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旧校舎の座敷童子  作者: キスナ
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五章

「最近、なんか変だよね」


座敷童子さんに情報を渡してから約一週間が過ぎた。

姉の突然の発言に、私をはじめとする父も母も、テレビに向けていた視線を姉に向けた。


「変って、何が?」

「だってなんか食器が減ってるし、上から物音するし、この家、なんかおかしくない?」

「そんなの気のせいでしょ。食器はこの前、華が大量に割ったからないのよ。あんまり華のこと怖がらせないの」


クスクスと笑いながらの家族の会話に、私は苦笑いをするしかない。

私の家族がこんな風に呑気でいられるのも、全員、心霊とかを信じていないからだろう。

何せ私の家系は私以外に霊感というものを持っていない。

私がそんな力を持っていることも知らない。


私が幼い頃の怪異とのエピソードも家族にとっては私の不思議ちゃんだった過去のエピソードで、そういった類が存在しているという思考にはならないらしい。

だから今回のこの家での現象も、恐らく古い家だからだろうぐらいで済ませているはずだ。

むしろ私が進んでそう思わせたし。


信じてない人に言ったところで時間と労力の無駄だもの、下手なこと言わないほうが平和だ。

しかし問題は、物音が天然と鈍感を併せ持つのんき家族にも気づかれるほど活発化していること。

今まで私が一人でいる時以外は起こらなかったのに、家族がいる時でも起こるようになった。


「困ったことになったな」


これは明日にでも座敷童子さんに報告しないと、と頭の中にメモしつつ、リビングから自分の部屋に移動する。

明日の学校に準備しないと。

これでも学校では真面目キャラだからね。


学校の指定鞄に教科書を入れつつ、そういえば明日も座敷童子さんにマンガを持っていかないと思って振り返ったその瞬間、私はとっさに振り返った身体を元に戻した。


「……おっと」


ドッと冷や汗が吹き出し、心臓がうるさいほど鳴り響く。

これは困ったことになったどころじゃないだろ。


(いるな。これいるな。めっちゃ見てるな)


私の部屋は姉と共同で使っている和室だ。

だから障子戸なのだけど、古い家で建付けが悪いので、よくちょっと使う程度なら開けていることが多い。

今回はそれが良くなかったらしい。


開いている戸のところから、異様な角度でこちらをみている女性がいた。


覗き方は垂直に身体を浮かせるか首の骨の存在を無視するかしないとできない九十度の角度。

幽霊ってなんで驚かせる気満々の姿で出てくるの?

その法則は必要かな。

生きているときにできなかった体制ができるからってはしゃがないでほしい。


(顔は良く見えなかったけど、十中八九、郁子さんだよね。下でキキ吠えてるし)


視線をばりばり感じる。

私はもう見えないふりをするしかない。

こういった類は見えるとわかるとアピールが酷くなるんだ。

もう過去の経験から学んでいる。

それこそ、座敷童子さんみたいにね。

あれは可愛いけど、悪いモノの場合は怪我させるレベルの行動してくる。

シャレにならない。


何でだろうね、見えない人ばっかで構ってもらえないから寂しいのかな。

素直に成仏してくれれば何よりなんですけど。


とにかくいつも通りの行動、いつも通りの表情。

でも心の中は大混乱で郁子さんの様子を伺う。


「華! ちょっと、どこ行ったの?」


その時、姉が私を呼びながら階段を上って来た。


「あんた、ここにいたの。華が見たいって言ってたテレビ、始まってるよ」

「あ、うん。今行く」


姉のちょうど腰のあたりに郁子さんの頭があるんだけど、見えない人って強いな。

私にはできないよそんな大胆なこと。


郁子さんも郁子さんで姉には興味がないらしい。

私にだけ熱烈な視線。

何でだ。


姉という助けも来たところで、私は郁子さんを見ないようさっさと部屋を出た。

その後も階段を完全に下りきるまで彼女は顔の角度をそのままにこちらを見ていた。

怖いことこの上ない。


見えることが知られているのかなんなのか、どうも郁子さんは私にこだわっているようだ。

この前までは私が一人で家にいる時しか怪奇現象起こさなかったし。

今日みたいに姿が見えたのは初めてだけど。


楽しみにしてたバラエティー番組もさっきの郁子さん登場のせいで頭に入ってこない。

これから先もあの姿が見えるようになるとか嫌だな。

この家に帰りたくなくなる。

座敷童子さんの旧校舎を間借りしようかな。

学校は座敷童子さんの管理下だから危ない幽霊いないし。

私みたいな存在にとって一番の安全地帯だよ。


「リフォーム終了まであと二週間ぐらい……。その間に何事もない、わけないな、これは」


本格的な対処をしないといけなくなるかもしれない。

中学生になってまだ一年目だというのに、この騒動。この先が思いやられる。


もはや疲れ果てた私を差し置き、テレビの中からは腹が立つほど楽し気な笑い声が響いていた。


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