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22. 冬の繋いだ手は温かく離しがたく

三木谷が小走りに戻ってきた。


「ごめんね、突然・・・目、腫れてないかな。」


「いや、俺こそ、なんかすまん。腫れてはいないと思うぞ。もう開場してるはずだから、行こうか。」


「うん・・・あの、涼太」


「ん、どうした?」


「手、繋いでもいいかな・・・」


「んん?ああ、手が冷えるのか。会場までならいいぞ。」


触れた三木谷の手は確かに少し冷たかった。

俺は普通に手を握ぎろうとすると、指と指の間にガッシリ自分の指を入れてきた。


「ほら、こうすると暖かいから。」


「そ、そうか?それならいいが。じゃあ、行こうか。」


「うん。」


ランタンの仄かな明かりに、三木谷の笑顔が照らされていた。



会場前は入場者の長蛇の列になっていた。列を作っているのは一般席の人達のようだ。入口を入ったところのホール正面に聖母の像があり、その左右に弧を描く上り階段があった。その階段の下に長机が置かれていて、左が一般席、右がファミリー席の受付になっていた。


俺たちは並んでいる人達の視線を浴びながら右側の受付に向かった。何となく視線が痛いのは、俺たちのような外部の学生が珍しいのと、会場までって言ったのにガッチリ繋がれて離れない手のせいだろう。


泣かせた手前、切り出すのが憚れたが、俺は恐る恐る言った。


「あの、透子さん?そろそろ手を離してもらえないでしょうか。記帳しなければならないみたいだし。」


三木谷は一瞬、むっとした表情を浮かべたが、やっと手を離してくれた。


受付でチケットを渡して記帳し、花束もそこで預かってもらった。贈り物は毎年大量に届けられるので、公演中に係員が仕分けしてから、まとめて本人に渡すらしい。本当に世間的には常識だったようだ。


受付を済ませて階段に向かおうとすると、三木谷は今度は腕を回してきた。どうしたものかと周りを見回すと、意外にも腕を組んでいる男女は他にも数組いた。エスコートってやつか?マナーに疎い俺には分からないので、とりあえずさせるがままにして、そのまま階段を上がっていった。


3階の廊下に出た。カーブを描く廊下にはいくつかのアーチ型の出入り口があり、その横には座席番号表が貼ってあった。俺たちは該当する番号を探し当て、中へ入っていった。


アーチを潜り抜けるとそこは、すり鉢状の大劇場だった。天井は吹き抜けになっており、フレスコとステンドグラスで飾られている。それをシャンデリアの淡い光がライトアップしている。正面中央には半円型の舞台があり、そこを中心に放射状に座席が並んでいる。ベンチシートではなく、一人一人の椅子があった。左半分は一般席、右半分がファミリー席のようだ。一般席は最前列から順に隙間なく埋まっていっているが、ファミリー席の方はまだ半分くらいのように見える。


番号を頼りに自分たちの座席を探す。すると、壮年の夫婦らしい人達が隣の座席に座っていた。この人達が漣の両親だろうか?ちゃんと挨拶しないとな。


「失礼します。柏木漣さんのお父様、お母様でしょうか?」


俺より先に三木谷が話しかけた。いや、助かるけれども。

あちらも俺達に気づいたようで、わざわざ立ち上がって出迎えてくれた。


「ええ、そうですよ。そちらは真中涼太さん?」


応えたのは母親とおぼしき女性の方だ。俺は頭を下げて挨拶した。


「はい、真中涼太です。どうもはじめまして。今日はご家族の大切な席をお譲りいただきまして、本当にありがとうございます。」


意外と俺は挨拶をちゃんとできる男なのだ。

大会でお偉いさんに引き合わされたりする内に身に付いた貴重なスキルだ。


「涼太のクラスメイトの三木谷透子です、はじめまして。漣さんとはまだ面識ありませんが、今日は涼太に同伴させていただきました。私からもお礼申し上げます。」


「あらあら、まあまあ。これはこれはご丁寧に。最近の子は本当にしっかりしてるのねえ、アナタ。」


後ろの男性が鷹揚に頷いた。


「うむ、そうだな。はじめまして、漣の父と母です。」


親父さんは顔はあまり漣と似てないが、風格のある顔立ちをしている。細く締まった身体つきで、そこは漣に似ている気がする。母親の方は全体的に丸くふっくらしているが、目元や顔立ちが漣とそっくりだ。


「まあ、立ち話もなんだから、どうぞお掛けなさい。」


促されて俺達は席に着いた。


「話には聞いてましたけど、まだ中学生なのに本当に凛々しいわねえ。ウチの子も整った顔立ちをしてる方だ思うけど、また違った魅力に溢れているわ。お嬢さんもお美しいし、美男美女のカップルね。」


アイツ、俺のことをどう話してたんだ・・・

聞き慣れないお世辞に背中がムズムズしてきた。


三木谷は美しいと言われたのが嬉しかったのか、頬を赤らめている。俺が褒めた時はツボったり泣いたりしてたのは何なんだよ。


「うむ、身体つきもいいし、その歳でよく鍛え上げられているのが分かる。漣が剣道の達人だと言うのはさすがに誇張だと思っていたが、あながち嘘ではなさそうだな。」


アイツ、後で説教フルコースだな。


「生憎そんな大層な人間ではありません。あまり誉められると増長しますので、そのくらいで勘弁してください。」


「うふふ、謙虚なのねえ。ねえ、涼太さん、漣のお友達になっていただて本当にありがとうねえ。あの子、とても明るくなって、家でもよく笑うようになったのよ。」


「うむ、剣道の迎えに行った帰りの車の中でも、その日のことを目を輝かせて嬉しそうに話すんだ。以前の沈みがちだった漣からは考えられない変化だよ。私からもお礼を言いたい。ありがとう涼太君。そして、これからも漣の友達でいてやってくれ。」


なんだ···いい親御さんじゃないか。

てっきり、厳しい親なのかと思っていたのだが。

怒られると思って、土下座まで覚悟していたのにな。


しかし、そうなると、どうして漣は縋るような思いで剣道をやろうと思ったのか。てっきり、親からの期待が重すぎたのかと思っていたのだが。


いつか、漣の口から語られることはあるのだろうか。

ま、俺は親友として、待つだけだがな。


そうしている内に、開演を知らせる鐘の音が鳴り響いた。

場内は一度暗転し、厳かな音楽と共に舞台が始まった。


漣の両親のキャラ設定に沼ってました。

当初はお茶目キャラにしようかとか、涼太にビビリながら虚勢を張るチキンキャラにしようかとか。

けど、深堀り許すほど登場しないよなあ、と思い直して無難な形に···

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