紅茶の湯気で隠れた禁話/再戦の足音
試験中ですどうも。
校長室入り口前
「校長にお話があり伺いました!」
しばらくの沈黙
「...よかろう。入っておいで。」
「失礼します!」
そういえば校長室に入るのって、これで2回目か?
前回は体育祭後に呼ばれたけど...
扉を開けて中に入ると、左右に並ぶのはひたすらに棚、棚、棚...
分厚い本や見慣れない魔導書が隙間なく詰め込まれていて、間々に見たこともない魔道具と素材が無造作に置かれていた。
(きれいに飾ってるなぁ...)
元々絵がお好きな人だとは聞いていた。素人から見ても物の置き方ひとつひとつになにかを感じる。
「この部屋、気に入ってくれたみたいだね?」
しばらく眺めていると声をかけられた。
目の前にはだだっ広い校長机。そして備え付けられた椅子に座る校長の姿。
篝谷 玲玄
「大厄災」発生時に結成された「Skillsphere」の原型となる組織、「Ability」の初期メンバー。まさしく生きる伝説、というやつだろう。
白髪とは違う生命力を感じる力強い白銀のオールバック。髭も同じ色で綺麗に整えられている。いたって普通のスーツを着て、まさしく老紳士...
(には見えねぇな...)
魔力の揺れも、隙も一切ない。感情の上下も感じ取りにくい。植物か何かかよバケモンみてぇ...
「えぇ、なんだか、妙に落ち着くといいますか...」
「解ってくれるようでうれしいよ♪ それで、何か用かね赫弥君?」
おや? 名前を憶えられていたとは...
「当たり前だろう?君は去年の体育祭のtop8入りの輝く星なのだからね?」
「何も言ってないんですけど...なんでわかるんですか...?」
「読心術、というやつかな? 立ち話もなんだ、お茶でも入れよう。」
......
...
校長机の前にまた小さな別の机と椅子。片側はオレ、もう片方は篝谷校長が座り、対面する形をとった。お互いの湯飲みから紅茶の香りと湯気が舞い上がっている。
「ズズズッ...ふう...」
「すみません、お茶なんて入れてもらっちゃって...」
「別に構わないよ。最近は教員ですらここに来ることは少ない。こうやって話ができるだけでも満足だよ♪」
校長が手にもっていた湯飲みを机に置いた同時に、空気がわずかに張り詰めた気がした。
「それで、本題は?」
「はい、実は昨日...」
オレは昨日己の身に起こった不可解な出来事を包み隠さずしゃべった。ダンジョンにもぐり、【繋ぎ目】という二つ名に違和感を覚えたこと。倒したはずの世界樹が復活し、人語らしき言葉を発したこと。その直後、オレの目に起こった異変のことも。
その話を聞いている間、校長はずっとオレの目を見ていた。一切表情も体制も変えず、瞬き一つせず。一瞬、魔力と気が乱れたようにも思えたが...
「...と、まあ、こんな具合だったんで...」
「...なるほど...」
そう言うとしばらく沈黙が落ちた。顎に手を当て何やら考え事をしている。
「...まあ、信じがたいにもほどがあるって話ですよね?」
「ん?あぁ、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ...」
「ただ?」
「...私にもわからん...」
それだけ言うと校長は少し困ったようにはにかんだ。
「...そりゃそうですよねぇ。」
うん、そりゃそうだ。それに困る話だろう。「しゃべる魔物が出た」。こんな情報を世の中に流せば、人々は皆互いを疑い、いずれ殺しあう。まさしくディストピアが完成してしまう。もちろん同じ理由で政府に話しようもない。どこかからマスコミに流れる可能性もある。
「私も独自で調べてみよう。よく話してくれた。」
「いいえ、こっちも聞いてもらえてよかったです!」
実際この情報を鏡夜センパイとだけ共有しているとなると不安だからなぁ。あの人はあの人で信用してるけど。
と考えていると視界の端の時計が目に入る。
「ってもうこんな時間!?2限目逃した!?」
「授業担当の先生には私が後で知らせておくよ。安心しなさい。」
「!」
そこまでしてくれるのかよ...
と思い振り返ると校長がほんのわずかに頷き
「三限以降も頑張り給え!」
と言ってくれた。
つかめない人だけど、ちゃんと校長なんだよな。
.........
......
「さて...」
赫弥の居なくなった校長室。篝谷の声だけがやけに響く。
(しゃべる世界樹...裂け目の先の世界...「おいでになる。」という文言...)
彼の脳裏に遠い遠い過去の記録がぼんやり浮かぶ。そして赫弥の口にした情報が、その記録を記憶へ、より確固たるものに染め上げていく。
「...また...貴様らか...」
............
