10. 冬のお楽しみはクリスマスらしい
「なあ、涼太。クリスマスどうするよ?」
学校の昼休み。級友の田口が話しかけてきた。
「ん?剣道。」
「お前って、本当にブレないな···去年も同じこと言ってたぞ。」
「よく去年のことなんか覚えてるな。俺なんか、昨日食べた給食の献立も思い出せないぞ。」
「それは俺も覚えてない。んなことより、今年はせっかく土日クリスマスなのに、剣道だけで過ごすのかよ?クリボッチ同士で寂しい夜を回避しようぜ。」
「キモいこと言うなよ。別に剣道だけってわけじゃないぜ。クリスマス当日は知り合いのピアノ演奏を聴きに行くって約束をしていてだな」
「はあ、ピアノ?お前が?」
田口だけじゃなくて、一瞬周りの空気がざわついた気がしたが···気のせいか?
「んだよ、悪いかよ?」
「いや、悪くはないけど···マジかよ。まさか、誰かと一緒にってことはないよな?」
「いや、そのまさかだよ。」
「···一応、聞くけど。そのツレは女子、じゃないよな?」
「あ〜、一応、女子だ。」
「「!!!」」
放心状態に陥った田口の横に、人影が数人立った。
「ちょっと、涼太君。そこ座って。」
何か怖い笑顔を浮かべたクラスの女子数人が集まっていた。
「えっと、俺どう見ても座ってるよね。」
ドン!と机に手が置かれた。
「今の話、もっと詳しくお姉さんに話してみなさい。そのお相手はどこのどなたかなあ〜?隠してもためにならないぞ!」
グイグイと迫ってくるのは女子グループのボス的存在である三木谷だ。小学校からの同級生でもある。
「隠してねえ!同じ道場生だよ。前に見たことあるだろ?ほら、髪が長くて無愛想なやつがいただろ。」
以前にクラスメート数人が俺の試合を見に来てくれたことがあって、その時に確か紹介したはずだ。
「ああ、確かに。愛想はないけど、顔はまあまあ良かった気がするわ。で、その子といつから付き合ってるの?正直に言いなさい。」
「だから、付き合ってなんかいねえって。知り合いの発表会に行くって言ったら、勝手に付いてくることになったんだよ。」
「ふ〜ん、ホントに?ホントにそれだけ?」
「しつこい!」
「分かった、そういうことにしとく。ちなみに、そのピアノを弾くお知り合いってのは?」
「そっちは男だよ。」
何故か三木谷以外の女子達がホッとしている。
「なら、よし。でも、もしカノジョができたら、ちゃんとお姉さんに報告するんだよ?分かった?」
「分かった、分かった。ほら、もう授業始まるぞ。」
やっと、自分達の席に戻っていった。
ったく、同い年なのに、何でアイツは姉気取りなんだよ。
俺は未だ放心状態の田口を揺さぶって正気に戻させた。
漣にとって、今年最後の稽古になる土曜日。
約束通り、漣はチケットを手渡してくれた。画用紙を切ったような手作り感満載のチケット、ではなく、しっかり意匠がこらされた多色刷りの印刷物だ。
「あれ?これ、座席指定があるのか?」
「うん、一般席とファミリー席は別々に設けられてるから。座席の場所がどの辺なのかは分からないけど、遠見さんと横並びのはずだよ。」
「あ〜、これ漣の家族用のチケットか。もらってしまって大丈夫なのか?」
「うん、うちは両親しか来ないから。」
「そうか、じゃあ、ありがたく頂戴するよ。」
俺は無くさないように鞄のポケットにしまった。
「それでね···ファミリー席だから、うちの両親に会うことになると思うけど、よかったら挨拶だけしてもらえるかな?母さん、何だか涼太に会いたがっていて。」
何だろ?もしかして、大事な息子が怪我でもしたらどう責任取るんだ!なんて、怒られたりするのだろうか。まあ、その時は華麗に土下座でもするか。
「分かった。タダでチケットもらえたんだから、そのくらい任せてくれ。」
漣は安心した様子でニッコリ微笑んだ。
「そう言えば、詩音が心配してたけど、発表会行くのにドレスコードとかあるのか?」
「ええ?いや、そんなことはないと思うけど···うん、まあ、いつも来てる人はスーツとか礼服姿かな。」
「···ジャージじゃダメか?」
「ジャージ···う〜ん、ダメってことはないけど。涼太の学校の制服でもいいんじゃない?学生服って礼服の扱いだって言うし。」
「お、そうなのか?俺の学校は公立だから、制服も全然高級感ないけどな。」
「そこまで気にしなくても大丈夫だよ。それより、涼太は前日に試合だけど、どこでやるの?」
「えーと、◯市の市民体育館だったな。」
「そうか。当日は応援できないけど、涼太が勝てるように祈ってるよ。」
「おう、漣もな。演奏会、楽しみにしてるぞ。」
俺達はグータッチで互いの健闘を誓った。
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