2-12
ヤマブキはアカザに渡されて持ってきた薬品や神酒を、負傷した兵士やモンスターの襲撃に巻き込まれた住人に飲ませ、負傷者の治療に当たっている。
特に神酒の効力はすさまじい物で、【生命力】が多い前衛がほぼ尽きた状態でも、即座に自信が持てる上限まで回復する。
渡された薬品も上品な物で、回復量は1000を越している物さえある。通常の店売りで薬品は、回復量は大体50~100で何度も飲まなければならない。
最も、アカザの【生命力】が90000オーバーしているのだから、アカザの基準では1000程度の薬品は使用回数は少ない。それでも、【薬品中毒】を恐れるに越したことはなく、戦闘後の小まめな回復、常時の薬品を使いっ切ったときぐらいの使用程度である。
基本、効力が幾らばかりか持続する神酒を兵士たちに、一定量回復する薬品を巻き込まれた住人たちに使うヤマブキ。
瞬時に回復した彼らは、前線に戻るか避難する。
それでも、負傷して戻ってくる数の方が多く、慌ただしい。
そんな中3つの点しかない間抜けな顔をした土偶が、踊り出す。
手を上下逆転させ、ポンポンと地面を跳ねるだけの踊りのはずなのに、その近くに居ると活力が湧き上がるのだ。
跳ねるたびにピカピカと光る星型の光輪が生まれ、スカートがふわりふわりと綿のように翻える姿は、この上なくシュールだ。
そのアイテム名は【土属性少女どぐうちゃん】。
なんともネーミングが馬鹿馬鹿しいアイテムだが、効果は【生命力】【マナ】【スタミナ】の最大値、土耐性が上がる。しかも、効果範囲内であれば徐々にではあるが各ゲージの最大値が上がり続けるという代物。
それが、後衛の【マナ】消費や前衛の【生命力】【スタミナ】管理に余裕を持たせる。
とは言え、上昇量は10秒間1%と言う微量であり、【土属性少女どぐうちゃん】の使用からの持続時間は5分。連続して【土属性少女どぐうちゃん】を使うことで30%が上書きされ、60%、90%と上がっていく。
しかし、【土属性少女どぐうちゃん】の範囲外から出れば効力は切れてしまう。居続けるという戦況は、動かない拠点防衛ぐらいでしか使い道のないアイテムである。
故に防衛戦には、この上なく有効なアイテムであった。
トゥルーは次々と城壁の破壊された所から出て来るモンスターに、【ダツ矢】を打ち続けていた。
しかし、それによって生み出される光景はB級ホラー映画に近い。
何があったのかと振り返る者や、モンスターの悲鳴にびくつく者もいる。トゥルー自身あまりいい気分でもないため、他に真面な物はないかと【インベントリウィンドウ】の中を探る。
トゥルーは【兵糧丸】と呼ばれる飴玉のように丸い、食べ物を取り出し口に含む。
「んむぅっ!?」
瞬間、凄まじい酸味と苦味がトゥルーの口の中に広がり涙目になる。
「うぅ……」
きっと、レモン汁を100倍に濃くすればこのような味になるだろうと、鼻を抑えながら思う。そして、このような味になっていることを、アカザから聞いていないトゥルーは恨めしい。
しかし口に含んだ瞬間、器用と硬さが劇的に上がっていくのが肌で感じられる。
器用は弓や物理的な遠距離の威力向上になる。
舌の感覚をなくすような味に耐えた後にトゥルーが放つ矢は、いつも使う自作の矢でも軽々とオークの厚い腹の肉を貫通し、【生命力】が高いオークを黒いモヤへと変えていく。
しかし、城壁の外に居る兵士たちの前線が持たず、次第に城壁に入ってくるモンスターの数が多くなってくる。
【レインアーロー】による広範囲攻撃は、降り注ぐ矢が味方の頭上から襲いかねない。
乱戦の中、敵のみ当てる必中魔法の【魔術巻物】が、あったのを思いだす。
「えっと、……【ミーティアダスト】……?」
取り出した【魔術巻物】に封じられた【魔法】スキル名を読み上げると、【魔術巻物】に書かれた魔法陣から湧き水のごとく光の粒が溢れ出す。
