3-(閑話) 戦いはだましたもの勝ち
「――令! ――総司令! 天儀総司令!」
という義成の叫び声が国軍旗艦瑞鶴の医務室に響いていた。
特命係室の参月義成のもとに突如もたらされたのは、
――総司令官天儀の負傷。
の一報。義成は慌てて天儀が運ばれたという医務室へ駆け込んでいた。
医務室へ駆け込んだ俺がまず目にしたのは、盛り上がった真っ白なベッド。通常のパイプ製のほうだ。重傷者はカプセル型の自然治癒力を高めるタイプに入れられる。
――なんだ軽症か。
と俺は一安心。なお、カプセル型の治療ベッドは、むやみやたらにつかわれない。これはコストの問題というより、宇宙船がなんらかの事故を起こした場合閉じ込められる危険があるからだ。閉じ込められればカプセル型の治療機は。そのまま棺桶になりかねない。
だが、それでも俺は天儀総司令のベッドに駆け寄らずにはいられなかった。なぜなら天儀総司令は意識がないのだ。軽症といっても重症に近いかもしれない。
「頭部を激しく打ったようですね。原因はわかりませんが、2Dの通路で意識を失っていたところを通りかかったものが発見して医療班に通報がきました」
軍医が俺の横に立ってそういってきた。
「大丈夫なのか?」
「おそらくは、たんなる失神です。これからCTにかけます」
「襲われたのか?」
「可能性は否定できませんが……」
「おい、本当に大丈夫なのか?」
「いえ、だからこれからCTにかけますので、大丈夫かどうかはそれからでないと」
俺は煮え切らない軍医の態度に業を煮やして、
「天儀総司令! 天儀総司令! 天儀総司令!」
と思いっきり叫んでしまっていた。
俺の必死の叫びにベッドの上の天儀総司令の顔が歪んだ。
「やった意識があるぞ! 天儀総司令聞こえますか! 俺です義成です!」
「うっ……」
「天儀総司令!」
「……うるせえぞ。……義成。聞こえてる」
「よかった。まったく心配させないでください」
「ッーー。痛え。あの女思いっきり蹴りやがって……」
ベッドの上で上半身をおこした天儀総司令が後頭部をさすりながらいった。
「え、襲われたのですか!?」
「あ……。いや、違う」
「ですが、いま、蹴りやがって、とおっしゃりましたよね」
「いっていない」
「俺はあなたの側近で警護任務も請け負っているんです。そいつをとっ捕まえて、いえ、いますぐに軍警へ被害届を出しましょう」
全軍の総司令官が襲われたとなれば由々しき事態だ。それに天儀総司令は、ただの総司令官じゃない。トートゥゾネで2回も艦隊決戦を発生させ、二回とも勝ってのけたのだ。
だが、俺の必死の言葉に天儀総司令は、
「やめろ。総司令官が通路でのびてたなんて軍中にしれてみろ士気に関わる。舐められていうことをきかなくなる」
そういって、次に軍医へ向かって、
「おい、真下軍医。誰かにこの事を話したか?」
こう問いかけた。まるで誰にもいっていてくれるなよ、とういうようにだ。
「えっと……」
「話したんだな」
「はい。申し訳ございません。総司令官殿が運ばれてきてすぐに国家親衛隊の方々が押しかけてきたので、いわざるをえなかったというか」
天儀総司令は、あちゃー、という仕草と顔だ。
そのとき俺の端末に着信。火水風からだ。俺は失礼といってすぐに通話にでた。
『大変です義成さん! 宇宙ゴリラが艦内で犯人探ししてます。グランジェネラルを襲ったのは誰だって、片っ端から怪しいと判断した人たちを捕まえて国家親衛隊の詰め所に連れて行っちゃってますよ』
火水風があまりに大きな声でいったので、内容は天儀総司令や真下軍医に十分聞こえていた。
「ということですが、どういたしましょうか?」
「チッ。仕方ねえ。国家親衛隊には俺が直接指示をだしてやめさせる」
「そうですか。では、こちらは軍警へ被害届をだして捜査させましょう」
「いらないといっている。総司令官が通路でコケて気を失っていただなんてしれたらまずいだろ」
「……コケた?」
俺が疑いの目を向けると天儀総司令は、そうだコケたんだよ、と押し付けるようにいってベッドから抜け出していた。本人がそういうのだ。俺は不承不承だが、そういうことだとして従うことにしたが、内心は疑いしかない。どう考えても、なんらかのトラブルがあったことは明白だ。
