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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
第三章 泊地パラス・アテネ
85/105

4-(15) フライヤベルクの動静(封鎖戦2/3)

 そして、いま、クイーンシャンテル号と愛称される総旗艦アマテラスでは、戦線司令官のシャンテルが、

「後退――!」

 と麾下の戦力へ命じていた。この指示に驚いたのは、彼女を取り囲んでいた戦線司令部の高官達だ。驚いたなかの1人が、

「後退なさるのですか?」

 と、よしたほうがいいですよ、という念をこめて問いかけた。だが、シャンテルは毅然としていた。


「ええ、下がりますよ」

 

 シャンテルはさらりと、だが自信をにじませていったが、驚いた高官からすれ気が気でない。

 

 なぜなら、自分達ロイヤルネイビーが、これ以上後退すると三日月艦隊との距離が離れすぎるのだ。軍高官は、三日月艦隊とロイヤルネイビーとの相互支援が不能となることを危惧した。

 

 だが、シャンテルからすれば、これが重要だった。三日月艦隊とシャンテルのロイヤルネイビーが、あまりに離れすぎることが。

 

 ――なぜって当たり前じゃないですか。

 とシャンテルは思うだの。天儀はわたくしを、軍事的無能と断じているに決まってますけれど、わたくしだって長く戦場いるのですから、見えてくるものだってあるんですよ。それに戦いの指揮が苦手だという自覚はあります。すぐに頭に血が上りますしね。

 

 だからシャンテルは、誰よりも戦術の勉強をした。毎日した。わからないことは恥ずかしがらずに、無知を装って聞いた。困り顔で可愛く微笑めばお硬い参謀部の将校も鼻の下を伸ばしながら優しくなんでも教えてくれる。強くなるなら、兄の役に立つならこれぐらいのことは軽いも。シャンテルは、再び戦場に立つにあたって悲壮な決意で臨んでいたのだ。

 

 ……話が少し脱線しました。

 そう。このさらなる後退は重要なんです。出撃してくる敵集団からすれば、三日月艦隊とロイヤルネイビーの間に入り込むことになる。これは敵としては、ヌナニア軍の分断を意味しますが、同時に自ら進んで挟み撃ちされるということもであるんです。

 

 ヌナニア軍視点だけからすれば、出てくる敵は大歓迎。邪魔などしませんよというものだが、敵からすれば、

 ――包囲されることを極大に警戒するでしょうね。

 だからシャンテルは、さらなる大規模な後退を命じたのだ。これで敵は、三日月艦隊をより追いやすくなる。

 

 ・両軍の動き(4-14-7-3)

 挿絵(By みてみん)

 

 事実この判断は正しかった。

 太聖銀河帝国軍からすれば、敵は2つに割れた。

 

 フライヤフリューゲ内の司令部で作戦の指揮を取っていた主将の趙成勲ちょうせいくんは迷った。拠点から繰り出した打撃集団に、

 ――どちらの敵を追わせるべきか?

 だが、その迷いは一瞬だった。片翼高地サブウィング方向に逃走する敵のほうが数が少なく、しかも統率が取れずに、みっともなく後退しているからだ。

 

「我が打撃部隊へ命ずる。片翼高地サブウィグ方向に下がっている敵を狙え!」


 趙成勲からすれば、敵のヌナニア軍は、司令部がおかれている主戦力で、出てくる帝国軍を迎え撃ちたかったのだろう。だが、ヌナニア軍に十分な準備がなかったために、片翼高地サブウィング方面と大翼山メインウィング方面との戦力で連携がうまくいかなかった。本来なら同一方向にさがるか、フライヤフリューゲからでてくる帝国軍を挟み撃ちにできる距離を保つはずだ。

 

「だが、敵は戦いの素人集団だな。見ろ片割れがだらしなく片翼高地サブウィング方面に走っている」

 

 趙成勲からいわせれば、襲撃してくる帝国軍に対して、ヌナニア軍が距離を取るというのは真っ当な選択肢だが、ヌナニア軍のやりかたがあまりに、雑、下手、不格好。

 