その光の粒が流星群となり、一度頭上に舞い上がった後、一気に敵に降り注ぐ。
破壊の意志を持った流星群は、次々とモンスターに降り注がれ蜂の巣となる。
そして、その流星群の攻撃は一度だけに留まらず、モンスターに接触して弾けることなく貪欲に獲物に降り注ぐ。
魔術巻物】に封じられた【魔術巻物】は、本来の【魔法】スキルに必要な【マナ】や【スタンバイタイム】【チャージタイム】【クールタイム】は必要としない。また、【チャージタイム】も最大チャージで放たれる。
【ミーティアダスト】の光弾が通る白い軌跡は、綺麗と言う印象を塗り替え、凶悪な霊魂の通り道としてモンスターに認識される。
しかし、それが分かった所でモンスター側に成す術などない。
頭を、喉を、腹を、肩を貫かれ続け一気に【生命力】がなくなり、朽ち果てた。
【ミーティアダスト】の光弾の持続時間は精々15秒程度だが、それでも前線の負担が軽くなるのが見て分かるほどに倒す。
しかし、その白い軌跡は前線の者たちに瞬く間に歓喜と共に受け入られる。なにせ、自身たちを救ったのだから、驚きはあれど感謝して当然である。そのことが当然の結果だと思うと同時に、誇らしくも思ったトゥルー。
なにせアカザのステータスを記録し、【魔法】をコピーしたものである。
目の前で何度も見て、劣等感もあった。
しかし、それを上書きするほどの感銘を受ける。
(やっぱり、アカザさんはすごい!)
「まだまだ、モンスターが来てるぞ! 油断するな!」
トゥルーが心の中で思っていることが見抜かれたように、前線から隊長格の叱咤が飛ぶ。
実際は、モンスターの数が減ったことに安堵した周りの兵士たちに掛けた言葉だが、トゥルーはビックと垂れたちょっと長い耳を跳ね上げる。
(いけない、いけない。アカザさんはここに居なんだ。最後までカブトの尾を締めろってお師匠さまも言ってたんだから)
頬を叩いて気を入れ直し、トゥルーは前線へと向かいだした。
前線は相変わらず層が薄く、今にも突破されそうであった。
【トウモロコシ爆弾】を高々と投げ飛ばし、空中で破裂した。
パチパチと弾け、黄色いトウモロコシの実が白く膨張したスポンジ状になって、前線に降り注がれる。
それを浴びた兵士たちに、トゥルーが口にした【兵糧丸】が付加される。【トウモロコシ爆弾】はポップコーンが降り注ぐ範囲内に居る他人に、自身が食べた食事バフ効果を与えるアイテム。最も大きな特徴はパーティに参加していなくとも、範囲内に居る全員に効果が適応されるという事。
【トウモロコシ爆弾】でステータスで底上げさせられた兵士たちは、器用さによって武器の扱い易くなり、固さを得てモンスターの攻撃を軽傷に留め、戦い易くなる。
確実に戦況は【エチゴ】側に有利になった。
だが、相手が不利になる状況ばかりではない。
「ははは! 祭りだ! 踊れ!」
軽快な声でモンスターの集団から声がして、音色が鳴る。
その小鬼は今にも飢餓で死んでしまいそうなほどに肉がなく、骨と皮膚だけの体格。額に小さな深緑色の角が3つ生えており、ボロボロの布切れを纏っている。
持っている横笛を無節操に吹かして、乱暴な演奏を始める。
そして、その演奏を聴いたモンスターたちの力が上がる。
再び押し返される前線。モンスターの攻撃が上がったことで痛みは更に強くなり、顔が歪み、零れる苦痛の声は大きくなる。
まるで、それで苦しむ兵士たちを見るのが楽しくて仕方ないのか、小鬼はオークの頭に上に登り、愉快にその場で踊りながら名乗りを上げる。
「音の鬼、【聴害の祭鬼】さまのお通りでぃ!」
そう名乗り上げた小鬼がモンスターを強くしている原因なのは、分かりきっている。
名乗りを上げたのも注目される理由だろう。
