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41. 新学期の登校は気が重いようで

しばらくの間、1日1話ペースになります。

初日にやらかしてしまって、気が重い月曜日の朝。


何事もなかったかのように通学路を歩いているが、やっぱりそれを許さないヤツらがいる。


「おはよーっす、涼太。なんだ、一人か?」


「おはようって、俺はいつも一人で登校しているが?」


「ヨメはどうしたんだよ?」


「俺はまだ結婚してない。」


「なんだ、ノリが悪いな。三木谷はどうしたんだよ?」


「お前みたいにからかってくるヤツがいるから、別々に登校してんだよ。せっかく、カノジョができたってのによ。」


「ぐっ···」


こうやって、罪悪感を抱かせて撃退している。守りに入ると攻められる一方だからな。


透子は大丈夫なんだろうか?仲の良い女子グループと一緒とは言え、手の届かないところにいるのはやはり不安になる。


教室に着き、自分の席に座る。透子はまだ来ていない。しばらくすると賑やかな声が廊下から聞こえてくる。透子達のグループが教室に入ってきた。


「おはよう、涼太。」


「おはよう。何もなかったか?」


「うん、皆がいてくれたし。そっちは?」


「ああ、問題ない。」


俺が他の女子達に「ありがとうな」と声をかけると、なんだか照れくさそうにしていた。それを見て、透子が少しムッとするのは何故なのか?


「帰りはどうするんだ?」


「涼太と一緒に帰ろうと思うけど、ダメ?」


「透子がいいなら、そうする。」


「えへへ、じゃあそうしよ。」


周りからの生暖かい視線が刺さってくるが、勘弁してほしい。これでも自重してる方なんだから。昨日の感触が忘れられなくて、ついつい透子の唇を見てしまう。



新年最初の授業が始まる。意外に思われるが、俺の授業態度はいたって真面目である。昔は全然、先生の話を聞いてなかったけど、道場で子供達を指導するようになって人にモノを教えることの難しさを痛感してからは、ちゃんと耳を傾けるようになった。


すると、先生達も生徒が理解しやすいよう、興味を持ちやすいよう、工夫や努力をしてるのが分かった。そして、ちゃんと聞いていれば重要な点も分かるようにしてあるのだ。中にはクセの強い先生もいて、要点が分かりにくいこともあるが、それはそれでクセを読む楽しさがある。


受ける側にその気があれば、相手が誰であれ学べることは多いのだ。それが分かれば、みすみす聞き流すのは勿体ないことだと俺は小学生の時に悟った。そのおかげで、俺の中学での成績は結構よい方だ。


その為、高望みさえしなければ高校進学は問題なくできそうだが、問題はどこを目指すかなんだよな。



下校時、俺は透子に聞いてみた。


「透子は進路をどうするか考えてるか?」


「高校のこと?勿論、涼太と同じとこ行くよ。」


「俺はまだどこ受験するか決めてないんだけどな。」


「うん、涼太は自分が行きたいとこを選んだらいいと思う。私が行きたいのは、涼太がいる学校だけだから。」


そこまで言い切られると悪い気はしない。しかし、


「もし、男子校だったら?」


「ええっ!?涼太···やっぱり、そっちもイケる口なの?」


「どの口を想像してんだよ!仮に剣道の強豪校を目指すとなったら、近いとこだと工業高校になるらしいんだよ。」


「涼太はそっちの道を目指すの?」


「いや、あくまで、可能性の話だよ。特待生なんて、かなりの狭き門だしな。生活を剣道に全振りしてなんとかって世界だし。」


「涼太がそれを選ぶなら、私は全力で応援する。でも、正直言うと、寂しいのはやだな···ごめんね、わがままで。」


「いや、俺もあまり乗り気じゃないよ。透子の意見を聞きたかっただけだ。心配させてすまん。」


俺は透子の手を取った。


「どうせ同じ高校目指すなら、放課後に一緒に勉強するのもいいかもな。」


「うん、それいい!絶対にやる気出る!」


曇っていた顔が一転して明るくなる。今の俺に透子を諦めるのは、やっぱり無理な選択だと改めて思った。


受験勉強を本格化させるのはまだ先のことなので、とりあえず1、2年の総復習を目標に週に2度ほど、放課後に勉強することになった。図書室なら周りで騒がれる心配もないしな。


