画面から出てこれないアホな幽霊女 その5
「おりゃーーー!」
「うりゃーーー!」
俺は幽霊女の腕を掴んで思いっきり引っ張った。
「痛い痛い痛----い」
「我慢しろ! おりゃーーー!」
「うぐ、うぐぐぐ……」
「うわっ!」
懸命に引っ張っていると幽霊女が急に軽くなり、その勢いで俺は尻もちをつく。
「痛てて……急にどうしたんだよ」
「お、おおおお! 出ました! 出ましたよ!」
その声で幽霊女を見る。
すると、そこには素晴らしい光景が待っていた。
「やった! 出れました!」
大きな胸を画面のこちら側にだした幽霊の女が、嬉しそうにはしゃいでいる。
両手を大きく上げて喜んでいるので、画面から全てできった大きな胸は今まで以上に良く見えるし、もの凄い揺れまくっている。
しかも強引に引っ張りだしたので、白い着物から大部分がはみ出し見えまくっている。
俺はその光景に呆気にとられるしかなかった。
こいつ……こんなにもデカかったのかと。
しばらく、その素晴らしい光景をただただ眺めていた。
こいつは今は幽霊だが元は人だ。
やはり誰かを一生懸命に助けると、神様がご褒美をくれるのかもしれない。
そんな事を考えながら、俺はそのご褒美タイムを堪能していた。
しかし良い事をしたとしても、永遠とご褒美が貰える訳ではない。
今の幽霊女の上半身は、完全に画面からこちら側に出ている。
その上半身をだらりと下げ、体を左右に振りながらモゾモゾと動き始めてしまったのだ。
こいつの長い黒髪が邪魔で、せっかくの大きな胸も見えなくなってしまった。
どうやら、ご褒美タイムは終わってしまったらしい。
「ん? あれ、あれれ?」
しかし幽霊女はその状態から、それ以上画面から出て来る様子がない。
体を左右に振りながら、「う~」と唸っているばかりである。
俺のモニターもミシミシと軋むような嫌な音を立てている。
「もしかして、まだ出れないのか?」
そう声をかけると、幽霊女は上半身を起こし俺の方を見る。
その表情は絶望に満ちていた。
眉を顰め、目に涙を浮かべ、口は泣くのを我慢しているかのように小さく震えている。
しかし幽霊女が体を上げた事で、画面を隠していた長い黒髪もなくなり、俺のご褒美タイムは復活した。
「はい……そうみたいです」
幽霊女が小さな声で、そう呟く。
「なんでだよ! 胸がつかえてたんじゃ無いのかよ!」
「そうだったんですけど……」
「だったら出て来れるだろ!」
そこで幽霊女の表情がスッと変わった。
さっきまでは絶望そのものだった顔が、みるみる赤く染まって行く。その顔を両手で顔を隠しながら、小さな声で言った。
「……私、お尻も大きいんです」
「……はい? 今、なんて?」
「だ、だから……私って胸だけじゃなく、お尻も……ちょっと大きいんです」
その言葉が俺の中で響き渡る。
「私、お尻も大きいんです。……お尻も大きいんです」
俺はすでに、神様からご褒美は貰ったつもりでいた。
この幽霊女は本当に美人なのだ。
細く柔らかそうな黒く長い髪。
その間から見える小さな顔には、少し切れ長の大きな目。
スッと通った鼻筋の下には、小さな口が収まっている。
生前はかなりモテたのではないか? こんな奴が近くに居たら男共は放っておかないだろう。
そう思ってしまうほど、この幽霊女は本当に美人なのだ。
そんな美人の着物から大部分が出た胸が、俺の目の前で揺れまくっている。
これがご褒美だと思っていたが、これはまだ前菜だったようだ。
こうなったら、その大きな尻も拝見させて貰おうじゃないか!
俺のやる気は100%中の100%になった。
「もう一回、引っ張ってみるか……」
下心を隠しながら、俺は幽霊女に近づいていく。
「はい。何度もすみませんが、よろしくお願いします」
涙を浮かべ、俺に頭を下げる幽霊女。
「怖かったんです。さっきまでは、いざとなったら画面の中に帰れば良いと思ってたのに……」
ずっと泣くのを我慢していたのか、幽霊女の頬に涙がスッと流れ落ちる。
「今は画面の外にも中にも行けないんですよ。私はずっとこのままなのかもって思ったら、すっごく怖いんです。とっても怖いんです」
本当に怖くて不安なのだろう。美人が顔を歪ませ泣いている。
そんな顔を見せられたら、俺の中にある良心が痛むじゃないか……。
ちょっと可哀そうになり、俺は幽霊女に真実を伝えてやる事にした。
「お前を手伝ってやる前に、言っておかなければいけないことがあるんだ」
「え、なんですか?」
さらに不安そうな顔になる幽霊女。
だがこれは、こいつの為にも言っておかなければならない。
俺は幽霊女の顔をまっすぐ見ると、意を決して真実を伝える。
「お前を無理やり引っ張り出したから、着物がズレて胸がほとんど出てるぞ」
伝えた。俺は自分の利を無にしてでも、こいつの為に真実を伝えてやった。
あまりの衝撃の事実に、幽霊女も固まってしまっている。
そしてゆっくりと自分の胸に視線を落とす。
一度だけチラッと俺の方を見たが、いそいそと着物を直し始める幽霊女。
これで見納めか……。
そう思うと悲しくて涙が出そうになるが、男の俺はぐっと我慢をして、その光景を眺めていた。
白い着物を直し、ふうと一息つくと、何事も無かった間のような顔に戻る。
しかし俺を見るその目は、まるで幽霊のように冷たく、暗く沈み込んでいた。
「では、よろしくお願いします」
幽霊女の発した声は、まるで幽霊のように冷たく、暗く沈み込んでいた。
「おい。そんなやる気がない状態で大丈夫なのか?」
「だって……」
また泣きそうな顔に戻る幽霊女。さすがに可哀相なので、もう一つの真実も教えてやる事にした。
「大事な所は見えてなかったから安心しろ」
幽霊女が目に涙を浮かべながら俺を見つめてくる。
「……本当ですか? 本当に見えなかったの?」
「おう。谷間は見たが、大事な部分はいっさい見てない。それはすなわち、お前は俺に胸を見られてはいないって事だ!」
みるみると幽霊女の顔に元気が戻ってくる。
「良かった~。私はあなたに胸を見られてはなかったんですね」
「おう。大丈夫だ。俺にも理由はわからんが、世の中のルールはそうなっているからな」
世の中のルールは、そういうものなのだ。ほぼ丸出しだろうが何だろうが、大事な部分が隠されていれば、写真集として世にも出回っているのだ。
現状は画面に挟まったまま何も解決していないが、心配事が一つ無くなった幽霊女も元気を取り戻している。
「行くぞ?」
「はい! お願いします!」
俺達は再度力を合わせ、こいつを画面から出す事に奮闘する。




