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3-1

 【地獄門】から出て来たモンスターの強襲を受けた【エチゴ】は、襲撃の頻度が減ったことにより、復興作業を始めた。


 だが、問題は多い。


 まず、城壁の補修だが材料をどこから取り出すか。また、人員は村々から死んで戻ってきた人物たちが居るが、覇気はなく、活気もない。精神科のうつ病治療している患者に働けと言うのは酷な話だ。


 破壊された建物も直さなければならず、人手は足りない。

 それ以外にも、村々が畑で栽培していた野菜類も高騰している。


 そんな中、アカザは城壁の外の森でモンスターを駆逐していた。


 今は茂る木々の葉が辺りを薄暗くする森の中で、オーガと1人で戦っていた。

 片手剣【カットラス】を持ち【融技(フュージョンスキル)】を発動させ、【ファストスラッシュ】と【スカーレット・ブレイド】、を混ぜ合わせる。


 アカザが手にしている湾曲した幅広い刃が、赤く発熱する。手に松明でも持っているかのような熱気がアカザの肌を温める。

 焔の素早い斬撃が2度、オーガの体を輪切りにしながら切断した胴の端を燃やす。肉片が地面に触れたと同時に、始めるように黒いモヤに変わる。


 スキルを使用したからなのか、先程まで加熱していた【カットラス】の刃は元の鈍色の刀身に戻った。刀身に触れてみるが余熱は感じられない。

 まぁ、ゲームだしそういう物なのかもしれないと強引に結論し、当初の目的であるスキル上げに思考を切り替えるアカザ。


 【スキルウィンドウ】を開いて、修練内容が埋まっているか確認する。


(スキルを2つ混ぜ合わせることで、ランク20まで上がったけどやっぱりこっから先は順調に考えて3つ以上スキルを混ぜないとだめなのか……)


 修練の進み具合を表すゲージがスキルアイコンの下にあり、修練内容もゲーム時代ならそこに表示されているはずであった。


 しかし、修練内容は【不明】と書かれている。修練のゲージは70%近く埋まっているが、これが100%以上埋まらないとランクアップできない。


 ゲーム時代にもなかった訳ではないが、大抵は1つ難易度が上の内容になり、範囲攻撃なら敵を多く巻き込めば埋まる。もしくは難易度の敵を倒すことが条件であったり、伝承級の取り巻きならまだしも、ボスやレイドボスという事もある。最も埋めなければならないものの100体程度。ゲームで掲示板でも張り続け、集まりが調子が良ければ5日で埋まる内容だ。


 また高ランクの切りのいい数字になった時、特定のモンスターを討伐することで埋まる事もあるが、この場合世界中を回らなければならない可能性がある。何せ攻略サイトを見られないのだから、自分で世界中に散らばるモンスターを倒さなければならない。その中にレイドボスが含まれていないことを祈っておきたい。


 【融技(フュージョンスキル)】の修練内容は2つのスキルを合わせることから、次は3つスキルを合わせることだと思う。最終的には10のスキルを同時発動しなければ、修練を埋めたことにはならないだろう。これで特定の相手との戦闘であったなら何か月掛かるか分からない。


 ちなみに検証でトゥルーに【レインアーロー】と【フィンアーロー】を同時に発動してみて貰らおうとしたが、本人曰く「どうやってすればいいか分からないよ」とのこと。


 結局、【レインアーロー】と【フィンアーロー】はそれぞれ発動するだけに終わった。


(ランク100にしないと使えないのか? まぁ、スキルの発動を合わせること自体が難しいちゃ難しいけど)


 同時発動と言えば簡単に思えるかもしれないが、要はそれぞれ時間の設定が違うタイマーのボタンをコンマ区切りでボタンを押せと言うもの。


 さらに属性の概念もあるようで、火属性と水属性の初級魔法を【融技(フュージョンスキル)】で合わせようとしても何も起こらなかった。同じく氷属性の初級魔法もだ。


 ただ、木属性と火属性の初級魔法を【融技(フュージョンスキル)】したところ、燃える鉛筆程の尖った枝が手の平から飛び出した。

 この属性は火属性は水属性に弱いという特性を持ち、氷属性、木属性に強いという性質がある。もし強い属性となら発動できるかもしれにと思ったが、火属性と氷属性の初級魔法を使っても何も起こらなかった。


