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12. 冬の教室も戦いのようで

二学期の終業式の日。


「ねえ、涼太。また剣道の試合あるんだって?」


話しかけてきたのは三木谷だ。いつもの取り巻き連中はいないらしい。


「ああ、土曜日にな。」


「ふーん、今度はどこでやるの?」


「◯市の市民体育館だよ。なんだ、また見に来ようってか?」


「できの悪い弟を持つと、お姉さんは心配なんだよ。」


芝居がかった仕草で、よよよと泣くふりをする三木谷。

どこで覚えてくるんだ、そんなリアクション。昭和か。


「来たいなら勝手に来ればいいけど、今回は個人戦だけだから、始まるまで時間かかる割には直ぐに終わると思うぞ。」


「じゃあ、涼太の出番近くなったらメールで教えてよ。◯市なら直ぐに行けるし。」


「あのなあ···試合以外もやることたくさんあって、一々スマホいじってられないんだよ。大体、会場内はスマホ使用禁止だしな。」


「むぅ〜、しょうがないなあ。どうせ、涼太の出番は午後からなんでしょ?お昼持って行くから、一緒に食べよ?」


「メシ食う時間があるのかも分からないけどな。まあ、好きにしろよ。そんなに剣道の試合見たいなら、三木谷もやればいいのに。」


「私は自分がやりたいんじゃなくて、見るのが好きなの。」


「もの好きだなあ。ほらコレ、会場の場所。」


「ありがと。おにぎりとサンドイッチどっちがいい?」


「どうせ、コンビニのだろ?どっちでもいいよ。」


「あーたまには手作りしてやろうと思ったのに、傷ついた。具材はタクアンと納豆にしてやる。」


「ヤメテ、試合前にテンション下がる!俺が悪かった。」


「ふふふ、素直でよろしい。じゃあね、試合頑張るんだぞ。」


「ああ、ありがとな。」


俺が鞄を持ち上げて教室を出ようと立ち上がると、ドア付近でザザザという音がした。廊下を出ると、三木谷の取り巻き連中が群がってヒソヒソ喋っていた。なんだ、話し終わるのを待ってたのか?


「三木谷なら、教室にいるぜ。」


一応、声を掛けると、連中は驚いた様子でコクコクと頭を振った。コイツらの行動はよく分からん。




「ねえ、ちゃんと言えたの?涼太君、なんでもないように帰って行ったけど。」


「···いつものノリで会話しちゃった。」


「はあ〜、またあ!?私達、いつまでこの茶番に付き合えばいいの、お姉さん?」


「ゴメンて〜!今度こそ勝つから〜!」


「勝つもなにも、完全な一人相撲じゃない。まったく、涼太君もいい加減に気づけよって話よね。」


うんうんと頷く女子達。

三木谷は申し訳無さそうに頭を項垂れる。

それを複雑な表情で見下ろす。


(あんたがさっさとケリつけないと、私(達)の番が回ってこないじゃない!)


教室内にはいつの間にか暗黙のルールが出来上がっていることを、涼太は知らなかった。




試合当日、涼太は引率の大人達と合流した。

小学生の部でも何人か参加するため、朝早くからの出発となった。遠見詩音も既に来ていた。


「お早うございます。子供達は?」


「お早う、涼太君。そろそろ、皆来る頃だろう。」


丁度、少し離れた所から、子供達の賑やかな声が聞こえてきた。各自で来ると会場の駐車場は直ぐに満杯になるから、できるだけ車を乗り合わせることになっているが、防具鞄も嵩張るから、付き添いの親御さんはいつも大変そうだ。


「じゃあ、私達も行こうか。例によって指導員は審判に駆り出されるから、子供達の面倒を二人とも頼んだよ。」


「はい。」


「···はい。」


詩音はこういう時、いつも不服そうだ。


会場に着いたら、まずは参加者全員で大会本部まで行って主催者に挨拶をする。その間に親御さんたちはレジャーシートを持って走らなければならない。市民体育館の場合、観覧席などないことが多く、共用スペースを間借りして着替えや鞄を置く場所を確保しなければならないのだ。慣れた親御さんが指揮を取ってくれるので、とても助かる。


まずは自分の着替えを手早く済ませて、子供達の準備に回る。そして、配られた予定表を親御さん達と一緒にチェックし、それぞれの出番の順序を確認する。年齢が低いほど出場者も多く時間がかかるため、ずっと一箇所に貼り付いてることはできない。基本的に各自の出番の確認は親御さん任せになるが、会場には関係者しか入れないので、俺達も全体をよく把握しておく必要がある。


もっとも、今回の我が道場からの出場者はいつもより全然少ないので、気持的にはかなり余裕がある。俺は子供達を会場内の空いてるスペースに導き、ウォームアップのために運動をさせる。走り回ることはできないので、その場でできる準備運動と素振りだけだが、言ってみればここはアウェーなので、萎縮しないように、とにかく声を出させて気合いを入れる。


しかし、いざ大会が始まっても中々出番は回ってこないので、子供達の集中力を維持させるのは本当に難しい。勝ち負けはともかく、試合には全力を出してほしいから、できるだけ多くの子供達の側にいてやりたい。


詩音はこの辺がとてもドライで、勝つも負けるも自己責任というスタンスだ。ある程度大きくなればそうなのだろうが、小さな子供達にそれを要求するのは酷というものだ。


剣道を始める子供達は毎年大勢いるが、長く続ける人はほんの一握りだ。殆どは中学に上がると同時に辞めてしまう。せっかく買った防具が成長と共に小さくなって、また買い替えるのが面倒だ、という理由だけで辞める子もいる。そんな短い期間にも、自分は剣道をやってたんだと周りに言えるような何かを掴んでほしい、と俺は思うのだが、それはお節介なのだろうか。


今、目の前でガチャガチャと竹刀を合わせて審判に引き離されている小さい子達。正直、剣道になっていないが、この子達もいつか目の覚めるような見事な一本を取れるようになる。俺がそうだったように。その感動を剣道をやっているみんなに味わってほしいと思う。


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