百兵乱舞
おっっっっっっそくなりましたぁ!
不快。
「よっ!」
不快。
「ほいっとな!」
不快不快不快不快不快!
「ほら、もっと笑顔♡」
上等!なんて言ってみたものの...
「モノが違ったかな?」
大剣、細剣、双剣。槍に拳銃。
武器が変わるたびに攻撃のリズムまで変わる。一瞬でも判断が遅れれば、そのまま首が飛ぶような戦闘が続いていた。ただの魔力による身体強化では天と地ほどの差、『加速』の限界値ギリギリを使用しなんとか食らいつけている。
そんな中でもわかってきたことが二つ。
一つ目、血や傷と言った目に見えるダメージは、トランプによって塞がれ見た目的には見えなくなるということ。
攻撃の隙を伺いジャブを撃ち込む。
放たれた拳はリゼットのこめかみを掠り、傷をつける。だが瞬時に傷口からあふれ出たトランプがそれを覆い、ぱっくりと割れた肌は元の様子に戻った。
目に見えてないだけで、かなりのダメージを負っているはず。
戦闘不能とまではいかずとも、撤退の一手をとらせる程度には追い込める!
そしてもう一つわかったこと。
それは、コイツの熟練した技にはパターンがあるということ。
リゼットの持っていた短剣がどこかに消えたかと思うと、彼女の手の中には鎖の長いモーニングスターが握られていた。
瞬時に彼女はそれを振り下ろす。スパイクボールが鎖に引っ張られ、慣性の法則に従い、こちらに高速で接近してくる。オレは棘を一本折り、スパイクボールを鷲掴みにしてリゼットに投げ返した。
今みたいに超変則的な武器が出てくるとこのパターンは成立しないが、短剣や双剣などの分かりやすい武器にならそれは適応される。
武器の切り替え時に、先刻も使っていたモノが紛れ込んでくるときがある。そしてその武器を持つと攻撃もまた先刻と似通った動きになった。
『武具の傀儡』
おそらくは武器に己を使用させる力。同じ短剣に見えても、鍛えられた工房、持ち主、積み重ねた戦歴は一本一本違う。
武器にはそれぞれ「最も振るわれた形」が刻み込まれ、リゼットはその武器へ身を委ねることで、達人の技をそのまま再現している。
武器の数だけ戦闘スタイルが変化する、恐ろしいスキル。
だが幸いにも、飛び出してくる武器は少しずつ偏り始めていた。
同じ剣、同じ槍、同じ双剣。一度見た武器なら、その「振るわれ方」は...
「もう知ってる!」
鋭いトランプの雨、短剣による高速突き、ウォーハンマーの重く素早い叩きつけ、全てを紙一重でかわす。見慣れた双剣に切り替わった瞬間に懐へ潜り込み、両手の短剣を一直線に突き込んだ。
ガラガラと音を立てながら双剣が崩れる。
「チィっ...」
リゼットの口元から初めて笑みがわずかに消える。
「笑顔だろ?楽しめよ!」
リゼットの顔に少しばかりの焦りが見える。だが瞬時にその唇は三日月形を作りだした。押し切れる!
...そう思った。
「送ってくる武器の練度上げて~♡」
「?」
途端辺り一面に様々な武器が出現した。
種類で言えば先ほどと大して変わらない。
剣、槍、双剣、戦斧、鎌、大剣...
だが先刻まで使われていた武器とは光沢も、傷も、染み付いた血の香りも違った。
どれも、格別の覚悟を持てして鍛錬された武器。
どれも、別の達人に振るわれ続けた武器だ。
「Aメロ戻りぃ?」
「もっと長ーく踊ってたいじゃん♡」
「社交ダンス中申し訳ないが、ウチの生徒なんでな。放してもらおうか?」
『停止』
瞬間、オレとリゼットの動きが空中で石のように静止する。
我らが4番隊隊長のお出ましじゃん?
