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3-8

 翌日の朝。

「日皇様。お早う御座います」

 大内裏の常寧殿と呼ばれる寝室で寝て居た日皇は、まだ眠たげな目を擦りながら付添人に起こされる。


「……余は、余の代わりに連れ去われた女子(おなご)は?」

「昨日の昼暮時に発見されました」

「そうか。……もう遊べぬのかな」


 日皇は10歳。まだまだ遊び盛りである。なのに同世代の子供と遊ぶ事もなく、自由に外に出ることすら出来ない。

 付添人は不憫には思うが、そうするのが立場ある者の義務だとも思う。


 ただ、前代の日皇と妃が子を成せず死去してしまった。それで遠縁の血を引く者を引き立てた。まだ物心付いていない子供を、金で売り払う親も親だが。

 子供なら御しやすく、自分の思い通りに悪事を働けると思ったのだ。それで今ではすっかりお飾り。日皇自身はあまり権力や欲には興味がないようで、外で遊びたがってるだけだが。


「……また余はここで過ごすのか?」

「はい。ここならば安全ですので日皇様」

 深いため息を吐く日皇。


 日皇ではなく、前の名前を呼ばれたのは何時だったか本人さえ忘れてしまっていた。

「なぁ、トキワ。余は何だ?」

 トキバと呼ばれた付添人は疑問符を浮かべる。

「それは、日皇でしょう?」


「日皇であって僕ではない。誰もが僕を日皇としか見ていない。こんな肩書き欲しければ上げるのに」

「日皇様。そのようなことを言わないでください。貴方様がその日皇の名を受け継いだことで、この国が安定しているのです」


 あのアカザと言う冒険者のように、自分は屑である。子供を担ぎ上げ、悪代官どもが思い通りに出来ないように祭り上げた。幾ら言葉を取り繕っても、子供の自由を奪っている。


「簡単に日皇の名を差し上げてしまえば、民も混乱してしまいます。そして、日皇の名が悪漢にでも渡ってしまえば、【キョウノミヤコ】の治安は悪化することでしょう」

「……その悪漢どもをおびき出すために余をお取りにしたが、何か分かったことは?」

「残念ながら全員がそれ程情報を与えられておらず、あの冒険者が聞きだしたこと以上のことは分かりません。強いて言うなら全員が牧師に雇われた、他の都市のゴロツキという事です」


 あの後、取り調べで工作員たちは恐怖心からか、喋り出した。余程アカザと言う冒険者に恐れを抱き、日皇側に付いていると勘違いしたらしく証言で嘘を吐いている様子はトキワは感じなかった。


「さぁ、日皇様。御起床したのであれば、勉学に励みましょう。怠けていると指南番から課題が溜まってしまいますよ」

「余は日皇だから免除すればいいではないか」

「それは認めらません」

 バッサリと日皇の提案を切り捨てたトキワ。


 例え日皇という地位に就いていても、何で他の子供と同じ苦労をしなければならないのか、日皇の苦労も一緒にしなければならない。

 その事に不貞腐れる日皇だった。


「なぁ、トキワ。もう嫌」

「弱音を言わないでください」

 今は字の練習、習字で日皇は紙を分度器で抑え、そこに指定された字を筆で書いている。しかし、筆は持ってはいるが、指南番の課題は進んでいない。監視としてトキワが見ているものの、ぐだれているので進まない。


「それが終わらなければ休憩やお食事、菓子を与えられません。それにそこは流さず、止めるところです」

 物で釣るという古典的な方法だが、それでも空腹感はどうしようもなく嫌々ながらに筆を動かし始める。しかし、出来上がる字はどれもギリギリ読める程度の文字。


 トキワが指摘すると嫌そうな顔をして、紙をくしゃくしゃに丸め書き直す。

 その課題内容に渋い顔をする監視人だが、これ以上ダメ出しをすると不貞腐れて駄々を捏ね出すので妥協することにした。

「では、昼食とするとしましょう」

「早くせい」


 生意気な返事にイラッと来たトキワだが、まぁ子供ならば当然の我儘(わがまま)なので何とか聞き流す。

「では、移動するとしましょう」

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、童顔が輝く。正座からすぐさま立ち上がり、走って部屋の戸を開ける。そのことを後で咎めようと決めたトキワ。


