3-(閑話) ジャスティン・スタージュン
翌日――。
第一格納庫に隣接する資材置き場――。
訓練と称した決闘場に先着したのは、ジャスティンとライオネス達だ。
ジャスティンを中心に思い思いに立つライオネス達。
ジャスティンは、いつもどおりの白い軍服姿だが、ライオネス達は動きやすいスポーティな格好。スールズはレオタード風の迷彩戦闘服。和風女子のスクルドは武道着に袴の姿。参謀格のヒルドまでスパッツとジャージ。メガネもスポーツ用のもの。ただ、彼女の手には様々な情報がつまったパットがある。
そしてまっさきに勝負を決めると息巻いていたレギンと、おそらく見た目的にライオネスで格闘戦最強格と思われるヘルフィヨトゥルは、もはやプロの総合格闘家といったいでたちで、手にはつかみ合いもできるグローブがはめられている。もちろんグローブは、殴りつけたときに自分の拳が負傷しないためのものだ。いまから袋叩きにする男への気づかいじゃない。
数分後――。ガラリという扉が開く音がしたが、開いただけで終わり、
「あれ?」
とスールズが怪訝な顔をした瞬間に男が、つまりは天儀があらわれた。
天儀が姿を表すまでの奇妙な数秒間。ジャスティンは気にもとめずライオネス達も怪訝にこそ感じたけれど問題とはしなかった。
「へー。1人できたんだ。もしかしたら仲間を連れてくるとボクは思っていたんけどね」
「なんだお前こそタイマンとかいっておいて、引き連れてきやがって」
「いやー。彼女達はギャラリーさ。勝ったときに褒め称えてくれる女の子がいなきゃ張り合いないだろ?」
嘘をいけしゃあしゃあというジャスティン。ジャスティンとしては、別に全員で襲うと認めてしまってもいいのだが、
――なにせレギンなんてやる気満々で隠しようがないじゃないか。
と内心で苦笑しつつも、やはり戦いは不意打ちが鉄則と考えていた。それに取り巻きの女子は、参加しないと思わせておいたほうが絶対に面白い。レギンとヘルフィヨトゥルに挟まれて殴られ蹴られする男の驚きと無様な表情はきっと最高の見世物になる。
「じゃ始めますかね」
「いいだろう。吠え面かかせてやる真っ白軍服野郎」
「その自信いつまでつづくかなぁ。いまなら泣いて許しを請うたら考えなくもないんだけど、どうする?」
「バカいえ。俺の立つ戦場にはつねに栄光が伴う。お前は今からそれをしる」
殴り合い開始の数秒前。軍には戦闘訓練と届け出た実質は決闘。
もちろん軍の規定どころか法律違反。決闘罪は、近代国家の必須事項。問題を個人間で、殴り合いで解決なんて認められるわけがない。国家の主権の侵害だ。絶対に看過できない。
そこに、
「……お待ち下さい! 俺も――!」
とう声とともに男が1人資材置き場に飛び込んできた。入ってきた男をみとめたジャスティンは驚きの声をあげた。
「あれ?! 義成くんじゃないか。なんだってここに」
「ここで……。ハアハァー……」
「ずいぶんと息切れしてるねぇ。よほど慌ててきてきたところを見るとボク達を止めにきたのかな。でもこれは格闘戦の訓練だよ。軍の許可もとっている。正義ごっこは寒いと思いたまえ」
「……いや、俺は、お前の汚いやり口を知っているからな。これは知行合一だ」
と息を整えた義成が、天儀の横に立った。
「ああ、きみはその男の加勢ね。へー、いいよ。一人増えたとこで変わらないからね」
ジャスティンもライオネス達も総司令官の側近である義成の登場をさして問題視しなかったし、不思議とも思わなかった。なぜならこういった参月義成の横やりは星系軍士官学校時代からの常なのだ。
――道理がなくても弱い側につく。
これがジャスティン達のしる義成。
