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13. 冬の女子も心は熱いようで

中学生の男子も少ないが、女子の剣士はそれに以上に少ない。あまりに少ないので、場合によっては複数の学年を纏めないと試合が成立しないほどだ。この大会の中学生の部では1〜3年全員が一つのリーグを争うことになる。


そんな中、まだ1年生の遠見詩音は華奢で小柄な方だ。元々、背もあまり高くない。剣道には階級制がないので、時々びっくりするくらい体格差がある場合があるが、今まさにそんな試合が始まろうとしている。


相手との身長差は10cmはありそうだ。

蹲踞すると、詩音の姿が相手の背中ですっぽり隠れた。


剣道に体格差は関係ない、というタテマエがあるが、実際は中々そうはいかない。圧倒的な実力差があれば話は別だが、やはり体格に恵まれた方が打突の威力があるし、体当たりなどモロに影響が出る。それに萎縮してしまって手が出ないと、指導が入ってしまう。


詩音は竹刀を小刻みに振りつつ距離を取り、足を頻繁に動かした。軽快さを活かす戦法のようだ。一方、相手はじっくりと詩音を見据えてるようで、少ない動きで圧力をかけている。女子の甲高い気合いが場内に響く。


先手を取ったのは詩音の方だ。素早い動きで小手を狙いつつ、相手に肉迫する。体格差で負ける詩音は鍔迫り合いを許されずに押し戻される。そのまま引き胴を狙うが、中段にガッチリ構えた相手の肘に当たる。すかさず、技の終わりを狙った相手が逆に前に出て面を放つ。詩音は着地する足を右に移し、すかさず軸をずらしてこれを躱す。正面から受ければ脳天に直撃していただろう。


再び、距離を取る詩音。攻めあぐねているのだろうか。中々次の手が出ない。このままでは指導が入ってしまう。


そう思った途端、また詩音は小手を打ちに行く。同じ手が通用するとは思えないが、今度は身体の軌道を若干右に寄せ、相手の斜め前から当たった。不意を突いたのと、素早い動きが加わって相手の反応が少し遅れたようだ。小柄とは言え、全身の体重を乗せた鍔迫り合いに、相手の体勢が一瞬崩れた。その僅かな隙に、詩音は今度は見事な引き胴を極めた。旗がいっせいに上がった。


先制を取った詩音は、その後も小刻みに技を繰り出し、確実に点数を重ねて初戦を勝利した。


最初に不完全な技を見せたのは、相手の油断を誘うためだったのだろうか。だとすると、詩音の腕も相当上がっているようだ。愛想はないが、稽古には誰よりも熱心な詩音らしい戦い方だったな。



どの部門も決勝は大会最後に行われるため、参加者は全員終わるまで残ることになる。負けて試合が終わった子は退屈して、勝手に場内を走り回ったりする。そんな子達を追いかけるのも俺の役目で、詩音の試合を最後まで見ることはできなかった。俺の試合は案の定、午後からなので、午前中はひたすら子供達の面倒で終わった。まあ、いつものことだが。


会場からぞろぞろと人が出てきたところを見ると、やっと昼休憩のようだ。子供達が迷子にならないように、手を引いて親元に連れて行く。すると、手提げ袋を持った私服姿の三木谷がいた。本当に来たんだな。


「涼太、お昼持って来たよー。どこで食べる?」


袋を持ち上げてニコニコと嬉しそうに言う三木谷。

親御さん達のなんだか生暖かい目線が刺さってくる。

ここで食べるのはあまりにも居心地悪い。


「えっと、寒いけど外でもいいか?ここは子供達が使うから。」


涼ちゃん、ここ空いてるよーという声は無視する。


「うん、分かった。じゃあ、早速行こうか。あまり時間もないんでしょ?」


その場を去る俺の背中にも視線が刺さってくる。

違うんだ、そうじゃないんだ、と心の中で叫びつつ。


正直、三木谷は顔もいいし、性格もサッパリしてるし、異性として悪くないと思っている。でも、コイツは昔から俺を年下のガキ扱いしてくるから、男として見られている気がしない。俺が三木谷より身長低かったのは、ずいぶん昔なのにな。


会場には中庭があり、ベンチが置かれていた。外は寒いから、ここを利用しようという人は他にいないようだ。そこに二人並んで座った。


「なあ、寒かったら言えよ。風邪引いても仕方ないからな。」


「ううん、ちゃんと厚着してきたから大丈夫。中はヒートテックで固めてるし。見る?」


「見ねえよ。ヒートテック見て喜ぶ人間いるのかよ。それより、飯押し食おうぜ。」


「はいはい、見たくなったらいつでも言いなよ。」


そう言いながら、三木谷は膝の上に持ってきたランチボックスを広げる。選択肢はおにぎりかサンドイッチだったはずなのに、なんか色々おかずが入っている。色合い的にクリスマス仕様ってとこか。


「お前、これ···」


「たまたま早起きしたから、お姉ちゃん、ちょっと気合い入れてみました〜!」


「何かすまないな。試合前だから、ちょっと全部は食べられない···」


「いいよ〜食べられるだけで。遠慮なく残してね。余った料理は私が責任持っていただくから。」


「うん、そうする。でも、卵焼きうめえな。余ったら、俺持って帰るわ。」


実際、どのおかずも美味しかった。

しばらく夢中で食べていると、三木谷は俺をじっと見ていた。


「ん、食わないのか?」


「あ、ううん、美味しそうに食べてくれるなって思って、つい見ちゃった。いただきまーす。」


「おう、本当に美味いぞ。ありがとうな。」


「えへへ、お姉ちゃん頑張って作ってきてよかったよ〜。」



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