 だが、日皇が開けた戸の前に牧師が立っていた。

 いきなり和風建築物の中に西洋の牧師が居ることに、異彩を醸し出す邸内。

 そして、警戒したトキワが日皇を守るために首根っこを掴み、小さな体を持ち上げ自分の影になるように後ろに回す。それと同時に、袖に隠してある苦無を取り出し、臨戦態勢を取る。


「なぜここに居る!」

「【キョウノミヤコ】の重鎮たちに案内されまして」

 作法通りに頭を下げる牧師。

 穏やかな笑顔を浮かべているヴィクターだが、【ドメラシナ】からの使者という事に警戒心を強めるトキワ。しかし、そんなことを気にも留めないで日皇に話し続ける。


「それで日皇様。私たちと一緒に来ていただきます」

「ふざけているのか!」

「貴方の意見など聞いていないのですよ」

 一瞬にして、トキワとの距離を詰めるヴィクターは、ナイフを一度振る。


 何の抵抗もなく、喉を切り裂かれ白い灰となってしまったトキワ。

「ひっ」

「さぁ、行きましょうか」

 ガタガタと足を震わせる日皇と手を差し伸べるヴィクター。


 事情を知らずに見ると、怯える子供に手を差し伸べる善人に見えなくないが、その手を日皇が取ることはない。

 時間が掛かることにじれったく思ったヴィクターは、スキル【ショック】を使う。相手を確率で気絶(スタン)させる【魔法】スキルは、ヴィクターの手の平から小さな衝撃が日皇の頭を揺らし、意識を耄碌させた。


 日皇の小さな体を担ぎ、ヴィクターは玉座へと向かい出す。

「さてと、早く用事を済ませて、『あの方』の元に戻るとしましょう」




「んぁ」

 体に重さを感じ、目を開けて確認してみるとパジャマの首近くのボタンを外していた。鎖骨が見え、幼い色気を放っている。寝起きからポルノ風景を見てしまい、一部に血が集まってしまう。


 すやすやと寝息を立てるトゥルーに申し訳ないが、生理現象に逆らうことが出来ない。

 そして視線も、固定されてしまい動かすことが出来ないアカザ。さらに運動などしていないのに息が上がってしまう。


「……変態」

 その声で一瞬にして固定化が解け、声のした方に振り替える。そこにはすでに起床していた獣人がこちらをジト目で見つめていた。


「……いつから見てた?」

「…………」

 また、だんまりになってしまう。

 取りあえずトゥルーを体の上から、隣に動かし、布団から出る。


「勘違いするなよ? トゥルーが寝相で俺の上に乗って、着心地が悪くてボタンを外して肌を露出しただけなんだからな? 息が上がっているのはトゥルーが重くて寝苦しいだけなんだ。トゥルーを見ていたのは何でここに居るって疑問に思っただけで、俺が卑しい目でトゥルーを見ていた事実などない」