 もしかしたら、イメージに囚われているとか、科学的に不可能なだけなのかもしれない。例えば木は燃えるが、水や氷に火を付けられるわけがないとか、水を燃やすためには一度電気分解で気体にしなければならないなど。

(水を電気分解して着火とか……手間が掛かりすぎ)

 そんなのなら、素直に上級魔法でも使用した方がはるかに簡単である。


 そんな実験をしながら森を探索しているアカザは、何も遊びでやっている訳ではない。いや、ゲーム感覚でやっているので遊びに見えるかもしれないが。


 未だフィールドには【シュウキゴク】から出て来たモンスターが多く居るため、それを排除するのも兼ねているが目当てはフィールド探索である。


 採取ポイントで食べれそうな果物や山菜を探している。

 流石に毎日オークからドロップした肉料理は現代人のアカザも嫌になって来て、他の物が食べたくなってきたのだ。しかし、山や森の中はモンスターが徘徊しており戦闘能力がないと探索は不可能。


 これが現代の日本なら熊と猪ぐらいに気をつけてればいいだけの話で、万が一出会ってもこちらから刺激せず、気が立っているか、余程飢えていない限りは逃げることができる。


 だが、この世界は刺激しなからろうが、絶滅危惧の狼はどんどん集まり襲って来る。モンスターとなった熊も勿論、腹が減ってなかろうと、気が立っていなからろうと問答無用で襲って来る。


 逃げようとしても狼のように素早いモンスターから逃れるのは、【軽業師】のようなスキルでも習得していないと不可能。


 さらに習得している者は【エチゴ】では数が限られている。

 実質、戦闘力がある者にしか森、しかも奥深くへ行ける者はアカザぐらいしかいないのだ。

 

「やっぱあるんだな、【リンゴの木】……」

 ぽつりと呟くアカザ。


 青森県の近くでもなければ、リンゴの実がなる秋でもない。しかし、アカザの目の前には熟れたリンゴが沢山なっている大きな木が複数あって森を作っている。


 【リンゴの木】が複数あり、ゲーム時代にも在った場所であるものの人は居ない。アカザもそんなに訪れた記憶はない。精々クエストの【リンゴを集めろ】で来たことがあるぐらいだろう。そのクエストだって【リンゴ】を指定数持って来いと言う内容だったので、露店で買ってしまえば済む話。


 また、【エチゴ】から離れている上にゲームの攻略などで必要があるかと言われれば、ない上周辺のモンスターはアクティブなため襲って来る。また、アップデートで農場ができて以来、大半の果物の木は実装され【リンゴ】以外も採取できる。


 そんな理由でかなり廃れた場所だが、なかなかに壮観である。

 一般的に栽培されているリンゴの木は樹高が2メートルあるかないか。高さが余りなく、枝も細い。

 しかし、この世界の【リンゴの木】は大きさが高さが10mもあり、枝もアカザの胴回りくらいの付根である。


 真っ赤なリンゴを飾りに見立てれば、クリスマスツリーが複数並んでいるように感じる。


 ゲームなら木を叩いてアイテムとなった【リンゴ】が地面に落ちるのだが、本来のアカザのステータスで殴るとなると、幾ら大木とはいえ折れかねない。

 何よりゲームと同じ仕様だと時間が掛かり面倒なので、リンゴがある枝まで跳んで赤いリンゴを毟り取る。


 【鑑定】を使い食べられるか確認。結果は普通にリンゴ。


 前によく考えずキノコを口に含んでしまい、腹を下したのは嫌な思い出である。毒キノコではなかったが、食べられるキノコでもなかったのだ。その時のアカザの言い訳は“ゲームでも生で食えたし、【クリタケ】とよく似ていた”だ。


 それで、取った物は最初【鑑定】を使って食べられるかどうかを調べる必要があると、心に深く刻んだ。

 一応食べられるか一口食べてみる。


 カリッとは歯応えのある白い果肉。中央にある種周りには蜜が集まっており黄ばんでおり、そこを食べると外回りより甘い。


 普通にリンゴの味だと確認。


 アカザは素早く正確に動く手と凄まじく高い身体能力を駆使して、あっという間に【リンゴの木】のリンゴを全て取り終えてしまった。


 それでも1本で300個近く【インベントリウィンドウ】に入っているのだ。

 枝から見渡す限りが【リンゴの木】であるので、量に不足はないだろう。取り放題で手っ取り早い。


 農家が見たら、文句が出そうなことをしているが、ここにはアカザしかいない。たまに鳥型のモンスターが枝に止まってリンゴを嘴で突っついていたり、落ちたリンゴを狙ってモンスターが徘徊していたりとするが問題ない。