そうジャスティンからいわせれば、義成くんってめちゃくちゃ面倒くさい性格なんだよね。強いほうが正しい場合でも弱い側に無理に味方するっていう……。ジャスティンからすると義成はこんな性質なのだ。参月義成は、性格が正義の味方。ジャスティンはそう定義している。
「しかし義成くん。きみは相変わらずだね。そんな男に加勢するだなんて」
「なにをいっている。当たり前だ。このかたは俺の上司だぞ」
「あー……察し。きみは相変わらずさえないねぇ。そんな男のしたで働いてるだなんて」
ジャスティンはこう思ったのだ。予備役から動員された古参兵がアドバイザーとして新米の士官の補佐につくことはあると。それが場合によっては、階級は低くとも現場をよくしるベテランということで、特別な立場を与えられ上官としてチームをまとめることもある。ジャスティンだけでなくライオネス達も、義成がこの軍曹の男を上官といったのは、そういうことだと解釈した。
「くそ。入り口にトラップがあるかと警戒してたから義成に追いつかれた。とっとと始めるんだったぜ」
「あー。扉が開いてから入ってくるまで、なんか間があったのは、そんなことを警戒していたからのなのかい。実戦肌だといえばそうだけど……」
「俺が、お前ならそうするからな。入り口どころか通るであろう通路にトラップばら撒いてやる」
と天儀がニヤリと笑った。ジャスティンも、始めるかい、といて好戦的な笑みを浮かべた。
2対8。ライオネス達の格闘術はプロ並み。とくにレギンとヘルフィヨトゥルは特殊部隊クラスの強さを誇る。勝負は見えている。
――負ける要素がない。
とジャスティンが心中で哄笑した。そのとき天儀が、バッと右手をあげた。あげた瞬間に入り口から、ドドドド、と資材置き場内になだれ込んできたのはむさ苦しいヒゲを生やした屈強な男たち。顔面には無数の傷。トリコロールカラーの軍服に豪華な縁取り。
男たちの動きは無駄がなくまたたく間に資材置き場内に展開し列を形成。ジャスティン達の正面に3列横隊。右側面に2列横隊がまたたく間に形成された。さしずめ野獣の城壁だ。それほどに入ってきたむさ苦しい男たちからの威圧感は凄まじい。
―― 一瞬で包囲された!
とジャスティンは内心驚き、心が縮み上がるのを感じた。
軍事的に二方向に敵を抱えることを包囲というのだ。ジャスティンは内心でこそ動揺したものの表情にはださなかった。指揮官は、どんなときも冷静沈着で動揺してはならない。
だが、取り巻きの女子。ライオネス達は別だ。身構えつつも形勢の不利に顔面蒼白。とくに参謀格のヒルドは、状況の悪さを全身で理解して一番動揺していた。当然メガネっ娘の彼女が見た目通り肉弾戦も最弱だ。唇を真っ青にして震わせている。
しかも装備も違いすぎる。男たちの手には、なぜか宇宙船内では厳禁されているはずの自動小銃が握られている。対してジャスティン達は、徒手空拳なのだ。
驚くジャスティン達をよそにして天儀が、
「お前たちはなんだ!!」
と叫んだ。その瞬間、むさ苦しい男たちの壁からは、
「大宇宙軍! 大宇宙軍! 大宇宙軍! 大宇宙軍! 大宇宙軍! 大宇宙軍! 」
の大合唱がおきた。
資材置き場内は、異常な雰囲気に包まれていた。
さすがのジャスティンも表情をこわばらせて、ぐうの音もでない。ライオネス達も士気喪失だ。目の前の男たちは、どう見ても国家親衛隊。彼女達もジャスティンも普段は、国家親衛隊を宇宙ゴリラといって小馬鹿にしているが、いざ目の前にして戦うとなると、こうも恐ろしいものか。
彼らは惑星降下作戦という最高難度の歩兵ミッションを達成したレジェンド。恐らく宇宙最強の歩兵集団。そんな男達と戦って勝てるはずがない。国家親衛隊1人に、ライオネス7人が襲いかかっても簡単に負けるだろう。しかも今回、相手のほうが圧倒的に数が多い。
――そして国家親衛隊を率いれる男といえばヌナニア軍ではただ1人だ!