「義成お前は犯人とうるさいが、軍警に通路の床を調べさせるのか? 床が犯人だとわかったら床を逮捕させるのか? それとも艦内の設備管理の責任者でも追求するか? バカバカしい」
「では、ころんだだけと正式に発表しましょう。国家親衛隊が騒いでしまって艦内は一騒動になっているようですし」
「ダメだ。兵士は縁起を担ぐものだ。この転倒を不吉だと思われたらたまらん。放置しろ。お前だって星系軍士官学校で習ったろ兵士は迷信深いものだとな」
「習いましたが、それとこれとはどういう関係が?」
「古来、軍司令官の落馬は不吉という迷信があるんだよ。俺の通路での転倒から、それを連想するやつがでるかもしれん。こんなものは下手に騒がなければ明日には誰もが忘れている」
「……わかりました。そこまで想像豊かなものが幾人いるかは疑わしいですが。ただ、もう1つ疑問があります。なぜ旧軍の軍服を着ていらっしゃるのですか?」
「全部洗ってしまってな。しょうがないので持ち込んでいたこれを引っ張りだしたんだ」
「主計部へいえば新しいのをだしてもらえるのですから今後はおやめください」
「もったいないだろ。一日も待てばいいだけなのに新品おろしてもらうだなんて」
「いえ、あなたは総司令官なのですから、お願いですから、きちんとした格好で歩いていください。示しがつきません。自分にいってくだされば、すぐに主計部に取りに行きますので、今後はそのようにお願いします」
俺が苦言を呈する仲真下軍医は、恐る恐るといった感じで、
「あのー。念の為TCで精密検査を……」
といったが、天儀総司令はにべもない。
「いらねーよ。だいたいTCうけたら記録に残るだろ」
「ですが、このあとまかり間違って総司令官殿がお倒れになったりすると、私の責任問題になりますのでー……」
「……わかった。CTはうけんが、問診はしろ。それで形はつくだろ。カルテには俺がここにきたのは、腹が痛かったからと書いておけよ」
「嘘を書かせるんですか」
「くどいぞ義成。今朝クソが緩かったのは事実だ。嘘じゃない」
真下軍医はそれで渋々手を打ったが、俺は納得いかなかった。火水風と鬼美笑に連絡して、天儀総司令の警護を指示。2人共不満そうだったが、とにかく厳命した。そして俺も独自に犯人探しに繰り出した。
天儀総司令の反応からして犯人は面識のある人間。つまりヌナニア軍人だ。そして、まだ瑞鶴内にいる可能性は高い。艦隊を構成する艦艇の間での移動は頻繁にあることだが、さきほど俺が端末から乗艦記録を確認した結果、天儀総司令が医務室に運ばれてから、瑞鶴の外にでたものはいない。
――あの女思いっきり蹴りやがってといっていたが……。
痴情のもつれか? いや、違う。側近の俺は、天儀総司令をほぼ24時間監視しているといっていい状態だ。つまり天儀総司令が会う人間は、ほぼすべて把握している。俺のしるかぎり瑞鶴に、天儀総司令とそういう関係の女性はいない。花ノ美が一人でこっそり天儀総司令に会いに来て、アバノアが嗅ぎつけて現れるという顛末が幾度かあったぐらいだ。
俺がそんなことを考えていると背後から、
「あ、義成じゃないか」
という声がかけられた。俺が振り返るとそこには……。
「ジャスティン・スタージュン!」
真っ白な軍服は王子のよう。青い瞳は宝石のよう。整った容姿に、巻毛と二重がチャームポイント。
――五月雨だ。濡れていこう。
なんていうキザな台詞を平気で吐くのがこの男。相変わらず取り巻きの女子を引き連れて、いまのライオネスは7人か。すごいな。こいつらだけで一つの班を組めるぞ。立派な戦力単位じゃないか。
「いやー、久しぶりだねぇ義成くん。きみも瑞鶴にいたんだ」
ジャスティンは俺に親しげに話しかけきたが、俺とこいつは大して仲がいいわけじゃない。お互いに士官学校の同期生という若干の連帯意識があるだけだ。というかジャスティンにとって俺は眼中にもないだろう。こいつはアヘッドセブン序列二位。あのアクセルの次に優秀な男だ。
「なんか艦内が騒がしいのだけど義成くんは理由をしっているかい?」
「ああ、総司令官が襲われたからな」