「我が方は勝てり。陛下へ勝報をお届けするぞ!」


 張成勲の率いるのは、帝国の第二軍団。十八ある軍団のなかでも装備もよく精鋭だ。


「竜王(太聖皇帝の愛称)の外戚がいせき?」

 と三日月艦隊のブリッジでは、ランス・ノールが義成へ問い返していた。戦況は予断を許さないが、近接で大砲撃戦をやっているわけではない。ブリッジ内は、張り裂けそうな状況からは程遠く、沈黙を持て余すぐらいの余裕はある。


 戦場が広ければ広いほど、命令にゅうりょくからの完了レスポンスには間がある。いま、命令したことが、直ちに完了するということは宇宙では少ない。とくに複数の艦を指揮する立場の戦いはそうだ。


「ええ、フライヤフリューゲの司令官で、ここ一帯の責任を持つ趙成勲の妹は、趙妃ちょうきと呼ばれ、皇帝の最初の妻にして、最上位に位置づけられる四夫人のなかで序列三位の徳妃とくきの地位にあります」

「つまり張成勲は、皇帝の義理の兄として、皇帝から絶大な信頼を得ているというわけか」

「はい。太聖皇帝は、この戦争の最重要拠点に最も信頼できる人物を配置したといえます。しかも自分の調べでは、趙成勲は政治も外交もやれるオールラウンダーな有能な家臣です。言うまでもありませんが軍事的能力も高い人物です」

「ほう。戦っていて手堅く、理にかなった動きするとは思っていたが……。ただ、ここの敵の動きは微妙に素人くさいというか現場主義な処方が多いな」

「ええ、もともと趙成勲は、商人だそうですから」

「商人?」

「はい。方面軍司令官の趙成勲は首都圏で一二を争う商人で、軍の専門教育をうけたことはありません」


「ははん。なるほど――」

 と、ランス・ノールは納得した。敵から感じていた病な素人臭さの理由がわかったからだ。そしてここの敵が、比較的に消極的なのものだ。皇帝の外戚にして義理の兄という立場なら納得なのだ。


 ――趙成勲には減点が許されない。

 

 皇帝の親戚で、将来安泰ならば積極的に勝ちにいく必要はない。むしろ失敗しないことを第一にする。その地位から転げ落ちないように。

 

 ――敵は手堅いといったが。

 むしろ戦っていて私が敵に覚えた印象は保守的なほどの消極さだ。なるほど。義成くんは優秀だ。おそらく彼が士官学校卒業後にいかされたのは情報部系の秘匿組織。彼は本人が自覚している以上に情報収集に長けているな。

 

 そして天儀が、義成くんを側近に起用した理由もわかった。天儀は、相手の脳みそなかを想像して戦うタイプの軍人だ。弾薬や砲門数、艦艇の数など数字的な根拠をないがしろにしないが、やつの本領は敵の意図を読むのがきわめてうまいことだ。義成くんがもたらすような敵将の個人的情報を好むだろう。


「なるほど。趙成勲がフライヤベルク戦線の司令官となって当然だったか」

「おわかりになるのですか趙成勲がここに配置された理由が?」

「竜王は趙成勲の保守的な思考を見抜いているのだろう」


 義成は、ランス・ノールのこの言葉に不思議な顔をした。

 ――まだわからないか。

 だが、教えるのも彼ためにはならないな。と思ったランス・ノールは少し笑みを見せただけで黙った。

 

 ランス・ノールからいわせればこうだ。竜王とかよばれる太聖皇帝が、ここの戦線に趙成勲を親戚を起用した理由は、信用できるというのもあるだろうが、理由はそれだけではない。保守的な趙成勲は、

 ――冒険的な行動にはでない。

 というのが最大の理由だ。手柄を無理にたてる必要がなく減点を最も警戒すべき立場なら、敵の挑発のらず手堅くフライヤフリューゲを守り続ける。趙成勲には大成功は期待薄だが、大失敗は犯さない。

 

 フライヤベルク戦線が最重要なのは、ヌナニアだけでな太聖にとっても同様だ。竜王は、ここに絶対に失敗しない男を選んだのか。相手にしていて、趙成勲の優秀さは疑いない。だが優秀だけでは、フライヤベルク戦線を任された理由は説明しきれない。やっと合点がいった。