とジャスティン達が思い至るころには、国家親衛隊の大合唱はやんでいた。
それまでと打って変わって静かになった資材置き場。
ジャスティンもライオネス達も自分の心臓の鼓動の速さだけを感じた。8人の喉は驚きと恐怖でカラカラだ。
天儀が、青い顔をするジャスティン達へ向けて、
「おい! ジャスティン・スタージュンとその部下! お前たちはなぜいわん!」
と一喝した。
「総司令官天儀……」
とジャスティンがうめいた。ただのさえない軍曹が、まさかの成り駒。それも飛車と角を合わせたような無敵の動きをするチート駒だ。
「なんだジャスティンしらなかったのか。この方が天儀だ。俺達の上司で総司令官だ。俺は、お前が天儀総司と戦うと聞いたとき、随分と見くびったものだとと思ったが、なるほどしらなかったのであれば納得だな」
「あ、ああ……。義成くん。説明ありがとう……」
「ジャスティン。俺もお前も天儀総司令の部下。つまりは偉大な大宇宙軍の1人だ。大宇宙軍といったほうがいいんじゃないか? ほら、お前が音頭を取ってライオネスと合唱しろ」
「義成くん……」
「天儀総司令は、元来規律に厳しい軍司令官だ。お前だって旧軍時代の総司令の噂は聞いたことがあるだろ」
「規則違反者の頭を皇帝から与えられた斧鉞で叩き割ったとか、遅刻したものを銃殺したとかいう話だね。こんなものは冗談だろ」
「それが、いま、たしかめられるな。俺は冗談ではないというほうに賭けていい」
「……義成くんは見ない間にずいぶんと、いうようになったね」
ジャスティンは義成のマウント取りに苛ついた。星系軍士官学校の成績は、その後の軍の昇進についてまわる。47番の参月義成は、黄金の二期生内でどうあがいても昇進は一番後で、一番冴えない階級で終わるのが運命だったはずだ。
――それがどうだい。いまは完全彼に見下されている感じじゃないか。
ジャスティンは、どうすることもでない。が、このまま許しを請うのもみっともない。
「総司令官殿!」
「なんだ」
と応じる天儀は、いま、山のように大きく怒れる巨人の王だ。だが、ジャスティンは完全に気をくれしつつも次の言葉を吐いた。
「一対一の勝負を申し込みたい! これではフェアじゃない。人数が違いすぎる!」
「……」
「どうか寛大な心でお考えください!」
ジャスティンは必死だ。一対一なら勝てるし、仮にまかり間違って負けても面目が保てる負け方ぐらいはできるだろう。相手は圧倒的に有利だ。だからこそ多少は譲歩をしてくれる可能性もある。いや、その可能性にかけたい。
「ダメだな」
「なぜですか!」
「ジャスティンお前は、俺を複数人で袋叩きにする気だったんだろ?」
「そ、それは――」
「それに俺達は兵士で指揮官だ。そんな俺達が戦うならこうだろ? 集団戦だ」
「ずるいぞ! 総司令官なら正々堂々と戦え! いや、戦ってくださいよ!」
「……いやなジャスティン」
といって天儀が鼻の頭をかいた。
「なんですか。そのものいいたげな仕草は!」
「いやな俺は見たいんだよ。ジャスティン流タイマン術とやらをな。なあジャスティン見せてくれよ」
言葉とともに天儀がギロリとジャスティンを見た。ジャスティンの口からは吐くでもない吸うでもない濁音だけがかすれ出た。
――バレてる!? なぜ!
とジャスティンが全身で驚き蒼白となった。
「ジャスティンいい顔だな。なぜ知っているっていうな。だが、考えてみろ、ここは国軍旗艦瑞鶴。俺の船だぞ。お前がここで発言することは全部俺の耳に入る。簡単な理屈だ」
「ジャスティン……」
とオルトリンデがジャスティンの袖を引いた。降伏しようよ、というジェスチャーだ。勝ち目は万に一つとしてない。だが、逆にジャスティンの心はカッとなった。
「ボクだけが戦う! 彼女達はギャラリーだ。そっちは何人だ? 一個小隊クラスかね。いいでしょう。一個小隊と1人で戦った男。ボクはその名誉に甘んじることにする!」
だが、総司令官の天儀は無慈悲だった。
「ダメだな」
「なぜですか!」
ジャスティンの声は、最早叫びで表情は悲痛に満ちている。
「お前は、彼女達を戦場に兵士として連れてきたんだろ。敗北した場合どんな末路になるか、いま、しっておくべきだ。大丈夫だ。骨折ぐらいはするかもしれんが、怪我で終わりだ」
「そんな! それでも星系軍の総司令官なのか。倫理的じゃない! 総司令官殿あなたは人理にもとるぞ!」
