2-15
あれからどう時間が流れたのか覚えていない。
もうそろそろ夜が明け初め、空が群青色に変わっていく。
少なくとも、モンスターを殲滅した雷撃が消えた後、ナオトラが指示を出し警戒と防衛線構築をしてそこから兵士は指示道理に動いていた。
少なくとも【エチゴ】は守られたが、モンスターが付けた傷跡は大きい。
これからどうする気だろうと考え、係わりのないことかとアカザが結論する。
しかし、今回のことで大きな発見があったもの確かだ。
(システムの法則を変えることができるってことは、修行とか発想で俺はどこまでも強くなれる。パワーインフレ起こしてレイドボスだって一撃死とかできるかもしれない)
そう思うと次々とアカザの頭の中に妄想が広がっていく。
例えば、【スタンバイタイム】を無視して放つ極級【魔法】の連発であったり、複数のレイドボス相手に無双展開を想像した。
何せ【シュウキゴク】での【鬼道丸】との戦闘や、先ほどの【ケラノウス・ボルティジ】による殲滅の興奮感を味わえるのだ。何よりより自分がこれ以上に強くなれるという確信が、アカザの胸を躍らせる。
そんな事で顔をニヤつくアカザは後ろから声を掛けられる。
「アカザさん」
振り返るとトゥルーが走ってアカザの後を追いかけて来たのか、息を荒上げていた。
「ど、どこ行くの?」
「修練埋め」
「え?」
「ああ、レベリング……でもないか、もっと他に敵が居ないか探しに行く。新しいスキルができたからそれをさっさとランク100にするってことだ」
「……沢山倒したよ? もう、この辺にモンスターは居ないと思う」
「ああ、そりゃ、この辺にはいないかもしれないけど、まだ取りこぼしはあるだろ? こっからスキルガンガン習得して、ランク上げてパワーアップだろ? 今日は徹夜でランクアップだ」
徹夜のテンションでハイになっているアカザ。
興奮が収まらないアカザを戸惑いの目で見るトゥルー。
両者にはどうしても埋められない食い違いがある。
アカザにとって先程までの殲滅戦も、【シュウキゴク】での【鬼道丸】との死闘もただの遊びなのだ。そこにつぎ込まれた新スキル。新たな可能性。
もっとこの世界を楽しめる、楽しみたいという思いは疲れなど吹っ飛んでしまう。
だが、トゥルーにとっては、この町の住人にとってはそれこそ命懸け。居場所を、思い出を守るために必死で戦ったのだ。緊張し、消耗し、苦痛にまみれ、命辛々勝ち取った。
それなのにまた戦いに行くと言う。
「トゥルーはアカザさんが心配」
「別に最初からイカれてるけど、てかお前に俺の行動を制限する権利なんてねぇだろ」
「そうじゃなくて、そうじゃなくて、うぅ」
頭を抱え、次に出てくる言葉が思い浮かばない。
「休まないといけないよ! このまま戦い続けたらアカザさんがおかしくなっちゃう」
「……ゲームは適度な休憩を取ってプレイしましょうってか?」
「えっと、……多分そう!」
「…………なんだかなぁ」
あたふたと必死にアカザを説得しようとするトゥルーを見て、はぁ、とため息をつき思わず空を見上げてしまうアカザ。
アカザを心配する者は居なかった。
そりゃあ、親からはゲームなんて辞めろだの言われていたが、―――の将来や体のことを心配して言っていたのではない。自分の子供が無職だという事が世間一般的に恥であり、両親たちは体裁を気にしていただけである。あの汚物でも見るような目は今でもアカザの記憶に残る。
トゥルーは今にも泣きそうな表情で、こちらを上目づかいで見てくる。卑怯だと思う。可愛くて、自身に好意を向けられることなど経験がないアカザはどうしていいか分からない。
だが既にアカザはおかしいのだ。狂っていると言ってもいい。
強くなりたい。
ちょっと夢見がちな子供ならだれだって思い浮かべてしまう。悪竜に捕らわれのお姫様を救いに行くヒーロー。なんだって良い。誰もが見て見ぬ悪漢を倒す。困っている女の子を助ける。
しかし、現実はどうだ。
格闘漫画を読んで同じ修行法をしたところで、主人候補生が掛かるわけではない。大抵は現実とフィクションのギャップに投げ出す。
環境も喧嘩を表向き悪いことと言って規制している。
警察だって動くのは、問題や事件が起きた後であり、事前に解決することなど殆どない。誰かを無償で助けた所で、一言で済ませられる時代だ。
義務教育という常識を叩き込む幼児からの洗脳。大人になれば就職して昇進するために汗水流して働く。それが悪いことだとは言わない。だが、善であるとは到底思えない。実際、その常識から少し違うだけで普通ではないと差別を受ける。
明確な分かりやすい敵も、モンスターもいない。
私意で言うなら同じ人間が敵だ。
しかし、あちらが暴力で損害を与えたとしても、こちらは暴力で解決してはならないという枷。
だが、この世界では暴力で解決できる。
アカザが先ほどまでモンスターを虐殺していたように。
あの時の圧倒的な暴力で倒していく爽快感は何物にも代えがたい。
【鬼道丸】の勝利もそうだ。あまりに強い敵を打ち倒したという達成感と、自分が【鬼道丸】より強いという愉悦感。
その暴力が楽しいという時点で、チンピラに近い。
相手には感情があり、話せ、相互理解もできたであろう。
だが、アカザは停戦の呼びかけもなく【鬼道丸】や、【エチゴ】に最初に来た時の遊郭【常春】で、集会場で、【エチゴ】の大門で躊躇なく殺しているのだ。
相手を倒すことが、殺すことに躊躇せず楽むなど人間として狂っている。
ましてや、アカザは戦国時代や戦時のような殺伐とした環境で育ってきたのではない。
戦争や殺人が忌避される日本で育ってきた。
いきなり手元にあった剣を持って嬉々と振っているのが、既におかしい。
まだ、アカザは一週間程度しかこの世界で過ごしていない。
なのに、適応しつつある。もっと驚いたり、戸惑ったりしていいはずだ。
幾ら現実に興味がないとはいえ、幾ら強い力を手にしたとはいえ、幾らアカザの精神が弱いとはいえ、幾らゲームに近い世界とはいえ、本心から現実の戦闘を楽しむなど常人にはできない。
役者を演じるロールプレイングの域を超えている。
しかし、それがまかり通ってしまう。
物理法則や現実的な影響を受けないフィクションの世界。
アカザが心の底から望んだ世界。
「……それぐらいしか取柄がないんだけどな」
「でも、アカザさん。その取柄でみんな感謝しているよ」
(別に感謝されてもどうしようもないと思うがなぁ)
そんな事思いながら彼らの夜は明けていく。
しかし、現金な物で報酬を貰えるとしたら、何が与えられるのだろうと考えるアカザ。
ふと思い、戦利品の【暗鬼鞘】を取り出す。
沢山のアイテムを消費して、労力を割いて手に入れたアイテムだがそれほどまでに価値がある代物なのだろうか、と思ったアカザ。
虚空から魔法のように出て来た【暗鬼鞘】を手に持ってみる。
説明文を見ると補助装備の類らしく、【蓮華】のダメージ加算と魔を吸収する能力があるらしい。
(……待て)
魔法ダメージ、もしくは属性ダメージを軽減する装備はアカザも知っているし、持っている。だが、魔を吸収する効果など聞いたことがない。
不思議に思っていると鍔に接する部分の切羽の飾りが動きだす。
【小娘の戯言など放っておけ主人よ。敵を殺しに行こうぞ】
何か鞘が喋り出した。