 

 ――そして俺もか――

 

 ランス・ノールも失敗できないという点では趙成勲と同じだった。この戦いでしくじると、公民権停止と軟禁状態が解除されたところでランス・ノールが世の中に返り咲くチャンスは、随分とさきになってしまうだろう。

 三つ先を見通すといわれるランス・ノールは、義成が沈黙の気まずさという問題の解消のために振った話題でここまで思考を飛ばしていた。


「趙成勲は元商人か。だが、太聖宇宙は100年もの戦乱となっていた。星系間どころか、同一星系内の惑星同士で商売をするにも大変だったろう。商品と金を満載した宇宙船は、武装勢力からすれば格好の餌食だ」

「さすがですね。肯定です。ですが張成勲の張家は伝統的な商人といえども武装集団。交易に使用する船も軍用宇宙船も顔負けの武装商船です。彼はこれを率いて、太聖宇宙の政治的中心部である王畿で莫大な利益をあげていたようです」

「なんだ。それではまるで軍閥じゃないか」

「ええ、伝統的な商人の家柄も、その実態は武装勢力が商人をやっているというのが正確な表現になります。太聖皇帝も彼のもつ莫大な資力より、軍事的能力を見込んだようですし、趙成勲という男の実像は、商人というより武装勢力のトップだと思いますね」


 だが、義成が、武装勢力のトップといった趙成勲は、髭面で不潔ながさつな男ではなかった。むしろ、その容姿はうるわしいほど。真っ黒な長髪が腰までたれ、品のある顔立ち。帝国の軍服は、漢洋折衷かんようせっちゅう。ベースが西洋風で、袖などが中華風なのだが、その軍服がこの男にはとても似合っている。

 

 そんな趙成勲が、フライヤフリューゲの司令部で出撃させた帝国打撃部隊にさらなる進撃を命じていた。

 

「敵の戦線司令部のある本隊がさらにさがった。これはチャンスだ。片翼高地サブウィング方面へ逃走している敵を全力で追え!」


 そして2時間後……。

 片翼高地サブウィング方面では、ヌナニア軍と帝国軍との戦闘が開始されていた。

 追ってくる帝国打撃部隊に対して、やっと三日月艦隊が反転をおこなったのだ。帝国側は、やっと逃げるのをあきらめてくれたか、と苦笑しながら戦闘に入ることとなった。


 戦闘が開始されれば双方火の車だ。


「くそ! もっとフライヤフリューゲから距離を取ればよかった。片翼高地サブウィングからの敵の支援がキツすぎる!」

 若干の焦りを覚えつつ義成が、旗艦イカルガのブリッジで思わず口走っていた。

 

 三日月艦隊を指揮する義成には、敵が堅牢な要塞群化したフライヤフリューゲの右翼から艦隊を適度な距離を保つという難しさもあった。いまのように片翼高地サブウィングから近すぎれば、艦隊には強力な要塞砲が唸りをあげて降ってくるのだ。だが、いまは義成の面倒見役の参軍事ランス・ノールの意見は違った。


「いや、これでいい。これ以上、三日月艦隊を片翼高地サブウィングから遠ざけていたら、敵は警戒して戦闘をためらったろう。いまの戦闘は我々が望む絶好のタイミンだ!」


 ランス・ノールが思うに、敵は片翼高地サブウィングから離れ過ぎた場合には、思い切った戦闘に付き合ってくれない。なにせ主将は、保守的な趙成勲。ランス・ノールにはわかるのだ。彼ならこう考えると。……戦果はいまいちだが、片翼高地サブウィングからの支援なしに戦えば被害が大きくなると。ならば被害がでないうちに撤収だ。

 

 趙成勲は、

 ――我らは成果を得た。

 とヌナニア軍の包囲の陣形を崩しただけで、満足して引き上げてしまう可能性が濃厚。そしてヌナニア軍は、それでは困る。

 

