2-13
移動で使う足の踏み込みで、硬い岩盤が陥没し弾ける。
繰り出される斬撃が、重く金属の甲高い音を上げる。
傷ができる。体に激痛が走る。
1人は我武者羅に修行し痛みすら克服した剣士。
もう片方は先週まで武器すら握ったことなどない素人。だが、繰り出される技は間違いなく玄人のそれ。
破壊の連鎖が続く。
もはや地形は変わり、亀裂や融解された光景は当たり前。常人なら何をやっているか理解できず腰を抜かす。
例えやっていることが見え、理解したとしても、戦おうと言う気概は持つことなどできず、裸足で逃げ出すような自然災害のような光景。
それでも、相手を打ち倒すまで彼らは止まらない。
少しでも思考を、足を、剣先を止めれば待つのは死という敗北。
だが、彼らにとって自身の死はそれほど気にならない。
ただ相手を倒したい。
そのために、彼らは剣を振る。
その戦いを傍から見ていたキキョウは呆然とするしかない。
彼らが激突した際に生まれる空気の振動が、余波が、闘気が、殺気が連続して肌を叩き付けるため、動くことすら不可能。
例え動けたとしても、自身には何もできない。
キキョウの常識から外れた彼らの戦いに口答えするつもりもない。
ただ、1つだけ答えてほしいと切実に願う。
(―――あれは何?)
キキョウの注がれる視線の先は、恐怖の具現化した何か。
「おおおおおあああああああ!」
頭を、体をフルで活用する。
もう、アカザが叫んでいることさえ無我夢中で分からない。
スキル、アイテム、攻撃、回避、技術。それらを全てを考えられる限り迅速に、効率的に、死ぬ気で実行し続ける。
【鬼道丸】の行動予測、合わせて攻撃。相手の防御力を計算し、スキルが与えるダメージ計算。自身の損傷具合、傷の痛みはできる限り無視。激痛でも叫んで気を紛らわせる。
だが、それでは【鬼道丸】に届かない。
現実と仮想の違いがアカザを苦しませる。
ゲーム時代にも【フォークロア】には様々なモンスターが居るが、目にも止まらぬ速さの高速移動は、スキルを使わないと実現できないのだがこっちでは常時使用可能。
その状態で振られる刀は雷光のごとく、アカザを上段から迫る。
それに反応するアカザは危なげに対応。
幸いアカザも【鬼道丸】に追従できるスペックを持っているので、野太刀をぶつけ鍔迫り合いを引き起こし、防御する。
刀と野太刀が衝突した音が、耳に針を通したかのように鳥肌立つ。
そんなのを何度もやっていて、アカザの精神が削れ、集中力が乱れてしまった。
「そこぉお!」
激突で体が強張ったアカザの隙を容赦なく殺しに掛かる【鬼道丸】。
【十拳剣】で刀身が伸びている刀を横薙ぎに振るわれたので、ただの後退では薙ぎ払われる。かと言って考えなしに跳べば、空中で刀の餌食になる。
取れる手段は1つ。
倒れるようにして、地面すれすれまで屈んで横薙ぎをやり過ごす。
しかし、倒れた体制のため【鬼道丸】にとっては最も攻撃しやすい位置になってしまう。だが、ここでアカザはスキル【疾風一閃】を発動。
倒れた体制から、一機に足を踏み込み相手の脇を斬り抜けようとする。
だが、逃がすものかと【鬼道丸】が腰に差した鞘で、アカザを叩き体勢を崩させ地面に転がせ追撃。振り下ろす刀はアカザが【受け身】を使うことで立て直し、【縮地】を使って寸前の所で距離を離して回避する。
「ふ、ふは、ふはははは!」
アカザを取り逃したというのに【鬼道丸】は破顔一笑する。
「1人でここまで追い詰めたのは貴様が初めてだ! いいだろう! 本気を出そう!」
【鬼道丸】を覆う包帯がほどけていく。
まるで拘束具が外れるようにその本性を曝け出す。
モンスターには、ダメージ蓄積からの能力値や攻撃パターンを変化するタイプが存在する。【鬼道丸】もその枠に入っており、【生命力】が5割ほど減ると攻撃力が上昇し使用されるスキルが変化する。
露出した肌はひび割れたように血管が浮き彫りになっており、顔は凄まじく怖い形相をしている。目はどこまでも深い色に染められて、奈落と化しており光はない。唇はなく尖った牙が剥き出しで並んでいる姿は悪鬼その物。
だが、最も変わったのは【鬼道丸】の体を包み込む何か。
一見肌から黒い湯気が出ているように見えるが、それを見たアカザは心臓を掴まれたような圧迫感に襲われる。
