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53. 春の香は甘く漂う平を隠して

明けましておめでとうございます。

これ書いてるのは、まだクリスマス前ですが。


平穏な日々が続いた。


学校では俺と透子の仲は最早興味を引く話題でもなく、まるで昔からそうだったように日常の中に受け入れられていた。人前で露骨にベタベタすることは流石に控えているが、手を繋いで一緒に下校するくらいは許容されている、と思う。


学校以外の場でも、俺と透子は互いの家を行き来して、家族にもすっかり受け入れられている。お泊りはまだ許してもらえてないが、それも時間の問題のような気がする。あくまで、大事な一線は越えないという前提ではあるが。


剣道場の方も順調だ。俺がお世話係に徹している間も、漣はしっかり稽古を積んで、もう初心者とは呼べない程の力量を持っている。俺や詩音にはまだ一日の長があるが、それもいずれ追い付かれるのではないかと思う。そのくらい成長著しい。


本人も手応えを感じているのか、以前よりも更に前向きに取り組んでいると思う。それでいて、ピアノや合唱もちゃんと手を抜かず続けているのだから、このスーパーイケメンはこんなとこにいていいヤツなのかと疑いたくなる。


詩音は、1月に4人で遊んで以来、少し雰囲気が柔らかくなった気がする。俺の前では以前と同じような調子だが、漣の前ではどこか態度がよそよそしいというか、あれが詩音なりのデレなのか。いっそ、もう付き合っちまえよと思うのだが、案外、俺の知らないところではもう、そうなってたりしてな。もしそうなら、いつかは教えてくれるだろうから、こちらからは敢えて詮索しない。


透子に関しては、口を開くと惚気しか出てこないくらい、俺はすっかりベタ惚れしてしまっているようだ。まるで、俺をダメにする魔法のようだ。初恋って怖いな。これも全部、透子が可愛いのが悪い。


結局、剣道を習うことは諦めさせる形になったが、月に1回だけ詩音の家に泊まりで来て、道場で俺の補佐をしてくれることになった。しかも、ちゃんと白い胴着袴を着て。補佐と言っても子供達を並ばせたり、トイレに行きたくなった子を親元に連れて行ったりとか、そんな雑用ばかりだ。それでも、本人は楽しそうにせっせとお世話している。


子供の部が終った後はすることがないので、体育館の隅で俺の竹刀を使って見様見真似で素振りをしていた。本人は二の腕の筋肉を引き締めたくてやってるらしいが、その姿を見て、道場の大人達からも受け入れられたように思う。


その内、俺の家に泊まる許可が降りるようになれば、毎週でも道場に来そうだな。俺としては嬉しい限りだが、やはり不安が心に残った。


翌日の日曜日、今度は皆を俺の家に招待した。遊びに行くにはお小遣いの残高が心許なかったからだ。例によってトロフィーが見つかり、漣が感動で目をキラキラさせる。透子はキッチンを使ってみんなに手料理を振る舞い、好評を博す。ウチには大した娯楽がないので、だだ会話をしたり、トランプで遊んだりしながらのんびりダラダラ過ごすだけだが、それもまた楽しい。



3月になり、今度はなんと、漣の家に全員で遊びに行った。思っていた通り、漣の家は裕福だった。広い庭つきの西洋建築で、防音対策がしっかり施されたピアノの練習室もあった。ピアノは勿論グランドピアノで、音響機器も本格的なものが揃えられていた。


俺と透子が唖然としているのに、詩音は何故か落ち着いているのが気になった。すると、しっかり透子が問い詰めて、詩音は既に一度ここに招待されていたことが分かった。


それならそうと言えよな、と俺と透子は一応言ったが、まあ、その頃には二人の仲は公然の秘密ってやつだった。堅かった詩音の表情が、漣と会話している時だけ普通の可愛い女の子になっていたら、誰だって気づくというものだ。


漣のピアノ演奏を聴かせてもらい、至福の時間を過ごす。その間に家政婦さんがアフタヌーンティーセットを用意してくれて、漣のお母さんも交えて庭で一緒にお茶を楽しんだ。まだ3月の外の空気は少し寒いが、早春の日差がポカポカと暖かかった。



そして、4月。俺達は3年生に進級した。


俺と透子の仲は教師達にも知れ渡っているので、意図的にクラス替えで分けられるかもしれないと心配していたのだが、実際は受験対策しやすいように成績順で分けられたようだ。放課後勉強会で2人共成績が等しく上がったのが功を奏して、俺達はまた同じクラスになれた。田口とは別のクラスになったが、それを気にするヤツはいなかった。


いよいよ、進路をどうするか真剣に考えなければならないのだが、それはそれとして、春は習い事の季節だ。今年も小さな新入門生が大量にやってきた。俺はその対応に追われる形になる。そこで、透子を俺と詩音の家に毎週交互に泊めることにより、道場の常勤お手伝いとして来てもらうことになった。遂に互いの両親に認めさせたのだが、勿論、俺の家に泊まる時は部屋は別々である。


しかし、寝る前はパジャマ姿で俺の部屋にいたりするので、初日は俺の理性が保つか自分でも心配だった。親の目と耳があるので何もできないのだが。せいぜい、抱き合ってお互いの身体の感触を確かめ合うことくらいだ。それが風呂上がりのシャンプーの匂いだとか、ネル起毛のパジャマの感触が良すぎたりだとか、いや、これ以上は言うまい。いや、本当に何もしてないって。まあ、ちょっと透子の柔らかい部分を触ってしまったかもしれないが、あくまでアクシデントだ。



俺と師範の夜のお遊びも継続している。字面がヤバいが、やっていることもヤバい。中学生とお年寄りが毎日組み合っているのだからな。よぼよぼのじいちゃんに投げられ、転ばされ、締められ、組み伏せられる。同じ技をじいちゃん先生に試す。それを簡単に返される。ひたすらこの繰り返しだ。役に立つことがないのが理想だが、俺は自分の不安を拭うために、欠かさず通い続けた。


それにしても、じいちゃん先生は本当に人間なのだろうか。年寄りの皮を被った別の生き物なのではないか、と割と真剣に疑っている。世の中のお年寄りはあんな動きをしないと思うんだ。普段、道場で見せているよぼよぼした姿はきっと相手を油断させるためのものに違いない。武を志すにはきっとそういうことも必要なのだろう。


そうして過ごす内に、春の大会の季節になった。


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