「人理か……。ジャスティン。俺は多少お前より戦場をしっている。地上戦をな。地上戦の女性の兵士の末路はむごいぞ。特に美人はひどい。何十人もの男が代わる代わるその肢体にのしかかるさまは、いまでも俺のトラウマだ」
「なんだその話は! そんなものは、せ、戦争犯罪だ!」
「まったくだ。俺は強姦に及んだ全員を周公恩、当時の党軍事委員会主席に報告したが、罰せられたものはいなかった。戦争には汚いものしかない。それを罰することも難しい。だから悪辣を阻止するには勝つしかないんだよ。だが、お前は、いま敗北した。彼女達は悪辣の餌食となる。ジ・エンドだ」
ジャスティンは自分の激しい息切れと動悸だけを感じた。戦争は薄汚いだけ、と聞いたことはいくどもあったが、いま、その体験を語る天儀の言葉はあまりに衝撃的だ。現実味に富み、吐き気をもようすほどの嫌悪感が身を襲ってきた。ジャスティンは美しいものを愛するだけに、その反動は凄まじい。自分のワルキューレチアーズが、そんな目に合うさまは想像するだけで耐え難い。
――どうあっても許してくれないのか。
とジャスティンは頭のなかで可能性を探ったがすぐに、難しいだろう、と否定した。将来有望だからとか、軍高官や政財界に人脈があるとか、そういったボクのバックボーンはこの男相手には生きない。経歴抹殺刑のせいで実態はよくわからないが、噂通りの性格なら妥協を引きだすのは絶望的だな……。
「ジャスティン。ここが戦場なら彼女達は男たちの慰みものだった。お前はその覚悟あって彼女達をここに連れてきたのか?」
「くうぅ……!」
「降伏しろジャスティン。戦いで司令官が敗北を悟った場合の選択肢はそれいしかない」
天儀の勧告はどこまでも無慈悲だ。ジャスティンの軍人としてのプライドを徹底的に踏みつけにしてくる。
――うぅ……!
とジャスティンが、頭を抱えるようにうめいた。この天儀という男は、生半可な選択肢では許してくれない。1人対1小隊。ボクが病院送りにされておしまいだなんて都合のいいエンドは選択させてくれない。
――責任をとって自分だけやられる。
最悪中かでもジャスティンにとって、これが最も楽な選択肢だ。だが、総司令官はそんな甘い選択肢を許してくれない。ジャスティンは、総司令官に見完全に自分の心理を抜かれていると感じた。
士官教育だけでなく、軍アカデミーでエリート教育を受けたジャスティンは、司令官としてのプライドが高かった。降伏は屈辱的。いまの状況なら殴られ蹴られで、うやむやになるほうがいい。だが、総司令官はそんなジャスティンの考えをお見通しなのだ。
完全に進退窮したジャスティンを見かねたオルトリンデが、
「ジャスティンもういいよ。あやまろうよ!」
と真っ青な顔で叫んだ。だが、オルトリンデ達にそれをいわれればいわれるほど、ジャスティンには受け付け難い。女子たちの前で、男が立たないというより軍人として超えてはいけない一線を超える気がする。このままダメな方向に転落しつづける気がするのだ。
「ダメだ……」
「じゃあ、私達も一緒に殴られるよ! 大丈夫だよ。殴られるだけ。怪我するだけだから。顔に傷がついたらワルキューレチアーズじゃいられなくなるかもだけど、それもでもいい! 命じてよ。戦えって!」
オルトリンデの言葉にワルキューレチアーズの全員がうなづいた。皆悲壮な覚悟をきめていると、ひと目でわかる顔つきだ。
「わかった……」
とジャスティンが決断した。その表情はげっそりとして、何日も重包囲を戦い疲れ切ったというような感じだ。
「戦うか。それもいいだろう――」
と天儀が無表情でいった。序列二位は使えない、と天儀はこの瞬間だけは、そう思った。この選択肢は司令官としてあまりに愚かだ。
結果のわかりきった戦いが始まろうとしていたが、そこに、
「おい! 総司令官殿。ご要望どおり宇宙ゴリラを連れてきたぞ! 訓練とかいってたが、オレにまでこいってなにすんだよ。歩兵訓練だったらぶっ殺すぞ! 宇宙じゃ歩兵戦なんてやらネーだろ!」
という声。
そう。いまのヌナニア軍には、天儀以外に国家親衛隊を率いるものがもう1人いた。資材置き場に新たに登場したのは、十数名の国家親衛隊を引き連れたアクセル・ゲオルグ・ファーンバレン。人呼んでアクセル・スレッドバーンだった。
「アクセル!」
とジャスティンが驚いて叫んでいた。
「ああ? 誰だテメーは?」
「おい、酷いじゃないか同期生のしかも序列二位の顔と名前を忘れたのか!」
「……は? しらねー……」