不味いと、本能が訴える。
咄嗟に【侍冥加】を解除して、素早く【付与術】スキル【スリーピング】を発動。相手を強制的に眠らせる。
ゲームでは、立ったまま寝るという高難易度のことをさせてしまうバッドステータスだが、【鬼道丸】は急速に疲労したのか瞼が力なく閉じられて立ったまま寝てしまった。
PVPでの有利な立ち回りについて幾つかある。
相手の使用スキル頻度、装備などの情報収集から始まり、それに合わせての装備変更や情報戦のやり合い。心理戦。純粋なプレイヤーの腕。それでもバッドステータスは掛けられた方は不利に成らざるを得ない。
特に行動阻害は最悪である。
同数の複数戦ならバッドステータスを解除するまで、行動ができないのだから単純に戦力はマイナスになってしまう。その戦力が減っている間に受けることができるアドバンテージは計り知れない。
特にアカザと【鬼道丸】がやっているのは1対1。
バッドステータスをリカバリーしてくれる仲間がいない状況では、死亡に直結する。
例えば動けない間に、爆弾を何十個も自身の回りに置かれ爆破されてしまい一気に【生命力】が吹っ飛ばされるとか、間合いを開けられ遠距離から必中攻撃によって一方的に嬲られるとか。
凄腕のプレイヤーでは行動阻害を掛け続け、何もできず沈めるといった戦術を取れる猛者もいる。
アカザは今まで消費した【スタミナ】と削られた【生命力】を回復するために、最上級の薬品を取り出し、飲み干す。一瞬にして3割近く回復する薬品を2個消費して【生命力】を、3つ消費して【スタミナ】を全回復する。
濃厚なリンゴ紅茶とレモン紅茶の味がして、苦い顔になるアカザ。
それでも、事態は急を要する。
一度の【睡眠】の持続時間は1分。
60秒の間に万全の態勢を整え、先手を取る。
一度の【睡眠】は長いこと寝かしつけることができるが、次からは相手に耐性ができてしまいその時間は短く、また【スリーピング】のような確実に相手を寝かせるスキルは効かなくなってしまう。
賭けで確率で発生させるスキルを使うか、何度も攻撃し蓄積させて異常状態に陥らせるかといった戦術は使う暇がない。
【インベントリウィンドウ】を操作して【クロノスの鎌】【ガンブレイド】を取り外し、支援特化杖の【極光の慶賀杖《残光》】【果てなき武士道の霊魂】に持ち替える。
一度、野太刀を背負い、虹色に輝く六角柱の水晶が杖の先端に取り付けられた杖、【極光の慶賀杖《光冠》】で【付与術】を掛けられるだけ掛け始めるアカザ。
虹色の水晶が強く光り輝き、アカザにその光が降り注いでいく。
【ブレイクスルー】で1度だけスキルの攻撃に防御力無視効果を与える。
【栄光の祝福】の能力を強化し、自身の攻撃力を30%強化。
【ラッキーヒット】でクリティカルダメージを2倍に向上。
【渾身の一撃】で最初のスキルを確実にクリティカルを発生させる。
【スキルブースト】で【バーニングソウル】で1回だけスキルの威力を2倍にする効果を、3.5倍に変更。
他にも【侍】のスキル【渾身一刀】で1000%のダメージ率を足し、【乾坤一擲】で次のダメージ率を2倍に、【渾身一擲】で、【生命力】【スタミナ】を1割消費した分を2分割してダメージ率に加算し、引き上げ続ける。
それを【明鏡止水】で【侍】スキルの長いクールタイムをなくし、もう一度先ほどの順序でダメージ率を強化。
【鬼道丸】が【睡眠】から回復する2秒前ギリギリに体勢を万全にし、手に握った野太刀で即座に【霞飛花】を発動。
先ほどまでの戦い、スキルの連続使用で、溜まった【蓮華】のダメージ加算、野太刀の【蓮華】能力強化、【八竜】シリーズの効果によって足されるダメージ加算、【蓮華】能力強化、持続、補助装備【果てなき武士道の霊魂】による【蓮華】能力強化が足されていく。
万を超え、億に届く斬撃。
刃の雪崩ともいうべき攻撃数。
それが全て急所に瞬時に撃ち込まれる。
血が出るよりも速く、雷光よりも迅く、何度も何度も肉を裂き、骨を断つ。
そんな殺意しかない目覚まし時計で、叩き起こされた【鬼道丸】。
「凄まじい物だ」
何ともないようにアカザの全力の一撃を評価する。
あり得ないと、アカザは顔が固まってしまう。
(これでノーダメージだとっ!?)