代わりに、俺達も会話は最低限しかできないが、机の下でこっそり手を繋いだり、教科書に隠れて顔を寄せ合ったりして、デート気分を満喫してるのは内緒だ。




そんな事をしてたら、平日はあっという間に過ぎた。


道場稽古のある土曜日、稽古を見学すると言う透子を迎えに行った。1泊だけのはずなのに、旅行用の大きなアタッシュケースが用意されていた。


「これ、全部着替えなのか?」


「あと、メイク道具もね。ごめんね、重いでしょ?」


「いや、体育館は寒いから厚着した方がいいのは確かだよ。」


ガラゴロと音を立てて押しながら歩いた。漣はこれを毎週やってるのか···アイツの根性ハンパないな。どこがメンタル弱いんだよ。


わざわざ体育館に重いカバンを持っていくのもアレなので、先に詩音の家に行き、先生にも面通ししておくことにした。


「先生、今日の稽古を見学する同級生の三木谷です。」


「はじめまして、三木谷です。お泊りまで了承いただきまして、ありがとうございます。ご迷惑おかけしますが、宜しくお願いします。」


「ふむ、堅苦しい挨拶は止めておこう。聞けば、うちの詩音とも懇意にしていただいているそうだね。娘が女性の友達を連れてくるのは初めてでね。至らぬところがあったら申し訳ないが、どうぞ遠慮なく寛いでいってくれ。」


こんな柔和な顔の師範代を見るのは初めてだな。


「先生、実は俺からも話がありまして。」


「うん、なんだね?」


「先日の剣道強豪校の特待生を目指すという話ですが、やはり俺は止めておこうと思います。剣の道を捨てるつもりはありませんが、そればかりを追い続けるよりも、大切なものを見つけましたので。」


俺は透子の方を見た。透子は顔を赤くして俯く。


「ふむ、なるほど。分かった。涼太君自身が決めたことなら、私が言うことは何もない。しかし、後悔はしないようにな。未成年であり、学生であるのは、長い人生の中でも短く、とても貴重な時間だ。享楽に耽っていると、その貴重さに気づかずに、あっという間に過ぎ去ってしまう。そのことを分かった上での決心ということでいいのだね?」


「はい。俺は今までの時間も決してムダだとは思いませんが、自分のためだけにそれを使うよりも、誰かのためになる形で使いたいのです。そして、今度こそ大切なものを守ると自分に誓いましたから。」


「そうか、前に進む気になったのだな。師範もきっと喜ばれるだろう。三木谷さん、涼太のこと私からも宜しく頼むよ。」


「···はい。」




俺達は詩音の部屋へ行った。


「なに、その大荷物?」


「えへへ、あれもこれも持ってきちゃった。」


「何泊するつもりよ?とりあえず、布団は用意したから。晩御飯も母がウチで用意するって。」


「ごっつぁんです。」


「なんで涼太が···」


「それよりも、さっきの話なんだけど···」


「ん、詩音に女友達がいないって話か?」


「失礼ね、いるわよ!!」


「それも気になったけど、今度こそ守るって何の話かなって。」


「ふ〜ん、そんなこと言ってたの。」


「あーまあ、なんと言うか、長いこと道場通ってたら色々あったんだよ。その時の話だ。」


「それって、私は聞かない方がいい?」


「···」


「そうだな···いつか、話す気になったら話すよ。聞いてもつまらない話だけどな。」


「分かった。じゃあ、待ってる。」


「随分、簡単に引くのね。追求しなくていいの?」


「うん、だって、大切なものって、その···私のことなんでしょ?だったら、私は涼太のこと信じるし···」


「そう。まあ、あなた達二人のことだから、私が言うことは何もないわ。」


「その言い回し、師範代そっくりだな。」


「うええ、やめてよ!!」



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