第029章 〈根の者達・Ⅰ〉
2075/4/13 p.m.6:45 本校舎地下一階
その後、悠真も白斗もコード転写の習得には至らなかった。
「結局ダメだったかぁ……」
悠真はため息をつき、手のひらを見つめる。
「まぁ仕方ないよ。ゼロ先生でも習得に十日かかったらしいし。」
「それでも早いほう、って言ってたけどな……歴代騎士は数日が多いって。」
二人はそのまま、本校舎の地下へと続くエレベーターを起動させる。
[認証確認 ―― 特別実働補助委員会構成員]
いつも通りの湿気と植物の匂いが流れてくる。
二人は入り、エレベーターを操作する。
薄暗い照明。
コンクリートの壁に、わずかに残る焼け跡。
人の気配はあるはずなのに、不自然なほど静かだった。
「……なぁ、白斗。アンダーガーデンの先輩で、他に知ってる人いるか?」
「いや、誘ってくれた先輩、蒸雲先輩くらいだな。俺も入ったのはお前の一日前だし。」
「なのに初対面であの“慣れてる感”はなんなんだよ……」
「いやぁ、入学前からマドレプリクト調べててさ。ちょっと危ないこともしてたから、多少はな?」
白斗は軽く笑う。
だがその言葉に、悠真はわずかな違和感を覚えた。
――“多少”で済むようなものだったか?
エレベーターが地下六階に到着し、扉が開く。
「やぁやぁ、早いじゃない。約束時間より10分も早い。」
沙耶と他数名の先輩が出迎える。
「こいつらが新入りか? 思ったより筋はよさそうだ。」
一人の先輩が、値踏みするように視線を向ける。
沙耶が淡々と答える。
「二人ともCランク最上位よ。場合によってはBランクでも余裕で勝てるわ。先日の襲撃でも一年の中で起きてた数少ない奴らだし。」
「なるほど、最低ラインはクリアしてるわけだ。まぁしてなければ呼ばれもしないがな。」
「青髪のほうは蒸雲が引き入れたみたいだぜ?」
「あいつが見込んだ奴か……面白いねぇ」
空気が、わずかに変わる。
その変化を、悠真ははっきりと感じ取った。
(……蒸雲先輩、ここでも上位の人物なのか…?)
「__はい、そこまで。」
沙耶の声が、場を切り裂く。
一瞬で、ざわついていた空気が収束した。
「こいつらの実力は私と、ついでに勧誘した人が保証するから。」
そのまま視線を悠真へ向ける。
「あと黒髪のほう、悠真君ね。戦闘記録もあるから。見たい人は見てね。」
そういいつつ沙耶は二人を適当な場所へ座らせ、残りのメンバーの到着を待つ。
「あ、そういえばボス、残り何人だ?」
その先輩に沙耶さんが答える。
「あと5人ね、襲撃で6人死んで4人行方不明。さらに5人はまだ保健室で寝てるわ。」
「そうか...」
まるで、授業の欠席者でも数えるような口調だった。
空気が、沈まない。
(……軽い)
悠真は違和感を覚える。
確かに命のやり取りがある世界だ。
だが、それでも。
(仲間の死も、慣れてるっていうのか……)
そのとき、エレベーターが開く。
「悠真!先に来てたか。」
聞き慣れた声。
「お久しぶりぃ、私とは4日ぶりかな?」
「始、舞、来たか!」
一気に、空気が変わる。
さっきまで張り詰めていた何かが、わずかに緩んだ。
悠真と白斗は、自然とそちらへ足を向ける。
「悠真、俺今日の訓練でついにBランクと判定されたぜ!」
「マジかよ!?」
「今なら私より強い気もするけど、飛べる分私のほうがまだまだ有利なんだから!」
舞の言葉に、悠真は思わず苦笑する。
「なんだか、おいていかれてる気がするな……」
ぽつりと言葉が零れる。
「……は?」
「あんたも十分強いだろうが、錬金術師さん?」
「そうだよ悠真、お前俺より錬金術得意だろ?」
二人の言葉に、悠真は少しだけ視線を落とす。
(……違う)
強さの問題じゃない。
何か、もっと根本的な部分で――
「――まだ、届いてない気がするんだよな。」
悠真たちが談笑し、先輩たちが待つ中、エレベーターが再度開く。
「お~、見たところ来れる奴は全員きてるな。」
「あ゛~~~」
「…」
ずさんそうでボロボロなコートを纏った男、筋骨隆々な女、包帯で全身がまかれている男が出てきた。
「蒸雲先輩!」
白斗がずさんそうな男に声をかける。
「んお、白斗もいるかぁ、何日ぶりだっけ?まぁいいか。ちゃんと生きてるな。」
筋骨隆々な女が口を開く。
「全員そろってんだろ?どうせアタシらが最後なんだからよぉ。さっさと始めてくれよぉ。」
「結、相変わらずせっかちだなぁ、司を見てみろ、普段から文句の一つも言わないぞ。」
「そいつは普段からなんも喋らねぇじゃねぇか!ここ一か月は声を聴いてねぇぞ!」
「...うるさいぞ。」
包帯の男が答える。その声はガラガラで、まるで死者の声のようであった。
「ほら、喋るだろ?」
「がーーーー!うるせぇうるせぇ!」
このままいくとどんどん勝手に盛り上がりそうだと察したのか、白斗が止めに入る。
「あのー、ちょっと止まってもらえませんかね。結さん、あなた自身が遅らせてどうするんですか。」
「ほーら、後輩にも言われてるぞ?」
「チッ、わかったよ。」
それが止まったタイミングを見計らい、沙耶が今回の目的を実行し始める。
「騒ぐのはいいけど、時間は有限よ。と、いうわけで新メンバーと先輩たちへ、互いを紹介していくわよ。」
その場にいる全員が、互いを見つめる。
空気が、わずかに張り詰めた。




