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47. 新学期のプリクラ撮影会は修正なしで

詩音がちゃっかりリクエストした映画の歌も、漣は難なく歌いこなした。今回は詩音も動揺しないで、しっかり聴き入っていた。その後は、漣の指導による腹式呼吸と発声の練習、そして皆で同じアニメソングを歌った。


詩音も皆で一緒なら恥ずかしさが薄れたのか、ちゃんと歌っていた。というか、恥ずかしがる割には俺よりも全然上手いじゃないか。


漣はさすがに合唱をやってるだけあって、俺達の雑な歌声にもちゃんと合わせてくれた。漣の声にかき消されることなく、全員が気持ち良く歌えたのではないだろうか。


そして、2時間があっという間に過ぎ、カラオケ店を出た。外は日が傾き始めていた。


「じゃあ、最後にそこのゲーセンでみんなでプリ撮ろうか。透子、俺はプリのことはさっぱりだから、任せるな。」


「うん、任せて。と言っても、普通に撮れるシンプルなのでいいよね?漣なんて修正するとこないし。」


「修正?」


「自分の顔を見栄え良く加工する機能があるんだよ。」


「へえ、でも、それって写真としての意味あるの?」


「漣にはないだろうけど、そういうのを有難がる人は一定数いるんだろうな。ま、俺なんて鏡すら歯を磨く時くらいしか見ないし、自分の顔なんてどうでもいいけどな。」


「涼太はもっと自覚を持つべき。」


「本当だよねえ。でも、自覚して悪用されるよりはいいかな?」


「アハハ、どちらにしても三木谷が苦労するんだね。」


「いったい、何の話だよ···」


「だから、そういうとこ!」




4人全員、俺と透子、漣と詩音、俺と漣、透子と詩音の組み合わせでプリクラ撮影。他に利用者がいなかったので、ゆっくり撮影できた。


「へえ、なるほど、シールになるのか。これはいいね。」


「ていうか、補正なしでこれって、みんなスゴイよね。」


「詩音と漣の写真、微妙に距離感あるよな?」


「あなた達がくっつき過ぎなのよ。まあ、別にいいけど。」


「えへへ、やっと涼太と撮れた。これスマホケースに貼っちゃおう。」


「つか、俺と漣の写真いるのか?男2人って需要ないだろ。」


「僕にはあるよ。男の友達とこういう遊びをするの初めてだからね。」


「あれ、女の子とはあるの?」


「プリクラはしたことないけど、一緒に写真を撮りたいという申し出は何回か受けたことあるよ。公演の後とかね。」


「ああ、なるほど、ファンの人達ね。よかったね、詩音ちゃん。」


「な、なんの話よ。」


「うふふ、さあ、何でしょう〜?」


「さ、もう外も暗くなるし、そろそろ帰ろうか。みんなお疲れさん。今日は付き合ってくれてありがとうな。」


「僕の方こそだよ。新しい体験がたくさんできて、そのどれもがとても楽しかった。またぜひ、宜しく頼むよ。」


「うん、楽しかったねー!詩音ちゃん、また一緒にオシャレしてお出かけしようね。」


「うん。今日は楽しかった。途中、泣いちゃって悪かったけど···」


「誰も気にしてないって。じゃあな、また土曜日に。」


俺と透子はいったん詩音の家に寄り、荷物を持ってそのまま透子を家に送った。帰りはすっかり真っ暗だった。楽しい時間はいつもあっという間だ。


漣と詩音の距離は少しは縮まったのだろうか。俺にできるのは場を提供するくらいで、あとは本人達次第だからなあ。


それにしても、年始からお小遣いを使い過ぎた···まだ月初なのに、これからどうしたものか。高校生になったら、アルバイトたくさんしよう。





詩音は湯船に浸かりながら、今日一日のことを思い浮かべていた。最初はあまり乗り気じゃなかったけど、総じて楽しかったと言える。人と一緒に遊ぶこと自体、すごく久し振りだった。


漣に手を差し出された時はどうしようかと思った。男子から女子として扱われたことがなかったから、内心すごく動揺した。


最初、漣のことはイケメンだとは思ったけど、苦労知らずのお金もちのお坊ちゃんくらいにしか思ってなかった。きっと、剣道も気紛れに始めたもので、すぐに飽きて辞めるだろうと。でも、涼太と稽古している姿を見て、そして実際に手を合わせてみて、本気で剣道をやりたいのだと伝わってきた。回を重ねるごとにどんどん上達してるのを見ても、自宅で一人稽古を自分に課してるのは明らかだった。


只でさえ、才能溢れる人が努力もしている。私はちょっと漣に嫉妬していた。どうして、そんなに沢山のものを持ち得るのかと。それで、稽古でも少し辛く当ってしまった。でも、それにも漣は輝くような笑顔を返した。私は自分のちっぽけさを益々実感せざるを得なかった。


そして、あの手だ。間近でじっくり見たのは初めてだったけど、漣の手は苦労知らずのお金持ちのお坊ちゃんのそれなんかでは全くなかった。長い間、ピアノの修練に費やした苦労人の手だった。ムダな肉が一切なく、骨と皮だけのようなやせ細った指。それでいて、それぞれの指の可動範囲はとても広そうだった。一本一本の指がまるで別々の生物のように。


なのに、そんな苦労をカケラも見せずにいつも笑顔を絶やさない。漣の美しさは心の中から湧き上がるものなのだと、やっと理解した。私は敬意を持って手を取った。


でも、それでも、まだ私は漣という人間を侮っていたのだ。あのピアノの演奏、あの歌声。話には聞いていたけど、あまりにも圧倒的だった。私の持っていた小さな意地は、呆気なく粉々にされてしまった。


気づいたら、涙を流していた。漣の歌に感動していた。あの歌は私もとても好きで、流行っていた頃はよく口ずさんでいた。でも、まともには歌えなかった。難しさをよく知ってるから、漣の歌唱力が尋常じゃないことは直ぐに分かった。


剣道の稽古では先輩ぶって偉そうに指導していたのに、道場を出たら何一つ敵うものがない。私は自分の小ささに嫌悪した。そして、心から屈伏した。今まで偉そうにしてごめんなさい、と謝ろうとした時だった。


漣は私の前に跪き、また手を取ってくれた。そして、私も漣も同じ道半ばなのだと諭してくれた。昨日言った私の台詞をそのまま返す形で···この人は何処まで私を屈伏させれば気が済むのか。でも、不思議と不快感はなかった。むしろ、心が軽くなり、救われた気がした。


私はもう決して人を侮ったりしない、と心に誓った。どんな人にもそれぞれの人生があり、敬意を評すべきものがあるのだろう。先入観だけでその人を見るのは、むしろ危険だとようやく分かったのだ。


漣には感謝している。でも、ちょっと悔しいから、道場ではもうしばらく先輩面させてもらおう。そのくらいの仕返しは許されるはずだ。きっと···あの笑顔で許してくれるはずだ。


漣の笑顔を思い出したら、顔がすごく熱くなった。きっと、これはお風呂でのぼせたんだ。そうに違いない。しかし、冷水を顔に浴びても、顔の火照りは中々治まらなかった。




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