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俺を呪いにやって来た幽霊女がアホの子だった  作者: もものけだま


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画面から出てこれないアホな幽霊女 その1

 

 深夜二時。明日は休みなので、俺はパソコンで適当に動画を漁っていた。

 部屋の明かりは点けておらず、モニターの青白い光だけが、ぼんやりと俺の顔を照らしている。


 どれもこれも、見飽きたものばかりだ。


 面白そうな動画は無いものかと、おすすめ欄をスクロールしていると、ふと変なサムネイルが目に入った。


「本物の呪いの動画? なんだこれ……」


 タイトルからして胡散臭いし、再生回数もひと桁だ。


「コメントも高評価も、どちらも0件じゃないか……」


 別に面白いと期待したわけじゃなく、どんなに酷い動画なのか見てやろうと好奇心が湧き始めた。


「これでも見たら、そろそろ寝るか……」


 そんな軽い気持ちで、そのサムネをクリックすると動画が始まった。

 映っているのは、石造りの井戸のようだったが、画質はかなり悪くノイズが走っている。

 ザザッ、ザザッと耳障りな砂嵐の音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。

 そして井戸の中から青白い手らしいものが見え、徐々に何かが井戸の中から這い出てくる。

 全身が井戸から出て来ると、顔は髪で覆われていて見えないが、長い黒髪に白い着物を着た女だった。

 そいつは井戸から這い上がると、こちらに向かってフラフラと歩きながら、ゆっくりと近づいてくる。


「……マジかよ。絶対、あの有名映画のパクリじゃん!」


 しかも創りが雑だ。女優さんの動きも、ぎこちなさすぎる。

 

「ほらほら、俯いてて前が見えないからって、そっちに歩いて行ったら画角から外れちゃうよ!」


 ついつい動画に向かってツッコミを入れてしまう。


 この呪いの動画は出演女優さんの演技が下手すぎて、怖いというよりも面白い方が圧倒的に強かった。


「あはははは! 違う方向に進んでた事に気付いて、ちらっとカメラを確認しちゃってるじゃん!」


 幽霊に扮した女優さんは歩く方向を修正し、こちらに向かって歩いて来る。

 画面にはより一層砂嵐が走り、画面の中の女がどんどん近づいてくる。


「どうせ最後は画面に向かって、怖い顔のアップで終わるんだろ? どうせなら、この面白い女優さんの顔を、是非見てみたい!」


 そんな気持ちで俺は動画を見続けていた。

 女は止まることなく、こちらに向かって歩いて来る。


「そろそろオチかな?」


 そんな事を思いながら、怖い顔のアップの所で一時停止をしてやろうと待ち構えていると、青白い手がモニターの縁にかかるのが見えた。


「え? 手が画面から出てきたぞ。まさか、これって本物なのか? 本物の呪いの動画なのか?」


 その瞬間、部屋の電気が突然消える。辺りは一瞬で真っ暗になり、モニターの明かりだけが女の姿を照らし出す。

 何が起きているのか思考が追いつかず、パニックになっていると、女の頭がモニターから出て来る。


「うわあああああ! 本物だ! これは本物の幽霊だ!」


 俺は大きな悲鳴を上げながら椅子から転げ落ちた。

 冷たい床に尻餅をついたまま、俺は目の前の光景を凝視する。


 両腕が画面から出て来る。

 ーー次に肩が出てーー頭が出て。


 そして、そこで女は止まった。


「あ、あれ?……出れない」


 パソコンからではなく、女の声がじかに部屋に響く。


 画面から頭と両腕は出ている。

 しかし肩までが出たところで幽霊女が止まっている。

 必死に体をよじっているが全く動かず、よく見ると胸のあたりで引っかかっているようだった。

 

