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3-6

「んっ? ……?」

 トゥルーはグゥワァンと重い頭を振りかぶりながら周囲を見渡す。ボロ臭い小屋に押し込まれたようだが、自身がエルフの里の外れで使っていた小屋よりもボロ臭い。

 覚醒した鼻が古くカビ臭い匂いで充満していることに気づき、うぇと声を出す。


 薄暗い視界に目が慣れて来る。

 全く手入れをしていない小屋の壁には湿気と汚れで色が変わり、カビが生えている。住めたく気持ち悪い床は、今にも壊れそうなほどに老朽化。

 手と腕が後ろを向けて縛られているので身動きが取り辛い。


 切ってしまおうと思ったが、刃物類は【インベントリウィンドウ】に仕舞っているので、指で操作するのは難しい。


 そんな事を考えていると誰かが入って来る。

 黒い服にモノクルを掛けた老人。手に持っている本と穏やかな顔が牧師のイメージを与える。朝昼晩、きちんと祈りを捧げていそうな真面目な牧師。


 だが、何か嫌な雰囲気をトゥルーは感じ取る。

 少なくとも日皇を誘拐しようとしたり、トゥルーを巻き込んだ時点で善人とは言えない。

 トゥルーが逃げようとした時のための用心のため、その後ろにも人影が複数在る。


「すいませんね。お手柔らかにと言ったのですが、工作員たちは礼儀を知らずこんな所に詰め込んでしまい、深くお詫び申し上げます。私はヴィクターと申し上げます」

「……」

 睨む訳はないが、目の前の人物が信用ならないトゥルーは恨めしい目で彼を見る。


 その反応は承知と言う風に澄まし顔のヴィクター。

 見下す訳でもなく、威圧するわけでもない。

 少なくともトゥルーには、今すぐ危害を加える雰囲気ではないことをヴィクターから察した。


「……トゥルーをどうするの?」

「少々、手順を間違えてしまい申し訳ありませんが、ここで大人しくしていただきます。別に今すぐことを起こす訳ではありませんので」

 つまり、時間が経てば何かする。だが、自分を連れ去った者が言うことなので、確証にない。


「いつ、解放?」

「それはまだ何とも。……ああ、ただ連れ人には少し御用がありますが貴女にはないので」

 ……トゥルーは漠然と、このままではアカザに人質として連れられて言ってしまうと考える。


「では、また後ほど」

 まるで、顔合わせにでも来たように、ボロい小屋から出ていくヴィクター。

 遠ざかる足音を聞きながら、トゥルーは考える。

 ここから逃げ出すためには、まず体を縛っている縄をどうにかしなければならない。


 少々考えた後、アカザが【筆者】スキルを使い巻物スクロールを作り出し、覚えさせた【魔法】スキルを試す。

「【ウィンドボルト】」

 未だにランクが20にも満たないスキルであるものの、その【魔法】は手の平から小さい風の刃が飛び出し、手首に巻き付いていた縄に切れ込みを入れる。

 もう何回か【ウィンドボルト】を使用し、縄を切り体の自由を取り戻す。


「……でもこれからどうしよう?」

 ボロボロの壁にある隙間から外の様子を見ると、離れた所に見張りがいる。外の景色から、【キョウノミヤコ】の中に居ることは間違いない。


 今は日は落ちかけ、空が朱色に染まっている。

 扉を開ければ見張りに気付かれ、窓もないこの小屋に都合のいい隠し通路みたいな物はない。

 どうにかして、見張りに気付かれずこの小屋を抜け出す方法はないかと考える。


 うーんと頭を唸らせながら、自分の状況を確認する。

 トゥルーは手始めに柔軟体操を始めた。何かしらのバッドステータスがすでに回復していることを確かめ、体の調子を確かめる。結果はいつも通り。


 次に自分ができることを確かめる。スキルは何が使えそうか。例えばボロい小屋なら、アカザに教えてもらった中級【魔法】スキルで穴を開けることができる。だが、音で見張りに気付かれる。


 次は【インベントリウィンドウ】を確認し、アイテムでは何が使えそうか考えてみる。

 食料や寝袋などの日用品、もしくは敵を弱体化させるアイテム、自己強化するアイテム、矢などの戦闘に関するアイテムしかないことに、少し項垂れてしまった。


 この状況で何を使うか。

 取りあえず、また小屋に入られないように扉を初級の【魔法】スキル【フリージング】で、凍結させることにした。

 手の平を扉の繋目に翳し、冷たい白い霧を放つ。


 パリ、と音が鳴ってしまい慌てて壁の隙間から見張りを確認する。小さな音だったので、幸い気付かれた様子はなかった。もし気付かれても、時間稼ぎくらいにはなるだろう。相手は無力な子供と思っている節もある。


