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俺を呪いにやって来た幽霊女がアホの子だった  作者: もものけだま


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2/8

画面から出てこれないアホな幽霊女 その2


「君を、呪い殺す方法ですか?」


 幽霊女は、もがくのを止め、俺の方を見つめ何やら少し考えている。


「決めポーズをして、対象相手を見下ろすだけで、いいみたいです」


 幽霊女はそう言うと、画面から出した腕で大袈裟に決めポーズをとってみせた。


「こうやって対象者を見下ろしながら、ぐわっって感じで目を見開くんですよ!」


 目を大きく見開き、それっぽい顔をしているのだが、なぜか全く怖さを感じない。

 

「そんな事で、俺を呪い殺せるのか?」

「それだけで勝手に呪いが発動するみたいです。対象者を見下ろしながら、ぐわっ! ね、とっても簡単でしょ」


 そう言ってモニターから顔と腕だけをだし、もう一度、同じ事を俺にやって見せる幽霊女。

 俺は立ち上がって、その光景を見ながら思う。

 

 今は、俺がお前の事を見下ろしてるけどな!

 

 そう思ったが、一生懸命に説明してくれる彼女に悪いと思い、その言葉をそっと俺の胸にしまっておいた。


「と言う事は、そこから出てこないと、俺を呪い殺す事が出来ないって事?」

「はい! そういうルールがありますので」

「幽霊が人を呪おうとしてるのに、ルールはちゃんと守るのか?」


 俺がそう訊ねると、幽霊女は少し怒ったような声で反論して来た。


「当たり前じゃないですか!」


 先ほどまでニコニコしていた幽霊女が、プリプリと怒っている。

 

「人を呪い殺すのって、簡単じゃないんですよ! 簡単に人を呪い殺せるような世の中になったら、大変な事になっちゃいますよ? まったく、今どきの若い子には困ったもんです」


 俺は、幽霊女に軽く説教をされながら思う。

 

 実際にモニターから出てきてはいるので、こいつは本物の幽霊なのだろう。

 そしてこの幽霊女は、アホだという事を確信した。

 

「もう……何で出れないの……」

 

 幽霊女は落ち込んだ声で何かを呟きながら、いまだに体をモジモジさせている。


「まさかバイトの初日に、こんな失敗をしちゃうなんて……。早くここから出て、お仕事しないと先輩に怒られちゃう!」


 まぁ、そのモニターの大きさでは、こいつが出て来るのは無理だろう。だって、その大きな胸の半分も、こちらに出て来れていないんだもの……。

 

「本当に、そこから出てこれないのか?」


 確認も兼ねて訊いてみる。

 

「今はね! でも、すぐにここから出て君を呪い殺すから、ちょっとそこで待っててね!」


 俺は、このアホな幽霊女を眺めながら心に決めた。

 よし、こいつがここから出て来そうになったら、すぐさまここから逃げよう。

 呪い殺すからそこで待ってろと言われ、素直に待ってる訳がない!

 

 それまでは、この面白幽霊とちょっとだけ遊ぼう!


「よいしょ……うんしょ……」


 幽霊女は必死にもがいている。

 しかも、もがけばもがくほど、さらに胸が画面の縁に食い込んでいる。


「ねぇ、頑張ってるところ悪いんだけど、ちょっといい?」

「なに? 手伝ってくれるの?」


 俺の方を見ようともせず、必死にもがきながら、そう訊ねてくる。

 

「自分を呪い殺そうとしている幽霊を、手伝う人はいないと思いますが……」


 すると幽霊女の動きがピタッと止まり、俺の顔を見上げてくる。


「手伝う気が無いなら、黙ってそこで待ってなさい!」


 大きな声で怒鳴る幽霊女が怖かった。必死な顔で怒るその顔がもの凄く怖かった。

 なによりも、呪い殺す相手の俺に、手伝えと言えるその精神が怖かった。

 

 「よいしょ……うんしょ……」


 幽霊女は、今も俺の目の前で必死にもがいている。

 

「その~、かなり立派なお胸をしてますね」

 

 その胸では、そのモニターから出て来るのは無理ですよと、そういった意味を込めて訊ねる。

 

「まぁね。肩がこっちゃって、良い事なんてないですよ」

「その立派なお胸が、もう少し小さかったら、簡単に画面から出てこれたかもしれませんね」

「え? そうなの?」


 動きを止め、きょとんとした顔で俺を見つめてくる。マジか……。こいつは、そんな事にも気づかないで頑張ってたのか?