「みんな大好き真視先生ェ!」
「世事言ってないで逃げるか加勢するかしてくれ?」
空中で身動きが取れないリゼットに近寄ると、先生は手をかざし目を見開いた。途端リゼットの体は目の前にある木々をへし折りながら、遠くへ遠くへと吹き飛ばされてしまった。
「降参の宣言をすれば防御結界が張られるんだから、利用して逃げればよかっただろうに...」
「んな言葉、誰にだって吐いてたまりますか。」
「いい解答だ。さ、休んでる暇はないぞ?お前は逃げる、または他生徒の救出。」
「先生の援護ってのは...」
「助けが必要なほど困ってるわけじゃないが...好きにしろ。」
「了解。」
.........
......
「武器提供者さん、アナタですよね?」
枝の上へ降り立ったつむぎは、風をまとった爪を黒い大剣へ押し当てたまま男を睨む。
「いやぁ、見つかっちゃいましたか。」
藤紫色の髪を揺らし、男は困ったように笑う。
その男は大剣を押し返し、つむぎを押し飛ばす。
「先に自己紹介を。」
男は剣を肩へ担ぎ、芝居がかった礼をする。
「私は魔王様直属『五骸』が1柱、武器庫、兵士鍛錬担当のガレオと言う者だ。今後ともよろしく♪」
「...武器庫、兵士鍛錬?」
「あぁ。武器を集め、武器を鍛え、人を鍛え、戦場を育てるのが私の役目だ。」
そう言って笑った瞬間、周囲の空間が波打つ。
一本、二本、十本、百本。
剣、槍、斧、弓、鎚。
無数の武器が空中へ現れ、その切っ先が静かにつむぎを捉えた。
「さて...まずはキミが、どれほどの兵士か見せてもらうとしよう♪」
途端、空中に浮かぶ武器が、一斉に動いた。
剣が降る。
槍が突き出される。
斧が唸りを上げる。
つむぎは風を足場に真横へ跳ぶ。
さっきまで立っていた枝が槍で貫かれ、その直後、大剣が幹ごと両断した。
だが休む間もなく背後。
「風織『荒東風』!」
つむぎが後ろに振り上げた足には風の刃。
弧を描き、迫っていた複数本の大剣ごと枝を切り裂いた。
「七十点。」
ガレオは剣を何本失おうと顔色一つ変えない。
「速さはいい。だが踏み込みが素直すぎる。」
空中から新たな槍が球状に十数本現れる。
が、つむぎは全部いなす。
一本を奪い。
一本を風で逸らし。
残りを蹴り返した。
「余計なお世話です!師は既に居るんですよッ!」
ガレオの眉が僅かに動く。
「いいねぇ。」
そう言いながらも、彼はもう笑っていなかった。
途端、浮くだけ浮いていた多くの武器が、一斉につむぎへ集まり始める。
その数、数百。
剣が、槍が、斧が、弓が。
空を埋め尽くしながら、ゆっくりとその切っ先をつむぎへ向ける。
「さあ、どうする?」
「...」
瞬間、彼女の瞳から、年相応の幼さが消え去る。
葉擦れの音すら止み、風だけが、つむぎの髪を揺らした。
「風織+猫装...最大出力『野分』!」
一瞬の空白
木々が軋み、足元の落ち葉が一斉に宙へ舞い、森中の空気がつむぎを中心に渦を巻く。
その途端、森を薙ぎ払う暴風が、木々ごと武器を飲み込む。
ガレオの無数の武器が暴風の刃へ呑み込まれ、切り刻まれていった。
空中には鉄粉と土埃が漂い、足元には残骸となった至上の業物が転がる。
『...リゼット悪いな、コイツ一本で我慢してくれ。』
『えっ!?ちょっとうそぉ!?』
リゼットとの思念伝達を遮るように、つむぎが鉄片をガレオに向けて蹴り飛ばす。鼻先に触れる寸前で彼はそれを受け止め、砕けた鉄片を軽く放り捨てた。
「いい風だ。」
「赫弥さんの援護ができたみたいで、私うれしいです!」
つむぎは、いつものような笑みを浮かべる。
「まったく...化け猫には、鈴より風がお似合いらしい。」
風だけが、やけに得意げに森を吹き抜ける。
ガレオの武器庫にもそれはびゅうびゅうと吹き込んでいるらしい。
〆がお気に♪




