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俺を呪いにやって来た幽霊女がアホの子だった  作者: もものけだま


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7/8

画面から出てこれないアホな幽霊女 その7

 幽霊女は、画面から腕を出したまま、ぐったりしている。

 とにかく休憩だ。このままでは埒があかない。

 画面の中に押し戻そうとしても、画面の縁からは大きな胸の半分以上がこちらに出ている状態だ。

 俺の部屋に引きずり出そうとしても、女の大きな尻は、とてもじゃないが画面を通れる大きさではない。

 そんな現状に疲れた俺達は、ここで休憩を挟む事にした。

 俺はキッチンに向かい、ケトルのスイッチを入れる。沸騰のランプを確認し、カップにインスタントコーヒーの粉を入れ、湯が沸くのをしばし待つ。

 すぐにコポコポと湯が沸いてくる音がし、カップに注ぐと、温かいコーヒーの香りが深夜の部屋にふわりと広がる。

 カップを手にし部屋に戻ると、幽霊女は画面から腕を出した恰好のまま、今もぐったりしている。

 俺もかなり疲れていたが、女の方も見るからに完全に疲れ切った様子だった。

 ちょっと可哀そうだったので、「お前も飲むか?」とコーヒーを差し出してみた。

 幽霊女が顔を上げると、今にも死にそうな疲れ切った目をしていた。

 こいつは幽霊なのでもう死んでいるのだが、疲れ切った目で面倒そうに俺を見つめてくる。

 そして、ゆっくりと口を開く。

 

「ブラックはちょっと……。苦いのは苦手です。牛乳とコーヒーを半分づつでお願いします」


 幽霊もコーヒーを飲むんだ、と思いつつ、つい言ってしまう。

 

「牛乳って……。それ以上、その胸を大きくしてどうすんだよ」

「だって牛乳が好きなんだもん!」


 少し頬を膨らませて、そう主張する幽霊女を見て思う。

 

 ……ちょっと可愛いじゃないか。

 

 キッチンに戻りコーヒーを淹れていると、部屋から声が聞こえてくる。


「お砂糖も、いっぱい入れて下さいね。熱いのは苦手なので、牛乳は冷たいままで良いですよ」

 

 その声におもわず手が止まるが、返事をせずに冷蔵庫から牛乳を出し、カップに注ぐとそれを持って部屋に戻る。

 

「ほら、どうぞ」

「わーい。ありがとうございます」


 嬉しそうに俺からカップを受け取ると、恐る恐る一口飲み、熱くないとわかるとゴクゴクを一気に飲み干す幽霊女。

 

「ぷは~、この一杯の為に生きてるぜ!」

「お前はもう死んでるけどな」

「あはは、そうでした」

 

 幽霊女の顔に笑顔が戻ると、そこから俺と幽霊の妙な雑談が始まった。

 話を聞くと、どうやらこの幽霊女は最近幽霊になったばかりで、就職活動が大変だという。


「幽霊も就職するのか?」

「ずっとフラフラしてるわけにも、いかないですからね」

「……幽霊になっても大変なんだな」

「え、人間だって大変じゃないですか? それと同じですよ」


 確かに、人は生きる為には働かなければならない。それが死ぬまで続くのかと思うと、生きるのも大変だ。

 だが、死んでからも働く事になるとは思ってもいなかった。

 

 俺は死んだら、どんな仕事をするんだろう……。

 

 コーヒーを飲みながら、ふとそんな事を考えてしまった。

 

「しかし死んでからも、働く事になるとは思ってもいなかったよ。出来る事なら、死んだら働きたくないんだけど……」

「普通の人達は、亡くなったらすぐに、あの世って所に行くんだと思いますよ?」

「そうなのか?」

「うん」

「じゃぁ、なんでお前は幽霊なんてやってんだ?」

「この世に留まって、待ってたい人が居るんです」

「彼氏か?」

「ち、違います!」

「なんだ違うのか……」

「私のお友達なんですけど、その子ってちょっと変わった子だから心配で放っておけなくて。どうせなら、その子がこっちに来るまで待ってようかなって思ったんです」

「だからって、人を呪い殺すバイトなんてしてちゃダメだろ!」


 俺が声をあげると、幽霊女がきょんとした顔に変わる。


「呪い殺すって、なんでしたっけ?」

「はぁ? お前は俺を呪い殺す為に、ここに来たんじゃないのかよ」

「あはははは。本当に呪い殺すわけないじゃないですか」


 幽霊女は両手で口を塞ぎ、体を震わせながら笑っている。

 コーヒーカップを持ったままなので、正確にはカップで口を塞いで笑っている。


「あはは、呪い殺すって……。もう笑わせないで下さいよ」


 その笑顔はとっても可愛いのだが、見てると怒りが込み上げてくる。

 突然、俺の部屋のパソコンのモニターから幽霊が顔を出し、呪い殺すと言われれば、誰だって信じるし恐怖するだろう。

 実際、俺も自分が呪い殺されないようにと色々と考え、それなりには怯えていた。

 それなのに、そんな俺をバカにしたように笑っている幽霊女。

 画面に押し込む手伝いをした事には、ご褒美があったので後悔は無かったが、コーヒーを淹れてやった事には後悔した。


「じゃぁ、お前は何をしに来たんだよ!」

「君を怖がらせて、気絶させる為に来たんですよ?」

「はぁ? なんでそんな事をするんだよ!」


 俺のその問いに、幽霊女は視線を手元のコーヒーカップに落とし、静かに、そしてゆっくりと小さな声で言う。

 

「もうコーヒーは全部飲んじゃいました。次はホットミルクが飲みたいです」


 幽霊女のその言葉に、俺は部屋の壁に背を預けたまま固まってしまった。

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