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30. 冬の誓いはかくも尊く

差し出されたクッキーはハーブの香りがして、甘さ控えめの大人の味がした。

ストレートの紅茶にとてもよく合った。


「どう、美味しい?」


「うん、上手いよ。この前の弁当もすごく上手かったけど、透子は本当に料理が得意なんだな。」


「えへへへ」


「嬉しそうねえ。小学生の頃から料理に熱心だったのは、涼太君に食べさせたかったからなのねえ。」


「そうなのか?」


「いや、まあ、勿論それもあるけど、料理は単純に趣味よ!」


「嘘おっしゃい。毎年、2月になるとバレンタインデー用に大量のお菓子を作ってたじゃない。」


「だからあれは・・・女子同士で配るためのもので・・・」


「ふ~ん、その中でも特別なの用意してたの、お母さん知ってますけど?涼太君、この子からもらったことある?」


「いえ、ないです。」


「あらあらあら!じゃあ、誰に渡してたのかしらあ?」


「・・・涼太に渡せなくて、毎年自分で食べてました。」


「ね?こういう子なのよ!しっかりしてそうに見えるのに臆病なのよね。」


「しかし、付き合う話になったのは昨日のことなのに、なんでお母さんがもう知ってたんですか?透子から話したの?」


「いいえ、何日か前から様子がおかしかったら、私が問い詰めたの。」


「言わなかったら、スマホ取り上げるって言うから仕方なく・・・」


「クリスマスの日に急におめかしして出かけるから、誰かとデートかな?と思ったら、帰ってきたらゲッソリしていてね~。てっきりフラれたのかと思ったら、今日は朝から張り切って掃除するし、その後外出するって言うし、絶対に怪しいと思ってね。変な男に騙されていたら大変だと思って。でも、来たのが涼太君で、別の意味でビックリしたわ。」


「ご心配おかけしてすみませんでした。俺が透子の気持ちを中々分かってやれなかったのが悪いんです。だから、あまり虐めないであげてください。」


「勿論よ!可愛い娘のことだから心配だっただけよ。それでね、涼太君のことは信用してるけど、一つだけ約束してちょうだい。」


「なに、お母さん?」


「あなたたちは身体はもう大人と言ってもいいくらい成長しているけど、年齢も心もまだ子供。だから、感情に任せて大事な一線を越えることは絶対にしないと約束して。これはお互いの幸せのためよ。分かってくれるわね?」


「もう、何を言い出すかと思ったら・・・私達まだ昨日やっと付き合い始めたばかりよ?急にそんなことになるわけないじゃない!」


「それがなるのよ!男と女ってね、一緒にいるだけで簡単に理性が吹っ飛ぶものなの。あなたたちは若いから、いや若すぎるから、これだけは最初に言っておかないと、と思ってね。」


「お母さんの言いたいことは分かりました。心配はごもっともです。俺は透子を大切にしたいと思ってますので、決して無茶はしないと約束します。あとは信用していただくしかないのですが。」


「涼太・・・」


「すごいわねぇ。涼太君、あなた本当に中学生?まあ、一線さえ越えなければ大抵のことは許容するつもりよ。さあ、あとは透子の部屋でどうぞごゆっくり。」


「簡単に理性が飛ぶって言いながら、部屋で二人きりにしていいの?」


「ここまで言われたら信用するしかないじゃない。お母さんの負けだわ。」


「ありがとうございます、信用してくれて。」


「はあ、私もせめて15才若かったら、チャンスがあったかなあ?」


「もう、お母さん!」




俺達は透子の部屋へ移動した。

クッキーとお茶を持って。


「中々、お茶目なお母さんだな。」


「もう、ほんとイヤ過ぎる。」


「それだけ、透子のことが心配だったんだろ。」


「それは、分かるけど・・・」


透子の部屋に入ったのは始めてだ。女子の部屋というものはピンク色に染まっているものという固定概念があったが、意外とシンプルなものなんだな。ただ、クッションとか小物は女子らしいもので統一されている。全体的にセンスがいいのはさすがだなって思った。


「恥ずかしいからジロジロ見ないでよ・・・」


「そうか?いや、女子の部屋に入ることって中々ないから。」


「あったら、怒るし!でも、詩音ちゃんの部屋は入ったことあるんでしょ?」


「師範代の家には何度も行ってるし、小さい頃は詩音とも時々一緒に遊んでたからな。あの頃の詩音はガキ大将みたいで、チャンバラごっこしても全然勝てなかった苦い記憶がある。」


「うふふ、そういう間柄だったんだね。」


「ああ、でも、昨日の詩音はちゃんと女の子してたなあ。メイク後の顔はほんと驚いた。」


「女の子は誰でも顔を変えられるんです~涼太は騙されないように気を付けてね。」


「え?俺、騙されてるの?」


「騙してない!」


「よかった、騙されてたら俺ショックで死んでるわ。」


「そんなこと言って・・・後悔してない?」


「するわけがない。」


「本当に?私のこと・・・好き?」


「ああ、好きだぞ。」


「・・・嬉しいけど、なんか悔しい。」


「なんで?」


「だって、5年もずっと一人でヤキモキしてたのに、涼太はあっさりなんだもん。」


「う~ん、どうしろと?俺もこういうの初めてだからなあ。」


「例えばあ・・・もっと近くに来てくれるとか、手を握ってくれるとか」


「さっき、お母さんに約束したばかりなんだけどな・・・」


「一線を越えなければいいんでしょ?それくらいしてくれても、いいんじゃないかなあ、とあなたのカノジョは思ってますけど?」


「俺のカノジョが寂しがり屋なのはよく分かったよ。ほら、手を貸して。」


差し出された手を取ると、俺はちょっと力を入れて透子を引き寄せた。ベットに横並びに座るように促し、片手は透子の手を握り、もう片手は肩を抱き寄せた。そして、透子の頭に俺の頭をくっつけた。


いい香りがするなあ。

俺、臭くないかな。

朝にシャワー浴びておいてよかった。


「涼太のにおいがする・・・」


「ん、臭くないか?」


「んーん、いい香り・・・安心するにおい」


「一線ってどこまでが一線なんだろうな。」


「・・・試してみる?」


透子の心臓の音が聞こえてくるようだ。


「今はこれでじゅうぶん満たされるよ。」


「うん、私も・・・」




しばらく、無言で時を過ごしたが、よく考えたら色々相談するために来たのを思い出した。


「俺達のこと、周りに何て説明しよう。」


「正直に言うしかないかな、と思ってるけど。あくまで、近しい友達だけだけど。」


「漣と詩音はグループメッセで報告するとして、問題はクラスの奴等だよなあ。透子は男子に人気あるから、絶対に色々追求されるだろうな···」


「それを言うなら、女子達に知れ渡ることの方が怖いよ。私の友達は分かってくれると思うけど、他のグループの子達から恨まれないかしら。」


「透子がなんで恨まれるんだ?」


「それ···マジで言ってる?」


「マジもなにも、全然分かってない。」


「この、無自覚男めえ!はあ、分かってたけど、思ってた以上に大変そう。」


「後悔してるのか?」


「全然!」


俺は肩に置いていた手で透子の髪を触り、指で梳くようにいじった。スベスベした肌触りにシャンプーの香りがして、とても心地よい。


「女子達がどんな反応するにしても、困ったことがあったら全部俺に言ってくれ。土下座してでも守るから。」


「なんで謝る前提なのか分からないけど、信じてる···」



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