「へー、それはまずいね。で、義成きみは犯人探しかい?」
「ああ、俺は天儀総司令の側近だからな」
「あら、出世したねぇ。47番のきみが側近か……。いまのヌナニア軍総司令官は人を見る目がないじゃないか。きみみたいのに目をかけるなんて」
「……」
「不機嫌に黙り込んで。冗談だよ。怒るなよ」
「いや、半ば同意なので腹立たしいところだな。ムカつくことに天儀総司令は、アクセルにも――」
「え!? アクセル!? アクセルがどこにいるんだ!」
俺がアクセルの名を口にした途端それまでと打って変わって慌てだしたジャスティン。誰がどう見ても二枚目が、こうも狼狽しては台無しだ。ま、こんな三枚目みたいな素振りも絵になっているのがジャスティンなのだが……。
「おい。そんなに取り乱してみっともないぞ。ここにアクセルはいない。瑞鶴には乗艦しているがな」
「もう。驚かせないでくれよ。義成くんは相変わらず人が悪いなぁ……」
「お前が、俺の話を最後まで聞かずに勝手に慌てただけだろ」
「あれ? そうだったかなぁ」
なんて気取っていうジャスティンに俺はため息だ。
そこに、
「ジャスティン・スタージュン。相変わらずアクセルが苦手のようね」
という声がかけられ、現れたのは腕組みした花ノ美・タイガーベルと、付き従うアバノア・S・ジャサクだった。
俺は二人の登場に面倒くさいのが増えたと思ったが、ジャスティンは違った。
「花ノ美にアバノアじゃないか」
といって、にこやかに2人へ近づいていった。いうまでもないがジャスティンは女好きだ。
まず花ノ美に近づいたジャスティン。久しぶりの再開を祝して握手してハグしようなんて感じの雰囲気をだしているが、そこにアバノアが立ちふさがった。
「ストーップですのジャスティンさん。それ以上近づくと痛い目にあうと忠告しておきますの」
「それは残念。もったいないなぁ。アバノアは容姿も実力も抜群。望めばボクのワルキューレチアーズにすぐに加えてあげるのに」
「あらーこの男。死にたいようですわねー」
「じゃあ花ノ美はどうだい?」
「冗談はよしなさい。死んでも願い下げよそんなの」
にべもない2人にジャスティンはやれやれといった感じの素振りを見せたが、次の瞬間には、
「ところで二人共さ。ボクが序列二位ってこと理解してる?」
といって身に戦意をまとい2人を威圧した。それまでと打って変わってジャスティンの目つきは鋭く、体貌には険しいオーラが立っている。取り巻きのライオネス達も一瞬にして戦闘態勢だ。
一触即発の事態だが、悪いが俺にとっては慣れた状況だ。こういうやりとりは星系軍士官学校時代から。そのたび居合わせた俺が仲裁に入り、理不尽に被害をうけるのは俺だけ。だが、今回は少し違い、
「よせお前ら。ただでさえ天儀総司令が負傷して騒ぎになっているんだ。これ以上面倒事を増やすな」
と俺が仲裁に入ると両者はあっさり矛を収めた。
「うそ! 天儀総司令が負傷したの? 義成ったら詳しく聞かせなさいよ」
「なんだ。花ノ美はしらなかったのか。天儀総司令は通路で気を失って医務室へ運ばれた。どうやら何者かに襲われたらしいという状況だぞ。俺はてっきりお前も犯人探しかと思っていた」
「そうそう。そんなことがあったらしいよ。ていうか総司令官が旗艦内で襲われるってどういう事態なんだい? ボクはそこから信じられないよ」
ジャスティンはそういうと、またねー、というように手を振り取り巻きを連れて去った。花ノ美とアバノアも犯人探しに俄然興味といったふうだ。
「アバノア。犯人を探して処刑、いえ、とっ捕まえて軍警に突き出すわよ!」
「がってんですの花ノ美お姉さま。総司令官様を襲った犯人を捕まえれば評価アップは間違いなし。アバノアも俄然やる気ですのー」
2人は俺の前から慌てて去っていった。
1人残された俺も、やれやれ、と嘆息してから犯人探しを再開した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くそ……。まだ痛てえ。完全に不覚を取ったな。歳か……。まったく反応できなかったぞ」
そういって首を擦る総司令官天儀は、たったいま国家親衛隊に犯人探しの中止を厳命。
――警護をさせてください!
