奥の手と撤退は、誰が為
夏→秋
ヴェルグの八方から拳が迫る。
一発、二発、三発。
受け流す、躱す、時には腕で受ける。
だが、止まらない。
一撃を避ければ、別の一撃が横から殴りかかる。
さらにその背後からもう一発。
セセラギの拳を、ヴェルグは紙一重で躱した。
そのまま身体を捻り、別の分身が繰り出した拳を踏み台にして跳ぶ。
「おっと。」
空中、そこへ紅月の血晶が飛来する。
ヴェルグは身体を反らし、一本、二本、三本。
すべてを紙一重で躱した。
「チッ、ちょこまかと...」
「申し訳ありませんね。」
悪態をつく紅月、まだ余裕のあるヴェルグ。
そこに割って入るようにセセラギが攻め込む。
「どけ!紅月!」
紫電を纏った拳がヴェルグの顔面へ迫る、が
拳が顔面を捉える寸前、ヴェルグの身体が二つに分かれた。
拳が空を切る。
「こちらですよ。」
背後。
振り向くと同時にセセラギは首を傾けて蹴りを躱す。
直後、横からもう一体が攻撃を仕掛ける。
腕を交差。
拳と拳が真正面から激突する。
その衝撃で、二人の足元が同時に沈んだ。
「「......!」」
一瞬だけ、完全に互角。
そして次の瞬間。
セセラギの拳が、ヴェルグの頬を捉えた。
ヴェルグの拳もまた、セセラギの頬を捉える。
数メートル、互いに吹き飛ぶ。
そしてお互いすぐさま体勢を取り直し、戦闘を再開しようとする。
と同時に
『...リゼット悪いな、コイツ一本で我慢してくれ。』
『えっ!?ちょっとうそぉ!?』
使う予定のなかった奥の手をガレオが勝手に開放する。
「ガレオめ...勝手なことを...」
「お友達との会話が...」
ヴェルグの真正面の霧の薄い側、紫電の拳をまとったセセラギが飛び出し、頭を振りかぶる。
「命より大事かぁ?」
拳はヴェルグの体を握りこみその場に固定、頭突きがヴェルグの鼻の頭に直撃する。
砕ける鼻、飛び散る血しぶき、迷妄する思考の中で彼は自分の過ちに気付いた。
(無駄に発破をかけるのは得策ではありませんでしたね...)
先刻までとはまるで違う、別人のような戦い方。魔力の残量を鑑みない超攻撃特化型。
「...とはいえ、底が見えませんね?手加減する必要なかったんじゃないですか?」
「アイツ心配性なのよッ!」
背後から血晶の槍が迫り、ヴェルグの頬をかすめる。
「おや。」
振り向くが、紅月はもうそこにはいない。
「魔力を無駄使いしやすいスキルがゆえに...」
次の瞬間、ヴェルグの足元、地面すれすれを滑るように走る抜けた。
さらに無数の血晶が地面から突き出し、靴底から足首、さらにその周囲までを完全に覆う。
(今更、動きを封じて何に...)
「どうしても一歩引いてしまう。でもね...」
ふとヴェルグが足元の影に違和感を覚える。
(雲の影...さっきまで晴れていたはず...)
とっさに上を見上げ、空いっぱいに広げられたセセラギの霧を直視すると、ヴェルグの額から冷や汗が噴き出る。
「ッ!?」
「魔力量はこの学年一。そんなアイツが、何て呼ばれてるか知ってる?」
無数の紫電を纏った拳が幾重にも重なり、巨大な一つの拳として構成される。
「『2年A組の魔王様』よ!」
「『驟雨の葬送』!」
「貴様らぁ!」
大量の拳が地面に降り注ぐ。
瞬き一つの間に数百の打撃が加わる。
それらが重なって生まれた轟音は、まるで巨大な一撃が大地を叩き潰したかのようだった。
.........
......
「その呼び名は嫌いなんだ...」
「いいじゃない、少なくとも実力が認知されている証拠よ?」
「なろう系って感じ...」
抉れた地面に降り立ち、二人は話していた。辺りには土煙が舞い上がり、それに加え霧まで覆っているため、ほとんど視界が遮られている。
「ド派手な叩き方のおかげで、周りの分身も巻き込まれてくれたみたいね。」
「何体か逃してるかもしれないが...」
「傷ついた個体を本体に置き換えるバカはいないでしょうね。」
「貴様らぁ...」
「「ッ!?」」
巨大な拳の到達点、クレーターのド真ん中から声が発せられる。
「あれで、まだ生きてるの?」
「いえいえ、動けはしますよ...にしても...」
半分死体状態のヴェルグがゆっくりと立ち上がる。
敵を侮った自分の未熟さへの憎しみ、体中を砕かれ潰された痛み、そして...
「我が主の名を賜るなど、万死に値する無礼!魔王はこの世に、我が主ただ一人!」
自らの王の二つ名を勝手に名乗る、十数歳のガキへの怒り、これらが混じり機能しないに等しい声帯からひねり出された声ににじみ出た。
「瀕死っていう割には殺意はさっきの3割り増しってとこじゃない?」
「まだ痛めつけられたいようね?」
「チィ...」
ヴェルグは血に濡れた口元を拭う。
指先に付着した赤を一瞥し、二人を睨みつけた。
「たかが現世の人間と、侮っていましたね」
ゆっくりと立ち上がる。
その身体は満身創痍。まともに戦える状態ではない。
それでも、その瞳から殺意だけは消えていなかった。
「...本来なら、今すぐその首を刎ねて差し上げたいところですが」
ふと、ヴェルグは視線を森の奥へ向ける。
「使用するつもりのない奥の手まで使われ始めましたし、今日はここまでとしましょう。」
その瞬間、ヴェルグの体がいびつに膨れ上がり爆散した。
肉の破片が飛び散る中に、ミニマムなヴェルグが数十匹混ざっている。
おそらくはどれかが本物、ここで叩けば二度と彼がこの世に顔を出すことはない。だが...
「小さいし速いしで...」
「これは全てを落とすことはできないでしょうね...」
勢いが足らず地面に落ちてしまったミニマムヴェルグも、カサカサと音を立てながら森の奥に逃げ込んでしまった。
「本体があの傷だもの、分身もしばらくすれば消えるでしょうね。」
「もう二度と顔は見たくないな...面倒な相手だったぁ...」
紅月は周囲を見渡す。
そこには、未だ消えきらない紫電の霧、砕けた血晶。
そして、森の奥から絶え間なく響いてくる金属音。
「...それより。」
「分かってるよ、急ぐぞ。」
未だ響き続ける金属音のもとへ、紅月とセセラギは走り出した。
イラストド下手なまんま 死にたい