少なくともアカザは手を抜いてない。できることなら今ので【鬼道丸】の【生命力】を0にするどころか、オーバーキルするつもりでいたのだ。
それを喰らって無事でいることなど在り得ない。
思わず【ステータススキャン】をして、【生命力】を確認すると4割近く削れている。もう瀕死と言っていい。
痛みを感じているはずなのに、生命の危機に瀕しているはずなのに。
【鬼道丸】は痛みで顔を変化させることをせず、刀を振り上げる。
「手向けだ。受け取れ」
【侍】スキル【黑之絶断】。
禍々しい黑の焔が刀身に纏わりつく。見ただけで顔から血の気がなくなってしまったアカザ。
そのスキルの正体は【鬼道丸】が使う最強スキル。
ダメージ率3000%、防御力無視、支援効果無視、クリティカル発生、止めとばかりに【出血】のバッドステータス付加の一閃が、アカザに振り下ろされる。
黒い絶望を纏った刀の一閃が、アカザを切り裂いた。
「いっがぁああ!」
アカザの胴体から斜めに傷が付き、血飛沫が舞う。
どくどくと流れる血が土に落ちて染みていく。まるで、バケツに穴が開いたようにドンドン溢れる血。それが、自身の【生命力】がなくなっていくことだと、見ただけで分かる。
先ほどまで攻撃を喰らっても、攻撃の当たった所に瘡蓋ができるだけであったが、バッドステータスの【出血】の効果がある故に瘡蓋にはならず、血が流れ続ける。
同じように生命力を削るバッドステータスの【毒】と違うのは、【生命力】の最大値も減ってしまい回復して【生命力】を満タンにしても、一定時間最大値の何%か黒い部分になってしまう。
実質、何%か【生命力】を回復できない時間が続く。
同じようなバッドステータス【負傷】もあるが、追加で【生命力】が減少する分たちが悪い。
アカザは【出血耐性】が在るため、全体の5%ぐらいしか最大値は減らない。
しかし、強力なモンスターはアカザの【生命力】を軽く藻屑にすることが可能である。自身の体の血が流れ出すという心理的に恐怖に陥っている暇はない。
モンスターがスキルを使えるように、コンボも使用可能。
先ほどの【絶断】で減った生命力は3割。次に来るコンボで3割以上。最後の攻撃は確実に4割を超える。【生命力】が減っている中で、あと2撃も喰らえばアカザは死ぬ。
「うがぁあああああ!」
我武者羅になって叫ぶ。
次から来るスキルを避けろと必死に体に命令する。
【軽業師】なら逃れることもできる。だが、アカザが着ている【八竜】シリーズは重鎧。【軽業師】のスキルは効率が落ち、コンボから逃れるスキルは使えないはずだった。
それでも、システムから逃れることはできる。
【鬼道丸】がシステムのルールを覆したように。
迫りくる白刃から逃れろと、避けろと、躱せと、相殺しろと、防げ、動けと言うのに反応してくれない。
2撃目の【一閃】がアカザの体を切り裂く。
【黑之絶断】より威力は低いが、一瞬で相手を斬り伏せるため、ダウン値を相手に与えず連撃することができるスキルが胴体に放たれる。
岩だろうと、【鬼道丸】のステータスを考えればダイアモンドさえ、綺麗な断面図にすることができる。胴体が真っ二つにならなかったことが不思議なくらいの斬撃で、深い傷が一太刀入れられる。そこから血が吹き出したものの一瞬で瘡蓋となってくれるが、減った【生命力】は元には戻らない。
後がなくなったアカザは、もう何でもいいとアカザは思い当たる限りの回避スキル、防御スキルを実行。
(【俊進】! 【縮地】! 【フェザースルー】! 【ディールアクション】! 【アクセルブースト】! 【ディフェンス】! 【インビジブル】! 【ランパート】! )
もう、3撃目を逃れることができない所まで刀が迫る。
それでも、負けじと諦めと頭が悪いガキがボタンを連打するように、必死にスキルの発動を念じる。
そんな事をしていたから。
(【見】【俊】【切】【動】【り】!)
【見切り】と【俊動】の2つのスキルを同時に念じ、発動してしまった。
野太刀が体の硬直を無視して動き出す。それも、とても速く【鬼道丸】の目には移らず、アカザ自身にも訳が分からない速度で、【鬼道丸】の刀の軌道を逸らす。
「ぬぅ!?」
弾かれたことに驚く【鬼道丸】。
(……は?)