 次は脱出の方法。

 トゥルーのSTR(筋力)は高くないので、殴って壁を壊すなんてことはできない。やるなら中級【魔法】スキルを使用し壁を破壊するしかないだろう。

 脱出した後も、見張りや牧師を全員倒すといった方法はあまり考えていない。何だかよく分からないが、あの牧師の異様な雰囲気が怖いのだ。


 それに見た目が弱そうでも実力は比例しない。例は悪いがアカザもその一人で、一見しただけでは物凄く強い冒険者には見えず、実際に戦って相手の実力が分かる。


 なので逃げに徹することにしたトゥルー。

 問題は自分のAGI(敏捷)の数値。基本的な【軽業師】の回避スキルもアカザに教えられ習得しているが、【エチゴ】の復興に協力していたのもあって余りランクは高くない。

 それでも半分エルフの血が流れているために、それなりには高いものの、町の住人と比べれば高いと言ったところだろう。


 見張りに自分より足の速い者が居れば、捕まえられてしまう。

 そこでAGI(俊敏)に特化した【兵糧丸】をトゥルーは飲み込む。瞬間、濃縮青汁のような苦さが口の中に広がるが、声を上げず何とか飲み込んで耐える。


 後は【インベントリウィンドウ】から【暗黒劇物閃弾】を手に取って、【魔法】を詠唱する。

 トゥルーの常識では【魔法】は呪文を声に出して詠唱するものだと思っていたが、アカザが見せた数々の【魔法】スキルには呪文はいらない。


 アカザの真似をしながら、手の平を見張りとは反対側の壁に翳す。

 そして、無言のトゥルーの眼前に現れた魔法陣。

【ストーン・キャノン】

 四角を何十にも重ねた魔法陣から、トゥルーの体をすっぽり覆う程の岩が飛び出る。


 その岩は、ボロボロの小屋にぶつかり大穴を開け脱出口を作り出す。そして、その音に気付いて見張りが何事かと小屋の扉を開けようとするが――。


「くそ! なんで開かねぇ!?」

「斧でこじ開けろ!」

 先程の【フリージング】によって、扉は氷によって固められており中々動いてくれずに手間取る。


 氷と侮る事勿れ。

 氷点下で固められた氷のモース硬度は6。

 湿気が多く、薄暗い小屋の中ではあまり暑さはなく、むしろ涼しいくらいで、【フリージング】によって作られた氷は全く溶けていない。


 対して鉄はモース硬度は5。単純な固さで言えば氷の方が固い。

 トゥルーは【ストーンキャノン】を使って開けた出口から出ると同時に、【暗黒劇物閃弾】を小屋の中に放り投げた。

 地面に落ちた時、ボフッと筒が弾け黒いスモッグの空間が作られる。


 各バッドステータスの黒いスモッグに、トゥルーを逃がすまいと慌てて小屋に入った彼らは、痛み、昏睡、倦怠感、不快感、【石化】による呪いを耐えられず、その場で固まってしまう。

 呻く彼らの声にならない悲鳴を聞きながら、トゥルーは一目散に走り去った。


 しかし、敵もトゥルーを易々と逃す訳がない。

 裏路地にあった小屋から抜け出したトゥルーだが、恐らくアカザから逃げきった誘拐犯の1人が追いかけて来る。


 【兵糧丸】によって上昇したAGI(敏捷)によって、風のように駆けていくトゥルー。だが、相手も疾風のごとく追いかけて来る。

(スキル!?)

