2-3
もうすでに日が昇り、明るくなった室内。ゆさゆさと体が揺れるため、寝ぼけながらもうっすらと目を開けるアカザ。目に映る【時計ウィンドウ】を見ると9:15と表示されている。
「アカザさん、起きて、朝だよ」
薄目を開けたアカザを見たのか、トゥルーが声を掛けて来る。
「……後、5分」
可愛い女の子に起こされるというシィチュエーションだが、まどろみを邪魔されたアカザは不機嫌そうに呟いた後、再び布団の中に潜る。
「……それ、10分前に聞いたよ」
「……後、5日」
「そんなに寝られるわけないじゃん」
トゥルーがアカザを布団の上から揺さぶって、起こそうとする。
久しぶりの布団だったため、かなりの恋しさが出てしまい離れたくなかった。
そのため、起きることに渋るアカザ。
そして、トゥルーは最終手段、井戸から水を汲んで来てアカザが寝ている布団に、水をひっくり返して濡らす。
「ひゆぅわ!?」
流石にアカザもびっくりして布団から抜け出す。いきなり布団の暖かさが、べっとりとした冷たさに変わる。布団は水に濡れてしまい、べちょべちょになって気持ち悪い。もう心地良くは寝られないだろう。
「おはよう、アカザさん!」
今日も元気いっぱい、笑顔満点のトゥルーが詫びの様子などなく、むしろいい仕事をしたと爽快感がある顔で声を発する。
渋々とアカザは立ち上がり、恨めしい声で挨拶をする。
「素敵な目覚めをありがとう」
「うん! やっぱり目を覚ますには水が一番だよ!」
ポジティブエルフっ子には厭味すら通じない。
そして、トゥルーが用意していた非常食の干し肉、味のない乾パンが手渡される。
「……別に食べなくてもいいだろ」
「駄目だよ! 」
アカザも知識として朝食を抜かすと頭が回らず、力が出ないことは知っている。しかし、朝食を食べるならもっと寝ていたい。仮に十分寝ていたとしても、食べること自体が面倒でもある。
しかも、あまりおいしい食事でないとくれば、食欲は一気に減る。
しかし、食欲がないと言えば嘘になる。今は【フォークロア】にログインし続けているのだから、【スタミナ】の回復速度に関係している【満腹感】が減り続けている。スキル【空腹減少】の効果でアカザの【満腹感】は78%であり、食べなくても活動できると言えばできるのだがやはり小腹は空く。
人間、何もしていないつもりでも様々なところで細胞が働いているのだ。
「はい、あーん」
「いいから、自分で食えるから」
流石に気恥ずかしく、トゥルーを押しのけるアカザ。
採取、生産は作業的で退屈しやすいのでアニメ、マンガをモニターに表示し横目で見ているためオタクでもあるアカザ。だが、嫌いなシチュエーションの中に【はい、あーん】イベントがある。
子ども扱いという屈辱的で、しかもバカにしているというイベントに違いない。主人公が気恥ずかしくなるのは分かるが、旨そうに咀嚼する理由が分からない。
簡単に言ってしまえば、子供の気恥ずかしさからくるのかもしれないが、アカザは余り他人から何かをもらうという事が好きにはなれなかった。
だが、連戦になると回復する暇がないと自分に言い聞かせ、トゥルーから食料を受け取りボリボリと食べ始める。
徐々に【満腹感】が回復して行くからなのか、空腹感がなくなっていくアカザ。
居間でグータラとボリボリ非常食を食べるアカザとは対照的に、トゥルーは庭に布団を干しに行ったり、新しく手に入れた弓の調子を確かめたり、試し撃ちをしたり、出発の準備を着々としていた。
アカザが食事を終える頃には、大半の準備が終了していた。水の補給、薪の補給などだったり、毛布についたゴミを払ったりも終え、何時でも出発できるようになっている
傍から見ればダラケだ主人と、しっかり者の奥さんだった。
朝食を終えた後、廃墟の村を後にして【エチゴ】へと移動しているアカザたち。
アカザは【ブルたん】を呼び出し、トゥルーと一緒に騎乗している。
パカパカと歩く【ブルたん】が、穏やかな波のように起伏している丘陵を行った。短く生えた花はやさしい風に吹かれ、ゆらゆら揺れていた。薄緑色や深緑色の様々な木々、草は瑞々しく、しっかりと根を張る力強さを垣間見られた。