.........
校長とも話ができ、その後医務室で無事に眼帯も取り外してもらえ...
「オレ、完全復活ぅ!」
「大げさ。」
「二限ほっぽり出してどこ行ってるんだろって思ったら、校長に呼び出し食らってたのね。」
「今度は何しでかしたんですか?」
「扱い雑くね?」
オレは今、ナナトと紅月、それにつむぎと四人で昼飯中だ。
今日は珍しく、ナナトと紅月の狙いが被らなかったらしい。食堂は平和だ。
ホントはこういう日だけならいいんだけどね。
「校長があんたに用があるなんて、正直想像つかないもの。」
「オレが校長に用があったの。ちょっとした相談だよそうだん!」
「相談って何よ?」
「詮索はしないけど、どうせ呼び出しだろ?」
「悩み事とかなさそうですもんねぇ。」
「お前らホントに今日雑過ぎない?」
「「「いつも通り~♪」」」
「ハァ...フフッ」
他愛もない会話に、適当なツッコミ。どうでもいいことで笑って、どうでもいいことで言い合って。
命のやり取りをしてるはずの世界で、こういう時間があるってのは、正直ちょっと反則かな?
「...さてと全員食い終わったことだし、移動すっか!」
「次は...別クラスとの合同訓練だっけ?」
「そう。確かB組だったはずよ。」
「食後の訓練、私少し嫌いなんですよねぇ...」
.........
......
校舎最寄大森林。「Skillsphere」の管轄地の一つ。中はかなり濃い魔力でおおわれており、時折Aランク越えの魔物が現れることもあったそう。そこで、こうやって生徒たちに訓練と同時に、森林内の魔力の消費をしてもらうというわけだ。
「ということでだな、今回の授業は合同訓練。この大森林で行う。」
引率の真視先生が空を覆い隠すような木々を背にして呼びかける。
木々の手前にはフェンスゲート。「一般人立ち入り禁止」と書かれ、中央に髑髏マークのある真っ黄色な看板が掛けられている。先生たちの手で手入れはされているが、どこかぬぐい切れない異様さがうかがえる。
「この訓練は試合形式。さっき配った端末、あれがお前らの状態を常時モニターしてる。森の中でB組と戦え。気絶、もしくは降参した時点で自動で防御結界が展開、同時に位置情報がこっちに飛ぶ。その時点で脱落だ。これは卒業後の配属部隊からの選抜にも響く。気合い入れろよ、以上。」
先生は長々とした説明を終わらせると、ガラガラとフェンスを開け、「ほら、始めろ」とでも言うように我関せずでボーッとし始めた。
「しゃっ!いっちょやったるぜぇ!」「1番隊入りたいし頑張んないと!」「痛い思いしたくないなぁ...」「一人じゃ危険だし組んでいきましょ。」「B組ってどんな奴いたかな?」「弱いやつに当たりますように...!」
魔の森へ猪突猛進するもの。自らの願いを胸に歩み始める者。自らの身を案じる者。策力を練り少しでも生存率を上げようとするもの。ペアを組み協力しようとするもの。皆様々な覚悟と思惑を胸にフェンスの奥に進んでいく。
「変なやられ方すんなよ?」
「じゃ、またあとで会いましょうね!」
「なるべくけがはしないように!」
セセラギ、紅月、つむぎも、それぞれ森の中へ散っていく。
「...さてと、ほぼ全員行ったことですし、オレも始めるとしますか!」
入り口付近の人間がオレと先生だけになったころ、オレはようやく立ち上がり森に向けて歩き出した。
「随分ぼさっとしてる時間長かったじゃないか、何か理由でもあるのか?」
振り返ると、先生がこちらを見ていた。
「まあ、ある程度ってぐらいですけど。B組面倒な奴が一人いて...」
「あぁ...あいつか。まあ、頑張ってこい。」
「はい!行ってきまーす!」
手をひらひらと振って、そのまま欠伸とともに森へ踏み込んだ。
.........
......
「Aとの合同訓練...くうぅ!久々だなぁ! 今度こそ勝たないとなぁ...ニシシッ!」
大森林内、木々の間を縫ってひたすら速度を上げる人影。体のところどころに装甲とウロコのようなものが輝き、皮膚を内側から押し破るようにして、鈍く光る殻が浮き上がっている。
「あの日の借り、ここで返してもらうぜ...?待ってろよぃ!」
オレも篝谷校長とお茶してぇ...
キャラデザはもうしばらく...まだ絵が下手なもので...
☆タイトル別案 「それは既知のもの」「伝説と記録と記憶」「森に散る」