「え? なにこれ……」


 また女の声が聞こえてくるが、俺は床に座り込んだまま呆然とその光景を見ていた。


「おかしいな……なんで出れないの?」


 幽霊女は困惑した声で呟きながら必死にもがいている。

 画面からは頭と両手は完全に俺の部屋に出て来てはいるが、大きな胸がモニターの下側の縁に阻まれもがいている。

 白い着物から伸びる白い両手に力を入れ、画面から出て来ようと幽霊女は必死にもがいていた。

 そんな様子を見ているうちに、俺の恐怖心はだんだん薄れてきた。

 幽霊女が画面から出て来ようともがけばもがくほど、その大きな胸が揺れまくっている。

 しかも頭を大きく上げたりしているので、顔にかかった長い髪も良い感じになり顔も良く見える。美人ってタイプの若い女性だった。

 そんな滑稽な光景を見ていたら、ついつい幽霊女に普通に話しかけてしまっていた。


「えっと……君は誰なの?」


 すると、その幽霊女は真面目な声で答えた。


「いつもお世話になっております! 私は井戸の幽霊のバイトの者です!」


「あんたに、お世話になった事なんてね~よ!」と思いつつも、気になった単語に俺は食いついた。


「……井戸の幽霊のバイト? なにそれ」

「私が井戸の幽霊のバイトに応募したからですよ?」


 こいつが幽霊だからなのか、会話がなんだか噛み合わない。


「な、なんで家のモニターから出て来ようとしてるの?」

「それは、あなたが呪いの動画を開いたからだと思います」

「あ、さっきの動画?」

「それは私には解りません。井戸の中で先輩たちと談笑しながら待機してましたら、バイトリーダーから出番だと言われたので、一生懸命に井戸を登ってここまで来ました」


 バイトリーダー? 待機室? 完全に仕事じゃないか!  しかも井戸の中で談笑って……真面目に待機してろよ!

 そんな事を思ってはいたが、初めての心霊体験にそんな事を言う勇気は俺には無かった。


「今日が初出勤だったので緊張しました」


 疲れたのか、画面から出るのを止めた幽霊女が普通に話かけてくる。


「井戸から歩いて来る時に、違う方向に行っちゃってたもんね」


 俺も座りなおし、そう返す。

 

「あっ! やっぱり気づいちゃいました?」

「うん。凄い面白かったけど、まさか本物の幽霊だとは思わなかったよ」

「もう、私は本物の井戸の幽霊じゃないですよ? 私はただのバイトです。本物はもっと凄いんですから!」


 幽霊女がなぜか怒っている。本物の幽霊だけど、本物の井戸の幽霊ではなく、バイトなのだと怒っている。

 俺にしてみれば、どっちも本物の幽霊なので違いが分からないが……。

 

「でも、そう言って貰えて嬉しいなぁ。私の演技って、そんなに本物みたいでした?」


 何も褒めていないのに、なぜか嬉しそうな幽霊女。

 井戸の幽霊の本物って何だろう。俺が知ってるのも、作り物の映画なんだけど……。


「すぐにここから出ますので、ちょっとお待ちくださいね」


 そう言って、また画面から出て来ようともがき始める。

 ふと、映画のワンシーンが浮かぶ。

 ヤバいと思った。こいつを画面から出すのはヤバいと思った。

 

「そこから出てきたら、僕に何をする気なんですか?」


 もがくのを止め、不思議そうな顔で僕をじっと見つめてくる。その顔にちょっと可愛いと思ってしまった。

 

「そりゃぁ、あなたを呪い殺しますよ?」


 あっさりと恐ろしいことを言う幽霊女。やっぱり幽霊は可愛くなんて無かった。

 少しでも距離を取ろうと、後ろの壁まで後ずさる。


「マジですか? 俺って呪い殺されちゃうんですか?」

「はい。それが私のお仕事ですので!」


 目を輝かせ、俺に向かって自慢げにしている。

 

「すぐに、ここから出て呪いますので、ちょっと待ってて下さいね」


 幽霊女のその言葉に俺は恐怖でパニック状態に陥った。

 お仕事ってなんだよ!

 しかも俺はバイトの幽霊に呪い殺されるのかよ!

 どうせなら本物に呪われたかったよ!

 若干パニックになり、自分でも良くわからない事を考えている事に気付く。

 

 こういう時は、冷静さが大事だ!

 まずは現状を把握し、解決策を探さなければ!

 

 大きく深呼吸をし、目の前の幽霊女を観察する。

 

「あー」とか「うー」とか言いながらもがいているだけで、こちらに出て来る様子がない。

 大きな胸を俺に見せつけながら必死に頑張っている。


 まだこの幽霊女とは出会って数分だが、この女はアホな子だという事に気付いた。

 なので俺は、こいつに呪い殺されないようにと、情報を収集する事にした。


「どうやって俺を呪い殺すんですか?」


 この質問が、これから起きる長い戦いの幕開けとなる事を、この時の俺は知らなかった。



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