隊長格の兵士が【ソードウェブ】を放つ。
剣先の軌道から放たれた三日月型をした気の刃をあっさりと【聴害の餓鬼】は躱し、げらげらと笑い自身の尻を叩いて挑発までしてきた。
むかつく。
それが相手のスキルの【挑発】によるものだと、こちらを惑わすものと頭の中で理解しても、腹の奥から沸々と何かが煮えたぎってしまう。
思わず兵士の一人が、餓鬼に向かって攻撃をしようとするが、オークやオーガに遮られて向かうことはできない。
ならばと、陰陽師が遠距離攻撃。【重面結界】を発動。
何重にも重ねた2m四方の壁が、バネのように広がりその空間に居るモンスターたちを撥ねる。直線状に広がる結界の壁は【聴害の餓鬼】を直撃するものの、撥ね飛ばされた程度で生命力は尽きない。
明らかに周りのモンスターとは違う。
【聴害の餓鬼】も【シュウキゴク】で一定時間で沸くするフィールドボスであり、【生命力】、攻撃力、防御力、各ステータスはかなり低く設定されている。
【シュウキゴク】の最弱であるボスではあるものの、フィールドモンスターよりは【生命力】は高く、能力が厄介である。
その能力は無制限の【吟遊】スキルの効果。
【吟遊】スキルは楽器や歌でパーティメンバーに支援効果を与えるのが特徴的なスキルだが、【聴害の餓鬼】は周辺に居るモンスターに支援効果を与え、操って攻撃してくる。
複数での戦いに持ち込むためなかなか厄介なモンスター。
敵愾心を集めた前衛盾役は周りの取り巻きに連続して攻撃を喰らうため、一度だけ攻撃を無効化するスキルや【カウンター】などの返し技スキルより、防御力を底上げするのがいい。
そのため、後衛に【付与術】を上手く使いこなすプレイヤーが居ると戦い易い。
一応、【兵糧丸】と【トウモロコシ爆弾】で兵士たちの防御力が底上げされている。
だが、【兵糧丸】のステータスの上昇は料理アイテムの合計値。最大で混ぜ合わせることができるのは10個。
そして、アカザは料理【海の幸風味サラダ】を10個混ぜ合わせたもの。【海の幸風味サラダ】はdfe,dexを基本値が200のアイテムである。
それをアカザの【調理】スキルで品質向上し、10個混ぜ合わせて作った【兵糧丸】の支援効果の合計値は2000を超えている。
だが、残念ながらdexはダメージを与えた時、安定させるステータスである。ダメージが数値として見えるゲームなどでは、最初に与えたダメージと次に与えたダメージが変動することがある。
【フォークロア】ではagiのステータスが関係しており、攻撃を当ててもダメージが安定しないこともある。素早いため、攻撃が当たりにくく直撃させ辛いという事。
つまり、前衛の攻撃力は劇的に上げる力はない。
前衛の攻撃力を上げるのに必要なのはstrであり、魔法の攻撃力を上げるのはintである。攻撃力に欠けるせいで戦闘は長引いてしまった。
一方、【聴害の餓鬼】が使った【吟遊】スキル、【破狂のセレナーデ】は自身のステータス、攻撃力、防御力を味方に加算する。
このスキルは【ドラゴンソウル】みたいに、人数分に平均化される支援効果。人数が多いほど効果が薄まるので、最初の内に使わせあまり強くなっていない取り巻きを殲滅したのち、【聴害の餓鬼】に集中攻撃して倒すのがセオリーである。
だが、先ほどのトゥルーが使った【魔術巻物】、【ミーティアダスト】の攻撃によって殆どのモンスターを殲滅してしまったため、分配される支援効果が個々に行き渡り強くなってしまう。
つまり、トゥルーが使った支援効果を上回り、再び窮地に陥った。
その巻き返しが起こったことに、トゥルーは何とかできないかと自作の矢から【ダツ矢】に持ち替えて放ちながら考える。
そして、後悔した。
アイテムの格好に捕らわれて使うことに躊躇したことに。
(それじゃ、アカザさんを信用していないって事だよ!)