 トゥルーはすぐにその考えに至るが、一体どのスキルが使われているか分からない。


 アカザは移動スキルをトゥルーには教えていない。序盤には走る行動を取る【ダッシュ】以外はあまり必要性はなく、ある程度、育ってから教えていくつもりだった。

 また、エルフと言う種族特性から元から俊敏で移動速度が高いこともあって、アカザは後回しにして回避スキルの方を重点的に教えた。そのため、移動スキルについては教えてもらっておらず、そう言うスキルがある発想をトゥルーは浮かばなかった。


 その誘拐犯が、投げナイフをトゥルーに投げつける。

 生憎、狭い道である路地裏に十分な回避スペースはない。

 このままだと当たると思ったトゥルーは、反射的に回避スキルを使う。


 ばっと背中から地面に落ちるようにして前転する。その時にナイフが背が低くなったトゥルーの体を通り過ぎ、ギリギリで投げナイフを回避。そして、前転した勢いで再び立ち上がり走り出す。

 軽業師のスキル、【ロール】を使って地面を転がりタイミングよく、飛来するナイフを回避する。


 アカザ曰く、熟年者だとフレームのコンマ数秒に合わせて回避可能らしい。ただ、トゥルーはその時フレームが何かとアカザに聞いてみた。

『どんな攻撃もそのスキルに設定されているフレームは、攻撃から無敵になれるからフレーム回避だ』

 と設定とか、フレームとか言われてもしっくりこなかったトゥルー。


 それにアカザは回避方法にもただ相手の攻撃範囲から逃れるのを当たり判定から逃げる。回避スキルのごくわずかな時間、敵の攻撃から影響を受けない短い時間にタイミングよくスキルを使うフレーム回避。

 今で言うなら前転して身を屈め、ナイフを避けれたのがフレーム回避なのだろう。


 だが通り抜けた投げナイフは、裏路地で家に帰ろうと、突然出て来た子供の肩に当たってしまった。

「いっあ!? うぅ」

 突然の痛み声を上げすぐ涙目になる子供を見た時、トゥルーは別の場所に移動しなければと考える。


 屋根の上に【ジャンプ】、【2段ジャンプ】を使って飛び上がり、攻撃が流れて他人に当たるのを防ぐ。流石に瓦の屋根を歩く人物は、そんなに居ない。

 しかし、人が居ないことを良いように何度もナイフを投げてくる誘拐犯。


 そのナイフを路地裏と言う横に狭い閉鎖空間から、屋根の広い空間に逃げたトゥルーは左右に体を動かして、走りながら回避する。

 相手も屋根に飛び上がった時、その移動先を読んでトゥルーは【ダツ矢】と【ドラグーン・ボウ《ヴァーミリオン》】を取り出し、走りながら構え射る。


 口先が尖った魚の頭の形をした2つの矢が、空中に居た誘拐犯に向かう。

 すぐに攻撃だと悟った誘拐犯は、またスキル【エアハック】を使う。背中の空気が圧縮されてできた足場を蹴り、前に跳び出て矢を回避する。


 だが放たれた【ダツ矢】は誘導補正が在り、獲物を追い太腿、横腹に突き刺さった。そこから魚の頭が首を振り、口から水を吐き出す。傷口を広げ、塩を塗るような痛みがするはずだが悲鳴の一つも上げない誘拐犯。


 まるで痛みなく、攻撃が効いていないような光景に目を開いてしまうトゥルー。

「え」

 驚きで、一瞬だけ自分の攻撃が効いてないのではと考えてしまい、呆然としてしまい足を止めてしまった。


 その一瞬の隙を逃さず、相手は足を止めずトゥルーに向かう。

 腰の剣帯から取り出した鋸のような剣をトゥルーの足に向かい、突き刺さる。剣は蜂針が何本も刃から生えた物で、【レッドワイバーン】の素材を使い作られた篭手に当たった。篭手の隙間を縫うようにして針をトゥルーの腕に突き刺す。


「いっ、きゃ!」

 突然、腕に駆け巡る痛みと不快な感覚にバランスを崩して、トゥルーは屋根から転げ落ちてしまった。


「あ、う」

 落ちた衝撃が体が痺れ、呻き声が出る。

 いつの間にか朱雀大路まで来たようで、道行く人々が奇異の目で見る。その様子に何事かと見た人物たちが人の波を掻き分け、トゥルーの前に出て来る。


「トゥルーちゃん!?」

「どうして腕を怪我しているんだい!?」

 先程の一撃で【生命力】が減らされたのか、深い傷に苦しむ顔をするトゥルーに心配顔になるキキョウとトラマツ。


「あの……人はッ」

 口が思うように動かない。体や痺れてしまい言うことを聞かず、ぴくぴくと痙攣するだけ。鋸のような剣に塗り薬が仕込まれていたのか、トゥルーは【麻痺】状態に陥っていた。

 必死に目を動かし、屋根の上を見るがトゥルーを追いかけて来た誘拐犯は、その場に居なかった。




「びっくりしたわよ。私たちが大内裏から帰るまでに、何があったの?」

 あれからキキョウのスキル、【癒瘡境内】で腕の傷を治し、キキョウとトラマツに連れられて宿の部屋まで連れてこられた。仕込みこまれた【麻痺】の毒の効力もなくなり、口も体も今は問題なく動く。


