画面から出てこれないアホな幽霊女 その4
「しょうがね~な。手伝ってやるよ」
俺はしぶしぶ協力するふりをしながらも、心の中ではワクワクしながら幽霊女の前に戻る。
「こうなったら、本当にこっち側に出すしかないか……」
つい、本音が口からこぼれてしまった。ヤバい、聞かれたかと幽霊女の方を見る。
「え、本当にこっち側に出すしかない? それって、どういう事ですか?」
幽霊女のその問いかけに、俺は聞こえないふりをする。すると俺が呟いた事に対し、幽霊女は眉を顰めなにやら考え始めた。
それは、そうだろうなと俺は思う。
こいつはアホの子なのだ。さっきまで二人で協力して画面から出ようと頑張っていたのに、まさか俺が画面の中へと押し戻そうとしていたとは思ってもいなかったのだろう。
言い逃れができないと判断し、本当の事を打ち明ける事にした。
「すまん。実はさっきまでは、お前を画面に押し込もうとしてたんだ」
「やっぱり……なんか、おかしいと思ってたんです」
俺に裏切られていた事がよっぽど悲しかったのか、怒る事もせずに、だらりと腕を下げ、幽霊女は力なく画面から頭と腕を出しうなだれている。
今の方が、だんぜん幽霊っぽく見えるから不思議だ。
「ごめんって、今度はちゃんと引っ張るからさ」
「……今度は、ちゃんとやってくださいね」
幽霊女は、うなだれたまま小さくそう呟く。俺に騙されていた事が、そんなにもショックだったのかと少し可哀そうな気もするが、今のこいつにならと俺はある条件を出す事にした。
「でも、お前をこっち側に引っ張り出してやるには条件がある」
幽霊女は顔をあげ、俺を見ながら悩んでいる。
「そんな事を言って、どうせまた私を騙すつもりなんでしょ?」
俺の事を、俺の言う事を疑って信じてくれていない。自分のせいではあるのだが、本音を疑われるのは実に悲しい気持ちになる。
「そんな事はしない。条件を飲んでくれるのなら、今度は本当にお前を手伝ってやるよ」
「……本当ですか?」
幽霊女が俺の事を疑いの眼差しで、いや、むしろ怒っているかのように睨みつけている。
俺にそんな経験はないが、浮気がばれた時、それを本気で反省している男の気持ちはこんな感じなのだろうか。
「信じてくれ!」と俺は本当の気持ちを言う。
しかし幽霊女は俺の目を見ながら何かを確かめている。
きっと俺の目を見て、俺が嘘をついていないのかを見極めているのだろう。
女の勘は鋭いとは良く聞く。
アホの子のこいつに、そんな事が出来るとは思えないが、仕草だけはそれっぽく見える。
まるで推理をしている時の探偵のように、顎に手を当てながら、俺を値踏みでもするかのように、じっと俺を見つめ続けている。
俺には経験がないので、女ってこういう感じで嘘を見破るのかと思いながら、判決の時を静かに待つ事にした。
「う~ん。う~ん」と呟きながら、俺の顔を左側から見てみたり右側から見てみたりと、角度を変えながら俺の顔をじっと見つめ続けている。
その仕草を見て、俺は気付いてしまった。
こいつは探偵になりきって遊んでいるだけだという事に。
そして、こいつって本当にアホなんだなという事に。
完全に目的を忘れ、楽しそうに探偵ごっこに勤しむ幽霊女に問う。
「俺が嘘をついてない事は、わかったか?」
「一応、その条件を言ってみて下さい」
目を細め、顎に手を当てながら、そう返してくる幽霊女。
どうやら探偵ごっこは、まだ継続するらしい。
とりあえず俺は、その条件を言ってやることにした。
「こちら側に出て来ても、俺を絶対に呪い殺さないこと! それが絶対条件だ!」
俺は探偵モードの幽霊女に、そう言い放ってやった。
幽霊女は言葉の意味を確認しているのか少し固まり、そのうちにみるみると表情がくもっていく。
「でも、それだと、バイト代が貰えないです」
先ほどまでとはうってかわり、今度は困り顔に変わる。
探偵ごっこは、もう終わったらしい。
形勢も逆転し、今がチャンスと幽霊女を追い詰める。
「永遠にそこに引っかかってる方がいいのか? それとも電源を切った方がいいのか?」
「……どっちも嫌です」
幽霊女は今にも泣きそうである。
「だったら俺が手伝って、こっち側に出て来るしかないだろ?」
「そうですけど……」
「当たり前だけど、俺はお前に殺されたくない」
「まぁ、そうですよね」
「俺の条件を飲め!」
「う、う~~~ん」
「互いに助かる道はこれしかない!」
幽霊女が探偵の真似をしていないので、今度は本当に悩んでいる様子だ。
しばらく黙って考えていたが、やがて観念したように小さな声で答えた。
「……分かりました……約束します」
よっぽど悔しいのか、それとも画面に挟まってしまった自分の事が情けないのか、切れ長の大きな目に涙を浮かべながら幽霊女は小さな声でそう言った。
俺は自分の命が保証された事に安堵し、嬉しさのあまり、つい大きな声で叫んでしまった。
「よし、契約成立だ。すぐにそこから出してやるからな!」
すると、幽霊女の顔がみるみる明るくなっていく。
俺を呪う事よりも画面から出れる事の方が嬉しいのか、どんどん元気を取り戻し、幽霊なのに顔に生気が戻って行くのがわかる。
「はい! お願いします!」
嬉しそうな顔で、元気よく叫ぶ幽霊女を見て俺は思う。
……アホって単純だなと。




