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38. 新春の家庭訪問は緊張するとか

ウチは応接間がないので、キッチンのテーブルで話すことになった。


さて、説明と言われても、どこまで話したものか···

透子が目の前にいる状況で、あまり詳しく話すと恥ずかしさで死んでしまいそうなので、簡潔に事実だけ話すことにした。


「去年のクリスマスに聖光大の音楽祭に行ってきただろ?最初は詩音と行く予定だったんだけど、試合で怪我して行けなくなったから、透子に代わりに来てもらったんだよ。その時に親密になって、付き合おうってことになったんだよ。」


ここまで話したところで透子をチラッと見ると、小さく頷いたので、この説明で大丈夫のようだ。


「ふう〜ん。まあ、話は分かったけど、それならそうと先に言っておきなさいよ。まったく、これだから男は···ねえ、透子さんもそう思わない?」


「アハハ···私も母に無理矢理に口を割らされましたので。まだ付き合い始めたばかりでしたので、言い出しにくかったのだと思います。突然、お邪魔してすみません。」


さすが俺のカノジョ、ナイスフォロー


「いえいえ、こっちこそ驚いてごめんなさいね。それにしても、涼太にこんなハイレベルなカノジョができるなんて···涼太、学校で変な騒ぎを起こしてないでしょうね?」


ウチの母は超能力でも使えるのか?


「あ〜、皆から驚かれたかな。透子はクラスでも人気あるから。」


母は深い深い溜め息をついた。


「なんとなく、何があったか想像できたわ。次の懇談会、もう行きたくない···」


「あの〜、すみません。これ、家で作ってきましたので、よかったら皆さんで召し上がってください。」


透子が手に持っていた紙袋をおずおずと差し出した。


「あらあら、そんな気を使わなくてもいいのに。あら、美味しそうなチーズケーキ。しかも、バスク風じゃない。これ、透子さんが作ったの?」


「はい、お口に合えばいいのですが。」


「透子は料理が得意なんだ。試合の時にも弁当を作って持って来てくれたりしてたんだぞ。」


俺は透子の株を上げようと思って言ったのだが


「え、それって···透子さんは以前から涼太のことを?」


あ、そういうことになるのか。

透子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「はあ〜、ごめんなさいね、透子さん。うちの子、鈍感だから苦労したでしょう?涼太、透子さんを絶対に逃がしちゃダメよ!こんな素敵なお嬢さん、もう絶対に現れないから!」


とりあえず、ウチの母は透子と付き合うことに賛成のようでよかった、と思うことにしよう。




お茶を淹れて、3人でチーズケーキを食した。

ケーキは文句なく上手かった。


「ほんっとに、お上手なのね!お店に出してもおかしくないレベルよ、これ。」


「さすがにそれは誉めすぎですよ。でも、ありがとうございます。」


「甘いのは苦手だけど、これは本当に上手いよ。そう言えば、この前のクッキーも甘さ控えめで美味しかったな。」


「えへへ。涼太、甘いの余り好きじゃないみたいだから、お砂糖少な目なのを選んでるんだよ。ダイエットにもなるし。」


「透子さん、私は甘いのもいけるクチよ?」


「なにシレッとリクエストしてるんだよ。」


「じゃあ、今度は両方用意しますね。ところで、お父さんはいらっしゃらないんですか?」


「親父は···逃げた。」


「アンタがカノジョだってこと黙ってたからでしょ!でも、居たらいたで面倒くさいから、それでよかったかもね。」


「どこでも、お父さんってそんな扱いなんですね。」


俺もいずれそうなるのだろうか。


「さて、俺達は相談事があるから、そろそろ部屋に行くよ。」


「涼太、分かってると思うけど、透子さんに変なことしたらダメよ。まだ中学生なんだからね。」


「透子のお母さんにも同じこと言われて、無茶なことはしないって約束してきたから。ちゃんと分かってる。」


「透子さんもこの子がおかしなことしてきたら、大声で呼んでね。木刀の場所は分かってるから。」


「おいおい」


「大丈夫です。涼太のこと信用してますから。それに···」


「あ〜はいはい。もう、いいわ。どうぞ、お部屋に行って。」


諦めたように、母は話を遮って手で俺達を追いやった。

それに、の後が気になるのだが。




部屋に入った透子は物珍しそうにキョロキョロ見回したした。俺が透子の部屋に入った時と、同じリアクションだな。


「全然、散らかってないのね。まずはお部屋の片付けかなって思ってたのに。」


「まさか、それで今日はカジュアルな格好なのか?」


「うふふ、よく分かったね。まあ、初対面なのにバリバリにメイクして着飾っていったら、印象悪いかなっと思ったのもあるけど。」


と言いながら、透子は俺のベッドに腰掛け、隣に座れと手でポンポンと叩いた。勿論、俺のベッドなので遠慮なく座る。すると、透子は身体をピッタリとくっつけてきた。


「もっと、お部屋の中、汗臭いのかなあと思ってたけど、そうでもないんだね。」


「ああ、剣道の防具や道具は外の納屋に入れてるんだ。親達が、臭いから家に入れるなるってうるさいんだよ。ひどいよなあ、元々は自分達が剣道やらせておいて。」


俺はちょっと緊張しながら答えた。俺の部屋に透子のいい匂いが充満している。それが何故かドキドキする。


透子の膝の上に置かれた手が見える。触りたい。


ここは俺の部屋の俺のベッドの上だ。

何をしても俺の勝手ではなかろうか?


いや、さっき何もしないって言ったよな、俺···

まあ、手を触るくらいなら、いつもやってるし。


俺は透子の手に俺の手を重ねた。ちょっと、ピクッと動いたが構わず撫でると、とてもスベスベしていた。料理好きなのに手荒れしてないのは、ちゃんと肌の手入れをしてるんだろうな。


その時、俺の頬に何か柔らかいものが一瞬触れた。透子の方を見ると、目を潤ませながら、顔を赤くしていた。


えっと、今のって···


透子は伏し目がちに俺に顔を向けながら、ゆっくり目を瞑った。そして、少しだけ顎を上げる。


これは···そういうこと、だよな。

心臓がバクバクと音を立てる。

他の音は何も聞こえない。


透子の顔がだんだん近くなる。

近寄っているのは、俺なのか。透子なのか。

その可愛い顔をもっと見続けたいと思ったが、いよいよ俺も目を瞑った。




男と女が一緒にいるだけで理性が吹っ飛ぶ、という、透子のお母さんが言った言葉の意味がようやっと分かった気がした。俺と透子の唇が重なった前後の時間は、完全に世界が真っ白だった。


どのくらい、そうしていたのかも分からなかったが、息が苦しくなる前に離した。ちょっと名残り惜しかったが。


唇を離すと、俺は透子をそっと抱擁していた。

透子も俺の胸に顔を埋め、俺の腕の中で背中に手を回した。


すっごく柔らかい。そして細い。力をちょっと入れると壊れてしまいそうだ。透子が苦しくないように、力の加減をしなければ。全力で抱きしめたい欲求に必死で抗った。


透子は力一杯に俺に抱きついてる気がする。

と言っても、その力はとても弱い。


こんなにも非力で、こんなにも脆い存在がすっごく大切だなんて。俺が守らないと。今度こそ、絶対に失わないように。




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