「えっと、日皇くんと遊んでいたら連れ去られて」

「日皇様!? え、いや、でも……。ううん、それよりもあいつは何してんの!?」

 いきなり日皇と遊んでいたと言われても、素直に信じられなかったキキョウ。自身は1日中、日皇が本来いるべき場所で日皇の姿を見ていたのだから当然である。だが、それよりも大事なのは日皇の真偽ではなく、なぜトゥルーが街中で怪我を負うような事態になったかだ。


「……分かんない」

 宿の窓から外を見ると日はすっかり落ちて、辺りはしんと静まり返っている。その夜の暗さでは人を判別することも難しい。

 もしかしたら自分なんて見捨てて【エチゴ】に帰っているのではないかと、思ってしまったトゥルー。


「彼に何処に泊まるかとは話してなかったからね。きっと今でも【キョウノミヤコ】中探し回っているんじゃないのかな」

「だと、いいなぁ」


 落ち込んだトゥルーを察してかナオトラがフォローする。が、いつものように元気を出せない。なぜだろうと自分でも思ってしまう。

(きっと、トゥルーが頼りないから)


 何時もそう。

 アカザにとってトゥルーは足手纏い。

 朝に起こしに行くのだっていつも煩わしそうに、仕方なく起きる。

 ご飯に呼んでも余り嬉しくはなさそうで、何時だって仏頂面。


 そもそも、トゥルーと会ってから笑ったことなどあっただろうか? と自問してみるが、アカザが笑った記憶はない。

 笑ってほしくて、アカザに付いて行ったり観光に誘ったりしたがちっとも笑わない。


 お師匠さま(シルフィール)もあまり笑わない人だったが、ふと笑みを浮かべることがあった。あれはどんな時だったろうと思いだそうとする。


 修行していてトゥルーが上達した時だったと思うが、スキルを覚えてもアカザは「ふーん」と興味なさそうにしているだけだった。スキルを合わせて技を出すといった事も、できなかったトゥルーに愛想尽かしたのだろうか。


「何が……足らないんだろう」

「え?」

「うぅん。なんでもない」

 トゥルーは首を振り、自答を考えないようにした。




「くそったれ!」

 アカザは夜の【キョウノミヤコ】を疾走する。

 耐性スキル、【目隠し(ブラインド)耐性】を持っていたためか、日が落ちて喰らい路地裏でも何があるか、人顔を見るて確認できる。


 【フォークロア】、全体的なMMOPRGに人探しのためにピンポイントで誰がどこにいるか、と判別するようなスキルはない。確かに誰かに話しかけるクエストや、見つけ出すクエストがない訳ではないが、MMOPRGならNPCに聞き込みで探し出せとヒントがある。


 また、攻略サイトにクエストに関する情報が載せられているので他のNPCに話しかける過程をすっ飛ばして、クエストクリアーといった事もある。

 プレイヤー同士の待ち合わせも、幾らでも離れた距離でどこにでも伝えられるチャットやメモ機能で一々探し出す必要はない。


 しかし、アカザはトゥルーをフレンドリストに入れていなかった。

 復興や自己鍛錬をするトゥルーとのタイミングが掴めなず逃した。

 また、面と向かっていい年したアカザが友達になってくださいと言っているようにしか思えなかったので、恥ずかしくて言い出せずじまい。


 そして、リアルでは友達などいないボッチにとっては「別に友達なんて必要ないだろ」と、無駄にかっこつけてしまう始末。


 それが現状。

 焦って、心配で堪らず、みっともなく走り続けている。


 後悔しても遅い。自分の間抜けさが腹立たしくて居ても立っても居られない。

 縋るように【索敵】で人々の位置が表示される【キョウノミヤコ】を全体に写した【地図】を見る。殆どの人が建物に入っている時間。一々名前を確認できる数ではない。家に押し入っても、騒ぎを聞きつけ誘拐犯たちはトゥルーを連れて逃げ出してしまう。


