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3-7

 捕らえ拘束した誘拐犯を引き摺って、どこか適当な部屋か、空き部屋に移動しようとして地図を見る。人はもう家の中に入り、布団の中に入っている時間なので白い△は全て家の中にある。


 だが、幾ら寝ているといっても先ほどの剣劇の音を聞いたら、騒ぎの一つも起こりそうな気がする。

 アカザはおもむろに後ろを振り返り、何かいないか確認してみる。


 先程のように『見破る』を使い、透明化で隠れていないか暴き出す。だが【見破る】の効果範囲にいないためか、そもそも何もないのかアカザの目には何も見えない。


 次にアカザはフードを深く被る翡翠に光る目を見る。

 剣先のように鋭い目は、何も感情を映していない。感情を映さない瞳ではアカザは何も読み取ることは出来ない。


(アニメの主人公とか目を見れば人柄が分かるとかどんな技術だよ。心理学者が泣くぞ)

 無論、心理学者なら目線1つで感情や思考、本人すら気づいていない癖も見抜くらしい。だが、最近まで面と向かって話をすることすらなかったアカザにその技術を身に付けるのは不可能。


 仕方なく捕まえた人物の行動について考える。

 トゥルーはどこにいるのか。なぜこんな所にいたのか。日皇を誘拐する目的。

「トゥルーはどこだ?」

「……」

 翡翠の瞳には何も反応はない。そして、いい加減顔が分からないほど深く被ったフードを剥ぎ取る。


 フードの下にある顔は整っており、凛々しい目と美しい輪郭をしている。年は20代。だが、無感情であり能面のように変化がない。長い黒髪は後ろで束ねられており、頭の上に同じ色の艶やかな毛並みの猫耳がある獣人。

 女だからと言って、アカザの行動や心情に変化がある訳ではない。

 無言のまま虚空を見ている彼女に問う。


「一回死んでみるか?」

 と、【小鴉丸《八咫烏》】を首元に当てるが、何も反応がない。

 やるならやってしまえと自暴自棄でもなく、本当に自分の命や記憶、痛みに興味もないような瞳だった。


 俗に言うレイプ目状態である。

【おい、さっさと気づけ】

 【小鴉丸《八咫烏》】を抜いたから動かせる切羽で口を開く【暗鬼鞘】。鞘であり【鬼道丸】意思を持つ鞘が声を掛ける。

「何に」


【囲まれているぞ】

 【鬼道丸】が言ったと同時に、すぐさま裏路地に視線を向ける。

 そして、タイミングよく一人の男が通路の角から出て来る。


「こんばんは。いい夜ですね。ものすごく静かだ」

 教会の牧師のような恰好をした老人が、穏やかな表情でアカザに向かって挨拶してくる。対照的に剣呑な表情を見せるアカザ。


「……誰?」

「これは失礼。ヴィクターと言う者です。あなたは?」

「アカザ」

「いい名前ですね。ところで物騒なことをせずに、話し合いで解決しませんか?」

 取り囲んでいるくせによく言うものだと、アカザは思った。地図を見ても、目を動かし周りを見渡しても何もない。恐らく、【見破る】の範囲外の物陰に隠れている。


「話し合いって何を話すのさ」

「この件から手をお引きください」

「日皇誘拐のことか? わざわざこっちまで巻き込んでおいてよく言うな」

「もう既にそちらのお嬢様は、貴方の捕まえた彼女から逃げそちらの仲間と合流しました。私は日皇を誘拐するのが目的なので」


「だったら、俺がこいつを解放する理由はないな」

「ええ、私も役立たずを庇い立てする気などありません。どうぞご自由に。貴方がこの都市から出て行ってくれるのならば何も問題はありません。なんでしたら、彼女たちの宿の場所を教えます」