トゥルーは昨日、アカザを信用すると言った。ならば、この際アイテムの外見には目を瞑り使用する覚悟を決めた。
アカザに言われたことを頭の中で思い出すトゥルー。
【インベントリウィンドウ】から取り出したのは、【暗黒劇物閃弾】と【コンウ】を順に敵が密集している所に投げつける。
バゴッと一気に黒い筒が破裂し、中にあった物質が周りを一面黒に塗り潰す。
ピンク色の排泄物の形をした【コンウ】を投げつける。地面に落ちた瞬間、霧状に変わりモンスターたちにベチベチと張り付き始める。
精神的に匂いがしてきそうで顔を顰める。
だが、モンスターたちが苦しそうに呻き始める。
【麻痺】によって体は動かず、【悪疫】によって【生命力】【マナ】【スタミナ】が少しずつ減少し、【沈黙】によって呻き声すら発することができず、【衰弱】によって【生命力】【マナ】【スタミナ】の最大値が低くなり、【石化】によって手足が石になり動かなくなっていく。
【暗黒劇物閃弾】は【麻痺】【悪疫】【沈黙】【衰弱】【石化】【ステータスダウン】【属性値ダウン】【攻撃力ダウン】【防御力ダウン】とありったけのバッドステータスを範囲内に居る相手に与える。
最早チートとも思える性能だが、【暗黒劇物閃弾】は持てる数の上限は【カバン】に1個だけ。また、耐性スキルがあればバッドステータスの持続時間は減少し、無効化スキルを相手が持っていればそのスキルの影響を受ける。また、作成するにも何個ものレアアイテムが必要で、作るのに総額50万キャッシュは掛かる。
そして、【コンウ】はその耐性スキルを無効化する。最も、低レベルのオークやオーガにそのような耐性スキルなど持ってないが、追加効果として現在発生しているバッドステータスの持続時間が長くなる。
コンボというのは何もスキルを繋げてダメージを与えるだけではない。アイテムで有利な状況に持ち込むことを、アイテムコンボと呼ばれている。例えばバッドステータスを与える矢や、銃に使われる特殊な弾丸もある意味ではアイテムコンボ。
ただし、戦闘中に使うと使用動作で少なからず隙が出る上に、戦闘中に消費したアイテムを補充できる機会は早々ない。作成時に専用の設備が必要な物はなおさら。
それでも、有効性はかなり高く、使用しても敵愾心が余り上がらない、【マナ】を消費しないという利点もある。
突如発生した黒とピンクの霧を混ぜ合わせた、途轍もなく気持ち悪い色をしたスモッグの中に居るモンスターたちが苦しみだすことに前衛の兵士たちは警戒する。
黒い霧に近づいたら駄目だと誰もが思い、弱体化した敵を後衛が遠距離から止めを刺す。
こうして、【エチゴ】の兵たちに掃討されていくモンスターは一方的な展開になりつつあった。この調子で【聴害の餓鬼】も倒せると思った陰陽師が【爆結界】で倒そうとする。
だが、餓鬼を取り囲んだ結界が弾けても、相手は全くの無傷。
それどころか【聴害の餓鬼】の【麻痺】と【石化】が解け始め、皮膚を覆ていた石がボロボロと崩れ始める。
拘束が解けた【聴害の餓鬼】は、【吟遊】スキル【鬼心のシンバル】を発動。
通常【魔法】【回復術】などはバッドステータス【沈黙】によって発動することができない。だが、【吟遊】は楽器を持たずにする歌は無理だが、楽器を触媒とすることで演奏ができる。【沈黙】は声が出ないが、息はできるので、笛でも問題なく演奏可能ということ。
【鬼心のシンバル】は、楽器から超音波を発生させ相手にダメージを与える。ただし、ダメージ自体はそれほど脅威ではない。追加の効果、10秒間の硬直時間と移動能力低下を引き起こす。
重い音波が兵士たちに叩き込まれ、耳を両手で塞ぐ。だが、時すでに遅く、体の中で反響するように音波が暴れ出し、船酔いのような不快感で足元がふらつく。
そんな千鳥足を笑う【聴害の餓鬼】は続けて【狂乱のメロディ】を発動。
【魅了】のバッドステータスを誘発するスキルが、広範囲に渡って前衛たちを襲う。
頭に霞が掛かったように、思考力を取り上げられた前衛たちは、【狂乱のメロディ】の音で操られてしまう。隣の仲間に斬り掛かり、背中に居た後衛を殴りつける。
一瞬で場が混戦になってしまい、連携はガタガタ。