 どうすればいいと【地図】を見ながら考えていると、人を表す白い△の表示がアカザの後ろに浮かんで、次の瞬間消えた。


「あ?」

 それを見て、突然【追跡】の効力が消えたことを思い出す。

 あの時は【追跡】だったが、今度は【索敵】に使われたのではないかという考えが浮かぶ。そして、なぜかアカザを尾行してきている。


 【ディススペル】を使って【追跡】の効力が消せる事を知っているのは、事件に関わった団員ぐらいだろう。

 そして、今度は何故かアカザに狙いを定めて来た。

「そうかい」

 あちらから出て来てくれるのならば、ありがたい。


 アカザはスキル【見破る】を発動。

 このスキルは【ハイド】や【インビジブル】を使って来るモンスターや、対戦相手に使うスキル。姿を隠した相手を半透明化させて認識しやすくし、煙幕を使おうとサーモグラフィのように色を付けて判別しやすくする。

「そこか」

 と、腰に差した【膝丸《薄緑》】、【小鴉丸《八咫烏》】を引き抜き、透明化を破られた相手に襲い掛かる。

 透明化を見破られて慌てる様子もなく、スムーズに剣を抜きアカザの攻撃を受け止めようとした。が、アカザの筋力(STR)が予想以上に高いため斬撃を受け止めきれず、受け流そうとするも完全に捌けさせず後方に吹っ飛ばされた。


 吹き飛ばされて体勢を立て直す尾行者だが、立て続けにアカザが畳み掛ける。

 防ぐのが手一杯な尾行者は成す術がなく、アカザの攻撃にじりじりと追い込む。

 刀の攻撃が剣に防がれる。

 しかし、余りにも力が強いため防ぎきれず、刃が体に触れ生傷を増やしていく。

 ダメージを受けたことで透明化が完全に破られ、姿を晒す。


 フードを被った暗闇の中でも緑色の瞳が輝き、無数の黄色い棘を並べた麻痺毒剣【スパイクソー《パラライズ》】が怪しく光る。鋸のような形状で、滴る液体は黄色く毒々しい。

 何度も攻撃するとバッドステータスの【麻痺】に陥らせる片手剣【スパイクソー《パラライズ》】。


 だが【麻痺耐性】スキルを持つアカザにとっては、蓄積値が低い【スパイクソー《パラライズ》】は恐るべき武器ではない。

 なのでさっさと片を付けることにした。


 【膝丸《薄緑》】で【スパイクソー《パラライズ》】を弾き、相手を無防備にする。そこに【雷斬】と【手加減】を発動した【小鴉丸《八咫烏》】で一閃。


 暗闇の路地に雷光が奔る。

 胴体にできた瘡蓋から放電している相手だが、動けずにピクピクと手足を痙攣する。

 確実に相手を【麻痺】させ、雷属性のダメージを与える【雷斬】は一撃で相手を戦闘不能までに追い込んだ。


 【麻痺耐性】を持っていることも考え、【粘着ネット】で相手を拘束する。

「で、なんで日皇を連れ去ろうとした誘拐犯が、俺を尾行していたんだ?」

「…………」

 アカザの質問に無言で答える誘拐犯、兼尾行者。


 取りあえず昼間の調子で、尋問ならぬ拷問を与えようとするが、目の前の人物は悲鳴は上げても、何かを吐いたりはしないだろう。昼間の工作員たちの中でも熟練度に差がある。

 後から追って来た奴らは苦痛に耐えかねて喋り出したが、最初に日皇とトゥルーを誘拐した彼らは、呆気なく死んだ仲間を見ても動揺せずアカザに攻撃してきた。


 どちらかと言うと今、目の前に居る奴は後者。

 生半可な苦痛を与えても何も喋らないだろう。

 なのでアカザは、宿の一室を借りるか何かして本格的に拷問することにした。

 前の世界なら確実に考えることすらなく、例え思ったとしても理性が歯止めを掛けただろう。だが、なぜか自然とアカザは水滴拷問をしようと考えた。


 それが相手を傷つけず、思考力を奪うやり易い方法だという事もある。【ブレインコントロール】のような、洗脳して相手を意のままに操るスキルも頭の中で候補に挙げている。


 それが酷い事だとは微塵も思っていないアカザ。

 この世界にはアカザを縛る法律はない。

 そして相手が仕掛けて来たのだ。だから殴り返してもいいと考えるようになっている。

 この世界に来てアカザの本性を抑える必要はない。

 故にこのまま行けば誘拐犯に未来はなかった。


 だが、アカザは周りに注意を払っていなかった。

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