 つまり、要求を呑まないとその宿を襲撃する、いつも監視していると回りくどく言っている。


 何時でも仕掛けることが出来るとも取れるが、恐らくそれはない。彼らの目的が日皇誘拐なら、これ以上騒ぐと都市中での行動はやり辛くなる。

 恐らく、アカザが居る裏路地の住人を何らかの方法で寝かしつけたのも、それが理由だ。


 だが、アカザの頭の中では大人しく捕まえた獣人を解放する気にはなれず、ヴィクターの言葉通りに行動する気もならなかった。

 条件の中にこの獣人のことは言われていない。

 そして、好き勝手された上にまた事を起こす気でいる。

 なので答えは決まった。


「うん、ヤダ」

 徹底的に彼らの計画をぶっ壊してやろうと。

 すぐに周りに居た部下と思われる者たちが、アカザに向かって矢を、投げナイフを一斉に放つ。


 四方八方から迫る遠距離攻撃に対し【斬り払い】を発動した。

 防御範囲に入った遠距離攻撃は全て【小鴉丸《八咫烏》】によって叩き斬られ、無力化される。


 そして、憎たらしい笑みを浮かべる牧師に向かって【斬波】を発動。

 侍スキルの数少ない遠距離攻撃。

 剣先から放たれた青白い帯を引く、【斬波】はそのままヴィクターを襲う。


 だが次の出来事にアカザは目を見開く。

「ぐっ、私を他の者たちと一緒にしないでもらいたい、ですね!」


 【斬波】が直撃したのに死なず、痛みに耐え懐のナイフを取り出すヴィクター。

 そのナイフを突き出すようにして武器スキル【サウザウンド・ナイフ】を使用した。

 突如ヴィクターの周りに、いくつものシンプルな形をしたナイフが現れ、アカザの手に捕らえた獣人ごと屠ろうとする。


 アヴィリティスキル【斬り払い】が発動中なので、千にも及ぶナイフの掃射はアカザが振るう【小鴉丸《八咫烏》】で自動迎撃し弾く。

 次にヴィクターが行動を起こす前に【フラッシュ】と【サウンド・バン】を【融技(フュージョンスキル)】で合わせ発動。


 【フラッシュ】は掌から生み出した光球が画面を、一瞬白く覆い尽くすほどの強烈な光を相手の目に焼き付かせ、行動を一定時間に阻害するスキル。【サウンド・バン】は高音波をアカザを中心にして全方位に発生させ、音で認識するモンスターの耳を刺激し動きを鈍らせるスキル。


 それらが合わさりアカザの掌から、小さな光球が出現し破裂。

 魔法のフラッシュバンが作られ、時間差で目を潰すほどの閃光と耳が痛くなるほどの音が路地裏に溢れる。


 その爆発と同時に【帰還の羽】を使い逃走する。

 【帰還の羽】は最後に立ち寄った都市の入口に移動が可能なアイテムで、街中でも使える。狩りやクエストからの生き帰りに使う事が多い定番アイテム。


 瞬間移動で路地裏から【キョウノミヤコ】の入口の羅生門の風景に変わる。

「マジかよ!?」

 居ても立っても居られず、アカザは怒鳴ってしまう。

 自分の圧倒的なステータスとスキルが、あのヴィクターと言う牧師には効かない。


【……ああ、まさかお主の攻撃に耐えられるとな】

 アカザはヴィクターの脅威の認識を改める。

 【斬波】は威力が低いスキルだが、アカザのステータスで底上げされれば岩程度なら軽く両断できる。


 英雄でもなければ、恐らくだがプレイヤーでもない彼が、そんなアカザの攻撃を耐えた。少なくともアカザと同じかそれ以上の耐久(DEF)ステータスがある。


 ヴィクターがプレイヤーではないという理由は、アカザが【斬り払い】のスキルを使っているにも拘らず、【サウザウンド・ナイフ】という遠距離攻撃を仕掛けて来たこと。遠距離攻撃を無力化し、【蓮華】によってダメージ率を加算する【斬り払い】に無駄撃ちするのはスキルを理解していない証拠である。


