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16. 冬の氷は冷たくてそれがよくて

全ての部門の決勝戦が終わり、会場はそのまま表彰式と閉会式の準備に入った。残っている選手全員が参列するため、会場の人の出入りが激しくなる。


その前に、やらないといけないことがある。

いつの間にか会場に来ていた漣のことも気になるが、


「詩音、詩音!」


列に並ぼうとする詩音を呼び止めた。


「何やってんだ、医務室に行くぞ!」


「涼太こそ何言ってるの。これから表彰式なのに受賞者本人がいないと」


「んなもん、どうでもいいだろ!誰かが代わりにやってくれる!」


俺は食い気味に答え、入口からなだれ込む人混みをかき分けて、詩音を会場の外に連れ出した。

すると、俺たちの様子を2階から見ていた三木谷が階段を駆け下りてきた。


「涼太!」


「丁度よかった、透子!すまんがこいつ、詩音を医務室に連れて行って、防具脱ぐの手伝ってやってくれ。俺はアイシング用の氷を集めてくる!」


そう言い捨てて、その場を走り去った。



取り残された二人は医務室に来ていた。

面識がないわけではないが、直接に会話したことがないので、お互いに何となく気まずい。


「と、取りあえず、涼太が来る前に防具を脱いでおこうか。どこを手伝ったらいい?」


「すみません、涼太が勝手に暴走してますけど、1人でできますから。」


「大丈夫じゃないでしょ。私も2階から見てたけど、転倒した時の音が凄かったよ。頭とか酷くぶつけたんじゃない?」


「頭は防具と巻いていた手拭いがクッションになったので、それほどでもないです。それよりも、肩が少し痛いです···」


詩音の額から汗が流れている。本当は少しなんてものじゃないのだろう。

三木谷はとにかく防具の紐を解きにかかった。防具の構造を知らないので、詩音に手順を聞きながらだから時間がかかったが、何とか脱がすことができた。


次に胴着だが、袖から腕を抜こうとしたら激痛が走ったようで、詩音は必死に我慢しつつもわずかに悲鳴が漏れた。

でも、途中で止めてしまうと、より苦痛を与えそうなので、そのまま腕を抜くしかなかった。


「ご、ごめんね···」


「いえ、どの道、脱ぐしかないので思い切ってやってもらってよかったです。ありがとうございます。」


ドアをノックする音が響いた。三木谷が出ると、涼太がコンビニの袋を差し出した。


「氷嚢とタオルが入ってる。包んで患部に当てて冷やしてくれ。あと、飲み物も入ってる。透子の分もあるからな。すまないが、しばらく付いてやってくれ。」


「うん、分かった。こっちは任せて、表彰式に行ってきて。」


涼太の顔が苦々しそうに歪んだ。


「さっき、どうでもいいって大声で言ってしまったんだよなあ。戻るの、ちょー気まずい···」


「それは自業自得だから、しっかり怒られてきなさい。さあ、行った行った。」


嫌がる涼太を送りだして、三木谷は言われた通りに氷で詩音の肩を冷やした。

最初は冷たさに顔をしかめたが、痛みがマシになったのか次第に表情の険が取れてきた。


「ありがとうございます。後は自分でやります。」


「ダメだって。誰か来るまで付き添うからやらせて。」


「・・・本当にすみません。」


「気にしないで。それにしても、剣道ってもっと安全な競技だと思ってたけど、あんな無茶なこともするんだね。見ていた人、みんな驚いてたよ。」


「そうですね、私も投げられたのは初めてだったので、ちょっと動揺しました。しかも、2回も···屈辱ですけど、私も相手を舐めてたところがあったので、お互い様でしょう。悔恨はないです。」


「う~ん···涼太も時々おじさんくさいこと言うけど、剣道やっている人ってみんな口調が硬くなるの?」


「いえ、これは···すみません、人見知りなので、ちょっと緊張してます。」


「(ナニコノコカワイイ)改めて、私は三木谷透子。涼太のクラスメイト。宜しくね。」


「遠見詩音です。1つ年下ですけど、道場では涼太の先輩になります。一応。」


「ふえ〜涼太も幼稚園の頃からやってるって聞いたけど、それよりも早くからってすごいね。」


「はい、父が道場の師範代をやっているので、物心つく前から竹刀を振っていたそうです。あまり小さい頃のことは覚えてませんが。」


「すっごい、英才教育だね~!試合見てたけど格好よかったよ。自分より大きな相手に勝っちゃうんだもん。」


「本来、剣道に体格の差は関係ないはずなんです。無様に投げられたのは、私の修行が足りないからだ···って、父は言うと思います。」


「き、厳しいお父さんだね。普段の練習も厳しいの?」


「いいえ、父は私には何も言わないのです。家でも道場でも。練習は道場の稽古以外は全部自分でメニューを組んでやってます。」


「ふええ···凄すぎて想像できない。ねえ、何でそこまでやるのか聞いてもいい?さっきから質問ばかりでゴメンだけど。」


「いえ···理由は、そうですね···多分、最初は父に褒めてもらいたかったんだと思います。今は、半分は意地ですね。ここで止めちゃったら、私には何も残らないから。後の半分は言いたくないです···ごめんなさい。」


「そっか···ううん、言いたくなかったら言わなくて全然いいよ。でも、何だか苦しそうだね···」


「苦しい···くはないです。私よりもっと苦しい人を見てるので、このくらいで苦しいなんて言えないです。」


「遠見さんよりも?どんだけストイックなの、その人。」


「・・・三木谷さんも知っている人です。」


「まさか、涼太!?」


詩音はコクリと頷いた。

三木谷はそれ以上聞いていいものか判断に迷った。


「あの···」


「えっ、なに!?」


「飲み物、飲みませんか?せっかくだし。」


「あ、そうだね。えーと、ミルクティーと抹茶オレか。どっちがいいかな?」


「···お先にどうぞ。」


「え、え〜。じゃあ···ミルクティーいただいちゃっていいかな?」


「よかった。私、抹茶オレが好きなんです。」


「そうなんだ。私はミルクティー派だから···ん?涼太のヤツ、私達の好みをちゃんと考えてくれた?」


「きっと、そうですね。」


「へ〜涼太のくせにナマイキ。」


「変なところで気を使いますよね。」


「ねー、気づいて欲しいことには全然無関心なのに。」


「本当に···でも、優しいですよね。」


「···うん。」


詩音は三木谷の横顔をしげしげと見た。

そして、おもむろに言った。


「三木谷さん、明日はクリスマスですけど、予定入ってますか?」


「うっ、辛いとこ突くね〜 残念ながらナニモナイヨ」


「じゃあ、お願いがあるのですが、聞いていただけませんか?」


「おっ、いいよ〜お姉さんに言ってみなさい。」


「ありがとうございます。明日、私の代わりに聖光大の楽祭に行っていただけませんか?」


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