画面から出てこれないアホな幽霊女 その8
ホットミルクが飲みたいと言い、俺の顔を上目遣いで見つめてくる幽霊女の圧に負け、電子レンジで牛乳を温めカップに注いでやる。
「わーい。ありがとうございます」
幽霊女は口を尖らせ何度か息を吹きかけると、恐る恐るホットミルクを飲み始める。
「熱い! 熱くて飲めません!」
「うるせぇ! ホットミルクなんだから当たり前だろ!」
俺に怒られ、しゅんとしている幽霊女に言う。
「それが冷めるまで、さっきの話の続きを聞かせろよ」
「さっきの話? 何の話をしてましたっけ?」
「俺を怖がらせて、気絶させる為に来たって話だよ!」
「ああ、その事ですか……」
幽霊女はカップを目の前の机に置くと、何かを考え考え話し出す。
「なんか人間達にこういう事を定期的にやって、戒めっていうの? 危機感だったかな? なんかそんな感じのを与えないとダメなんだそうです。そうしないと平気でこっちの世界に踏み込んで来ようとする奴らが増えちゃうんだって言ってました」
「は? どういう事?」
「だ・か・ら、私達のお仕事は定期的に人を驚かせて、お化けは怖いんだぞって教えているんです」
「という事は、俺は最初から殺される事は無かったって事か?」
「そういう事になりますね。どうやって君が選ばれたのかは知らないですけどね~」
つまり、こいつは俺をビビらせて気絶させるために来たのか……。その事を俺が誰かに話す事によって、こいつら幽霊が存在するって事を広めたいって事なのか?
どうにも腑に落ちないので、ホットミルクに息を吹きかけている幽霊女に訊ねる。
「そんな事をして何になるんだ? 幽霊が実在するって事を広めてお前達に何の得があんの?」
「私はアルバイトなので詳しくは知りませんが、私達の縄張りとか住処に人が安易に来ないようにする為だと思います」
「逆に喜んで心霊スポットに行くやつも増えそうじゃん」
「それは大丈夫です」
「は? なんで?」
「そういう所に居る幽霊さん達はガチの悪霊なんですよ? そんな場所に遊び半分で来た人達を、彼らは本気で呪いますので、そんな人間達は勝手に自滅していってくれます」
幽霊女はホットミルクを飲みながら、怖い事を淡々と話してくれた。
これ以上この話題に触れるのは危険だと判断し、話題を変える事にした。
「そんな事を俺に教えちゃって良いのかよ」
「本当は教えちゃダメだけど、あんなにも胸を揉みまくられると、どうでも良くなって来ちゃいましたよ」
幽霊女はホットミルクを飲みながら、俺が触れられたくない話題を持ち出してくる。
とにかく、ここは否定しておくべきだ。
「揉んでね~し!」
「絶対、揉んでました!」
これ以上この話題に触れるのは危険だと判断し、幽霊女に提案する。
「さてと、もう一回、お前を画面の中に押し込んでみるか」
「はい! お願いします」
幽霊女はカップに残ったホットミルクを一気に飲み干し、気合のこもった顔をしている。
休憩のお陰でやる気が戻ったようだ。
「行くぞ?」
「はい! お願いします!」
「おりゃーーー!」
「うりゃーーー!」
互いに真剣になって力を合わせて頑張った。
幽霊女は自分の胸に顔を埋め、両手はピンと伸ばし、出来るだけ小さくなるような姿勢を取っている。
俺も大きな胸の感触を気にせずに、押し込む事だけに集中する。
しかし、画面の中に押し込む事が出来ない。
「もうちょっと強く行くぞ!」
「はい!」
「おりゃーーー!」
「うりゃーーー!」
俺のモニターがビキビキと嫌な音を立てているが、気にせずに力いっぱい押しまくる。
でも胸が画面の縁にがっちりとはまり込んでいて、どうにもならない。
上に押し上げれば左右の縁に引っかかり、横から押すと画面の下の縁に引っかかる。
「ダメだ……全然動かない。このままじゃ本当にずっと、ここに引っかかったままかもしれない」
「そ、そんな~ そんなの嫌ですよ~」
幽霊女が泣きそうな声を出したその時、画面の中から別の声が聞こえた。
「帰って来るのが遅いんで見に来てみれば、こんな所で尻を丸出しにして、お前は何をやってんだ!」
幽霊女の上半身が出ている画面の中から、誰かが怒っている声が聞こえて来た。




