31. 冬のやけ酒はほろ苦く
しばらく透子の部屋で過ごしていると、下の階が何やら賑やかだ。どうも、外出していた透子の父と弟?妹?が帰宅したようだ。
お母さんとはなし崩し的に面接になったけど、今度はちゃんと挨拶しないといけないな。頑固な親父さんだったら、どうしよう?娘はやらーん!みたいな
「そろそろ帰らないとだし、最後にお父さんにも挨拶してくるよ。」
「そうだね···ねえ、お正月は予定あるの?」
「特にないよ。日課のトレーニングくらいかな。」
「お正月もするんだ。じゃあ、一緒に初詣行かない?」
「いいな、それ。どこの神社がいいかな。いや、相談の前に挨拶しとこう。向こうも待ってるかもしれないし。」
「お父さんなんて放置でいいと思うけど。」
ちょっと膨れ面の俺のカノジョ可愛い。
「そうはいかないだろ。さ、行こう。」
俺達は階下に降りた。リビングにはお父さんらしき男性が椅子に座っている。透子の弟?妹?はどこだろう。
「はじめまして。真中涼太です。お邪魔してました。」
「ああ、丁度、話を聞き終わったとこだよ。透子の父だ。我が家へようこそ。」
「すみません、大晦日の慌ただしい時にお邪魔して。」
「構わんさ。最近は大晦日、正月と言っても、特に何もしてないからね。」
「そんなこと言って。私と透子がお掃除始めたら、外に逃げたくせに。」
「あーごほんごほん。ところで、もう帰るとこかい?」
「はい、そろそろお暇しようかと。」
「そうか、せっかくだし、ゆっくりしていってくれて構わんが。なんなら、晩御飯食べていったらどうだい?」
「えっと、よろしいのですか?お父さんもせっかくの休日ですから、ゆっくり家族団欒を楽しみたいのでは···」
「母さん、ホントに彼、中学生かい?」
「気持ちは分かるけど、透子の同級生よ。」
「最近の子はすごいなあ。透子もおマセさんだと思ってたが。ある意味、お似合いなのかもしれんなあ。」
「すみません、ちょっとお聞きしたいのですか、透子の弟さん?妹さん?はどちらに?」
「は?いや、ウチは透子だけだよ。」
「え、でも、下の子と一緒にお出かけされてたと···」
「ああ、母さんの言い回しなんだ。おいで、柊太。」
お父さんが足元から何かを抱き上げた。柴犬だ。
「この子の散歩に連れて行ってたんだよ。」
「へえ、可愛いですね。名前、トウタっていうんですね。」
「ああ、透子がつけたんだ。捻りがないだろ?」
「うるさいな。」
「いや、可愛い名前だと思います。透子のトウに太···あれ?」
「トウタ···リョウタ···ああ、そういうことだったのか。母さんビールくれ!」
結局、晩御飯も一緒にいただくことになった。
「まさか、可愛がってた犬の名前がカレシの名をもじったものだったとはなー お父さんも精一杯、ムスメを可愛がってきたつもりなんだけどなー」
「ほら、アナタ、いじけないの!それに、柊太を飼い始めたのは涼太君と付き合うもっと前ですよ。」
「そうなのか?ちなみに、透子はいつから涼太君を好きだったんだ?」
「小学3年生の頃から。」
「チクショーやっぱり、そうじゃねえかよチクショー」
「なんか、すみません。」
「いや、いいんだ。私には柊太がいるし。あれ、柊太はどこだ?」
「さっきから、俺が抱っこしてます。」
「チクショー 柊太もチクショー」
「面白いお父さんだな。」
「私は全然面白くない。」
「まあ、冗談はさておき。私には冷たいが大切な娘だ。どうか宜しく頼むよ。どうか、私の目の届かないとこでは代わりに守ってやってほしい。」
「はい、それは任せてください。」
「透子、いい彼氏さんだなあ。よかった、よかった···グー」
缶ビール1本で眠ってしまった···
「はあ···だから、会わせたくなかったのに。」
「いいお父さんじゃないか。」
「そう?しかし、こんなとこで寝ちゃってどうしよう。」
「寝室はどこだい?連れて行くよ。」
「そこの和室だけど、一人で大丈夫?」
「ああ、お父さん痩せてるし。」
俺はお父さんを抱き抱えて布団まで連れて行った。
気持ちよさそうにスヤスヤ眠っている。
透子は「私だってまだ抱っこされたことないのに···」と御立腹だ。
「すみません、すっかり長居して。」
「いえいえ、むしろウチの人がごめんなさいね。またいつでも来てね。」
「はい、ぜひ。じゃあ、透子。また後でメッセ送るから。」
「うん、気を付けて帰ってね。」
俺はやっと家路についた。
結局、これからどうするかについては何も話せなかったな。まあでも、お父さんもお母さんも話せる人だったし、交際をちゃんと認めてもらえたのはよかった。
帰宅した俺は早速、透子にメッセを送った。
今から、漣と詩音に俺達のことを報告しようと。
(涼太が入室しました)
(透子が入室しました)
(詩音が入室しました)
(漣が入室しました)
涼太「漣、久しぶり。今はオーストリアだっけ?」
漣「うん、ウィーンだよ。」
詩音「いいなあ、ヨーロッパ。いつか行ってみたい。」
透子「うんうん、パリやローマ、バルセロナもいいよね!」
涼太「俺は日本の温泉宿がいいけどなあ。」
漣「僕も温泉行きたいなあ。日本の景色がもう恋しいよ。」
詩音「ウィーンはやっぱり音楽関係で?」
漣「うん、合唱団の交流があってね。やっぱり、本場は違うよ。全然レベルが違って驚きの連続だよ。」
透子「この前の音楽祭でも圧倒されたけど、それよりも凄いって想像つかないなあ。」