 ヌナニア軍としては、出撃してきた帝国打撃部隊をなるべく長くフライヤフリューゲの外に拘束しなければ、フライヤポケットの出入り口に封鎖線を作れない。


「我々としては出撃してきた帝国打撃部隊をなるべく長くフライヤフリューゲの外に拘束しておきたい。義成くん焦らないでいい。三日月艦隊への被害は、成功している証拠だと思いたまえ」

 

 工作船団が封鎖線の構築に手を付けてたぐらいで、敵が戻ってこれば、工作船団は慌てて撤収するしかない。フライヤポケットの出入り口に、封鎖線を作るという作戦は失敗に終わる。

 

 そして工作船団が撤収して、そこに残されるのは、ヌナニア軍の大小の工作機。封鎖線構築のために時間をかけて準備した特注のとても高価な重機が、ほぼ無傷で多数漂うことになる。当然これは敵の鹵獲品せんりひんとなる。

 

 それでも不安ぬぐえないという義成へ、ランス・ノールは、

「多少与えなければ敵は乗ってこない。君は死人を出さないで戦えるとでも思っているのか!」

 と頬を叩くような勢いで言葉を浴びせたが、義成は聞こえないという顔。真っ青で指揮しているだけだ。


 ――まあ、状況はいい。

 とランス・ノールは嘆息し、シャンテルのロイヤルネイビーと工作艦部隊の動きを確認した。2つの集団の動きは順調だ。工作艦部隊は、もうおそらく工事に着手している。ロイヤルネイビーも工作船団を守護する予定のポイントへの配置を2時間もあれば完了できそうだ。


 ――シャンテルは成長したな。

 とランス・ノール思った。シャンテルが戦闘指揮能力の低さ苦しんでいたことを、陰口に苛まれていたことをランス・ノールはしっていた。だが、可愛いい妹だからこそ特別扱いできないこともある。ランス・ノールは影で助言しつつも、シャンテル・ノールは兄に甘えずに自力で奮起したと周囲が思うように、部下たちの前で突き放す態度をとったことも多くあったのだ。

 

『謝罪の言葉は、ときとして責任を認める言葉にはならない。とくに我々のように特別な血胤けついんに生まれたものにはな。立場があるからこそ結果でしめすんだ。生まれは取り消せない。身分はもさがらない。セレスティアル家は、そういう宿命を背負った家系だ。気高い血筋と高い身分が苦しいならば、それに見合う結果をだして苦しみを消せ。悲しむ前に最善をつくせ』


 こんなふうに妹大事のランス・ノールとしては、とても厳しい言葉を妹へ吐いたこともあった。

 

 ――ランス・ノールは公明正大。

 重度のシスコンと思われつつも、こういう絶対の信頼が軍内ではある。


 ランス・ノールが見るに敵はもうこちらの術中。

 ――任務遂行に必死な義成くんには悪いが。

 敵は攻撃計画を前倒ししたことですでに失点している。そして、繰り出した戦力を三日月艦隊に向けたことでさらに減点。そして、いま、帝国打撃部隊は、三日月艦隊とがっぷり四つの完全戦闘状態。これで3つ目の失点だ。

 ――もう。これでは逃れられまいよ

 三つ先を見通す男から見れば、敵の三つの失点は致命的だった。


 このころ早くもフライヤフリューゲ司令部では、主将の趙成勲は状況を認識し始めていた。太聖宇宙100年の混乱を勝ち組の中枢として生き残った男は伊達ではない。

 太聖側の司令部では趙成勲が、

「やられた!」

 と、戦況にまずさを感じうめいていた。このとき趙成勲は、出撃させた帝国打撃部隊の指揮を司令部からおこなっていたのだが、ふと気になって、

 ――そういえ大翼山メインウィング方面の敵ばどうなった?

