたくないからか。ともかく、アカザの言葉が耳に入らない様に声を荒上げる。


 だが、

「うっせー!」

「へぶっ!?」

 素手で殴り飛ばされ、その絶叫も否定された。


「……つまらねぇ」

 アカザにとって今回はかなりつまらない戦闘だった。

 何せステータスがカンストしているとはいえ、戦闘は素人同然。


 こちらはファッション装備欄に【錬金術師コート】で視覚情報を騙し、本命のガチ装備の【八竜】シリーズを装備していたのだ。さらに相手が凄腕であることを考えて、Fキーのコマンド欄は強力な装備や高価なアイテムを設定しなおしていたのにその殆どが日の出を見ることはなかった。


 さっさとヴィクターがスキルやステータスを奪った本を回収しようとする。その本の性能を解読すればいいのか、破壊すればいいのか分からないが、ともかく盗まれた物なので持ち主に返したいと思った。


 ともかくこれは廃人としての矜持である。

 他人の努力を盗んで、自分の手柄のように扱うヴィクターが許せなかった。

 悠々と近づくアカザに恐怖で腰を抜かし始めるヴィクター。


 だがその時、一人の名も知らない獣人が玉座に入って来た。

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