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44. 新学期の日曜はグループデートで

日曜日の待ち合わせ場所の駅前広場。


どうやら、俺が一番乗りのようだ。スマホを見ると、10分ほど早く着てしまったらしい。まあ、昨日のあの様子だと、女子2人はきっと遅刻してくるだろう。


今日の俺の格好は薄手の黒のダウンジャケットにジーンズという極々普通の格好だが、透子にもらったグリーンのマフラーを首に巻いている。そして、靴はお気に入りのバスケシューズ。カッコいい上に長時間歩いても疲れない優れ者だ。


5分ほど待っていると、なんだかキラキラした物体が近づいてきた。勿論、漣だ。


「やあ、涼太。他の2人はまだかい?」


「おはよ。多分、用意に時間かかってるんだろう。ある程度の遅刻は想定内だ。それより、今日は体調は大丈夫か?」


「うん、先週よりは全然マシだよ。段々身体が慣れていってるみたいにだね。あ、その靴、カッコいいね。」


「おっ、分かってくれるか!そういう漣は、その眼鏡は何だ?近眼だったのか?」


「いや、これはダテだよ、なんとなく着けてみたんだけど、どうかな?」


漣の格好は細身のスーツジャケットに光沢のある薄いグレーのシャツにナロータイ、下はやはり細身のチェク柄のスラックスだ。靴は品の良さそうな革製のローファー。全体的に紳士感がスゴイ。


「知的な感じで似合ってるぞ。それより、そんな薄着で寒くないのか?」


「うん、寒いのはあまり苦にならないんだ。体幹を鍛えてるからね。」


「ほほう。その話、詳しく聞こうじゃないか。」


俺達は女子2人が来るまでの時間を筋トレ談義に費やした。話に夢中になり過ぎて時間が経つのを忘れていたが、気がつくといつの間にか人集りができていた。なぜか俺達を遠巻きに囲っている気がする。


「あー、いたいた!スマホ鳴らしたのに全然出ないんだから!」


声のした方を見ると、透子と詩音が少し離れたところから急ぎ足で向かってきていた。


「おお、すまんすまん。漣と話に夢中になってた。」


「まあ、遅刻した私達も悪いけどね。しかし、周りの人達スゴイね。何かあったの?」


「さあ?いつの間にか、こうなってた。とりあえず、移動しようか。」


俺達は目的地に向かって歩き始めた。すると、さっきまでの人集りも霧散し始めた。いったい、なんだったんだ?




(ねえ、さっきの子達、やっぱり芸能人か何かじゃないの?)


(見たことないけど、きっとそうだよね。オーラ、ヤバかったし。)


(アイドルのお忍びかしら。後から来た女の子たちもめっさ可愛かったよね?)


(こっそり、写メ撮っておけばよかったかなあ。)


(つか、誰だったのか気になる~)





「ねえねえ、今日の私達どう?朝から気合い入れてきたんだよ?」


さっきは周囲が気になってじっくり見れなかったが、改めて見ると2人の姿は俺の期待以上だった。透子はクリスマスの時も別人のようだったが、あの時は制服だったのに対し、今回は服装にも気合が入ってるのが分かる。


ベージュのニット帽にそれに合わせた毛足の長いふわっとした感じのセーター。その下にスラッと伸びた脚にフィットした細めのジーンズに革のブーツ。そして、首には俺と色違いの白のマフラーを巻いている。メイクは前回のような大人な感じではなく、明るめで目元がスッキリ輝いているようだ。


リップのカラーもそれに負けないように光沢のあるピンクを使っている。年相応な感じのはずなのに、全体的にスタイリッシュでモデルみたいだ。


詩音は白の大き目のカジュアルダウンジャケットに短めの赤色のチェック柄のスカート。その下は素足ではないが、それっぽく見える肌色のタイツ。靴は膝下まである編み上げ式のブーツだ。小柄なはずなのにヒールが高めなおかげて脚が長く見える。そして、長い黒髪をまとめて肩から前に垂らしてある。


丁寧にカットされた眉毛が顔に凛々しさを加え、不思議と和風な趣がある。メイクはナチュラルな感じだが肌に透明感があり、光沢のないルージュのリップが中一とは思えない大人っぽさを演出している。