 PVP(対人戦)に慣れていないプレイヤーなら、最初からガチ装備で身を固めるはずだ。

 【ファッション装備】で装備偽装する戦術を知っているプレイヤーなら、【斬り払い】の効果くらい知っていて近接戦に持ち込むはずである。


 スタミナ切れを狙って遠距離攻撃仕掛け続けるというのも、戦術ではあるものアカザの攻撃力は【蓮華】によって上がり続けるので、一撃で屠られる可能性だって生まれてしまう。


【それよりも】

「? ああ、あいつの言葉を信じるのならトゥルーは、キキョウやトラマツさんと一緒に居る。仲間なんてそれぐらいしか思いつかないし、【キョウノミヤコ】に入った時に一緒に居たのを知ってたんだろうな」

【そうではなく、その獣人をどうする? 斬るか?】

「……今は時間が惜しい。朱雀大路にあった宿に急ぐ!」

 俊敏(AGI)を発揮して、一気に人通りがない朱雀大路を走る。


【それに相手が強者だと思ったらしっぽ巻いて逃げるのか?】

「なんだ。悪いのか? トゥルーは宿に居るんだ。もうこれ以上関わる事もない」

【恐れたか?】

「……違う。ただ」

【ただ?】

「心配だし、戦うにしたって時間が居る。 あいつの不自然な強さの秘密を」

 負ける戦いなどしたくない。その為にはヴィクターの強さを考える必要がある。


【不自然な強さか……。我も感じた。主人と同じだ】

「どういうことだ?」

【力やスキルに対し、強者特有の凄みを感じん】

 つまりアカザと同じ。一見すればただの無気力な凡人にしか見えないように、ヴィクターもただの牧師にしか見えない。


 突然、身に余る(ステータス)やスキルを手に入れたという事。

 だが、混乱してしまう。先程アカザはプレイヤーではないと先程結論付けた。

 ではどうやって短期間の内に、アカザと同じステータスまで引き上げるのか。アカザだって10年近い歳月を費やして廃ステータスのキャラを作り上げた。一朝一夕で身に付く訳がない。