という国家親衛隊たちをどうにかなだめて、また艦内の通路を1人で歩いていた。
「しつこい国家親衛隊も面倒くさいが、王仕や焔ヶ原のように帰れというとラッキーみたいな感じで去ってかれても、あれはあれでムカつくな。くそ。義成は2人にどういう教育してるんだ。というか義成は、あの2人のどちらと付き合ってるだ? 二股か? ……まあ、どうでもいいが、くそ、やっぱ痛え」
ぼやき通路を進む天儀。角を曲がったところで、真っ白な軍服に美人を引き連れた集団が目に入った。ジャスティン・スタージュンとライオネス達だった。人数は以前どおりで総勢8名。
ジャスティン達がいるのは、通路の脇に設置されたちょっとした休憩スペース。自販機も設置され幾人かはパック式のジュースを手にしている。当たり前だが宇宙空間では、缶ジュースは売っていない。ストロー型の飲み口と容器が一体化したちゅーちゅー吸うタイプしかない。
歓談するアクセル達を天儀は、剣呑な目で見てから、
「おい! お前ら!」
と指差し叫んだ。歓談を静止されたジャスティンとライオネス達が、にらみつけるように視線を天儀へ向けた。
「お前らのせいで大変だったじゃねーか。有形力を発揮するときは後先考えてやれ。まったくヌナニア軍はどうなってやがる」
偉そうにいう天儀は総司令官だが、ジャスティン達からすれば旧軍の古びた軍服を着たさえない軍曹だ。
ジャスティンは不快感いっぱいの視線を天儀へ向け、ライオネス達が素早く天儀の周囲に展開。天儀も身構え完全な一触即発の状態となった。
「ボクはね。美しい女性に話しかけられるのは嬉しいけど、オッサンに話しかけられて喜ぶたちじゃないんだよね。わからないかなぁ」
「お前は旧軍の軍人全員に、そういう態度をとっているのか?」
「うーん……」
と考える素振りで、もったいつけるジャスティン。
「なんだ違うのか」
「全員じゃないけど、おおむねかな?」
ジャスティンがおどけた調子でいうとライオネス達から笑いがおこり、ギャル風のファッションのオルトリンデなどは、ケタケタと笑いながら、
「ジャスティン嘘じゃん。可愛い子以外には全員こんな態度じゃーん?」
と指摘した。天儀は苦い顔だ。この集団のなかでもギャル風いでたちの損。オルトリンデの規律の悪さが一番目立つのだ。天儀の意識が、オルトリンデに向き。言葉もオルトリンデに向けたものとなった。
「おい。いまのお前の態度は完全に軍の規律を乱す。階級が上のものへは敬語をつかい。年配者には、たとえ最低階級でも敬意をしめして対応しろ」
「うわーオッサンの面倒くさい説教だぁ。うち、そういうのだいっきらい」
「説教じゃない。若くして将校の君達はいずれ軍高官となる。そのとき困るといっているんだぞ。君らが立場ある職についたときに、一部のガラの悪い部下は、いまの君達と同じ態度を君達へ向けるぞ」
「超ウケる~。おっさんってさぁギャルを見るとすぐに説教したがるよね。でもさ。そういうのってたのしくなくない?」
「説教じゃない。道義の問題ではなく、これは損得だけをいっている。近い将来君達が損をするとな。いわば忠告だ」
「それがウザイっていってんのよ。わかれよバーカ」
とオルトリンデがきわめて邪険に吐いて捨てるようにいうとジャスティンが、レギンへ目配せした。ジャスティンがレギンを選んだ理由は、彼女が天儀の背後に位置し、かつパック式のジュースを手にしていたのと身長が高いから。つまり――。
レギンが天儀へ素早く近づくと、天儀の頭上で飲み口をしたに向けパックを思いっきり握り込んだ。
天儀の頭に液体が降りそそいだ。パック内にはほぼ満タンの量が残っていたらしく天儀の頭はびしょ濡れ。天儀の額をジュースが流れ、顎先から滴った。
ジャスティンが高らかに笑い。ライオネス達の間にも失笑の渦だ。
「軍曹のおじさま」