だが、【鬼道丸】よりも驚き、思わず口を開いて呆然としてしまったアカザ。
もし、【見切り】を成功したことによる【鬼道丸】の硬直がなければ、そのまま叩き斬られたかもしれない。
そのぐらい、驚くべきことが目の前で起きた。
目の前に浮かぶスキル習得の【ウィンドウ】。
全ての習得可能なスキルを得てから見たことはない【ウィンドウ】だが、見慣れた印象がないスキル群のマークとスキルアイコン。
書かれたスキル名はスキル群【独自技芸術】【融技】。
詳細部分に色々書かれているが、どうしても目を引くのは見たことも聞いたこともないスキル群とスキル名。
スキルの発動は1回ずつしかできない。
決してスキルの同時発動や合体技といった物はできない。できるのは【スタンバイタイム】がなくての連続発動か、スキルを何度も発動して効果時間内に相乗効果を生み出すぐらい。
しかし、スキルを同時に発動することはできない。例えば【スキルウィンドウ】から同時には不可能である。マウスカーソルが2つあれば、2つのスキルのアイコンを同時押し可能だが、そんなことをしている方が珍しい。
また、コマンドを同時押ししたところでランダムに発動してしまう。
これはバグやフリーズなどのシステムの異常を防ぐためであり、システム的に不可能となっている。
だが、それはシステム上の制約。
この世界は仮想空間でもなければ、巷で噂の|VRMMO《バーチャルリアリティマッシブリーマルチプレイヤーオンラインゲーム》でもない。
今アカザが居るのはゲームの世界ではなく、ゲームの法則が通用する現実。
アカザは肉体を持ち、息をして、心臓が動く。
システムの枷はもうない。
【フォークロア】と言うゲームは、現実となった。
そして、このスキルはこの世界ができて生まれたシステムを破壊する者のスキル。
しかし、状況は最悪。
後、一撃【鬼道丸】のスキルを喰らえばアカザは死ぬ。
【見切り】は一撃だけ攻撃を無効化し、攻撃を弾いたことで相手に数秒の硬直を与える。
【俊動】はスキルや行動の動作を1回だけ高速化するだけの効果。
しかし、どちらも攻撃の硬直時間を無効化する能力はない。
だが、【俊動】は硬直状態だったとしても発動できる。故に硬直状態で使えなかった【見切り】が発動した……のかもしれない。
例え運であったとしても、この機会を逃せはしない。
即座に【居合い斬り】を発動し、相手の【生命力】を削る。
先ほどまで野太刀に乗っていた【蓮華】のダメージ加算は【霞飛花】を使用したことによって初期化している。もう残り1割りの【生命力】だが、ゲージを僅かにしか削れない。
それでも、喰らい付く。
立て続けにスキルを発動。
【陣風】による剣先から放たれた無数の風の刃が、【鬼道丸】の体に突き立てる。
ここで終わらせると意気込み、今現在放てる最大の攻撃スキルを使用する。
アカザが【黑之絶断】を放つ。
【鬼道丸】が使ったものと同じスキル。意趣返しという訳ではなく、今最大の攻撃力を持つスキルが【黑之絶断】ぐらいしかなかった。
だが、【鬼道丸】もシステムを破壊する者の力を持っている。
禍々しい黒い焔を纏った斬撃は、硬直を立て直した【鬼道丸】の【雷斬】によって防がれる。
鼓膜が引き裂かれるがごとく、力がぶつかり合う。
火花の代わりに、黒炎と電流が散る。
それでも彼らの思考は変わらない。
相手を殺す。
その感情を込め力を刀に注ぎ押し切ろうとするアカザ。
ここで、技術の差が出てしまった。
【鬼道丸】は押し切ろうとするアカザの野太刀を受け流し、つんのめりになったアカザを背中から斬り付ける。
一回でも攻撃を受ける訳にはいかず、ギリッと奥歯を痛くなるほどに噛み締め、【交叉法】を発動。
【つばめ返し】と同じく相手の攻撃に合わせ発動するカウンタースキル。
殆ど反撃できない体勢から、スキルがアカザの体を動かす。
つんめのりになった体勢から、足を地面に突き立てた後、軸足でくるりと反転し体の動きの流れを利用する。そうして切り上げた野太刀が【鬼道丸】の刀を迎撃し弾き、そのまま【鬼道丸】の体を傷つける。