「うん、二人とも何と言うか、同じ中学生に見えない・・・いい意味で。」


「本当だね!今日の二人はとても大人な感じがするよ。メイクも不自然さが全然ないし、とても魅力的だよ。」


「えへへ~、頑張ってきてよかった!詩音ちゃん、最初恥ずかしがって家から出ようとしなかったんだよ?詩音ちゃんのお母さんがすっごく嬉しそうに写真を何枚も撮るもんだから、逃げるように出てきたんだけど。」


「詩音がこんな女の子らしい格好してるとこ見たことないもんな。ちなみに師範代はどんな反応だった?」


「あんな表情のお父さん、初めて見た・・・」


「それは、いい意味でか?それとも悪い意味でか?」


「いいに決まってるよ、涼太。こんな可愛い娘を見て喜ばない父親なんて、この世にいないよ!」


「お、おう、そうだな。なんか俺一人だけ普通の格好で逆に浮くな・・・」


「そんなことないよ!涼太はいつもカッコいいよ。」


そう言って、透子は俺の腕に抱き着いた。二人の前でも遠慮する気はなさそうだ。


「ねえ、詩音。僕にとって今日は特別な日なんだ。記念と言うのはおかしいけど、僕にもエスコートさせてくれないかな?」


漣は詩音に手を差し伸べた。その手をまじまじと見つめる詩音。


(おっ、漣のヤツ、積極的だな)


どうなるかと思ったが、詩音は黙って漣の手を取った。

漣はとっても笑顔だ。キラキラが5割増した気がした。


俺達はそれぞれが手を繋いで歩いた。着いた先は「都会の中の水族館」というフレーズが売りの駅前施設だ。ここの館内は全体的に照明が暗く、個々の水槽がライトアップされている。水槽はどれもあまり大きくはないが展示の仕方が凝っていて、美しいサンゴ礁に色んな種類の熱帯魚が泳いでいる水槽や、珍しい生物の生体が分かりやすいように砂の代わりに透明ビーズを入れたものなど、見ていて飽きが来ない。大きな水族館もいいが、ここはオシャレ感がある。


丁度、魚にエサをあげているところに出くわし、俺と透子が立ち止まって熱心に見ている間に漣たちとはぐれてしまった。まあ、進行方向は一つだし、出口までに見つかるだろう。二人をよそにデート気分を楽しんだ。すると、少し歩いた先で漣と詩音が同じ水槽をのぞき込んで、楽しそうに談笑していた。あっちはあっちで楽しんでいるようなので、俺達は二人をそっとしておいた。


「水族館って海の近くにあるイメージなのに、どうしてこんな街中に作れたんだろうね?」


「海の近くに作るのは海水を取水しやすいようにだが、ここは人工海水を濾過して循環させることで水質を完璧に近い形で維持できるらしい。」


「へぇ~、見えないところですっごい技術が使われているんだね。」


透子のメイクは見える技術だけど、きっと見えないところでも色々努力してるんだろうな。俺はライトアップの光で照らされる透子の顔をまじまじと見た。


「なあに?どこか変?」


「いや、今、キスしたらリップが移ってしまうかなって。」


「ちゃんと落としてあげるから、いつでもしてくれていいのよ?」


「・・・後の楽しみに取っておく。」


いくら暗くても、人の目があるとこで堂々とできるほどの勇気は俺にはない。それに対し、透子は5年も一人でヤキモキしてた割には、いざ付き合い始めたらどんどん遠慮がなくなっていく気がするのだが。女って逞しい。


水族館の出口に着いてしまい、漣と詩音が出てくるのを待つ。その間に一緒に写メを撮ったりして過ごしていると、手を繋いだままの二人が出てきた。


「ごめん、待たせたみたいだね。」


「いや、大して待ってないよ。それより、二人ともそこに並びなよ。記念に写メ撮るから。」


館内は撮影禁止なので、出口付近の撮影スポットに二人を立たせた。漣はとても嬉しそうだけど、詩音は少しぎこちない感じがする。俺は係員の人に頼んで4人で撮ることにした。二人を俺と透子で挟み、フレームに入らないからと言って強引に距離を詰めさせた。


ちょっと困り顔だけど笑顔の詩音がそこに写っていた。





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