とジュースを浴びせかけたレギンが、母性あふれる笑みを浮かべながら口を開いた。
天儀が無言でレギンを見た。レギンの身に恐怖の風が通り抜けた。彼女はゾクリとしたが、それは一瞬のことで気を取り直して言葉を継いだ。
「敬意を払えって、こういうことでしょうか? 私達なりに考えた結果なのですけれど。それにおじさまったら規律を口にする割に、あなたは軍曹のくせに将校の私達に対して、あまりの態度ではないのかしら。歳を余計に取っているのが、そんなに偉いのかしらねぇ」
レギンの言葉を最後まで聞いた天儀が、ジャスティンを見た。どう見てもこの場のボスがジャスティンだからだ。そして、
「いい度胸だ――」
といって体貌から青白い闘士を沸き立たせた。
静かにいった天儀は無表情で、それが際立って恐ろしいが、やはりジャスティン達にとっては、さえない軍曹で、それにいくどかの戦闘を経験したことのある軍人は、無駄にこういった気迫に優れていることも多いというのをジャスティンもライオネス達もしっていた。
「おいおいあんた。そんなに怒るなよ。勘弁してくれ。喧嘩は罰をうける」
「上等だ。ともに譴責されればいい。俺は内閣から、お前は上官からだ」
「はぁー。内閣なんて大げさにいって。たしかにさ予備役の招集は、首相が軍務大臣に指示して発令される。だからきみを処罰する大本は内閣といえないこともない。でも、それがみっともないんだよね。軍での功績なんてろくなくて、歳だけくってるから無駄に政治権力を引っ張り出す必要があるだけに見えちゃうんだよ」
「いい度胸だ――」
と天儀が再びいって一歩踏み出した。狙いは大将首。ジャスティンを一撃で沈黙させれば勝利。だが、この雰囲気とこの状況。ライオネスたちも、天儀の考えがわからいでか。彼女達はジャスティンを守護するワルキューレだ。大事なジャスティンを守ろうと、素早く天儀の狙いを封じる動きを見せたが、それを、
「まーった! まった!」
とジャスティンが静止した。
「みんなもストップ。ストップだよ。このままこの男をボコったら、ボク達が加害者だ。もちろん彼も処分されるだろうけどね。ここは一つボクに提案がある」
天儀をふくめた全員がジャスティンの言葉を待った。
「訓練にしょう。瑞鶴には訓練用の格技場があるよね? そこでボクと、この人との格闘戦の訓練だ」
「なるほど……ジャスティンは賢い。……それなら喧嘩で……処罰されることもない」
とフロックがまず賛成し、スールズが天儀へ、
「なあ、オッサンもいいだろ? ジャスティンとサシで勝負できるぜ。勝てねーだろうけどさ。あたいら全員を相手にするよりマシじゃんね」
と振ったが、ここでヒルドからの、
「ダメ」
という掣肘が入った。参謀格の彼女にはなにか気づいた点があるようだ。
「なんでだよヒルド。お前はタイマンに反対なのか。でも、ボコるんじゃなく訓練だ。いいじゃんかよー」
「違う。戦いには賛成。でも、瑞鶴の格技場は空きがない。訓練の予定が詰まってて使えるは早くても3日後」
「あー? じゃあやっぱ、いま、ここでやるしかねーのぉ?」
「そうでもない」
「お、どっかいい場所開いてんのか。ヒルドは、さきにそれを言えよー」
「第一格納庫に隣接する艦に搬入された物資を一時的に置いておく資材置場。ここが空いてる」
そこで決まりじゃん、という顔をスールズすると、レギンが、
「でもー。資材置場って訓練での使用許可って降りるのかしら?」
とヒルドに確認した。空きがあっても使用できなければ意味がないのだ。
「大丈夫。資材置場といっても、ここは多目的につかわれる。大型機器の修理とか、打ち上げパーティー、それこそ訓練とかでも使用履歴がある。ここが明日の15時からつかえる」
ヒルドの言葉が終わると、ジャスティンとライオネス達が天儀を見た。
――お前もこれでいいよな?