 とフライヤフリューゲ全体のバトルマップを確認したのだ。バトルマップの戦力の配置は、彼我の状況を視覚的に認識させてくれる。そこには驚くべき状況が、展開していた。

「なぜ誰もこの状況を報告しなかった!」

 

 バトルマップを指差し声を荒げた趙成勲に、幕僚達は驚いたような困ったような顔をむけただけだ。それに趙成勲の様子は、下手に口を開けば叱責されかねない剣幕。だが、黙っているわけにもいかない一人が、

「特に問題ない状況です。我々が懸念すべき状況は、出撃した帝国打撃部隊が挟み撃ちをうけることですが……」

 戸惑いながら言葉を切った。

 

 三日月艦隊を追った帝国打撃部隊が、最も警戒すべきは、三日月艦隊とシャンテルのロイヤルネイビーに挟み撃ちにされ殲滅されることだ。だが、現況は、太聖側から見れば、ヌナニア軍戦線司令部が置かれているロイヤルネイビーの集団は、三日月艦隊から離れすぎていて、繰り出した戦力が挟み撃ちにされる心配はまったくない。

 

「バカをいうな貴殿らの目は節穴か。敵が金管水道フリューゲルラインの外に集まり始めているではないか!」

「ああ、帝国打撃部隊の退路をご心配なのですね。それなら大丈夫です」

 

 そして全員が、何事もないという落ち着きを取り戻した。趙大将軍は、心配病なのだ。損をしない戦い。戦えば必ず成果を上げたかつての名将も、ここフライヤベルク方面軍をまかされてからはいけない。

 ――やらたらと失敗を気になさっている

 と趙成勲の幕僚達は誰もが口にはしないが、やりにくさを覚えていた。今回もその心配病だ。

 

「我々が戦力を繰り出せば。ヌナニア軍が退路をふさごうとするのは織り込み済みです。ご懸念は理解します。プライヤポケットしか、フライヤフリューゲで大兵力をスムーズに進退させられる場所はありません。ですが、それはあくまで本格的な大艦隊に限っての話です」


 つまり幕僚がいいたたいのは、戦力を細切れにしてしまえば、フライヤフリューゲ内に滑り込めるスペースはいくらでもあるといいたいのだ。フライヤフリューゲ司令部では、戦力を繰り出したあとに、フライヤポケットが閉じられてしまった場合の計画もいくつか持っている。


 単艦なら一時的な対処として、港湾部に戻ってこれなくなるような袋小路にでも逃げ込める手段だってある。まあ、その場合は救出に時間がかかってしまったりもするが、それは問題になるような損害じゃない。


「仮に帝国打撃部隊が勝利後も、敵が愚かしくもですが、フラヤポケット出入り口である金管水道フリューゲルラインから撤収しないのであれば、フライヤフリューゲ背後にあるVラインを通過しての撤収計画があります」


 Vライン。正しくはフライヤVライン。それを聞いて趙成勲が少し嫌な顔をした。

 育ちのいい趙大将軍は、フライヤフリューゲの秘密の入り口に兵員たちがつけた名前が嫌いなのだと誰もがしっているので気にしなかった。

  

「これは敵の戦力的にありえませんが、仮にVラインを閉じれてもさらなる撤収計画をもっていますのでご心配にはおよびません」

 

 さらなる撤収計画とは、すでに書いた戦力を細切れにしてのフライヤフリューゲ内のへの撤収だ。だが、幕僚達からいわせればどれもありえないのだ。

 

 まずだ。フライヤポケットの出入り口である金管水道フリューゲルラインから敵がどこなかった場合は、帝国打撃部隊とフライヤフリューゲの要塞砲で挟撃にできる。

 いまの状況なら、三日月艦隊を撃破し、さらに通せんぼしている敵戦力も排除して二回の勝利となり、これほどおいしい話はない。

 

図4-14-7-5

挿絵(By みてみん)


図4-14-7-6

挿絵(By みてみん)


 そしてフライヤポケットとVラインが同時に塞がれるという事態。これは絶対にありえない。なぜならヌナニア軍側の戦力が少なすぎるのだ。仮こんな計画を実行しても、やはり通せんぼしている敵を撃破できる。


 幕僚は、なにか問題でも? といいたげに趙成勲を見返した。

 

「私がいいたいのは、そういうことではない!」

「ですが繰り出した帝国打撃部隊への挟撃の心配はないとなると、あとは退路の確保ぐらいで――」

「貴殿らの目は物が見えていないようだな。つかの間の平和で帝国軍人の質は低下したか」

 

 趙成勲が冷たい目でいったとき司令部内では、アッ! という慌てた声があがっていた。

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