灯りとただの温もり
試験直前なのに筆が進む進む
横たわっている身体。後頭部に触れる柔らかい羊毛のクッション性。4年前、まだ駆け出しだったころはよく見た天井。そして、半分だけの視界。
「...あ、起きた。歪さーん、赫弥さん起きましたよー。」
隣に座っているのは、このギルドの医療班のベテランの方。
数秒後に鏡夜センパイが入ってくる。
「ようやく起きたぁ...気分はどうだ?」
「片目見えてないっすね...あと『加速』の使用負荷でちょっと体が痛む程度ですけど...」
ここはギルドの医務室。壁には雑に貼られた注意書きと、割と新しめの補修跡。消毒液の匂いと、やけに清潔な白いカーテン。そして少しだけ漂う治癒魔法の魔力。
オレもまだ入りたての頃はよくお世話になってたっけ...
「というかなんでこんなことになってるんでしたっけ?」
センパイは入り口近くの壁に寄りかかって口にする。
「ダンジョンもぐってボス部屋まで行って世界樹切り倒し(※粉々にした)たらコアが復活して変なことしゃべりだしt」
とセンパイが続きをしゃべろうとすると
「待ってモンスターがしゃべりだした?いったい何の話ですか?」
医療班の方に邪魔された。
「あ!、いや、えとー...」
まあ、そりゃ聞きたくもなるだろう。
「人語らしき言葉を意味を持って発する魔物」
当事者のオレでもさすがに信じられない。だからこそ、その場にいたセンパイに改めて質問したのだが...
「幻聴...ってわけじゃなさそうだな...」
......
...
医療班の女性には無理やりごまかしを入れて、オレ達はギルドを鉄砲玉のように飛び出した。
しばらくは駆け足。その後ギルドからだいぶ離れ、ゆっくり歩き始める。
「いやぁさすがにあの程度のごまかしじゃ怪しいか?」
「今はこれくらいでいいと思いますよ。でもこの情報どうしましょうか...」
新種の魔物が出た。これだけなら、まだよかったが、しゃべるともなると話は変わってくる。
今まで人間に化ける魔物はいた。ただしそいつらは見た目を似せることができるだけで人間の振りなんて到底できるような奴らじゃない。だがついにそいつらまで言語をしゃべりだしたら...
こんな情報、軽々しく流していいもんじゃない。
「ムムム...うぅん...校長に話してみる...ってのはどうだ?あの人こういうのには慣れてるだろうし。」
「慣れてるかどうかは知りませんけど...」
まあ、それが一番無難だろう。
「大厄災」発生当初からの数少ない生き残り。「Skillsphere」を結成し「異能力者」達の立場を確立するために国と法律を動かした人間だ。そう生半可な覚悟と行動心理を持った人間じゃない。口も堅いだろうし...
「んじゃ明日相談してきますね。」
「任せるよ~俺あの人には迷惑かけてばっかだったし、正直顔合わせにくいんだ。」
「一体何やらかしたきたんすか...?」
「いろいろー」とセンパイが呟いているのを片耳に流していると、道の端のおでんの屋台が目に入った。まだこういうとこやってるんだ...
「あ!そーだ!お前が気絶した後、すぐダンジョンが崩れ始めてよ!お前のこと担いで出口まで走り回ったんだぜ?」
「え?」
「結構な迷惑かけてくれたんだ。奢ってもらうぞ?」
と言ってセンパイは屋台に向かって走る。
「うぇ?ちょ、ちょっと...んもーぅ...」
......
「おじさん!卵と大根プリーズ!」
「はいよぉ!」
「ちょ、まだ奢るとは言ってませんよ?」
オレも後から追いつく。センパイは勝手に注文を取っていた。
「はぁ...おっちゃんオレ巾着とちくわ...」
「おう!任せな!...その眼帯ハンターさんかい?」
元気のいい返事の後、屋台のおじさんがオレの顔を見て聞いてきた。
「ん?眼帯? あぁ!これね!しっかり治してもらったし、明日には外せますよ。心配しないでください。」
「そうかい...」
「...」
こういう会話はよくしてきた。んでこの沈黙もよく過ごした。これはやさしさからくる沈黙だってこともわかってる。でも...
「...マジで心配しないでくれよ、おっちゃん。多分今だいぶ気遣ってくれたんだろうけど、こういう時は感謝とか労いとかのほうが、オレとしてもハンターのみんなとしてもうれしいと思う。」
「でもなぁ...」
「アンタ等みたいな人たちを守るためにハンター達は戦ってる。オレは金のためってのもあるけど(笑)。だからこれからも、こうやって屋台続けてくれよ。」
「...そうか!」
そういうと店主はオレに具材が乗った皿を渡してくる。
「あれ?なんかちくわ多くね?」
「おっちゃんからの労いだ。受け取ってくれよな!」
「!...ありがとうございます!」
実際ハンターや隊員なんて毎日命の取り合い、とられ合いだ。こんなに笑って過ごせる職じゃない。でもこうやって直接感謝される職もそう少ないほうだろう。
「...ハンターも悪いもんじゃねぇよな...!」
屋台の灯りが、やけにあたたかく見える。この感覚は忘れないでいたい。
.........
......
ペース上げていきます...!




