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19. 冬の夜は寝苦しく悲しく

グループメッセから抜けると、はぁ~と長い息を吐いた。怪我が痛くて左腕を使えないので、片手だけでスマホを操作することに疲れた。


途中から机の上に置いてタップしていたら、下の階にいる母から振動がうるさいと文句を言われた。仕方なく、間にクッションを挟んだりと余計な苦労を強いられた。


それもこれも、試合で怪我をした未熟な自分が悪いのだから仕方がない。相手選手の行動に思うところはあるけど、それを言い訳にするのは潔くない。


我ながら、頭が堅いと思う···

きっと、私の性格は父に似たのだろう。


道場の師範代という地位にいるが、修行はあくまで自分を高めるためのもの。率先垂範を実践していれば、やる気のあるものだけがついてくる。徹底した個人主義と自己責任。昔からそんなスタンスだ。今の時代、宣伝にお金を使ってでも募集しないと人は集まらないというのに。


しかし、そんな考え方すら納得してしまう自分がいる。

やはり、親子なんだろうな。


中学に上がると、それがなんだか腹立たしくなって、どこかに別の考え方が転がってないかと探している。そんな時は、何故かいつも涼太の姿を目で追っている。


言葉遣いは粗野だけど、人に優しく、面倒見が良く、誰にも分け隔てがない。週1回だけの道場稽古なのに、その稽古時間すら多くを小さな後輩達のために割いているお人好し。

そして、こんな私にも、いつも気をかけてくれる···


凡そ自分のための修行なんてしているように見えないのに、いざ試合に出れば、時々圧倒的な勝ち方をしてみせる。その強さは、私の知っているそれとは違うもののような気がした。そこに答えがあるのだろうか。


ピコンとスマホの通知音が鳴った。


三木谷さ···三木谷からだった。さっきまで会話してたのに何だろうかと思ったら、まだ怪我の具合を心配してくれているようだ。


ここにもお人好しがいたか···


大丈夫です。と打って、他に書くことがないので、適当なスタンプを追加して誤魔化すことにした。


ピコン


送ったと同時に返信がきた。

怪我が治ったら一緒にお茶しに行こう、か。

まあ、別にいいけど···

OKのスタンプだけ送信。


ピコン


あ、これ、いつまでも終わらないヤツだ···

試合で疲れたのでもう寝ます、と送ってスマホの電源を落とした。


ベットの布団に潜って目を瞑った。

怪我をした肩が痛い。今夜はあまり眠れないだろうな。

脳裏に、今日の試合の光景が蘇る。

自分の、ではなく、涼太のだった


予選の2試合は、いつも稽古で見る動きとあまり変わっていなかったように思う。

強いて言えば、いつもより気合の声がよく響いてたくらいかな。


明らかに違っていたのは、やはり決勝戦だ。

涼太は、そこに居るのに存在感が希薄な感じがした。

試合に出ている人はエネルギーに満ちて爆発寸前のような存在感があるものだ。

これを動と言うなら、涼太は静だった。


いざ、試合が始まっても、涼太は静かだった。

気合いの声だけが空回りしているようだ。

緊張してる?いや、違う。


一本目は形だけの面打ちに始まり、無気力とも思わせる様子だ。しかし、相手の選手は余程慎重なのか、積極的に打って出ない。何か躊躇う理由があるのか···と思った瞬間、出小手が決まっていた。相手は動いていない···いや、動きの起点を押さえたのか。つまり、先の先。


え?それって、よほど相手の出方を理解していないと無理なやつ。でないと、反応が追いつくはずがない。あの僅かな時間の中で、相手の何を悟れるというの?


二本目はもっと驚きだった。

相手の出を押さえるとか、そんなレベルじゃない。

試合開始時に集中しているはずの相手の虚を突くだなんて、それはほんの僅かな隙間に光を射し入るようなものだ。簡単に面を取ったように見えるけど、そこにどれだけの技が込められているのか。そこにどれだけの無駄が削ぎ落とされたのか。


うって変わって、三本目は予選の時と同様、ごく普通の試合だった。普通に戦って、普通に勝ってた。もしかしたら、相手に気を使ったのかもしれない。だって、最初の2本は試合にすらなっていなかったもの。


自分には想像もつかない技量を見せられ、私は涼太という存在の大きさを知った。


いや、涼太は私には遠く及ばないポテンシャルを持っている、と薄々感じていた。今日はその一端を見せられたのだ。それを大きく開花させれば、きっと全国でも通用する選手になれるに違いない・・・なのに、本人はあの子供達の遊び場のような町道場でいつまでも才能を燻らせている。


もっと、自分に貪欲になればいいのに···

もっと、高みを目指せばいいのに···

誰もその背を押さないなら、私が・・・!


手を伸ばすと、ズキッ!と痛みが走り、目が覚めた。

いつの間にか眠っていたようだ。

視界はまだ真っ暗だ。

時刻を確認しようとスマホを手に取ると



ピコン

ピコン

ピコン

ピコン

ピコン

ピコン

ピコン

·····

····

···



何も見なかったことにして、布団を頭から被った。



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