そして、弾かれた【鬼道丸】の刀から光る破片が空中に飛ぶのがアカザの目に入る。
幾度も斬り合ったことから、爪先ほどの傷が幾つも付き、ギザギザとした刀。その刀の耐久値が一定値を超え、先ほどの攻撃で小石程度の刃毀れをしたのだ。
何度も全力で振るってきたことの証。
だが、アカザが持っている野太刀は耐久度が減少している様子はない。
アカザが装備している野太刀、【天叢雲剣《剣之神器》】。
透き通るような空色の鋭い刃と、雲が掛かったみたいにぼやける刃文。美しい曲線の棟を持つ野太刀。
そして、伝説では十束剣の刃をこぼし、中には折ったとも言われる【都牟刈大刀】から【草薙剣】と強化し続け、限界まで鍛え上げたことで耐久度減少の能力も持ち合わせている武器、部位破壊に特化した装備。他にも雨天時に防御力無視能力を得たりする神話級野太刀。
何度も何度もそんな物で鍔迫り合いをすれば、幾ら名刀とはいえ壊れる。
アカザはここで勝負に出た。
新たに習得した【独自技芸術】【融技】を使う。
アイテムなどの補助なしで、習得した時のスキルランクは例外なく1。
効力は実戦で使うには心許ない力しか発揮されない。
それでも、使う。
アカザは後一撃でも喰らえば死ぬ。対して【鬼道丸】は少なくとも後何回か、もしかしたら何十回も攻撃しなければならない。少しでも状況を有利に持ち込みたいと焦ってしまった。
【疾風一閃】と【斬鉄剣】を同時に発動。
凄まじい速度で追撃する攻撃と武器、部位破壊が混ざる。
アカザのステータス、dexによって野太刀を刀の脆い部分へと誘導する。
それがガギッと固い物を無理やり砕いたような音を出しながら、刀に喰いこんでヒビを生み出し、それが広がって刀をへし折る。
だが、それで終わりではない。
即座に柄を離した【鬼道丸】は腰から鞘を引き抜き、武器破壊に成功して油断したアカザを殴りつける。
刃はない。漆を塗られ、金の細工をされた鞘。
それでも、達人が持つと木刀ですら凶器となる。
そして、鈍器と化した鞘はアカザを殴り飛ばす。strはアカザより高く、生み出される怪力はまさに鬼。
切り上げで放たれた鞘の一撃は、重鎧を着ているアカザを軽々と打ち上げ、後方へと飛ばし、地面に叩き付ける。
「がはっ」
地面に叩き付けられたアカザを、立ち上がるまで【鬼道丸】が待つ道理はない。
足に力を入れ一気にアカザに接近し鞘を振り上げる。
アカザは【受け身】を使い跳ね起きて立て直し、迎撃。
きっとこれが、どちらにとっても最後の攻撃。
鞘による攻撃はアカザの【生命力】を0にはできなかったが、それでも九死に一生の状態。スキルを使わずとも通常攻撃でアカザの【生命力】を0にできる。
しかし、【鬼道丸】の方も【生命力】は首の皮一枚繋がっている状態に近い。後スキルを一撃喰らえば【生命力】が0になってしまう。
ここまで来て自身の【生命力】がなくなることに臆する者たちではない。
全身全霊のラストアッタク。
間髪を容れず【電光石火】を発動させ、炎と雷撃を放ちながら突き進み、野太刀を突き出すアカザ。
対して、鞘で鋭い突きを繰り出した【鬼道丸】。
勝敗は―――。
―――アカザの【天叢雲剣《剣之神器》】が【鬼道丸】の体を貫いた。
「っはぁ」
文字道理息を付く暇もない戦闘だったアカザは、溜めこんだ息を一気に吐き出す。
無呼吸状態だった体にドッと疲れが出て来て、徐々に手足の力が抜ける。
最後の攻撃は【鬼道丸】の【生命力】を0にして、徐々にではあるが体の端から黒いモヤへと変えていく。
【電光石火】によってアカザの前面に展開された炎と雷撃が壁となり、鞘の軌道をずらしたことで、【鬼道丸】の攻撃はアカザの肩を掠る程度の結果になってしまった。
しかし、そのようなことを気にする【鬼道丸】ではない。
「見事だった」
と、それだけ言い残し消えていく【鬼道丸】。
もう手を維持することができず、漆を塗った鞘がカランと切なげな音を立て地面に落ちる。それが、【鬼道丸】から得られるレアアイテム【暗鬼鞘】らしく、【自動拾得】によって【インベントリウィンドウ】に転移した。




