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14. 冬の試合は勝てばよかろう?

昼休憩の時間が終る前に、出場する選手の子がちゃんと居るか確認しなければならない。三木谷は会場の2階から試合を見るとのことで、そこで別れた。戻ると、親御さん達が何故かニヤニヤしている。


試合順を見ると、中学生男子の部の予選は午後の割と早い時間だった。予選と言っても、参加者が本当に少ないから、主催者団体の1人はシードでいきなり準決勝だ。つまり、俺は決勝までに2戦すればいいようだ。まあ、負けたらそこで終わりだけど。


俺はいつでも動けるように防具を着けた。面と竹刀を会場内に置きに行く。すると、詩音がやって来た。


「お疲れ。試合途中から見れなかったけど、どうだった?」


「決勝まで行ったわ。」


「おおっ、ヤルじゃんか。」


「まあね。ちょっと、レベル低くて拍子抜けたけど、来た以上は最後まで全力で当たるわ。」


「お前な···そんなこと言うなよ。聞かれたらどうすんだよ。」


「聞かれたって、別に構わない。私より弱いんだし、文句言えないでしょ。」


「あのなあ、自分が負けて同じこと言われたときのこと想像しても、それ言えるのかよ。」


「···負けなければいいだけの話よ。もう行くわ。」


アイツ、前からあんなだったかな···




詩音のことは気になるが、まずは自分のことだ。


試合は、やるからには勝ちを目指すのは当然だ。

俺もガキの頃はとにかく勝ちたくて、勢いだけで必至に動き回った。それで勝てる時もあったが、段々と上手い相手には翻弄されるようになってきたので、次は技を磨くための努力をした。


基本の動きだけ習得しても、相手に竹刀は届かない。

こうすれば確実に当たるんじゃないか?という仮説を立て、それを実現するための条件を考察する。そして、道場の稽古で何度も試して、試合で実践する。文字通りの試合である。


いつしか、俺は試合の勝敗よりも、そっちの方に重きを置くようになった。その結果、勝ったり負けたりを繰り返してる。勝つときは快勝だか、負けるときは惨敗。その潔さは先生達を呆れさせた。


でも、じいちゃん先生こと師範は、それでいいと目を細めて褒めてくれた。家から一番近くにあったのが、この道場で本当によかったと思っている。


1戦目、俺は漣に教わった腹式呼吸を意識し、腹に力を込めて気合いを発した。俺のおっさんみたいと評された声に、相手選手は一瞬気を取られた。その隙を見逃さずに俺は中段に構えたまま前出る。相手が不用意に上げた竹刀を擦り上げて、そのまま面を叩き込んだ。距離をとって残心。旗が上がるのを確認して、元の位置に戻った。


2戦目、相手は俺よりも小柄な選手だ。詩音のように距離を取ってくるのかと思ったら、むしろ懐に飛び込んてきた。しかし、狙いは引き技なのは明確なので、俺はそれを利用して裏からの面で距離を見誤らせて、そのまま引き小手を極めた。試合の中で引き小手を使ったのは初めてだが、なかなか有用なようだ。俺は心の中の技帳に書き足した。


こうして、俺も決勝進出を決めた。



決勝戦はコート中央一面を使うため、白線を引き直す必要がある。その準備の間、しばらく休憩時間が設けられた。


我が道場から決勝に出たのは、俺と詩音だけのようだ。残念ながら、子供達はみんな途中敗退した。しかし、中には準決勝まで進んだ子もいるし、みんながみんな、ちゃんと気合いを入れて頑張っていた。それだけでも、試合に出た意味はじゅうぶんにある。


しかし、中には勝つ気満々だった子もいて、その子は試合後に悔しさのあまり泣いてしまった。本人は苦しいだろうけど、それも大切な経験だと思う。俺みたいに負けても飄々とするようになったら、ダメだと言ってやりたい。全然、説得力ないけど。


準備が終わったら直ぐに試合再開なので、俺は会場から出ないで片隅で待っていた。詩音もいるが終始無言だ。さっきのことが気になるが、今は集中を乱してはいけないので、黙っておくことにした。ところが、詩音の方から話しかけてきた。


「ねえ、少し前に会場外で柏木さんに試合経過を送ったの。そしたら、すごく喜んでいてね。決勝も頑張れだって。」


「おっ、そうか。ありがとな。」


「試合に勝って喜ばれたの、何だか久しぶり。」


「そうか?そんなことないだろ。」


「そんなこと、あるのよ。父さんは私が勝って当たり前って感じだし、お母さんは剣道とか試合とかもう慣れすぎちゃって感動がないし。昔からの友達もみんないなくなっちゃったし、私なんのために剣道やってんだか···」


「ふっ、どうしたんだ、さっきの勢いは?負けたくなければ勝てばいいのよって、エリザベス・テイラーみたなこと言ってなかったか?」


「誰よ、それ?もしかして、マリー·アントワネットのこと?」


「そ、そうとも言うかな?とにかく、人に褒められたくて剣道してるわけじゃないだろ。お前の中の大切なものってないのかよ。」


詩音は俺の顔をジト目でジーーーっと見た。


「なんだよ···まあ、褒められたいって言うなら、ここにお前の努力をちゃんと見てるヤツがいるから、安心しろ。途中までしか見れなかったけど、あの初戦の引き胴までの駆け引きは大したもんだった。俺でも一本取られたかもしれない。」


詩音は、はあ〜っと深い溜め息をついた。


「あのお姉さんの気苦労、分かるわ···」


「は、なんか言った?」


「お弁当、美味しかった?」


「んん?ああ、美味かったぞ。」


「それ、ちゃんと本人に言ってあげてね。褒められたい人はね、世の中たくさんいるんだから。」




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