 

「俺がここから眺めている限りでは、その立派なお胸が邪魔で出てこれないのだと思います」


 まぁ、俺にとっては、そのお陰で殺されないでいるし、目の保養にもなるし、女神のような、お胸なのですが……。

 

「そうなの? この胸のせいなの?」

「うん。だって胸にモニターの痕がついてるし……」

「バイトの採用項目に、胸の大きさに決まりなんてなかったのに……」


 幽霊女は自分の胸を見下ろし、心底不思議そうな顔をしている。

 そして悲しそうな顔に変わると、ぽつりぽつりと語りだした。


「確かに、この服を支給された時、胸の所がこんなに開いちゃって良いのって思ったんだよね」

「そ、そうなんですか……」


 こいつは何の話を始めたのか全く分からなかったが、俺も適当に相槌を返す。

 これで諦めて帰ってくれるなら、俺にとっても助かるので、最後ぐらいは聞いてあげよう。

 その胸が見納めになるのは、少しばかり寂しいが……。


「きっと今までのバイトの人達って、胸のサイズが小さかったんですね」


 モニターから出した顔を上げ、遠くを見つめながら、せつなそうにそう語る幽霊女。

 顔を上げた事で、胸元が良く見えるようになった幽霊女を見てみる。

 確かに白い着物の胸元はかなり開いていて、サイズが合っていないのは明らかだった。

 そして、その大きな胸には、モニターの縁の痕がくっきりと浮かんでいる。

 そんな状況に、笑いをこらえきれなくなってきた俺は、哀れな幽霊女に提案をしてみた。


「とりあえず、今日はもう帰ったら?」

「嫌ですよ!」


 即答だった。両手を大きく上げて、また怒っている。

 

「私は今日がバイトの初日なんですよ?」

「そうなんですか……」

「初日なのに失敗したなんて恥ずかしいです!」

「でも、無理な物は無理なんじゃない?」


 物理的に無理という言葉が頭に浮かぶが、幽霊に物理的とか合ってるのかと思い、その言葉を飲み込む。


「このバイトの成功率って高いんですよ?」

「そうなんですか……」

「それなのに失敗したなんて、みんなに笑われちゃいます!」

「そうなの? ってか、成功率が高いってなんで?」

「だって難関は井戸を登るだけで、あとは画面から出てグワッってやるだけだもん!」


 そうなんだ。わざわざ井戸を登って来たんだと、感心してしまう。

 しかし、お前の難関は画面から出て来る事だったな、と内心では笑ってしまった。

 

「ここだけの話、あの井戸の下は待機室と繋がっているの。どう? 凄くないですか?」


 何が凄いのかは分からなかったが、「そうなんだ」と、適当に返事をする。


「井戸を登る為の梯子だって掛かってるんですよ!」


 幽霊女が、嬉しそうに幽霊のバイト事情を説明してくる。

 

 こいつは、本当にアホの子だ。

 

 俺も呪い殺されたくないし、それにそろそろ寝たいので、お引き取りを願おうと作戦を実行に移す。

 

「今日は一旦帰って、また違う日に来れば?」

「でも君は、もうあの動画を見ないでしょ?」

「まぁ、本物だって知っちゃったら見ないよね。見たら呪い殺されちゃうし……」

「……まだ、帰りたくない」


 幽霊女は涙を浮かべ、俺の顔を見上げながら言ってくる。


 綺麗な顔をした美人の幽霊が、せつなそうな目で俺を見つめている。


「……お願い。まだ、帰りたくないの」


 あぁ、この言葉を俺に言ってくれるのが、俺を呪い殺そうとしている幽霊じゃなければ、この状況はどんなに幸せな事なんだろう……。

 

 つづく

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