48. 新学期の悩みと不安は尽きなくて
「これでよしっと。」
透子は今日撮ったプリクラの内、自分と涼太のツーショットをさっそくスマホケースに貼っていた。写メもいいけど、画面に映さなくても直ぐに見れるプリクラもいいものだ。
仲良さそうに写っている写真の中の2人。涼太とこんな仲になれるなんて、半月ほど前までは全然想像できなかったのに。まさか、抱き合ったりキスしたりするなんて···
思い出しただけで顔が熱くなった。涼太の前では平気なふりをしてるけど、今でも手を繋ぐだけでドキドキしてしまう。最近は涼太の方からもスキンシップを求められるのが、嬉しい反面、自分を見失いそうでちょっと焦ってしまう。
男と女が二人切りになると理性を失うって、具体的にどうなるのか分かってなかったけど、今なら求められたら簡単に全てを差し出してしまいそうで、自分でも怖い。涼太は宣言通り無茶な要求はしてこないけど、いつまで守るつもりの約束なのだろうか。
18才だと、結構先だなあ···
高校生になったら?それでも、1年以上先だ。
待ち遠しいような、やっぱり怖いような。
いっそ、そういうことになる前提で、事前に用意をしておけば···いやいや、肉体関係を持つことが重要なのではない。涼太の心を自分に繋ぎ止めておくことが大事なのだ。既成事実を作って涼太を縛ることが目的なのではない。
私はただ、今の幸せが1分でも1秒でも長く続いてほしいだけ。そして、涼太自身にも幸せを感じてほしい。そのために、できることは何でもやるつもりだ。それが身体を求められることだったら···ダメだ、堂々巡りだ。
自分の身体を服越しにペタペタ触ってみた。詩音に言われた通り、確かに女性らしい体つきになってきている。元々発育はよかった方だし、体形を維持するための食事バランスや運動は心がけている。詩音に比べて筋肉が少ないので、ちょっと頼りない感じはするけど。涼太の目にはどう映るだろうか。
やっぱり、私も剣道始めようかなあ、と二の腕を摘みながら考える。若さのおかげで弛んでないけど、プヨプヨだ。年相応になったら、真っ先に垂れ下がってきそうだ。年をとったら、涼太に捨てられるのだろうか?
いや、身体がどうこうと言う前に、涼太と趣味を同じくしていれば、この先の人生、涼太と過ごす時間をもっと増やせるのではないだろうか?剣道···できるかな、私に。
道場は元々通ってた小学校の体育館だから、家から通うのは距離的に問題はない。問題なのは帰りの時間だ。稽古が終わるのは夜9時過ぎだから、さすがにその時間に1人で帰るのは怖い。では、少年の部が終わる時間に先に帰るのは?それだと、涼太と接する機会がない。
土曜日に会うことだけを諦めれば済む話ではあるけど、そうすると、せっかく仲良くなれた詩音や漣とも会う機会がほぼなくなってしまう。元々、私だけ仲間外れなのが寂しいってとこから始まってるのに。
稽古後に涼太に家まで送ってもらうのは···涼太に苦労かけてしまうけど、これが一番の妥協点かなあ。ダメなら諦めるしかないけど、相談だけでもしてみようかな。
涼太は私が剣道をすると言ったら、どう思うだろうか。詩音から聞いたあの事件の話。さすがに、まだ中学生の私に言い寄ってくる大人がいるなんて思えないけど、世の中何が起こるか分らないしね。やっぱり、心配かけちゃうのかな。
もう一度プリクラを見る。ただ、涼太に会いたいだけなのに、一緒に過ごしたいだけなのに。未成年というのはままならないものだ。涼太は一人の時に、私のことを考えてくれたりしてるのかなあ···
ピコンとスマホの通知が鳴った。涼太からのメッセだ。
『今日の透子もめっさ可愛かった』
くうううう!そういうとこだよ、ホントに!
『涼太はいつも通り格好よかったよ』
透子からの返信だ。俺、いつもカッコいいか?まあ、俺のことを好きでいてくれるから、思考に何か補正がかかっているのだろうな。プリクラみたいに。
実際、未だに透子が何で俺なんかを好きでいてくれるのかよく分かってない。小学校の虐めの件があったにしろ、あれはもう5年も前の話だしな。よっぽど一途な性格なのか。裏切ったり、怒らせたりしたら怖そうだな。
まあでも、透子を裏切るとかありえない話だ。怒らせてしまうことはあるかもだけど。きっと、怒る顔も可愛いに違いない。俺の思考にも相当に補正がかかっているようだ。ヤバい。
さて、俺の中の年末年始の大きなイベントはあらかた終ったことになる。後は粛々と3学期を過ごし、3年生になって受験シーズンを迎えるのみだ。その間も剣道の大会なり、今日のような遊びを入れたり等、色々あるだろうけど。
本当にそんな平穏な日々が続くのだろうか。時々襲われる言いようのない不安感。それが昨日の稽古の帰り際に師範から言われた件で形を成してきたような気がする。
どうすれば対処できるだろうか?何もしないで座して待つより、結果何も起こらなくて無駄になったとしても、できることがあるなら手を打っておきたい。
まず、放課後に透子と勉強会をするので、それ以外の日は市民体育館で筋トレをする。そのために、ランニングは今のまま早朝の時間に継続する。これに何かを足すとしても、遅い時間になるなあ。
家に庭があれば、そこで竹刀を振ることもできるのだが、生憎そんなスペースはない。そもそも、竹刀を振るだけでは不十分な気がする。いつも手元に竹刀があるわけじゃないからな。竹刀がなくてもできることは···
俺はあることを思いついた。早速、明日師範の家を訪ねよう。多分、いや、きっといい顔はされないと思うけど、説明すれば理解してもらえるはずだ。