アカザがその光景を眺める。何の変哲もない綺麗な丘という感想を抱かせる、心奪われる風景だった。
その直後、ぞろぞろ現れるモンスターの群れ。
「……もう嫌」
「ごめんなさい。力に成れなくて」
「いやさ、初心者向けじゃねぇわ、これ」
アカザたちはモンスターを殲滅した後で、地面に転がり愚痴を零していた。
戦闘の痕跡は起伏した丘陵は砕だかれ破壊されており、花は踏みつけられ散っており、木々は攻撃によってへし折られている。先程の光景は見る影もない。
今日現れたモンスターは昨日に比べて凶悪になっていた。【エチゴ】に近づけば近づくほどモンスターの遭遇頻度も上がっている気がしたアカザ。
モンスターも強さに違いがあり、名前が同じでも地域やダンジョンの階級が変化すれば、ステータスにも違いが出て来る。|インスタントダンジョン《即席迷宮》に多く、ゴブリンでも難易度が高かければ【生命力】が万を超えていることもある。
【生命力】は難易度ごとに1桁高くなっており、ステータスも強化されている。
初級、下級のゴブリンなら初心者でも容易に倒せる。だが、中級のゴブリンになると初心者の【生命力】を一撃で1/10を削ることができる。
|インスタントダンジョン《簡易迷宮》の難易度は初級、下級、中級、上級、困難級、無情級、生贄級、地獄級、死級、伝承級と上がっていく。
そして、今日遭遇したモンスターは、初心者が戦うモンスターではない中級モンスターが居た。別にフィールドに中級の強さを持つモンスターが居ること自体は珍しくない。しかし、もう【エチゴ】にかなり近い。
遭遇するモンスターの名前も変化し【ホブゴブリン】などもおり、剣を持っていたり革鎧を着たりしてグラフィックが変化し、同じ階級のゴブリンよりdefが上がっている。
これではゲームを始める初心者に、いきなり1体でも倒すことが困難な強敵なモンスターが10単位で囲まれて居るのに近い。数の力に加え、個体としての力もあるので戦略もプレイヤースキルも物量によって飲み込まれてしまう。
ゲームの難易度設定を間違えているとしか思えない。
そして、倒され金とステータス減少のデスペナルティを背負わされるだけである。MPK(モンスターを意図的に集め、他のプレイヤーに擦り付ける行為)にでもあっている気分であろう。初心者に近いトゥルーでは、最初に遭遇した時点で死亡している。
そうしないためにアカザがやることは沢山あった。
敵愾心のトップ維持。モンスターを後ろに行かせないための前線のコントロール。モンスターの挙動を注意深く観察して、【スタンバイタイム】中のモンスターに攻撃してのスキル中断。突進攻撃、遠距離攻撃を持つモンスターの撃破順序。【生命力】【マナ】【スタミナ】管理、回復。
アカザは何ヶ月もソロでやり続けていたが、パーティ戦に支障はない。しかし、数が凶悪で一瞬でも気を抜くことができない。
アカザだけなら【生命力】【マナ】【スタミナ】の管理に気をつけて、モンスターを殲滅すればいいだけである。
「トゥルー、足手纏いだよね」
「あー。まぁ、装備強化してくれ。スキル上げてくれ。後、経験積んでくれ」
否定することができず、言葉を濁したアカザ。
1対1ならトゥルーでも勝てるかもしれない。しかし、火力が足りず長期戦になる。1体に時間を掛けていれば、他のモンスターに攻撃されてしまう。
火力が足りない場合は装備を強化する、スキルを強化、ステータスを上げる、腕を磨くなど様々だ。
しかし、その強化も一点だけ特化させるのはまずい。
例えば、幾ら装備を強化しようともスキルが全く育っていないのならば、応用力に欠ける。逆にスキルだけを上げ続けていても、装備が弱ければ弱体化。プレイヤースキルが育っていなければ、パーティ戦で他のメンバーに迷惑を掛ける。モンスターの知識がなければ対処が遅れる。
トゥルーは個人のプレイヤースキルは高いが、スキルやステータスは弱く、装備は初心者が最初に持つような装備だった。
「あの……アカザさん。強くなるにはどうすればいいの?」
「は? なんで」
今まで聞きたくても聞かなかったように、声を振り絞るトゥルー。アカザはなぜ今のタイミングで強くなりたいのか不思議に思う。
「……足手纏いは嫌だよ」
