↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/70

21. 冬のプレゼント交換は緊張するらしい

幼稚園から大学院まである一貫校だとは聞いていたけど、まさか最寄り駅の名前まで大学名になっていたとは思わなかった。


駅舎を出て、ほぼ一直線の広い道路がそのまま学園の門まで続いていた。道路沿いには落ち着いた雰囲気のカフェやショップが並んでいて、コンビニなど景観を損なう建物は一切見かけない。その店内にはローソクのような厳かな光が灯っていて、街路樹には銀色のイルミネーションが輝いている。華美な装飾はないが、街全体でクリスマスを祝っている雰囲気だ。


まるで城下町だな、と思った。

この街は学園を中心に回っているのだろう。


門をくぐり抜け、しばらく歩いた先には天守閣を想起させる巨大な大聖堂があった。音楽祭はこの中で行われるようだが、今は理事長でもある神父によってミサが行われているらしい。ミサには学園に所属する信徒しか参加できないそうなので、終わるまでの間は学園内を散策することにした。


学内はとても広く、西洋風の建物で統一されているため、ヨーロッパの街中にいるみたいだ。石畳の道を歩いていると、校舎裏に公園ほど広さのある庭に出た。バラの生け垣があり、その中央の吾妻屋にはランプの明かりが灯っていた。


昼間から歩き詰めだったので、そこのベンチで休憩することにした。周りに誰もいる気配がなく、二人きりになった。


なんだろう···

雰囲気がそうさせるのか、妙に緊張するじゃないか。

隣りに座っている三木谷をチラッと見る。

なんとなく、三木谷も緊張しているように見える。


もしかしたら、寒いからトイレに行きたいのかもしれない。

でも、そんなこと聞けるわけもないしな。


どうしよう、なんとなく黙り込んでしまった。

おいおい、俺が三木谷を意識しているみたいじゃないか。


な、何か喋らないと···何か話題は···


あ、そうだ。さっき買ったマフラーのお返しを今ここで渡してしまおう。今日渡さないと意味がないし、後で渡せるか分からないしな。


「あのな、透子?」


ビクッとする三木谷。

声をかけただけで、何をそんなに驚くのか。


「ど、どうかした?もしかして、トイレ?」


お前が聞くのかよ!ちょっと、緊張が薄れた。


「いや、このマフラー温かくて助かったよ。ありがとな。」


ホッとした様子で、笑顔を返す三木谷。


「それでだな、急に用意したから大したものじゃないけど、これはお礼だ。よかったら、受け取ってくれ。」


ポケットから取り出した、一応プレゼント用にラッピングされている箱を差し出した。


それを三木谷はマジマジと眺める。

中々、受け取ってくれない。

ダメだ、間が持たない。


「あの、本当に大したものじゃないから、中身は期待しないでくれよ。」


やっと、三木谷は両手で包み込むように受け取ってくれた。


「ありがとう。開けてもいいかな···」


「ああ、いいぞ。」


三木谷は無言でリボンを解き、ラッピングを外した。

中に入っていたのは、押し花を透明な板状のプラスチックに閉じ込めてシルバーのフレームをあしらった飾り細工だ。ホルダーが付いていて、鞄などに取り付けて使うものらしい。


観光地のお土産みたいに見えなくもないが、これならスクールバックなんかに付けてもおかしくないんじゃないかと思ったのだ。


何せ俺達まだ中学生だもんな···お小遣いで高価なものを用意できるわけもないし、どうかこれで勘弁してほしいところだ。


反応を伺っていると、俺の手に三木谷の手が重ねられた。


「ありがとう。とても嬉しい。」


よかった。一応、気に入ってくれたみたいだ。

しかし、なんか違和感を感じるな···


三木谷はさっそく持っていたハンドバッグに取り付けた。


「どうかな?」


ごめん、よく分かりません。

なんせ俺が選んだものだもんな。

三木谷自身が選んだものなら間違いないだろうけど。


「あ〜、可愛いと思うぞ。スクバに付けてもいいかもな。」


「うん、そうだね。学校が始まったら、そうする。」


三木谷は鞄に付けた飾りを見ながら、穏やかな口調で言った。

その表情にはまるで少女のような純粋さがあった。


なんだろう···俺は何に違和感を感じてるんだ?

そうか、三木谷の様子がいつもと違うのだ。

いつもどこか芝居がかった口調や態度なのに、今の三木谷はなんというか···物凄く素な感じがする。


今日はオシャレやメイクをしていて、ちょっと大人な雰囲気に驚いたけど、きっと張り切りすぎて疲れたんだな。


よし、ここでも誉めよう。

再び頑張れ、俺!


「メイクをして着飾った透子もいいが、今の透子もありのままの透子って感じでいいと思うぞ。」


「えっ···」


「あまり、背伸びしなくてもいいんだぞ。透子は透子だからな。」


どうだ、今度の誉め言葉はちゃんと言えたんじゃないか?


三木谷の目から一筋の涙が零れ落ちた。

そして、両目からポロポロと止めどもなく流れ出した。


あれ···俺、またやっちまった?




メイクが落ちたので直してくる、と三木谷は走っていった。

結局、トイレに行かせることになったか···


開園まであともう少し。

今頃、漣はどうしてるのだろうか、とふと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。