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18. 冬の初デートは色々と心が複雑で

グループメッセから退室して、ふうっと息を吐いた。

急に行くことになった聖光大の楽祭。

ミッション系の有名私大で、附属幼稚園からの一貫校でもある。

聖歌隊から端を発した合唱団は国内屈指の実力者集団で、他の音楽関係も充実している。

そのアマチュアとは思えない実力から、音楽祭は学校行事にもかかわらず、一般からの入場希望者が毎年溢れている。まさか、自分がそんなとこに行くことになるとは···


部屋を見回した。

ドレッサーから引き出された服がアチコチに散乱している。

元々オシャレが好きで服はたくさん持っているが、まだ中学生なのでカジュアルなものが多く、少しでもフォーマルに見えるものを、と試行錯誤した跡だ。せめてもう1日余裕があれば買いに行く時間もあったのに、と悩んでいたところに涼太からグループメッセの招待が来たのだ。

話し合いの結果、学生服で行くことになったのは自分にとっても幸いだった。



初めてのデート


お相手は涼太


しかもクリスマス


場所はなんと聖光大の音楽祭



あまりのお膳立てのよさに、これは何かの罠なのではないかと疑った。詩音の申し出にYESと答えた瞬間、ドッキリと書かれたプラカードを持った涼太がデッデデ~ンと登場するのではないか、とおバカな心配をしたほどだ。


本来なら、とても胸躍るシチュエーションなのだけど、素直に喜べないところもある。

それは、詩音に対し少なからず罪悪感があるからだ。

怪我で行けないのは仕方がないにしろ、医務室で会話した感じでは、詩音も涼太に対し好意…と言えるのかどうか分からないが、何らかの想いを秘めているようだ。


(本当は行きたかっただろうなあ···)


もし、私だったら、と思ってしまう。


詩音とは試合を見に行く度に会っているが、いつも離れたところから感情の読めない顔でこちらを見ていることくらいしか印象になかった。それが実際に会話してみれば、とても自分に厳しい一面を持つけど、ちょっとシャイな普通の可愛い女の子だった。そんな子が、必死に背伸びしているような印象を受けた。


そのことが何となく、私に似ているなと思った。



真中涼太と出会ったのは小学3年で同じクラスになった時だった。

当時は仲のいい友達からは「トーコちゃん」の愛称で呼ばれていた。


透子という名前は祖父がつけたものだ。私が産まれる頃、祖父に腫瘍が見つかったのだが、老い先短い自分にせめて初孫の名前を付けさせてほしいと懇願され、両親が折れたらしい。それで、透吉郎の一文字を取って透子と、少し古風な名前が付けられた。


両親にはもっと頑張って抵抗してもらいたかった。

老い先短いと言いながら、祖父は今もまだ元気に生きてるし。


私はいわゆる早熟で、同学年の女子の中では身長が頭一つ飛びぬけていた。体形も小学3年生の割に大人びていたので、クラスの中で目立つ存在だった。友達付き合いにも積極的だったので、いつも数人の友人達に囲まれていた。しかし、そのことが一部のやっかみを呼び、軽い虐めを受けるようになった。特に男子の一人、田口は私の名前をもじって「とうちゃん!」「すけさん!」と嫌なあだ名をつけようと、ことあるごとに連呼した。


元々、私自身も自分の名前をあまり気に入っていなかったので、この仕打ちは本当に辛かった。

そんな時、当時はまだ私より身長の低かった涼太が助けてくれたのだ。


涼太はクラスの中でも活発な男子で、しかも友達想いなので同級生から慕われていた。クラスが変わった頃はあまり面識がなかったのだが、私が田口にからかわれようとしているのを見ると、すっと間に入ってきて「三木谷!」と呼んだ。


田口が声をあげるのを制するように「三木谷!昨日のテレビ観たか?」とか「三木谷!今日の給食なんだった?」とか、どうでもいいような会話を投げかけてくるのだ。逆に、田口が涼太に声をかけようとすると声をワントーン落として「んだよ、田口」と素っ気なく応えた。


涼太が私を擁護して、いじられやすい名前の代わりに苗字呼びを定着させようとしているのは、誰の目にも明らかだった。なぜなら、涼太は基本的に誰に対しても名前で呼ぶことを皆知っているからだ。クラスで人気者の涼太の意向を知れば、それにあえて逆らう者はいなかった。


一方で田口は、涼太から名前で呼んでもらえない奴として周りから認知された。当人は気づいていないのかもしれないが、そのせいで田口は現在進行形で女子達から総スカンを食らっている。


そんな涼太のことを好きになったのは、当然のことだった。しかし、涼太が私を助けてくれたのは漢気からであって、好意を寄せてくれているわけではないことは分かっていた。見た目は少し大人っぽくても、まだ小学3年生だ。どうやって想いを伝えればいいのか分からなかった私は、まずは涼太に恩を返すことにした。ことあるごとに世話を申し入れ、やがてそれがお節介になり、お姉さんポジションという形に昇華した。


そのことが将来、好意を素直に伝えることの足かせになるとを思いも寄らず・・・


涼太のお姉さんであり続けるためには、多少背伸びをしなければならなかった。涼太は当時から剣道大会でいくつもの成果を出していて、突出した存在だった。そんな涼太の横に並ぶには、それなりの存在感を示さないと周りが許してくれない、そんなプレッシャーがあったのだ。勉強できて、女子力高くて、コミュ力も高い。そんなカースト上位の女子を演じることに疲れを感じることもあるけど、いつか涼太を自分に振り向かせたいという一心で止められなかった。努力の方向性が合っているかどうかは分からないけど、とにかく私は私なりに必死だった。


きっと、詩音も大事な何かを胸に秘め、それが花開く瞬間を静かに待つために、自分に偽りの仮面を被せているのではないだろうか。その仮面の下で涙を流し続けているのではないだろうか。そう、思えた。


「よし、私が詩音ちゃんの友達になって、少しでも支えになろう!」


透子の保護欲は、今や詩音にも及ぶところとなった。

演じ続けていれば、それがやがて本当の自分になることを透子はまだ気づいていない。


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