「お前は相変わらずボクをないがしろにするな!」
「あー……。そういや星系軍士官学校で、ついぞ俺に負け続けた万年ナンバーツーがいた気がするガー。それがテメエかぁ?」
「くそ!」
とジャスティンが、地団駄を踏むように悪態ついた。
「お、グズグズしてたから増援到着だ。ジャスティン。戦場で計画なく時間をかけると、こういったことも起こる。ますます不利になったが、どうする気だ」
「アー? なんだよ総司令官殿はこいつと戦ってんのかよ。無駄な時間だなァ。こいつは相当弱い。雑魚だ。蛆虫だ。糞だ」
邪険にいうアクセルに、アクセルの登場にますます状況のまずさを感じるジャスティン。それを眺めるの義成は、
――ジャスティンはアクセルと相性が悪いからな。
と思っていた。そう。ジャスティン・スタージュンが弱いわけじゃない。アヘッドセブン序列二位の能力は伊達じゃない。アクセルが強すぎるうえに、ジャスティンの能力がアクセルときわめて相性が悪いのだ。
決断しかねるジャスティン。場は膠着状態となったが、この状況をみた総司令天儀は、ポンと手を打ってから、
「お、そうだ。アクセルお前が引き連れてきた国家親衛隊でジャスティンと戦え」
とアクセルへ命じた。
「はぁあ?」
「このまま戦っては、数が違いすぎて大人気ないからな。それに俺は、お前の歩兵指揮の手並みが見たい」
「チッ――」
「やってくれるんだな」
「どうせ嫌だっていってもやらせるんだろ」
「返事はちゃんとしろー。俺は総司令官で、お前の母親的な立場なんだぞー」
「……ハイハイ。やりまーす! これでいいんだろハゲ!」
二人のやり取りを見て驚愕したのはジャスティンだ。
「信じられないアクセルきみが!?」
と口走った。アクセルの受け答えはハチャメチャだが、そもそもジャスティンからいわせればアクセルという男は従わせることが不可能な狂犬。それが、いま、天儀という男はアクセルに命じて、返事までさせたのだ。驚きしかない。
そう。ジャスティン・スタージュンにとってアクセルが人のいうことを聞いていることじたいが信じられない。いや、いまのアクセルは命令に服している。驚きだ。なぜなら星系軍士官学校時代にアクセルを従わせることができた教官は皆無。アクセルの態度に腹を立てて指導した教官は全員が病院送りだった。
そしてアヘッドセブン序列二位という立場も特別だ。ジャスティンがそんな地位に甘んじるはずがない。どうあっても一番。だが、挑み続けた結果は無残だった。徹底的な敗北の連続だ。最早、ジャスティンにとってアクセルとは悪鬼羅刹、サタン、邪神、天災、あらゆる悪の最強格。その存在は逃れられない悪夢に近い。
それを従えるこの男は――!
ジャスティンが、
「こ……! 降伏するー!」
と叫んでいた。叫ぶだけじゃない。ジャスティンは言葉とともに天儀の前に飛び跳ねるようにでて這いつくばり額を床に擦り付けていた。
「ジャスティン・スタージュンと、その部隊はホワイトフラッグを相手指揮官へお伝えします。この場合は……。そうだ。陸戦協定だ。そう。ボク達は敗残兵といども陸戦協定に従った名誉ある扱いを望みます!」
アヘッドセブン序列二位のジャスティン・スタージュンにとって、狂犬アクセルを従える男は、神を超える存在といってよかった。
総司令官の天儀は這いつくばるジャスティンに眼差しを向け、
「ジャスティン・スタージュン。寸前で指揮官としての面目をたもったな。……降伏を受け入れる」
と温度のある声でいった。声に温情があることを察したジャスティンが、返事のつもりか、ガン! と床に頭を打ち付けた。
天儀が踵を返し、国家親衛隊を引き連れ資材置き場を去った。
義成もそれに続いたが、一歩踏み出すと振り返り、
「ジャスティン。地に落ちたな。だが、お前はライオネス達を、いや、ワルキューレチアーズを道具とは思っていなかったんだな。俺はそのことだけには好感をもった。評価する」
そういって出ていった。
アクセルもつまらなそうに嘆息一つしてから、降伏したんじゃいたぶれねーなぁ、と舌打ちし自分の連れてきた国家親衛隊を引き連れ、なにもせず退場した。
資材置き場には、一敗地に塗れたジャスティンだけが残され、しばらくすると資材置き場には雄叫びのようなものが響いた。響きには悲痛さがまじり、それは敗者の遠吠えにも聞こえた。
地落した姿勢の雄獅子を、ライオネス達はいたたまれない気持ちで見守るしかなかった。




