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11. 冬の空気はよく声が響くようで

少年部が終わると、再び漣とマンツーマンで稽古をすることに。まずは切り返しを数回、連続で行う。漣の動きは先週よりも明らかに上達していた。徐々に回転数を上げていったが、最後まで問題なくついてきた。この細い身体のどこに力があるのか、と改めて驚く。


身体が温まったところで、次に掛かり稽古に移った。これは一見、打ち込みに似ているが、掛かり手は元立ちの隙を積極的に狙って、打つ時は常に一本を取るような烈帛の気合を込めて放つ。それを連続で行うため、とてもしんどい稽古だ。


と言っても、漣はまだ初心者だ。隙を狙うと言ってもよく分からないだろう。漣は面越しに俺の目を見据えている。俺は小刻みに竹刀を揺らしながら、攻めに転ずる動きをわざとゆっくり見せる。それに反応して、漣は打ち込んでくる。打つのは面、胴、小手、なんでもいい。


最初こそ分かりやすいサインを送るが、徐々にそれも止める。疲れで動きが鈍くなってくると、容赦なくこちらから打って気合いを入れ直す。大体、30秒ほど続けて一旦止めて、呼吸が落ち着いたらまた再開する、を繰り返す。


体力に自信のある漣も、さすがに汗だくだ。


「今が冬でよかった···夏場だと、どうなるんだろコレ。」


「夏は···流れた汗で体育館がプールになる。」


「ヤバいね、それ···熱中症で倒れたりしないの?」


「う〜ん、そうならないよう皆注意しているけど、今年の夏は三途の川の向こうでオヤジが手を振ってるのが見えたよ。」


「えっ、涼太のお父さん、もしかして···」


「今頃、家でビール飲みながらテレビ見てるだろう。ムカつくよな。息子はこんなに頑張ってるのに。」


「···よかったよ、まだお元気そうで。」


「そんなことより、漣に聞きたいことがあったんだ。」


「ん、なに?」


「いや、漣の気合いの声だけどさ。よく通っていていい声だといつも思ってるんだけど、やっぱり、合唱で喉を鍛えてるからかな?」


「ああ〜、どうなんだろう?喉は鍛えるというより、消耗を抑えるための使い方を覚えるって感じかなぁ。」


「え、喉って消耗品なのか?」


「うん、喉には声を調整する声帯という組織があるけど、筋肉じゃないから、これ自体を鍛えることはできないんだ。それどころか、酷使すると硬直化して上手く喋れなくなったりするらしいよ。」


「えええ、マジか。俺の声、よくおっさんみたいって言われるんだけど、もう寿命なのか?」


「おっさんって···ひどいね、それ。涼太は声変わりが早かっただけじゃないかな?」


「あ〜、そうかも。自分じゃあまり分からなかったけど、久しぶりに会った親戚からびっくりされてたな。」


「僕も変声期には悩まされたよ。ギャップを埋めるためにボイストレーニングのやり方を一からやり直すことになってね。」


「それは具体的にはどんなことをするんだ?」


「まず、腹式呼吸を徹底することだね。声は声帯を震わせるんだけど、それをお腹で調整するんだ。高い音域は鼻腔も利用して頭蓋内で音を反響させたりとかね。」


「すまん、説明を求めた俺がバカだった···全然分からん。」


「涼太は合唱にも興味があるのかい?」


「いや、漣の気合いを聞いてて、使えるなって思ったんだよ。」


漣は少し呆れた様子で言った。


「涼太は本当に剣道が好きなんだねえ。何に役立つのか僕には全然分からないけど、興味があるなら、稽古の後にちょっと一緒に練習してみようか?」


「お願いします、師匠!」


「師匠って···じゃあ、涼太は僕の剣道の師匠だね。」


「おう、そろそろ再開しようか、弟子よ。」


「アハハ、宜しくお願いします、師匠!」


稽古終了後、体育館の壁に向かって発声練習をする俺達を、大人達は怪訝そうな顔で見ていたらしい。


二人で体育館を出ると、詩音が待ち伏せしていた。


「遅い!」


「いや、別に待たせてねえだろ。」


「ごめんね、遅くなって。これ約束のチケットだよ。」


「あ、ありがとうございます···」


「なんで、漣には敬語なんだよ?」


「うるさい、涼太。シネバカ。」


「コイツ、やっぱり連れて行かない方がいいんじゃないか?」


「アハハ、二人は仲いいんだね。」


「どこをどう見て、そんな感想が生まれてくるかな。」


「本当に。こんなゴリラと一緒にしないでください。」


「喧嘩するほどってヤツかな?それじゃ、僕は先に帰るよ。涼太も遠見さんも、来週の試合頑張ってね。見に行けないのが本当に残念だけど。」


本当に残念そうな顔をする漣。

喋るようになってまだ一月ほどなのに、よくこんなに親しくなったよなあ。


「ああ、漣はあまりムリすんなよ。疲れを感じたら、しっかり休めよ。」


「うん、ありがとう。また、来週···じゃないのか。また、クリスマスに!」


「おう、クリスマスに!」


漣の姿が見えなくなると、詩音が話しかけてきた。

まだいたんだな、コイツ。


「ねえ、涼太と柏木さんって···」


「なんだ?」


「付き合ってるの?」


「はあ!?なんでそうなる?」


「だって、いつも気持ち悪いくらいベタベタしてるもん。私から言い出したけど、楽祭行くのもしかしてお邪魔だったかなって···」


「変な気を回すな。俺は普通だ。」


「ホントに〜?」


「ホントにホントだ。漣もガワはイケメンだけど、中身は健全な男子だぞ。」


「う〜ん、涼太は分かるけど。柏木さんはねえ···なんか私のセンサーが反応するのよね。」


「お前にどんな機能が搭載されてるのか、そっちの方が気になるよ。」



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