【沈黙】の効果がなければゲラゲラと声を出していただろう【聴害の餓鬼】。実際に戦場の様子を見て、腹を抱えて地面をゴロゴロ転がっているのだ。
しかし、【聴害の餓鬼】転がっている最中に尻に【ダツ矢】が刺さる。
顔がぐりぐりと動く【ダツ矢】のせいで、【聴害の餓鬼】の顔が苦痛に歪みオーバーリアクションで飛び跳ねる。悲鳴は【沈黙】によって出せず、口をパクパクと鯉みたいに動かしているのでかなりシュール。
自身にこのような矢を放ったトゥルーに接近し横笛で叩き付けようとする。
前衛が【魅了】によってモンスターの攻撃を引き受ける役割ができないため、混戦している間を掻き分け【聴害の餓鬼】がトゥルーに迫る。
本来は【魔法】で攻撃したかったのだろうが、【沈黙】の効果によって発動不可能なため仕方がない。
それでも、【聴害の餓鬼】はフィールドボス。周辺に居るモンスターや、先程まで戦いっていたモンスターより強い攻撃なのだ。
か細い腕に似合わず風を切りながら振るわれる横笛は、ピィと空気が入り音を出しながらトゥルーに迫る。
だが、単調すぎる。
シルフィールの訓練で、巧みに棒術を再現していた杖と比べるとどうしても見劣りする。
アカザが巧みな剣術を使う【鬼道丸】に苦戦するように、技術の差でトゥルーが【聴害の餓鬼】より上手になる。そして、弓がメイン装備と言っても接近戦の心得や技術をシルフィールが教えていない訳がない。
即座に弓から、鉈に装備を切り替えたトゥルーが餓鬼の攻撃を掻い潜り、反撃。
振るわれる鉈は威力は低く、通常ならかすり傷に収まってしまうだろう。だが、バッドステータスの【防御力ダウン】が、通常では毛ほどの傷も与えられないはずの攻撃で深々と相手の肉を断つ。
そして、相手がトゥルーの攻撃で怯み、連続攻撃に耐えられずノックバックさせられる。
距離が開き、時間が生まれたと思ったトゥルーは手を操作して2つ目の【魔術巻物】を取り出した。
だが、【聴害の餓鬼】の対処に集中していたからか、複数との戦いになれていないからか、【魅了】によって味方の識別ができなくなった前衛の兵士の接近に気付かず、背中から剣を振り下ろさせる。
defが幾ら上がっているとはいえ、トゥルーの来ている装備は薄い布で作られた機動力重視の服。深い傷を負ってしまう。
「痛!」
その痛みに短い悲鳴を上げたとき、再度接近した【聴害の餓鬼】が高らかに横笛をトゥルーの頭上に叩き付けようとする。
しかし、【聴害の餓鬼】とトゥルーの間に何かが通り過ぎていく。
「グゥアグゥアグゥアグゥアグゥアグゥアグゥア」
と、煩く鳴く小さな黄色いアヒル人形【がーくん01号】。
突然現れた【がーくん01号】に目線が固定されてしまった【がーくん01号】。
そして、横笛が振り下ろされるのはトゥルーではなく、彼らの間を通り抜けようと走り去っていった【がーくん01号】に叩き落される。
【がーくん01号】は使用した時、モンスターの敵愾心がヘイトリストの上位に入り、走り去っていく。そのため、モンスターは【がーくん01号】を追っていくので、【がーくん01号】と反対方向に走れば逃げることが容易くなるアイテム。
アカザにもらったアイテムを持っているのは、この場にはトゥルー以外にはヤマブキしかいない。
そして、ヤマブキは走ってトゥルーを背後から襲った兵士に飛び付き、押し倒す。剣を持った手を取り押さえ、トゥルーを助ける。
「トゥルーちゃん!」
ヤマブキの必死な声に、ハッとして【聴害の餓鬼】の方を見る。
【がーくん01号】の耐久値がなくなり、パキッと薄氷を踏んだように壊れてしまった。
背中の痛みに耐えて、手に握った【魔術巻物】のスキル名を叫ぶ。
「【レリーズ・ブライトネス】!」
トゥルーの前方。もっと言えば突き出した【魔術巻物】の前面に魔法陣が展開され、神々しい光の柱が解き放たれる。
【ライトニングストレート】のような直線状にダメージを与える指定範囲攻撃。
光の奔流が【聴害の餓鬼】の【生命力】がなくなり、変換された黒いモヤを吹き飛ばす。
そこで【魅了】の効果が切れたのか、前衛の兵士たちが意識を取り戻し始める。
しかし、【聴害の餓鬼】の討伐に喜んでいる暇はない。
未だにぞろりぞろりと草原を超えてモンスターたちが【エチゴ】に向かって来る。