 アカザが言い訳をするものの、獣人が納得していない。

「変な勘違いしてほしくないんだけど、トゥルーに欲情なんてしていないから」

「…………」


 信用してないとアカザは確信する。

「しかし、信用しろと言うのも変なので黙っていてくれ」

 まぁ、閉口しているので喋ることはないだろう。


「ふぁあ。おはよう」

 その時、トゥルーが目を覚まし目を擦りながら起きる。


「あれ、珍しいね。アカザさんが早起きするなんて」

「あはは、まぁたまには」

「?」

「いやな? 最近襲われているから、いつでも対応できるように準備でもしとこうかと」


 言葉を濁すアカザに首を傾げるトゥルー。

 アカザが獣人が何か言わないか視線を向ける。慌てるアカザをじーと見ているだけなので、何かトゥルーに口伝えする気はない。

 そのことに安心したアカザは【インベントリウィンドウ】を開き、装備欄やコマンド群を弄り出した。




 それからキキョウ、トラマツと一緒に大内裏に行くことになった。

「トゥルーちゃん、昨日は何もされていない? 特にそこの狼藉者に」

「あんたは俺のことをなんだと思ってるんだ?」

「暴力少女愛好変質下種野郎」

 キキョウのかなり侮辱的な総称にアカザは、流石にそこまで好感度が低いとは思わず落ち込んでしまう。


「アカザさんはそんな人じゃ無くて、……えっと―――」

 トゥルーのアカザの擁護をしてくれる。唯一無二の味方にありがたく思ったアカザであったが続く言葉に愕然とした。

「アカザさんはむっつりスケベだよ!」

「帰る」

 フォローしてくれるはずの味方に、裏切られてしまったアカザは憂鬱になってしまう。


 それと、メンタルの弱さからダメージがデカく一瞬にして心が折れてしまった。今日は塞ぎ込んで部屋から出てこないかもしれない。

 きっと引きこもりやニートはこういった何気ない一言、些細なことで、量産されていくのだろうと思い至るアカザ。


「ちょっと! 本気で帰ろうとするなぁあ!?」

 帰ろうと踵を返すアカザを止めるように、トゥルーとキキョウが袖と襟を引っ張り抵抗を始めた。無理矢理引き摺ってでも行こうとするが、アカザの無駄に高いステータスが発揮され逆にトゥルーとキキョウが引きずられてしまう。


「まぁ、アカザ殿。キキョウもトゥルーさんも本気で言った訳ではないのですし、例え変態だからと真面目に捉えず、聞き流しておきましょう。軽口を考えるだけ無駄なんですから」

「…………あい」

 何とか返事をする。


「面倒よね。あんた」

 ぼそりと呟くキキョウだったが、父親のトラマツはやれやれと首を振った。

 アカザたちがそんな会話をしながら朱雀大路を歩いていると、今にも死にそうな形相で走る日皇の付添人がアカザたちに追い付いて来た。


 先程【キョウノミヤコ】の前、復活ポイントで再び体が蘇ったもトキワはステータスの弱体化、心に負ったダメージを何とか耐えながらも足を動かす。

 心身が衰弱状態になりながらも、日皇の元に走るのは忠誠心か、心配してか、トキワ自身頭が働かない状態では分析できなかったが、ともかく急がなければと心が訴えていた。


 そしてトキワはアカザたちを見かけて、そこに倒れこむようにして崩れ落ちてしまう。

「うぉ」

 いきなり後ろからの衝撃によろけそうになるアカザだが、何とか持ち直し後ろに振り替える。それと同時に服に縋り付いてトキワがアカザに助けを求めた。


「……日皇、さまが……紳士風の男に、……拉致されました」

「あ、貴女!?」

 キキョウが背中に手を回し支えるが、限界状態で無理矢理走っていたため疲労が溜まったか、アカザに会ったことで安心したのか、足が動かなくなってしまった。


「お父様! この人頼みます!」

 そう言った後、急いで駆け出すキキョウ。間違いなく日皇の身に何かあったのだろう。

 いきなり面識がない人(・・・・・・)に自分に縋りつくようにして倒れたのだ。急展開にどうしたらいいかアカザがテンパっていると、トゥルーとトラマツから駆り立てられた。


「アカザさん! 速く大内裏に行くよ!」

「アカザ殿! この方は私が見ておりますので、安心してください!」

「あーもう! 何が何だ!?」

 キキョウの後に続く形で、アカザとトゥルーが朱雀大路を駆ける。


 そんな中、トラマツの意識がトキワに逸れた瞬間、獣人が路地裏に通じる道に逃げ出す。

「あ、待ちなさい!」

 気付いた時にはもう遅し。待てと言われて待つ犯罪者は居ない。




 昨日と同じようにキキョウが門を潜り大内裏に入ろうとしたところで、門番が襲って来た。

「え」

 門番が持つ槍で、先頭に居たキキョウが攻撃される。

 いきなりの攻撃に目を見開いて、硬直してしまったキキョウは突き出される槍を避けることが出来ない。


 だが、圧倒的に速く行動できるアカザが槍の柄を掴み、攻撃を中断させる。

 そのまま力任せに槍を引き寄せ、勢いよく門番の顔を殴りつけ【生命力】を0にする。もう一人の門番も槍を振って来るが、単調な突き、遅すぎる攻撃に刀を抜く必要性すら思わなくなった。アカザは、また槍を掴み取る。


 先程と同じように殴ろうとしたところに、キキョウから待ったの声が掛かる。

「アカザ! そいつ捕まえたまま!」

 キキョウがスキル群【陰陽術】の【結界楔矢】を使用。


 細い長方形の結界が門番の手足を貫き、動きを拘束する。その後、キキョウが縄を掛け2重に縛り上げ、襲って来た門番の懐を探り始めた。

「あったわ」


 そう言って取り上げたのは鎌の形をしたペンダント。

「なんで、日皇様の警護をする人がエレクトラの信者な訳がないわよね。ヴィクターって言う牧師はどこ?」


 基本、【エチゴ】や【キョウノミヤコ】はタユゲテ(アマテラス)の信者が多く、信仰されていない地域で活動するのはかなり珍しい。そして、今エレクトラ(ガイア)の信者は疑わしい。