 全モンスターがアカザが持つ【カットラス】の餌食なり、【インベントリウィンドウ】に素材やらお金やらが集まっていく。


【歯応えがなさすぎる】

 腰に差した鞘からそんな声が出るが無視。第一フィールドでアカザとまともに戦いになるモンスターなどフィールドボスのレイドクラスしかいない。


【今宵の我は戦に飢えているというのに】

「鞘だろ。どう戦う気だ」

【貴様の力なら、ただ殴るだけでも死ぬだろうに】


 思わず突っ込んでしまった。

 この鞘、補助装備【暗鬼鞘】なのだが、【鬼道丸】を倒した時に得たドロップアイテムなのに【鬼道丸】の自我がある。倒された時の怨念が宿ったみたいなら話が速いのだが、そういう訳ではなく、【鬼道丸】自体に復讐心や憎しみの感情は持ち合わせていないらしい。


 どちらかと言うと、自分を倒した者に興味があってドロップアイテムに乗り移ったらしい。

 サポートアイテムのようなAI(設定された返事)ではなく、意志を持って返事をしている。インテリジェンスアイテム、魔剣や呪いのアイテムとでも言う存在なのか。


 アカザはレアアイテムを手に入れたことに喜べばいいのか、厄介者を拾ったことにうんざりすればいいのかよく分からない顔をした。


【しかし、難儀なものだな人と言うのは】

「なにが」

【食べ物など喰えれば何でもよかろう? 我も芋虫くらい生で喰う。ぐにゃっとしてなかなか―――】


 その先を聞きたくなくて【暗鬼鞘】に【カットラス】を差し込む。粘土でできたように日本刀の鞘は形を変え、幅広い【カットラス】が入る大きさになる。

 喋っている部分は剣の鍔に当たる切羽なので、何か刀剣類を差し込んでやれば切羽が動すことができず強制的に黙らせることが可能。


「何でこんな仕様になってるんだよ。せめてサポートキャラみたいな2頭身にはならんのか」

 【鬼道丸】の2頭身キャラを思い浮かべてみるものの、あまり可愛いとは到底思えず、またそんな姿で、重圧感がある声を出してほしくはない。


 ちなみにアカザは現代っ子なのでバッタや蜂など食べたことなどない。食べたくもない。悍ましさすら感じる。テレビのドキュメンタリー番組で見たことがあるものの感想は“良く食えるな”や“うえぇ、気持ち悪い”だ。


 また、ゲーム時代にお世話になった【ハチミツ】を作ることができる【ハチの巣】には近づかない。ぶんぶん蜂が飛び回っていて怖い上に、その幼虫を食べるべきだと【鬼道丸】は指摘するのだ。


 その様子を見ていた【鬼道丸】は【嘆かわしい……】とポツリと呟いた。自身を倒した者が蜂ごときに恐れをなして、道を迂回する。情けないったらありゃしない。


 アカザにしてみれば、容易に倒せるからと言ってゴキブリを積極的に関わろうとはしないだろうと物言う。

 そして、虫など食べたくないのでリンゴ取りに精を出すアカザ。


 リンゴを取り終えたアカザは、地面に降りて他に何かないか別の所に移動する。




 もりのくまさんにあった。


 そんな歌詞の歌があったと思うが実際には熊に即遇したときに陽気にはなれるはずがない。特にモンスターになって襲ってくるとなれば。


 血走った目は怒りの形相でアカザを見る。

 体格は3メートル以上で歩くたびに落ちた枝が折れた音がする。爪はフックのように曲がるほど長く太く伸び、体は茶色の剛毛が固まって鎧になっている。牙は犬歯が口を閉じていても見えるほど長い。


 爪で引っ掻き、牙で噛みつこうとする熊。モンスター名は【フィアスベアー】。直訳で獰猛な熊だが、その名の通り猛烈にアカザに攻撃を仕掛ける。


 獰猛な攻撃をアカザは回避しようとするが、鬱陶しい木々が邪魔して回避先を限定してしまう。それでもステータスは圧倒的に高いアカザは、【フィアスベアー】の熊手を回避する。