「何事も他人に聞くのは良くないって教えは?」
「うっ……」
少し意地悪な言い方をするアカザに言葉を詰まらせたトゥルー。
「まぁ、いいけど」
誰だって強くなりたいと思うのは当たり前だ。
アカザだって攻略サイトの情報を見たことがあるのだ。行き詰って誰かに聞きたくなるのは当たり前。最新のイベント情報などは攻略サイトにはまだ載っていないことが多かったので、手探りで楽しみ、報酬でどのようなアイテムが出るかギルドメンバーと談話という情報交換もしていた。
基本スキルの獲得やパーティ戦の基本を教えるくらいなら、別に大したことではない。
「スキルは修練内容を埋めて行けば、自動的に上がるのは知ってるだろ?」
「うん」
「で、条件を満たしていれば自動的に新しくスキルを習得するのと、【巻物】を使って習得するのもある。クエストで習得可能なの物、モンスターを条件付きで倒して習得するなんて物もあるが」
「【巻物】って?」
「ダンジョンとかの宝箱に入っていたり、【筆写】スキルで作られるアイテムなんだが、書かれたスキルの情報を得る物だな」
【巻物】を使うとしても使用条件があり、スキルが上がっていないと習得不可能といった物もある。ダンジョンやクエストの難易度の高い物、出現率の低さが低い物ほど、スキルが育っていない練習段階から実戦に使えたり、高額で取引される。
【筆写】スキルは初心者救済で作られたスキル。
ゲームを長年やっている上級者が、自身の持っている習得難易度が高いスキルを手っ取り早く習得させ、初心者が上級者に早く追いつき易くできるように作られたスキルだ。
【魔法文字付加術】に使われる【エレチャントスクロール】の生産も可能であり、幅広く需要がある。
また、スキルはランク上昇によって性能が変化し、威力向上や【スタンバイタイム】、【チャージタイム】、【クールタイム】の短縮がされていく。
一般的には習得状態のランクが1、練習段階がランク10、補助程度に使えるのがランク30、通常の戦闘で使えるランク50、使い手が良くなるランク70、最大限まで強化した100とある。
アカザの主観だが、スキルランク30までは手間を掛けず育てることができる。ランク50からは積極的に使って行かないとランクが上がらず、ランク70からは修練内容を確認して埋めていく必要がある。
「ただ、何でも【筆写】でスキルを【巻物】に書ける訳じゃない。インクや紙も習得難易度が高くなれば、レアアイテムが必要になって来るし、生産スキルは道具を手にすれば習得できるからランク1から上げていくしかない。あくまで戦うためのスキルが習得できるだけ」
例えば【疾風一閃】は、クエストを受けてクリアーすれば習得できるため、習得の難易度が低い。なので必要なのは【インク】と【紙】とNPCが低価格で売っている。
だが、【明鏡止水】、【霞飛花】はボスモンスターや低確率でドロップするアイテムが必要だったりする。習得難易度が高くなると、【花仙墨汁】や【薄醒紙】などの高い素材アイテムが必要になる。
そのため、習得難易度が高いとプレイヤーの間で1000万キャッシュする物もある。
初心者救済で作られたはずが、習得難易度が高いスキル程、当初の目的とは外れてしまった。だが、キャッシュさえ払えば、運任せでなくともスキルが習得できるため、金策にはいい生産スキルとなった。
「まぁ、普通の紙とインクでも書けるから【エチゴ】に帰ったら、製作してやるよ」
「ありがとう」
「一つ1万キャッシュからな」
トゥルーは初心者だ。だが親切心からアカザが、無料で【巻物】を与えてしまってクレクレ厨になられても不味い。
「1万? キャッシュ?」
「そこから!?」
トゥルーにはスキルではなく、まず常識から教えなければならないのではと不安になった。アカザが貨幣経済の概念を教えると、エルフの森では狩り、山での採取というサバイバル生活で、そのような生活に目を輝かせて垂れ尖った耳をピンと立てる。
「例えば、今日は肉を売っている所で肉を貰いたいけど、買うには金貨が必要。質によって値段、金貨の量が変わるってことだ。貨幣経済だと金が全ての物を言う。衣食住、娯楽、医者なんかも大抵は何ともなるし、金がないなら質を下げて中古か悪品を買うか、諦めるしかない」