「誰が話すものか」

「じゃあ死ね」


 素直に話す気がないのが分かるとアカザは、拘束され抵抗できない門番(工作員)を殴り殺す。その行動を咎め、大声を出すキキョウ。


「あんた何やってんのよ!? せっかく捕まえたのに!」

「日皇の場所なら【地図】と【索敵】で分かる。ここで問答している方が時間の無駄だ」

「だからって殺すことっ」

「どうせ復活するから問題ないだろ」

「あんたねぇ!」

 生死を重々しく扱うキキョウ(NPC)と軽々しく扱うアカザ(プレイヤー)。それぞれの価値観は決して分かり合うことはない。


「キキョウさん! 今は日皇くんを探さなきゃ!」

 忌々しく舌打ちしたキキョウと、嫌な顔をするアカザ。

 そんなパーティメンバーは【索敵】で表示される日皇の名前がある玉座へと走り出す。




 仰々しい入室などせず、扉を蹴り破って侵入するアカザ。

 その行動に一々咎める気にもならなくなったキキョウ。何せ土足で大内裏の敷地を走り回り、襲い掛かって来る衛兵たちを返り討ちにしているので、最早目の前の男を原始人に認識することにした。

 しかし、キキョウが玉座で目にしたのは原始人よりも遥かに劣る行為。


 日皇の頭を切り開こうと、おもむろにナイフを突き立て、抉っている牧師が居た。

 その様子を悪辣な笑みで眺める重鎮たちが居た。

 涙を流す子供が居た。


 一瞬にして頭が沸騰したキキョウはスキル【爆結界】でヴィクターを狙い撃ちにする。

 足元から一瞬にして生える結界が即座に爆発する。

 だが、攻撃などなかったように平然と立っている。


 そして反撃しようとしたヴィクターだが、アカザが一気に距離を詰め【スマッシュ】でヴィクターを殴り飛ばす。【スマッシュ】はダウン値をMAXにする攻撃であるため、数mほど空中に放物線を描きながら、地面に叩き付けられた。