「……いや」

 一つだけ短時間で凄まじく強いキャラを作ることが出来るが、この世界では不可能だ。

 ともかく、朱雀大路にある宿に付いたアカザは【地図】と【探索】を使いトゥルーの名前を見つけ出し、部屋に入る。


 この時、焦っていたこともあるだろう。

 だが、なぜノックをしなかったのかと後悔した。

 突然暴漢にでも会ったような悲鳴が夜中に響く。

「きゃああああああ!」


 トゥルーは突然扉が開いた事に驚いているものの、むしろ戦闘態勢になってアカザに向かって弓を構えている。


 では誰か。

 一緒に居たキキョウの方が過剰な反応をして、突然の侵入者に悲鳴を上げた。

 アカザは、なんで? と疑問符を頭の中に浮かべる。

 トゥルーたちから見てみれば、夜中にどかどかと部屋に押し入り、手には刀、もう片方には人攫いのように美女が拘束し持ち去ろうとする。


 どっからどう見ても立派な犯罪者にしか見えない。

「アカザさん……。なんでそんなことしたの……?」

 トゥルーの方は本気でアカザが犯罪をしたことに悲しみ、目には涙を溜めている。

「……とりあえず落ち着こう。まずは俺の話を聞いてくれ」




「信じられない! 途中で勝手に抜けたと思ったら、トゥルーちゃんを誘拐されるし挙句の果てに、あんたが誘拐犯になってどうするのよ!」

「すいません」

「それでこの人どうするのよ!」


「取りあえず尋問?」

「何言ってんのあんた!?」

 本当に何やっているんだろうと自分でも考える。

 拷問とか考えていた自分に嫌気が差してきた。前の世界でやったらブタ箱直行確定である。


「あ、うん。ごめんなさい」

「私に謝ってどうするのよ!」

「そうだよ。トゥルーじゃなくて、えっと、ともかくこの人に謝らないと。悪いことしたら謝るのは常識だよ」

「いや、でも、お前を誘拐した奴の一人」

「それとこれとは関係なし、トゥルーは何とも思ってないから、謝る!」


 強く言うトゥルーたちにどうしようもなく部屋の空気が悪くなる。仕方なく連れて来た獣人に謝ることにした。

「すいません」

「…………」

 アカザが頭を下げてみるものの、獣人は無言を貫いている。


「ごめんね。アカザさんは、結構乱暴するから」

「…………」

 なんだか悪者扱いになっていることに、ソワソワし出すアカザ。

「あのね、流石に名前くらいは教えてほしいのよ。訴訟でも起こして罰金を取るときに黙秘はさすがに不味いわよ」


 賠償請求する気のキキョウ。この世界にも一応裁判所はあるものの、かなり実装されたのは後の方で、かなり離れた1か所にしか存在していないはずである。時代劇のように町奉行の前で罪状でも取り上げられ、切腹でも命じられるのだろうかといい加減な想像をし出すアカザ。


 いい加減思考を切り替え、なんで獣人が一言も話さないのか考える。

 脅し、忠誠心、人質、洗脳と可能性を考えるものの、答えが出ない。

 それに、ヴィクターと言う牧師の強さも気になってしまい考えが纏まらなくなる。第一強いのなら誘拐も、ヴィクターがやれば良かっただけの話になってしまう。


「アカザ殿が来てから時間がそれなりに経ったが、襲撃してくる様子はない。余裕か猶予か。ともかく、明日【キョウノミヤコ】の町奉行や日皇に話やその子を届けないといけない。それにヴィクターと言う牧師はここを監視しているって話だったね」

 トラマツが簡潔に纏めるが、アカザは腑に落ちない。


 日皇を誘拐して何の得がヴィクターにあるのか。

 日皇はそもそもあまり重要人物には思えない。ただ一点、血筋から予知能力を持っている以外はただのお坊ちゃんである。


「少なくとも身代金目的じゃないような気がするんだがな」

「え? 【ドメラシナ】が小国だからお金が必要なんじゃないの?」

 トゥルーがそんなこと言うことが気になったアカザ。


「……ん? 【ドメラシナ】って小国だったのか? ってかどうやって知ったし」

「私がお父様と調べて突き止めたに決まっているじゃない。さっきトゥルーちゃんに話していたのよ」

 アカザが来るまでにキキョウたちから話を聞いたらしい。アカザも聞きたいと思うと、キキョウはトゥルーと獣人と会話し始めた。


 アカザは仕方なくトラマツから話を聞くことにした。

 なんでも、キキョウとトラマツがアカザたちと別れた後、日皇(の影武者)の周りに居る臣下や重鎮、町人たちに聞き回っていることで掴んだらしい。


 北欧の小国【ドメラシナ】は確かに存在する。昔は漁業と狩りで生計を立てていたが、最近になって屈強な兵士が現れたらしく、領土戦で【スカンヴィナ】に勝利したことがあるらしい。


「はぁ!? 確か【スカンヴィナ】って武器国家だろ!?」

 思わず大声を出してしまうアカザ。


 現実の北欧、ボスニア湾に存在している都市【スカンヴィナ】。

 ドワーフの生まれ故郷とされており、鍛冶が盛んな商業国家。早い話が武器商人の国である。商業の取り扱いが武器と言う事もあって、武器国家と公式ホームページにも書かれてあった。武器が大量生産され、それを扱う兵士も多いため軍事国家の一面もある。


 それを領土戦で最近まで漁業が産業だった小国が勝った。

 俄かには信じがたい。

 ゲームの時のように、決められた上限の中で戦うのだとしたら、不利すぎて勝てる気がしない。


 チェス盤ならプレイヤーがクイーン、【スカンヴィナ】の兵士がビショップやルーク、一般人がルークである。

 まるでルーク(弱小)がプロモーションして強いクイーン(最強)になったかのように。


「……待て」

 ヴィクターもルーク(弱小)からクイーン(最強)に昇格したのではないのかとアカザは考える。

 だがその方法は? そして、なんで捕まえた獣人や工作員たちにはその方法が適応されていないのか。

 第一、【キョウノミヤコ】と同盟を組んで何の利益がある?