という確認だ。きわめて威圧的だが、天儀は、
「いいだろう明日だな。場所も時間も了解した」
といって、その場を去ったのだった。
天儀、いや、ジャスティン達からすればさえないオッサンが去ってしばらくしてからスールズが、
「で、ジャスティンは本当にあいつとタイマンはるの?」
と問いかけた。ボーイッシュな褐色肌は見た目通り好戦的な性格だ。
「もちろんさー。負ける要素ないしね。ボクは将来軍のトップに立つ男で、最前線で武器を振るうなんてことないけど、戦いは得意だからねー。あいつきっと殴り合いでならボクに勝てると踏んでるんだろうけどね」
あっさり肯定したジャスティンに、
「あら意外。ジャスティンったら本当に一対一。タイマンをおやりになるの?」
とレギンがいった。
「ああ、ボク流のタイマンさ」
「あ、ジャスティン流タイマン術ね。義成さんへよくつかった」
――ジャスティン流タイマン術。
つまりはジャスティンを狙って襲ってくる1人を、ワルキューレチアーズで袋叩きにする戦法。最後に動かなくなった相手の頭をジャスティンが踏みつけて勝利宣言。……戦法なのかは不明だが、とにかくこれがジャスティン流タイマン術だ。
「ああ、そうだよレギン。心配させてしまったかい?」
「ええ、窮鼠猫を噛むというでしょ? 私、ジャスティンさんの綺麗なお顔に傷でもついたらどうにかなってしまいます。あの男をくびり殺さない自信がありませんから」
外見こそ母性あふれるレギンの内面はかなり激情的だ。だが、レギンだけじゃない。ワルキューレチアーズ全員が似たような感情を持っている。彼女達はジャスティンが第一だ。
そしてオルトリンデが、ジャスティンの腕に絡みつきながら、
「ジャスティンったら人が悪いじゃん。あのオッサンってド真面目そうだから1人できちょうよ。タイマンする気でね」
と小悪魔的な笑みをうかべならいった。
「いやいやオルトリンデ。ボクは一言だって1人で戦うなんていってないよ。むしろワルキューレチアーズ全員に招集をかけたいぐらいだけど明日じゃね」
「いえいえ、あの男1人なら私達だけで充分ですから。というか私とヘルフィヨトゥルで、30秒でお終りにするわ」
「うわー……。レギン姉さんとヘルフィヨトゥルの2人が真っ先に動くんじゃあたいらの出番はないかー」
「うふふ、スールズさん。今回は譲っていただきますよ」
「ま、宣言されたんじゃ譲るしかないね」
そしてワルキューレチアーズの間では、あいつ死んだねー、という会話がひとしきりおこなわれ、そのうち飽きたのか次第に話題はジャスティンへの称賛へと変わっていった。
ジャスティン・スタージュンはプライドの王。ライオンキングとも呼ばれるこの男の本領は統率力と慎重さ。1人では絶対に戦わない。




