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25. 冬の見舞いはオヤツがうまい

聖光大音楽祭は俺の想像以上に年末のイベントとしてかなりのインパクトがあったわけだが、そのせいか、終わった後の反動が大きい気がする。


道場は今年の稽古を納めたので次回は年明けになり、冬休みは特にすることがなくなってしまった。ランニングや自主練は毎日ダラダラとやっているが、一人稽古だけでモチベを維持できるほど意識が高くはないので、どうしても身が入らない。


楽祭前に作った、漣と詩音、三木谷の4人のグループメッセもその役目を終えたので、今は個別に連絡を取り合うくらいだ。


詩音とは元々それほど頻繁にコンタクト取ってたわけでもないので、道場が休みに入ると今何をしてるのかも分からない。怪我が順調に回復していればいいが。


漣は年末年始を家族と海外で過ごすらしい。前から思ってたけど、きっと漣の家は裕福なんだろうなあ。まあ、それもいつか本人の口から聞くまでは、あえて触れないでおこう。


問題は三木谷なんだよな···


音楽祭の帰り道、様子がおかしかったので翌日にさっそく電話してみたのだが、大丈夫と言うだけで、何があったのか話してくれようとしない。こっちも本人がその気になるまで待つしかないのかな、と思いつつも、それではいけないような気がする。


多分、原因は俺にあるからだ。謝ってすむことなら土下座も辞さないが、理由が分からなければ何をどうすればいいのか分からない。三木谷のため、もさることながら、俺自身がスッキリしない。


と言うわけで、実力行使に出た。


詩音の怪我の見舞いを口実に、三木谷を誘い出すことにした。これなら、簡単に断られることはないだろう。我ながら策士だ。


まずは、詩音の了解を取らないとな。


「もしもし、詩音?」


『どうしたの?電話なんて珍しい。』


「今から、そっち行っていいか?」


『は?なんで?』


「怪我の見舞いだ。」


『いいわよ、来なくて。』


「また説明するが、見舞いは口実だ。三木谷の様子が音楽祭の後からおかしいから、連れ出すために協力してくれ。」


『なんで私が···まあ、彼女にはお世話になったし、分かったわ。今から来るの?』


「三木谷の様子次第だが、多分そうなる。」


『お茶くらいは出すけど、私にそれ以上の協力は期待しないでね。』


「ああ、すまんな。また後で。」


次に俺は三木谷にメッセを送った。

今から詩音の様子を見に行くから、一緒に来て欲しい、と。

待つこと数分。


ピコン


分かった、と素っ気ない返事が来た。

今はそれでじゅうぶんだ。

そっちに迎えに行く、と送信して俺は家を出た。



三木谷の自宅に着くと、既に家の前で待っていた。

顔を見るに、少しやつれているか?


「お待たせ。すまんな急に。」


「ううん、詩音ちゃん、具合悪いの?」


「それを確かめに行くんだ。とりあえず、何かお見舞いを用意したいとこなんだが、何がいいだろ?」


「そうねえ。好きなお菓子とかでいいと思うけど。」


「ふむふむ。じゃあ、商店街に行ってみるか。」


俺は三木谷に手を差し出した。三木谷は不思議そうに見る。


「どうした?」


「いや、何かな、と思って···」


「ん、今日はいいのか?」


「あ···いや、うん」


三木谷は俺の手を握った。

俺達は肩を並べて地元の商店街へ向って歩いた。


子供の頃に通った駄菓子屋は今はコンビニになっていた。

見舞いにポテチはないよな、とそこは素通りした。


「洋菓子ならそこにケーキ屋さんが、和菓子ならあっちね。」


「うーん、生クリームかアンコか···どっちも甘いな。」


「涼太が食べるわけじゃないでしょ。」


「いや、あわよくば一緒に食べようかと。」


「図々しい見舞客ね。」


やっと、三木谷の表情に笑顔が浮かんだ。いい傾向だ。


「詩音ちゃん、抹茶味が好きみたいだから和菓子屋さんに行ってみようか。」


「お、そう言えばそうだったな。」


繋いでる手から伝わるよそよそしが少し消えた気がした。



お土産も用意できたところで、詩音の自宅に向った。

師範代である親父さんにも会うことになるから、ちょっと緊張するんだよな···


玄関のブザー押すと、詩音のお母さんが出てきた。


「あら、涼太くん。いらっしゃい。今日はどうしたの?」


「こんにちは。詩音の見舞いに来ました。」


「まあ、わざわざ?あの子なら自分の部屋にいるから、どうぞ上がって。」


「お邪魔します。先生はいらっしゃるんですか?」


「主人なら、今日は親戚の寄り合いに行ってるわ。」


ちょっと、肩の荷が下りた。

ここに来たのは久しぶりだが、あまり様子は変わってないようだ。和風な趣きの室内で、玄関には生け花が飾られている。俺は2階にある詩音の部屋に行き、ノックをした。


「おーい、詩音。きたぞー」


「どうぞ、開いてるわ。」


「詩音ちゃん、お久しぶり。怪我の具合はどう?」


「お久しぶり。やっと動いてもあまり痛まなくなってきたわ。」


「ほい、お見舞い。さすがに若いと回復が早いな。」


「ありがとって、歳1つしか変わらないじゃない。あ、苺大福···おいしそう。」


「えへへ、自分が食べたいの買ってきちゃった。」


「お茶を用意するから、少し待ってて。」


「肩まだ痛いんでしょ?手伝うから。」


二人は部屋から出ていった。

女子の部屋に一人でいるのは何となく居心地悪い。

下の階から、奥さんも交えて楽しそうに喋っているのが聞こえてくる。三木谷もやっといつもの様子に戻ってきたのかな。



お茶をいただきながら、先日の音楽祭の様子を話した


「あ〜やっぱり、行ってみたかったなあ。」


「本当に感動したよお。来年は絶対に3人で行こう!」


「漣が舞台に立てるかどうか次第だけどなあ。」


「あそこでピアノ演奏をできる人がうちの道場にいるってことが、今でも何だか信じられない。」


「本当にそうだよなあ。そんな凄いヤツだなんて思わなかったよなあ。」


「すごくキラキラしてて、横に立つのも恐縮しちゃった···」


「三木谷も負けないくらいキラキラしてたけどな。」


「は···?」


「どういうこと?」


「こういうことだよ」


俺はスマホを取り出して、あの時撮った3人の写メを見せた。


「ほら、三木谷、化粧してるだろ。大人っぽくて最初は三木谷だと分からなかったんだよ。」


「ひどいよね〜、頑張ってメイクしたのに!」


ハハハって、二人で笑った。

しかし、詩音は食い入るように写メを見ていた。


「どうした、詩音?」


「私の顔···変かな?」


「すごいです···」


「え、どうした?」


「スゴイです!こんなにメイクが上手だなんて···」


「え、そ、そう?このくらいなら、誰でもできると思うよ?」


「誰でもできたら、世の中、美人だらけだろ。」


「涼太ダマレ」


「私もやってみたいです···どうすれば、こんなにキレイになれるんですか···!」



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