 その間に日皇に駆け寄るキキョウが【癒痕境内】、トゥルーが【ヒーリング】を使い、頭の傷を治し始める。

「何だ貴様らは!?」

「者ども出会え!」

「なぜ来ない!?」


 重鎮たちが慌てだすが、ここに来るまでに侵入したアカザたちを止めるために衛兵が襲い掛かってきたが、全員をアカザが返り討ちにしたのでもう大内裏に兵はいない。

「いきなりですね」

 むくりと起き上がるヴィクターに安心したのか、重鎮たちが安堵の息を付く。


 そして、血や脳脊髄液が滴るナイフを握っているヴィクターは、片手に持った本でそのらを拭う。

「アカザさんと言いましたか。貴方の世界にはDNAと言う物があるようですね」

 ヴィクターが何の前触れもなく、そんなことを言った。


「何をしている! 早くその者たちを―――」

「黙りなさい」

 いきなり手を翳し、魔法スキル【アイシクル・トリアイナ】を発動させる。

 氷の槍が3つ高速で発射され、重鎮の一人の体を易々と貫通。肩、腹、胴を貫通し、その後も壁を貫通する。触れた瞬間に、傷口や破壊の痕跡に霜になるほどの冷気を伝えた。


「なん……で」

「もう一度言いましょう。黙りなさい」

 絶命して白い灰となった重鎮の代わりに他の重鎮が非難する。


「貴様! 日皇の予知を自分だけのものにするつもりか!」

「君主を裏切り、良い様に予知のスキルを得ようとした方たちに言われたくはありませんし、何より貴方方はどうでもよろしいんです」

 そうして次々と魔法スキルを発動し、その場に居る重鎮たちを粛清し始めたヴィクター。


 大蛇のような雷が、城壁のような焔が、重鎮たちを飲み込む。スキル群【魔法】の【アンヅァテ・ボルト】と【サン・ウォール】。

 一瞬にして白い灰となった重鎮たち。


「どうですか? 『あの方』から授けられたこの本の力は!」

 まるで麻薬でも味わっているかのような、恍惚とした表情を浮かべるヴィクター。

 アカザは【ステータス・スキャン】をヴィクターに使って数値を確かめてみる。


ヴィクター

『生命力』9999/9999『マナ』9999/9999『スタミナ』9999/9999

STR/9999 DEF/9999 INT/9999 DEX/9999 AGI/9999 WILL/9999 MND/9999 LUK/9999


 おかしな数字であった。

 数値の高さよりも、均等化されたような9999の数字の並びが気になってしまうアカザ。


 ヴィクターは見たところ、アカザと同じ人間であり、アカザと同じプレイヤーなら差異がどうしても出てしまう。例えば種族によって取得できるスキル、できないスキルが存在する。そのことで常時、ステータスの限界値である9999になるとは思えない。


 人間種はバランス型。

 有体に言ってしまえば器用貧乏。

 スキルの獲得数が多いが、スキルのランクアップでの上昇ステータスは低い。


 ヴィクターが人間種で獲得できるスキルを全てランク100にしたとしても、アカザのステータスと同じでなければならない。

「本の力? それで日皇の予言の力をコピーしたってか?」

「ええ。ここの重鎮たちは予言のスキルを自由に使う事で、儲けることが目的でしたが、『あの方』はこの世界の為に使おうとしています。我々はその考えに賛同しました」

「それ以外にも他の奴らからスキルを奪ったってか」


 恐らく【スカンヴィナ】との領土戦で多数の人物から、血を得てスキルを奪った。それ以外にもステータスを得ているのだろう。そうでなければ綺麗にステータスの数字が並ぶことはない。


「スキルを、奪った……? そんなことして何がしたいのよ!」

「世界を救うためです」

 即答で断言した。


 世界を救う。今どきの子供でも口にしないことを当然だと言う風に。

「モンスターが蔓延り、痛みと苦悩を生き続ける我々。年老いて死に、理不尽に村や町をモンスターに破壊される。ここの重鎮たちのように、富める者はますます富み、貧しきものはますます貧しくなる。富を分け与えることなどしない連中ばかりが、世界を牛耳る。【キョウノミヤコ】は、口では都市の防衛だと言いながら、主君の力目当てです。それを自分の欲にしか使わないような奴ら。

 しかし、『あの方』は違う!

 小さな村で、戦に巻き込まれる運命だった【ドメラシナ】を武器国家【スカンヴィナ】を瞬く間に倒し、あっという間に周りの都市を併合しました。そして、『あの方』は今まで見向きもされなかった、我々のような平凡な者たちにも役割を与えてくれました。これがどれほど歓喜極まることだったか!

 これからは女神の信者など捨てましょう。幾ら祈っても、崇拝しようと我々には手を差し伸べ手はくれない。手を差し伸べるのは選ばれた英雄や天才だけ。『あの方』に比べれば取るに足らない。実際に我々をお救いくだっさった! それだけで十分!

 『あの方』に命じられることに何も間違いなどない!

 さぁ、アカザさん。あなたのその力も『あの方』の為に使われるのが正しいことなのです!」

 と、話し続け、アカザに手を差し伸べるヴィクター。


 演説に言葉を失ったトゥルーとキキョウ。

 彼女たちには俄かに信じられなかった。スキルを奪うことや牧師が女神ではなく、一個人のみを崇めるといった行動。

 そんな中、アカザは―――。


「……話終わったか?」


 ヴィクターが熱烈と語る内容に関心がなくなっていた。

「結局のところ不正して、他人に迷惑かけている屑野郎ってことだろ」

 アカザの中ではもう結論は出ている。なのでヴィクターの手を握ることなどない。


「第一、あんたも他人を使い捨てにするクソ野郎だ。でも俺の力と、あんたや『あの方』との力は違う。10年間育てた力と他人から奪った力だ」

 許せないとアカザは心から思う。

 社会では何の役にも立たない技術でも、その一点だけは誰にも負けない自信。譲れないプライド。


 それを踏み弄る。

 改造して、楽をして、バランスを無視する。

 ぐつぐつと体の奥底から沸き起こる熱に突き動かされる。

 【暗鬼鞘】から【膝丸《薄緑》】と【小鴉丸《八咫烏》】を引き抜く。


「行くぞチート野郎。廃人の怖さ思い知れ」

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