「それがないと生活できないって不便だね」
「ま、自分で何とかできるならそれに越したことはないだろ」
会話を切り上げ立ち上がり、【エチゴ】がある方角に再度移動したアカザたち。
丘を越えた森に入ると視界に【エチゴ】の天守閣の城が見えて来る。
しかし、【エチゴ】に近づくごとに強くなるモンスターに不安にあるアカザ。先ほど【エチゴ】に帰ったらと言ったが、来る途中の村々のように破壊されているのではないかと。
モンスターは町に入ることはできないといった、ゲームの常識はなくなっている。
(まさか世界中でこれなら、モンスターに勝てる気がしないぞ)
アカザの他にも、サービス終了時間を過ぎるまでログインしていたプレイヤーがこちらの世界に来ているのか、何人いるのかは知らない。
サーバー(同じ【フォークロア】の舞台《世界》が複数あり、別の舞台《世界》でゲームプレイをする。)や、チャンネル(舞台の小部屋みたいなものであり、人が沢山いても部屋を変えることで快適にゲームプレイができる)ごとにログインしているプレイヤーの人口比率も違う。
例えば、プレイヤーがアイテムを売ために【露店】が幾つも存在したチャンネル、集まったり遊んだりチャンネルが決まっているギルドなど。
サーバー、チャンネルごとに【フォークロア】に世界に飛ばされたのか、それともアカザがログインしていたチャンネルだけ影響を受けたのか。
ともかく、過疎化していることから人数が少ないことに違いない。
もしかしたら。アカザ以外この世界にプレイヤーが居ないことなる。
アカザが会った冒険者と思わる者たちは、アカザの攻撃に一撃も耐えることができなかった。モンスターの種類、ボスによってはアカザより強い攻撃ができる。復活できると言っても、一撃も加えられず永延と倒せない状況になってしまう。
(まぁ、そうそう居ないはずだけど、オークが街道沿いに出てるくらいだからな)
【エチゴ】に居る冒険者の戦力でどこまでやれるか不安になったアカザ。
「アカザさん! またモンスターが、でも何かと戦っているみたい。戦闘音が混じっている。悲鳴とかも……」
「【エチゴ】に近いから多分、そこの冒険者だと思うが……。ホントに耳が良いな」
アカザの耳には何も聞こえないが、トゥルーには聞こえているらしく垂れ尖った耳が上下にピコピコ動く。悲鳴が上がっているということは苦戦しているのだろう。
その情報から状況を考え、次にとる行動を選択する。
「ま、囮にして迂回するか」
「え!? 助けないの!?」
「え? いやさ、こっちは連戦でかなり疲れているんだけど。助けに行ってこっちがやられたら無駄死にだろ」
「……アカザさん。メンドクサイだけなんじゃない?」
よく分かってるじゃないか、と思わずアカザは声に出しそうになった。
「……でもな、精神的に疲れているのは本当なんだ」
「規則正しい生活をしていないと集中力がなくなるって、お師匠さまが言っていたし、アカザさんがだるく感じるのはそのせいだと思うよ」
ファンタジー世界の住人に現実的な医学を語られ、もうアカザの立つ瀬はない。というかなぜ知っているのか聞きたかった。これもエルフの知識なのか。
「……遠くから見て無理だ、って判断したら無視して【エチゴ】に行くからな?」
【ブルたん】を【呼び出し解除】して、【騎飛竜呼出】を発動。
空中に5つの魔法陣が現れ、その中を突き通って降下してくる。
角が4つ後頭部の方に向かってW字に生え、灰色の鱗と首をヘビのように長くしイグアナのような顔をした生物。2本足の蹄を地面に向け、1対の大きな蝙蝠を羽ばたかせ地面に着地。
その風圧にトゥルーが目を瞑り、目を開けた時驚愕に目を開く。
体長5メートルのワイバーン。
アカザたちが戦った相手であるが、同時に味方にもなり得るモンスターでもある。
スキル群【竜騎士】。【騎乗】【槍】スキルが上がることでクエストが受けられ、クエストを完了して習得できる。
その、蝙蝠の翼の付け根に跨り【竜騎乗】するアカザ。
「だ、大丈夫なの、アカザさん!」
トゥルーが知っているワイバーンは【レッドワイバーン】であり、|こちらが認識されれば攻撃を仕掛けて来るモンスター《アクティブモンスター》だ。