 考え込んでいるとトラマツがアカザに声を掛けて来る。

「アカザ殿、この件に関わる気ですか? その牧師の言うとおりに手を引くのもありかと思いますが」

「あんた、この件から手を引くのか? ナオトラから調べるように言われてるんじゃないの?」

「娘の保護者ですからね。トゥルーさんのことが心配で堪らなかったのでは?」


 つまり子供を無茶や危険なことには突っ込ませるな、と言うナオトラからの指示もあるのだろう。

「……むかつくんだよな」

「トゥルーさんを誘拐されたことがですか?」

「そうじゃななくて、あいつその獣人を物みたいに扱ってたからな」

「意外にも熱血漢だったのですか」

「違う、まるで当然って風に言ってたからむかついた」

 少し意外そうな顔をしたトラマツ。


 そんな時、トゥルーとキキョウが声を上げる。

「あ! 部屋割りどうしよう?」

「今日はこの子をここに泊めましょう」

「……」

 上からトゥルーが気付き、キキョウが予定を決め、獣人は無言のまま。

 宿の従業員に聞いた所、部屋は2つしかもう空いていない。そして、布団は4人分。


「アカザ、あんたが床で寝るべきね」

「ざっけんな。俺の育ちの良さを舐めんなよ」

 なぜ、この獣人の為に自分が不幸を被らなければならないのか。


「じゃ、トゥルーと一緒に寝ればいいよ。で、空いたお布団が1つあるからそれでいいと思う」

「は?」

「え?」

 突然何を言いだすのかと、間抜けな顔をするアカザとキキョウ。それに同意するトラマツ。


「それはいいね。私たちは家族でも最近は「私洗濯物とお父さんの下着を一緒に洗わないでよ」と言われる始末ですし」

「ちょ、そんなこと言ってないわ!」

 慌てたキキョウが弁解するが、父親のトラマツは立て続けに言う。


「それに取り押さえるなら、戦闘力があるアカザ殿が適切だし、トゥルーさんも戦える。キキョウは後衛だし荒事には向かないんじゃないのかな。私はそもそも荒事は苦手だし」

「けど、男女が屋根の下どころか一緒の布団で寝るのよ!? 貞操観念どうなっているのお父様!?」

「うん、青年健全育成法とか言うふざけた法律は嫌いだが、現実でやってしまえば俺は立派なロリコン(犯罪者)だ」

「大丈夫、口外は致しません」


「そう言う問題じゃねぇ!?」

「そう言う問題じゃないでしょ!」

 しれっと言うトラマツに、珍しく両社の意見が一致する。


 が、結局逃亡する気配を見せた時、対抗できるのがアカザとトゥルーしかいない。仕方なくアカザとトゥルーは同じ布団で寝ることになった。




「えへへ。アカザさんの手温かいね」

「……嘘言うなよ。昔、手汗が気持ち悪いって言われたことがあるだけど」

「んー。手は大きいけど、汚いとは思わないよ」

 布団の中にいるアカザに体を密着させて来るトゥルーに、心臓の鼓動が大きくなってしまうアカザ。


 トゥルーは【インベントリウィンドウ】にあるパジャマに着替え、アカザも寝巻に着替えている。

「もう寝るぞ。そっちも逃げようと思うなよ」

「はーい」

「…………」


 灯された蝋燭の明かりを消した途端、真っ暗になってしまう室内。だが、獣人は身動きする気もないほど隣は静かだった。もっとも、身動きができないほどに手足、体に鎖や紐で拘束され芋虫のような動きしかできないが。


 ただ、獣人が逃亡するかに気を使うよりも、トゥルーが密着してくることの方が気になって仕方だない。

「……なぁ、もう少し離れないか?」

「アカザさんは……トゥルーが居ても安心しない?」

「そう言うわけじゃ、……なにけど。落ち着かない」

「……よかった」


 アカザにしてはゆゆしき事態で、何がよかったのかまるで分らない。

 それを考えることで、寝られない夜を潰すことにした。

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