 そこからスキル3つを【融技(フュージョンスキル)】で合わせ、【カットラス】で突き刺す。

 合わせたスキルは先ほどの【ファストスラッシュ】と【スカーレット・ブレイド】、そして【突進】。


 空いている距離を高速移動して一瞬で詰め寄り紅蓮に燃える湾曲した刃を、【フィアスベアー】の腹を突き刺す。赤い刃は【フィアスベアー】の内臓を燃やす。

 だが、いつものように相手を一撃で倒せず、【フィアスベアー】の巨体は大きく吹っ飛ばされ木に背中を打ち付ける。


 【フィアスベアー】の【生命力】やDEFが高いのもあるが、一番の原因はアカザが意図的に弱体化しているからである。

 いつもの装備ではなく、着ているのは白と青のパーカーとジーンズであり、武器も初期装備の【カットラス】。そして、指輪やイヤリングを装備する欄には弱体化アイテムの【虚弱の指輪】が2個、装備されていた。


 なんでそんなことをしているかといえば、スキル【融技(フュージョンスキル)】の検証である。


 相手にどれだけダメージを与えることができるか、どこまでバッドステータスの影響が出るかなどを検証するために敢えて弱体化している。


 アカザの高ステータスでは検証しようと思っても、【エチゴ】周辺のモンスターは弱い。大半のゲームは初めの町のモンスターの強さは、序盤の敵という事で弱く設定されている。いきなり最初からラスボスが出て来ることはまずない。


 そんなモンスターで検証することなどできる訳がなく、大半のスキル1回当ててしまえば倒してしまう。


 かと言って大半のダンジョンでも、アカザの攻撃を耐えるモンスターはそうそう居ない。そういうモンスターは都市から離れて生息している。そこまで行くには往復時間を考えるとかなりの遠出になってしまう。


 できるだけ近くで、自身の攻撃に耐えるモンスターはいない。

 ならば、攻撃力を落してある程度強いモンスターで検証することにした。

 STR(物理攻撃力)INT(魔法攻撃力)LUK(クリティカル判定)などの攻撃力を上げるステータスはかなり下げられて10000を下回っている。


 逆に検証するのに痛みを伴いたくはないため、DEF《硬さ》やAGI《敏捷性》などの防御力に影響が出るステータスはそれ程下げていない。


 こうして、装備欄の殆どが弱体化する呪いのアイテムで埋められたアカザは、【フィアスベアー】の【生命力】を5割ほど削った。


 前に遭遇した【フィアスベアー】は【ファストスラッシュ】と【スカーレット・ブレイド】の【融技(フュージョンスキル)】で4割ほど【生命力】を削ったのを【ステータススキャン】を使って確認している。


 つまり、スキルを合わせれば合わせるほどに攻撃力は加算されていくらしい。


 ただ、【スキルウィンドウ】を見ると本来【ファストスラッシュ】と【スカーレット・ブレイド】には【クールタイム】がないはずなのだが、スキル群【戦闘】の【突進】の【クールタイム】と同じ時間が【クールタイム】として表示される。


 【融技(フュージョンスキル)】の影響で、【クールタイム】がないはずのスキルにデミリットで連続発動はできない。


 そのことを確認し終えると、【フィアスベアー】は立ち上がり「グルルゥ」と唸り声をあげアカザの様子を見て、じっと動かなくなる。

 【ディフェンス】を使って防御力を上げ、機を伺う【フィアスベアー】。逃げる様子はない。


 しかし、【フィアスベアー】の考えなど知ったことかとアカザはスキルを発動。

 【オーラスラッシュ】【クロススラッシュ】【ソードウェブ】を【融技(フュージョンスキル)】を使い合わせる。


 オーロラの光を纏った【カットラス】をXを描くように振り、刃先からオーロラ色の斬撃が飛ぶ。

 【フィアスベアー】の中心に当たり、虹色の光が弾ける。それと同時に【フィアスベアー】の【生命力】もなくなり体が弾け飛んだ。地面に散らばった肉片は黒いモヤへと変わり、何事もなかったように山に静寂が戻っていく。


「ふー」

【修練内容は確認しないのか?】

「おっと」


 【鬼道丸】に言われて気付き【スキルウィンドウ】を確認する。

「……よし」

 修練ゲージが70%から72%に変動していたことにアカザは満足げに顔の表情を動かした。

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