涼太「そうだよな。あれ以上と言われてもなあ。」
漣「ネットでも聴けるけど、生の声は違うしね。」
詩音「やっぱり、いいなあ。漣、来年こそは是非行きたいから、よろしくね?」
漣「アハハ、頑張るよ。ところで、怪我の具合はどう?」
詩音「もう、殆ど大丈夫。年明けの稽古までには完治してると思う。」
涼太「最初から無理に動かさないで、ちゃんとリハビリしながらにするんだぞ?」
詩音「分かってる。それより、今日は何の用なの?」
透子「詩音ちゃん、実はね。私と涼太から報告があるんだ。」
漣「え、なになに?」
涼太「えーとだな、実は色々あって、俺達付き合うことになったんだ。」
詩音「そう、やっとなのね。」
透子「やっぱり、詩音ちゃんは気づいてた?」
詩音「そりゃあね、試合に来ても涼太しか見てないし、お弁当まで持ってくるし。分からないのは本人だけよ。」
透子「だよねー!気づかないの、おかしいよね!」
涼太「えーと、すまん···」
漣「というか、君たちまだ付き合ってなかったの?」
涼太「付き合うって決めたのは昨日だよ。」
透子「漣はわたし達がとっくに付き合ってると思ってたの?」
漣「それはそうだよ。あんなに大勢の人の前で手を繋いだり、腕を組んだりしてたら、誰だってそう思うんじゃない?」
詩音「それって、音楽祭でのこと?」
漣「そうだよ。」
詩音「そんなことしてたんだ。順番がおかしくない?」
透子「すみません···」
涼太「ちょっと待った。俺達、漣の前では手を繋いだりしてなかったぞ?何で漣が知ってるんだ?」
漣「ああ、あの会場の入口のホールにはカメラがあって、控室のモニターから見えるんだ。どのくらい観客が来てるかを目にして、やる気を出すためにね。2人は凄く目立ってたから、直ぐに分かったよ。」
涼太「えーと、つまり俺達はあの場にいた観客だけじゃなく、出演者全員の前でベタベタしていたと···」
透子「!!!」
漣「流石に全員ということはないと思うけど、かなりの人達には見られてたかもね···」
透子「ダメ···わたし、来年行けない···」
詩音「ええー!?」
涼太「1年経てば皆忘れてるって。それに、もう付き合っているんだから、恥しいことないだろ?」
漣「そうだよ、三木谷。目立つと言っても、美男美女のカップルとして目立ってたから、悪いことじゃないよ。」
詩音「うんうん、来年は私もメイクして行きたいから頑張って!」
透子「グスン···ありがと、頑張る」
涼太「三木谷はともかく、最近何かとハンサムとか美男子とか言われるけど、ホントに誰の話だよ?漣が言われるならわかるけどな」
漣「えっと···これは冗談か何かなのかな?」
詩音「この人は昔からこうです···」
透子「天然系無自覚なの···」
涼太「···?」
漣「三木谷は苦労しそうだね。クラスメイトには教えたのかい?」
透子「まだ、これから。先に二人に報告しとこうと思って」
涼太「ムダだったぽいけどな。」
詩音「そんなことないよ。おめでとうって言っておくわ。ずっと目の前でヤキモキされてたから、解決してよかった。今度からはイチャイチャされるんだろうけど、まだマシ。」
漣「詩音は辛辣だなあ。僕からもおめでとうと言わせてもらうよ。ちょっと妬けちゃうけどね。」
透子「それって、誰に?もしかして···」
漣「勿論、三木谷にだよ。涼太は僕にとっても大切な人だからね。彼を独り占めされるのは、ちょっと悔しいかな。ハハハ」
涼太「透子、安心しろ。漣が笑う時はコイツなりの冗談を言ってる時だ。」
透子「いや、シャレになってないから···」
詩音「激しく同意」
漣「涼太にはバレてたか。そういうことだから、安心していいからね。それにね、僕にだって気になっている異性はいるんだよ。」
涼太「ちょっと、待て。今日一番、いや、今年一番のビッグニュースだろ、それ?」
詩音「今年って、あと数時間しかないけどね」
透子「え〜、漣のような人が好きになるって、どんな人だろ?ただの美人さんってことはないよね?」
漣「僕はじゅうぶん美人だと思ってるけどね。好きになったのは顔よりも、何と言うか、生き様かな。その人は凄く格好良くてね。今では涼太に継ぐ憧れの人だよ。」
涼太「いや、そこに俺は要らないだろ。」
透子「ええ〜?私達の知ってる人かな?ヒント!」
漣「ごめん、それは言えない。もし分かっちゃったら、その人にも迷惑かもしれないからね。でも、いつかちゃんと言えたらと思ってるから、応援してくれたら嬉しい。」
涼太「勿論、必要だったらいつでも声かけてくれ。」
透子「うんうん」
詩音「応援でよければ、いくらでも。」
漣「ありがとう、早く日本に帰って皆に会いたいよ。涼太と三木谷、おめでとう。来年はきっと二人にとっていい年になるよ。詩音も、来年はもっと精進するから、僕と一緒に稽古してくれるかい?」
詩音「もちろんよ。でも、只でさえ忙しいんだから、無理しないでね。」
漣「詩音にそう言ってもらって嬉しいよ。じゃあ、僕はそろそろ。みんな、良い年を。」
涼太「良い年を。」
透子「良いお年を。」
(漣が退室しました)
涼太「なあ、今のって···?」
透子「そういうことだよね···」
詩音「どういうこと?」
涼太「あ〜まあ、漣も男の子だってことだな。」
詩音「当たり前でしょ」
透子「来年が楽しみだね!ってことで」
詩音「なんか、納得しない···」