ゲームシステムでそのようなことはないと分かるアカザは全く気にしていないが、トゥルーにとっては最近まで苦しめられていた相手と同族である。警戒するのも無理はない。
「ああ、【ブルたん】みたいに俺の思考で動いてくれるはずだ」
そう言いながらワイバーンの頭を撫でるアカザだが、気に入らなかったのか頭を振り拒絶するワイバーン。
しかし、飛び立とうとアカザが思うと途端に翼を羽ばたかせ、上昇する。それ及び腰になりながらも飛び乗るトゥルー。本来は1人しか騎乗できないのだが、トゥルーが小柄なこととシステムの制約がないことから可能になった。
アカザが【サンダーバード】や【魔法の絨毯】で空を飛ばなかったのは、それらのペットは移動や補助のペットであり、戦闘用ではないため、すぐに【生命力】がなくなってしまう。もし、モンスター側に弓や魔法などを使い遠距離攻撃をされて【生命力】がすぐになくなり、落下してしまう。
決して騎乗が下手だからと言う理由だけではない。
しかし、【召喚獣】【騎竜】【飛竜】などの戦闘用ペットは、それぞれのマスタリスキルで成長し、プレイヤーのステータスも加わって強化される。
生い茂る森を軽々と飛び立ったワイバーンとアカザたち。
やはり空を飛ぶ方が地上を走るより速く、障害の森を物ともしない。
数秒飛んでいるだけで、トゥルーが聞きつけた戦闘音の場所が見えて来る。
【エチゴ】の城壁はまだ守られているが、ハンマーで殴き付けられたようにヒビが入っていたり、爆発でもあったのか一部が崩れている。
もう城壁の耐久値がないのか、立て籠もる訳にはいかない状況になったのか、平原に打って出ている前衛たち。
兵士や侍などの前衛は平原で、魔法使い、陰陽師などの後衛は石垣で作られた城壁から援護している。人数も目測で1000人~1500人が平原で戦っていた。
しかし、見た限りモンスターの総数より、兵士の数の方が多い。
ゲーム時代で、千人を超えるパーティ戦はない。と言うよりも在り得ない。
パーティ最大人数が6人。これが基本であり、大抵はこの人数で対応できる。
あるクエストでは、それぞれの拠点を守るためにパーティメンバーを分断しなくてはならず、普段、攻撃役や盾役をやっている者が役割を切り替え、攻撃役が盾役、盾役が回復役になったりと戦術の幅が広がる。
それらでも対応、対抗できない場合と言う物が存在する。【生命力】が100億超えている、即死攻撃スキルを使って来る、強力なデバフ効果スキルが最初から付与され解除もできない、特殊な防御法などを使われ与えるダメージが微々たるものになってしまうなどの状況。
そうなると難易度が調整されパーティ限界人数が24人まで上昇し、連携をして難易度が高いモンスターを倒せる。
フィールドボスで何人ものプレイヤーが参加するが、それでも100人を超えるか超えないか程度である。しかし、それはパーティではなく(無論、普通のパーティを結成し参加可能)、個人の判断が複数存在し、連携行動は精々他人の邪魔をしない程度の認識。
一体の強力なモンスターを倒すためであり、取り巻きの複数のモンスターを殲滅するためであったりとするが、それでも数が多すぎる。
ゴブリンやオークなどのモンスターを倒すために複数で挑むことがない訳ではないが、精々6人パーティぐらいの難易度である。
このような大規模戦闘、いや戦争はアカザでも初めて見た。
「……というか、パーティロールすら成り立ってないな」
一体のモンスターを倒すために、複数で殴りつけ【生命力】を削る。あの程度のモンスターにいくらステータスが低いと言っても、数に物を言わせた戦術を取るのはただのバカである。現に【生命力】管理や指示、判断が上手くいっておらず、前衛が倒されており、前線の層が薄くなってきている。
「早く助けないと!」
「……いや、時間の問題だぞ?」
実際あれでは、前線が突破され城壁にモンスターが流れ込んでしまうだろう。後衛にあれだけのモンスターを殲滅できる広範囲攻撃があれば既に使っているはずだ。
【ステータススキャン】でモンスターの【生命力】の残りを見てみるが、未だ7割も削れていない。これではアカザが今更加勢しても、数が多く前衛が負担が減らせず立て直せない。
