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20. 冬のメイクはよく映えるようで

日曜のこの時間はいつもならまだ布団の中だが、今日は珍しく早朝ランニングをしていた。

冬の日の出は遅く、まだ辺りは薄暗いが、河川敷沿いの道には犬を散歩させている人が幾人かいた。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


すれ違う人には挨拶をする。不審者と間違われないためでもある。


やがて、東の空が朝焼けに染まってきた。

空気は冷たいが、顔に当たる日の光にほのかな温かさを感じた。


折り返し地点の公園。

手ぶらで来たので手刀を竹刀に見立てて軽く動いていたら、知らない爺さんから話しかけられた。


「それは、何の武術じゃ?」


テキトーに、我が家に伝わる秘伝のカンフーです、と答えた。


「ほほう、見たところ北派のようじゃな。どうれ、套路を見せてみい。」


話がややこしい方向に進みそうだったので、これまたテキトーに誤魔化して逃げた。

レアな体験をしたが、あの公園に行くのはもうやめておこう。


今日は丸一日の外出になりそうなのでトレーニングを早朝にしたわけだが、空気が澄んでいて気持ちよかった。冬休みの間は続けてもいいかもしれないな。


漣の学校の音楽祭は夕方からだが、詩音から釘刺された差し入れの用意をしなければならない。それでも午後過ぎから出ればいいかと思うのだが、三木谷が、どうせならクリスマスの街中を一緒にブラブラ歩こう、と言ってきたので、まあいいかと承諾した。


いつもなら、冬休みに入ると始業式までしまわれる制服に袖を通した。

聖光大の音楽祭に行くと言ったら、母親が大慌てでアイロンを掛けてくれた。

父親からは、会場に着く前にシャツの釦とネクタイをちゃんと締めるように、と強めに注意された。

周りの反応がイチイチ大袈裟な気がするのだが・・・


犬型のモニュメントがある駅前の待ち合わせ場所に着くと、大勢の人で溢れていた。

スマホを見ると約束の時間通りに着いたようだが、三木谷の姿が見えない。まあ、元々早すぎるくらいの待ち合わせだから、少々遅れたくらいで気を揉むようなことにはらなんだろう、とのんびり待つことにした。


しばらく、通り行く人の流れを遠目に眺めていると、クイクイと服の袖が引かれた。


「ごめん、遅くなって。待った?」


臙脂色のベレー帽を被った女性がゴメンの仕草で申し訳なさそうに言った。


「えっ、誰?」


女性は目をパチクリさせた。


「えっ、マジで言ってる?」


「・・・透子なのか?」


「他に誰がいるの!」


涼太は目の前の女性を改めて見た。確かに同じ学校の制服を着ているが、その上には大人っぽいコートを羽織り、色を合わせた帽子をかぶっている。そして普段は見慣れない化粧をし、耳にはイヤリングが光っている。


「オマエ、その顔は・・・」


「あ~、メイクね。一応、制服姿だから薄くナチュラルにしておいたけど、学校に行くわけじゃないし、別にいいよね?」


と言って、舌を出した。


いや、変わりすぎだろ・・・

これで薄くナチュラルなら、本気出したらどうなるんだよ?女って恐ろしいな。


「なあに~?まさか、見惚れちゃった~?買いに行く時間なかったから、お母さんのコート借りたんだけど。どう、似合ってる?」


いたずらっぽい表情でポーズをとる。


いや、似合い過ぎているから、逆にどう反応するのが正しいのか分からんのだが。


「バカ、調子乗るんじゃねえよ!」


と返すのがいつものパターンだが、なぜかそこで昨日の詩音の言葉を思い出した。


『褒められたい人はたくさんいるんだから』


そうか・・・そうだよな

きっと音楽祭が楽しみで、頑張ってメイクしてオシャレしてきたんだろうな。

ここは誉めるべきだ、頑張れ俺!


「すごく似合っている。綺麗だ、透子。」


口から血反吐を吐きそうだが、頑張れ俺!


「・・・へ?」


三木谷はポカンと呆気にとられ、そのままフリーズした。

まだ、言葉が足りなかったのだろうか。再び、頑張れ俺!


「いや、だから、綺麗だって。服も帽子もイヤリングも全部似合っているしメイクも、あれ、どうした?」


三木谷は背を向けてしゃがみこんでしまった。


「おい、具合でも悪いのか?」


「ごめん、今、ムリ・・・2分待って・・・」


そんな、ツボにハマるほど変だったか···

やはり、慣れないことを言うもんじゃないな。



2分後、立ち上がった三木谷は深呼吸を数回した。


「お待たせ・・・」


「お、おう、顔が赤いけど大丈夫なのか?」 


「お願いだから気にしないで!」


「わかった···じゃあ、そろそろ移動しようか。」


「うん、でも、その前にコレ。」


と言って、三木谷は持っていた紙袋から何かを取り出し、俺の首に回した。


「これは、マフラー?」


「うん、私からのプレゼント。メリークリスマース。」


三木谷がくれたのは明るい色調のグリーンのマフラーだった。


「悪いな・・・俺、何も用意してなかった。」


「いーのいーの、私がしたかっただけなんだから。それに、ほら、こうすれば」


三木谷は俺の腕に抱き着いた。


「二人で並ぶとクリスマスカラーでしょ!」


そう言って、嬉しそうにスマホで写メを撮り始めた。

周りの目が気になるんだが・・・

まあ、本人が喜んでいるなら好きにさせればいいか、と俺は思考を放棄した。



待ち合わせ場所からやっと歩き出したわけだが、三木谷はまだ腕を離してくれない。歩きにくくて仕方がない。

その後は適当に休憩を挟みながら、引っ張られるがままにアチコチを歩いた。三木谷は終始ご機嫌だが、そろそろ目的を果たさないと時間が心配になってきた。


「なあ、そろそろ例のモノを用意しないと。」


「え、もう、そんな時間?あ、ホントだ。あっという間だ~」


俺はむしろ長かったと感じたが、わざわざ言うことでもないか。


「で、何を持っていけばいいのか考えはあるのか?俺は見当もつかないのだが。」


「ふふふ、ここは間違いのないものでいきましょ!花束なんてどう?」


「花か。時間もないし、それで行くか。」


スマホで近くの花屋を探し行ってみた。店にはポインセチアが大量に並べられていたが、もうこの時間から買う人はいないのだろう。セール品扱いになっていた。


どんな花束にするのかは三木谷に任せて、俺は店内を見回した。すると、そこは花以外にも雑貨が幾つか置いてあった。


さっき、マフラーもらったしな···何かお返しにできるものがあればいいのだが。あまり時間もないし、直感でパッと選ぶしかない。俺はその場にあったもので、貰っても邪魔にならなさそうなものにした。そして、こっそり会計を済ませた。


「こんな感じにしようと思うけど、どうかな?」


白と黄色を基調にした花が束ねられていた。明るくていいと思うと答えると、早速、店員さんが花束に仕立ててくれた。


店を出て、少し足早に目的地に向かう。

着いた頃には、すっかり日が沈んていた。


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