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39. 新春のイベント企画は難しいようで

ずっと、そうしていたかったが、そういうわけにもいかないので、俺は実に後ろ髪を引かれる思いで抱擁を解いた。


逆に透子はギュッと腕に力を込めて、離れたくないという意思表示をした。なんだ、この可愛い生き物は···


透子の鬢をそっと指ですくい上げ、顔を上げたところで、さっきよりも軽いタッチでもう一度キスをした。それで透子はようやく離れてくれた。


もの凄く気恥ずかしい。


俺は畳んでいた毛布を広げて透子を包んだ。身体を離したら、部屋の中が寒いことにやっと気づいたのだ。透子は隠れるように頭から毛布を被った。


「エアコン、つけようか?」


「ううん、大丈夫。毛布温かいし、もう少し包まっていたいし。」


そう言えば、エアコンって空気が乾燥するから、あまりお肌には良くなさそうだもんな。でも、女性は冷え性だと言うし、手足とか冷たくないのかな。


俺は透子の手を取って擦ってみた。俺のマメだらけの手だと痛いだろうか。俺の体温よ透子に移れ、と念じながら両手を優しく撫でる。


「涼太の手、とても厚みがあって力強い手だよね。」


「透子の手はとても繊細で、簡単に折れてしまいそうだ。でも、凄く触り心地がいい。」


「うん、いっぱい触って···」


俺は我慢できずに毛布の上からもう一度、透子を抱きしめた。結局、話し合いができるまで、もう少し時間が必要だった。




透子はまだ毛布に包まったままだが、俺達はようやく落ち着きを取り戻した。部屋で二人きりというのは本当に危険だ。


俺はじいちゃん先生のシワだらけの顔を思い出して、かろうじて理性を保った。この方法、使えるな。めっさ気が萎える副作用があるけど。


「さて、どこへ行くのがいいもんかな?」


「何だか、ダブルデートみたいだよね。詩音ちゃんと漣って、お互いのことどう想ってるのかな。」


「昨日の感じでは、完全に師匠と弟子だったな。それも、スパルタ式の。」


「う〜ん、詩音ちゃん、男の人にあまり興味ないのかな。漣なんて、めっさイケメンなのに。」


「まあ、道場にいたら、俺だってそんなこと気にならないよ。」


「え〜、私がいても?」


「気にはなるけど、師範達の前でベタベタなんてできないって···」


「うふふ、冗談よ。でも、涼太やみんなが練習してるとこ見たことないから、一度見学に行ってみようかなあ?」


「来るのはいいけど、体育館はドア全開で寒いから、見学は相当覚悟がいるぞ?」


「むむむ···ちょっと、考える。」


「考えるなら今は、どこに行くか、だ。◯駅前の水族館とかどうかな?あそこなら中学生は入場料半額だし。少し子供っぽいかな?」


「ううん、いいと思う。魚が泳いでるとこって、見てると癒やされるし。あと、あそこは隣に商業施設があるから、見終わったら、皆でブラブラするのもいいかもね。」


「透子は他に案はないか?」


「そうねえ···外は寒いから、やっぱり屋内かなあって思うけど、カラオケとかどうかな?漣の美声をもう一度生で聴いてみたい!」


「俺も聴きたいけど、漣一人に歌わせるわけにはいかないよな。ちなみに、俺は音痴だぞ?」


「アハハ、それはそれで聴いてみたいかも?」


「あと、詩音が歌うところを全然想像できない···」


「まあ、誰か一人でも嫌がったら諦めるしかないよね。」


「そうだなあ。でも、全員一致で行きたいとことなると、簡単には決まらないだろうなあ。」


「私的には4人でプリ撮りたいかな。それさえできたら、後は何でもいいよ。」


「分かった、それは計画に入れるとしよう。反対する人もいないだろうし。」


「うふふ、何だか楽しみだねえ。」


透子は立ち上がって、俺の勉強机の上を見た。


「トロフィーの数すごいねえ。噂には聞いたことあったけど。あれ?でもこれ、古いのばかりだよね?」


「ああ、そこにあるのは子供の頃に貰ったものばかりだよ。最近のは全部押入れに放り込んである。嵩張って邪魔なんだよなあ。捨てるわけにもいかないし。」


「せっかくのトロフィーを邪魔って。それが欲しくて皆頑張ってるんでしょ?」


「まあ、貰った瞬間は達成感があるよ。でも、それを眺めて悦に入るヤツなんて、ごく一部だと思うよ。試合終わったら、もう次のことを考えてるヤツの方が多いんじゃないかな。」


透子は呆れたように言った。


「それじゃ、全然気が休まらないね。」


「トップアスリートは優勝した祝勝会の後でもトレーニングするとか言うしなあ。トップに近づけば近づくほど、自分に厳しいというか、もうそれが当たり前で苦労とも思わないんだよ。メシを食うように、息をするように、己を磨き続けるんだ。」


「涼太もそうなの?」


「いや···そうだったら、皆で遊びに行こうなんて考えないよ。」


「そっか、よかった。涼太もそんな人だったら、私のこと今でも見向きされてなさそうだもんね。あれ、集合写真もあるのね。これも子供の頃の?」


「···それは、俺達が5年生の頃のだ。」


「へぇ〜、この頃はたくさん生徒さんがいたんだねえ。この真ん中のおじいちゃん、大会の時に見たことある。確かお師匠さんだよね?あとは···あれ、女の人もいたんだ。キレイなヒト〜!」


「その人は師範のお孫さんだよ。一時期、お手伝いで来てたんだ。今はもう、いないけどな···」


「そうなんだ。もしかして、涼太の初恋の人だったり?」


「俺の初恋は今、現在進行形だよ。その人は皆から好かれてて、しかも婚約者もいたから、まあ、せいぜい憧れの人って感じだったな。あの詩音でも懐いてたくらいだったんだ。」


「ふ〜ん、って、え?もしかして、私が初恋の相手ってこと!?」


「それは、そうだよ。今まで恋とかちゃんと考えた事なかったしな。」


透子は両手で顔を覆った。本当に、何を今更なんだが···


でも、顔を真っ赤にしてるところを見ると、相当嬉しそうだ。俺なんかで喜ばれるなら、もっと早くに気づいてやればよかったなあ。





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