しかし、そんな事を計算せずトゥルーは今にもやられそうな兵士に、攻撃を加えようとするオークに、弓の弦に力を蓄え矢を放つ。
【チャージショット】
力が溜められ放たれた矢はオークの喉を寸分違わず、射抜き黒いモヤへと変換する。
弓を強化されているからか、攻撃力が上がっている。
しかし、今の一撃でゴブリン、オーク、オーガがアカザたちに気付き上を見上げる。
「おまっ!」
「ご、ごめんなさい。でも、助けたいの」
「はぁ、……突っ込むぞ!」
ため息をつき、仕方ないと腹をくくり【クロノスの鎌】を構え【騎飛竜】と共に急降下し、着弾点のオーガを【クロノスの鎌】の上に突き出した鎌の刃で刺し、オーク、オーガの分隊を薙ぎ倒していく。
【ワイバーンディセンド】
空中から強襲するため、段差や壁、障害物などを無視して攻撃ができる。地上から離れていれば離れているほどにダメージが加算され、対象となったモンスターを乗り手が持つ武器で釘刺しにし、【騎飛竜】が地面に体を叩き付けるように着地することで、周囲に衝撃波をまき散らす。
突如現れた援軍に呆然となる兵士たちだが、受け答えをしている暇はない。
続けてアカザは【ドラゴンドライブ】を発動。
翼を広げ、地表擦れ擦れを一瞬にして移動することで、一直線上のモンスターたちを薙ぎ倒していく。【騎馬】での【突進】【猛突進】、【ライトニングストレート】などの直線に攻撃判定があるスキルで、しかも翼が攻撃範囲に入っており側面も広くなっている。
しかし、戦場に一瞬開いた空白もすぐにモンスターが埋まっていく。
アカザは【騎飛竜】をすぐに上昇させ飛び上がる。このままでは取り囲んでいるモンスターから四方八方から集中攻撃されるのは目に見えていた。
【騎飛竜】とは戦闘用のペット。
【竜騎士】が呼べる【騎竜】は様々で、4足歩行し地上の移動速度が高く、翼が退化している【騎爬竜】。ヘビのように蛇行する【騎蛇竜】。
他にもクエスト報酬や課金サービスで追加された【騎竜】たちがおり、鎧を着せた【騎鎧飛竜】、雷属性を持つ【騎蛇電竜】など様々である。それらの竜の種類に応じたマスタリ、呼び出したプレイヤーのステータスに影響されより強い【騎竜】となる。しかし、それらは呼び出せる時間は制限されている。
【騎飛竜】の特徴は無論、空を飛べると言うことであり、相手が飛行能力を持たず、遠距離攻撃を持たなければ一方的に攻撃ができる。しかし、ダンジョンで洞窟や室内では能力を十分に発揮することはできない。
アカザ自身、飛ぶスキルがない訳ではないが、機動力が向上し、相手に囲まれるよりに速く空に逃げられる【飛騎竜】での戦いを選択した。
空へと飛ぶ【飛騎竜】に向かって矢を放つゴブリン。しかし、上昇速度が速くすぐに矢が届かない距離を開かれてしまう。それでも無駄に矢を空に向け放つが、放物線を描いて落ちていく。
しかし、アカザたちは違い、【フレイムボマー】を使用し、地面に着弾させモンスターの集団を爆破。トゥルーは【レインアーロー】を放ち広範に矢を当てている。こちらは下に向けて放つだけなので楽である。
【サンダーレイン】や【ハリケーンラン】、【タイダルウェイブ】などの範囲攻撃を繰り出し、複数のモンスターを黒い霧へと変えていく。
幾多もの広範囲攻撃が雪崩のようにモンスターを飲み込む。
それを見た他の前衛職たちは一目散に撤退し、薬品を飲んで戦線に復帰する。
城壁に近いモンスターは彼らに任せる事にして、アカザは城壁から離れ草原に散らばるモンスターに大雑把な攻撃を加えていく。トゥルーは逆に精密な射撃で、モンスターの攻撃に晒されないように、動きを矢で射ることで止め支援している。
アカザの範囲攻撃が強力すぎるため、アカザが参戦してから10分でモンスターを掃討し終えた。
瞬間、凄まじい喝采が起こる。
「「「「「おおおおおおおおおおおおお‼‼‼」」」」
下に居る兵士、侍がそれぞれの剣、刀を上に向ける。魔法使い、陰陽師も手を振ってこちらを見上げる。
多数の人物から見られるのは気恥ずかしく、今すぐに【騎飛竜】でどこか飛んでいきたいアカザとは対照的に、トゥルーは手を振って答えた。




